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データ活用で製造業の価値を最大化する 産総研・加納 誠介氏 × meviy・印南 周平 対談

3DCADはもちろん、AIやIoTといった新しい技術が登場し、製造業を取り巻く状況が大きな変化を遂げています。日本の製造業がこれから生き残っていくために、もはやデジタル化は待ったなしの状況

 

全国11箇所に拠点を置く産業技術総合研究所(産総研)は、AIやバイオ技術といった産業技術の幅広い分野の技術開発を行い、日本の産業や社会に役立つ技術の創出とその実用化に取り組んでいます。企業単独では乗り越えられない部分を産総研が技術に変換し、いわば、技術を産業につなげる「橋渡し」の機能を担っているのです。

 

江東区・青海に拠点を構える産総研臨海副都心センターでは、製造業のスマートファクトリー化を実現する「つながる工場」を設置し、製造業の問題解決に取り組んでいるそう。そんな産総研さんと、ものづくりのスマート化を目指すmeviyの取り組みにはお互い響き合う部分があるのではないでしょうか。

 

製造業のスマート化を実現するためにどうすればいいのか、今後の課題は何か。今回は、産総研臨海副都心センター、エレクトロニクス・製造領域で製造技術研究部門副研究部門長を務められている加納誠介さんと、meviy開発チームの印南が製造業の現在と未来について対談しました。

 

【登壇者】

(左)産業技術総合研究所 エレクトロニクス・製造領域
製造技術研究部門 副研究部門長
加納 誠介(かのう せいすけ)さん

 

(右)株式会社ミスミ 3D2M 企業体 3D2M切削事業チーム
印南 周平(いんなみ しゅうへい)

デジタル化は進んでいるが、情報活用ができていない現状

 

印南
加納さんは産総研臨海副都心センターで、ものづくりの効率化を目指す模擬実証施設「つながる工場」を立ち上げるなど、ものづくりのスマート化を目指している点でミスミとも目指しているものが近いのかな、と思っています。現在、加納さんが製造業の未来を変えようと努力されているなかで、解決すべき課題は何だと考えていますか?

 

加納
ひとつはデジタル化が進みつつも、そこで得た情報をうまく使えていない点でしょうか。

たとえば、後継者不足が課題の製造現場においては、熟練の職人の持つ高度な技術も、デジタル情報化することで、次の世代に継承しやすくなり、誰でも同じレベルの技術を再現することができます。情報を活用するというのはそういうことです。「つながる工場」はデータ活用のモデルを作り上げ、社会実装を進めていくことを目標にしています。

 

印南
私はmeviy開発者として日本各地の製造現場を回っていますが、データの活用はおろか、まだデジタル化すら進んでいない現場を目にすることもあります。それは他の会社のデジタル化の進み具合を知る環境がないからなのかもしれませんね。他社が何をやっているか、効率化に向けてどう動くかをボーダーレスに情報共有できる環境がまず必要だなと感じました。この状況は日本特有なのでしょうか?

 

加納
いえ、日本に限らず海外でも同じような状況です。そして、国によって異なるやり方で課題をクリアしようとしています。アメリカはソフト系に強みがあるので、情報収集の仕組み作りが上手い。その収集した情報を活用して製造工程の改善に取り組んでいる印象です。

 

一方でドイツは日本と似たところがあって、職人気質のプロ根性が産業を支えている国、という印象です。彼らはいかに職人が有機的に連携できるかを念頭に、相互コミュニケーションの方法を模索して仕掛けを作っています。ドイツが推進する製造業のオートメーション化、およびデータ化・コンピュータ化施策「インダストリー 4.0」も、いかにして経営者から現場の従業員までの全員を巻き込んでコミュニケーションを取るかを念頭に置いています。取り立てて日本が海外に遅れを取っているわけではありません。

 

印南
デジタルトランスフォーメーションは日本だけではなく世界が抱える課題なのですね。では逆に、日本が勝っている部分はあるのでしょうか?

 

加納
日本は、機器類に強みがあると思います。工作機械メーカーは、加工機としての価値にとどまらず、機器同士がつながる情報の提供やメンテナンス情報の把握、現場ユーザーの好みに合わせた使い方の学習などの機能の提供にまで踏み込みつつあります。また、中小企業は生き残りをかけ、工場や機器の状態の見える化や仲間回しと呼ばれる連携の模索などを始めており、一部成功を収めています。機器を生かした技能の伝承にも着手し始めており、世界と比べて決して負けていません。

 

日本には日本のやり方がありますし、日本でしかできないものもあります。特に作業者のちょっとした気づきや改善のモチベーションといった「現場力」は大きな特徴で、他の国でもあまりないものですね

 

デジタル化が進んだ未来の製造業の姿とは

 

印南
2013年にドイツが打ち出した「インダストリー 4.0」を皮切りに、世界中でデジタル化が推し進められてきました。加納さんは、製造分野におけるどの部分が一番進化したと感じていますか?

 

加納
「情報を活用した管理」の点では、製造加工の分野はすごく進んでいると思います。ただ、機械と機械との組み合わせによるパフォーマンス向上や、製造ライン構築や工場設計という分野になるとなかなかそこまで進んでいないのが現状です。

 

印南
やはりそうなのですね。

 

2017年に経済産業省が打ち出した、デジタル技術を活用した目指すべき産業の指針「Connected Industries(コネクテッド・インダストリーズ)」が記憶に新しいですが、まだ具体的な形として実現はしていないのではないかと思います。一部では進みつつも、製造業全体としてはこれからさらに推し進める必要がありますよね。

 

加納
デジタル活用の確固たるモデルを見せられるまでの道のりは、もう少し時間はかかりそうです。ですが、段階的に今はここまで、3年後にはここまで進めるということは提示していくつもりです。「つながる工場」はまさにそのモデルケースです。

 

次の段階としては、情報を活用してどのレベルまで問題を解決できるかを提示し、実現に必要な具体的な要素を共有できればなと。オーナーさんはもちろん、工場で働く方までが、将来の姿を描けるようになれるのが私の理想です。

 

そうした基盤を整えるための仲間づくりも進めていて、産総研の研究施設へ見学者の受け入れや、各都道府県の工業技術センターと情報を共有する産業技術連携推進会議を活用した情報共有もしています。そこを介して地域の企業さんとのコミュニケーションを期待して、まずは IoT 絡みの事例を紹介し、共有できる場所を整備しています。

 

印南
トップダウンとボトムアップ両方からやられているということですね。製造業の仲間づくりはもちろんですが、他にも日本が10年、20年とものづくりを続けるため、何が必要になってくると思いますか?

 

 

加納
まずは、製造現場でいろいろな方が働けるような環境にしないといけないですね。人手不足をどう解消していくかは非常に大きな問題です。 もちろん、機械化や自動化によって人間の仕事が奪われるんじゃないかという声はありますが、働き手不足の軽減には大きく寄与するでしょう。工場の見える化や工場内の情報の活用の意義は、熟練工の早期育成トレーニングや短期労働者への作業支援などに生かされると考えています。

 

そもそも、働く場所に製造業を選ばない人々もいます。単純にイメージだったり条件が合わなかったり。サービス業にアルバイトの方が入り込みやすいのは時間の問題や高度なスキルを要求されないことが理由です。工場もそれくらい柔軟性を持つことで、会社の価値を高め、お客さんにとってより満足度の高いものを作れるようになるはず。そこは目指す方向のひとつではないでしょうか。

 

meviyがこれから目指すもの

 

印南
最後に、我々ミスミが提供している部品調達プラットフォーム「meviy」についてご意見をいただければと思います。meviyは必要な部品の3Dデータを提供してもらえれば、データを元に即時に価格、納期を算出し、お客さまの「時間価値」を生み出すツールです。元々機械設計者は設計プロセスのなかで図面の作成に大きな時間を取られていました。その時間をmeviyのサービスが代替することで、アイデア出しのような、より付加価値の高い作業に時間を割いていただけるようにするのが我々の目的です。

 

meviyは見積もりだけではなく、製作もデジタルマニュファクチュアリングを実現しています。設計者だけが便利になるのでなく、製作者側のデジタル化も推進することが次世代のものづくりの実現だと考えています
さらに、meviyには3Dモデルデータが蓄積されていくので、顧客ニーズや製作傾向を分析し、サービス向上や新たなサービス開発にも活用しています。

 

加納
とても素晴らしい取り組みだと思います。

 

設計の話でいうと、作りたい機能や形があったとき、まずは図面を起こします。過去に同じような事例があれば図面作成もスムーズにいくはずですが、新しい図面が過去の図面と何の観点で似ているのか似ていないのか、という判断は容易ではないんです。データを集めて比較検討できるようにならないと、より効率的な設計の実現にはつながりません。ミスミさんのmeviyであれば、さまざまな情報が大量に集まってくるので、それぞれの情報の紐づけが可能になってくるのではないでしょうか。

 

 

印南
ありがとうございます。他にも現状として、設計者は「設計者ならではの視点」で図面を書きますが、それは加工者側から見たら非常にコスト高の作り方で、本来はもっとコストを抑えたいのに指示された設計通りに作るしかない、ということが起こっています。「こう削ると安く作れる」のような、ゆくゆくは、そうした両者のズレがないような最適化設計を支援できるようなサービスも提供できればいいなと感じています

 

加納
それはおっしゃる通りですね。同じ部品でも3軸より5軸で製作するほうがいい場合もあるし、その逆もあります。工具の指定までできないと、工具によって寸法は同じでも中に蓄積されたダメージ量が違っていることもあります。設計者は本来そこまで考慮して発注しなきゃいけないけど、残念ながら図面上ではそこまでは判別できません。そこもクリアできないと、加工者だけでなく、設計者の自由度も上がってこないのではないでしょうか。ミスミさんにはそこが出来る可能性がありますよね。

 

印南
そこが今後のmeviyの展望につながってくるのですが、ただ受注して作るだけでは終わりたくないな、と。やはり手間を削減すると言っている以上は、考えるところまで入り込んで、設計者の仕事がより楽になるような、価値のあるサービスにできればと考えています

 

加納
部分部分を異なる設計者が設計しても製品として価値が出せるようになるのが理想です。しかし現状はそうなっていない。その問題を解消するひとつのアプローチがミスミさんのサービスではないでしょうか。そこまでできるようになると設計者側がミスミさんの価値を認めてより多くの情報を持ってきてくれるのかもしれませんね。

 

印南
今回の対談で、産総研の取り組みと弊社の間にとても響き合うものを感じました。今後も日本の製造業がより魅力的なものになるように、お互いに頑張っていきましょう。

 

(神田 匠/ノオト)

 

取材協力:産総研臨海副都心センター
https://www.aist.go.jp/waterfront/

 

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