今回は固定側で使用するアンダーカット処理機構の固定スライドについて紹介します。前回までの可動側スライド機構とは違う部分についても触れながら押さえておきたいポイントを5つのパートで紹介していきます。

    • INDEX
      • 固定スライドコアと引張ブロック
      • 固定スライドの貼付き防止
      • 固定スライドの上り下り
      • 幅広の固定スライドのロッド類
      • 固定スライドのガイドロッド・廻り止のバリエーション

 

一、固定スライドコアと引張ブロック

固定スライドコアは、スプリングの力でコアを固定型から押し出し、コアを可動側のPL面上に押し付けたままそのPL面上を滑らせてアンダーカットを外す機構です。

形状によりますが、下図のような形状では可動のスライドコアよりもストロークが小さくて済みます。なお、型閉め時、コアは飛び出したままの状態からPL面上を滑りながら元に戻る機構なので、その作動範囲と可動側の突出し機構(EP、直押、傾斜コア、倒れコア等)の作動範囲は、平面的にラップしないことが条件となります。

固定スライドコアの作動はスプリングの力だけが頼りなので、かじりが発生した場合コアが固定型から出て来ない危険が付いて回ります。製品は固定型に取られてしまい、危険な状態のまま型開きとなってしまいます。これを回避するためには、引張ブロックを付けて固定主型から引張り出すようにして固定スライドの動き出しを制御してやると良いでしょう。通常引張ブロックのかかり面にはスライドの動き方向に対して合せ角を付けます。なお、スプリング押え板は、固定型裏面からの組付作業性を考慮します。

二、固定スライドの貼付き防止

深いリブが固定スライドコアへ彫り込まれる等して、製品の固定スライドコアへの貼付き防止を考慮しなければならない時があります。下図のようにフランジの板厚分を可動側に彫り込めば貼付き防止となりますが、この時注意が必要です。

フランジの表側にフィレットが無い場合、左図のようにフランジの板厚をそっくり可動型に彫り込めば貼付き防止としては理想ですが、コアがPL面上を滑る時に徐々にできる擦り傷がフランジの上面(意匠面)に転写されてしまいます。右図のように板厚の中間を割りとするか、フランジの上面にスライド方向に対する抜き勾配を付ける等の配慮が必要になります。

三、固定スライドの上り下り

固定スライドコアはPL面に沿って動くため、その作動方向(コア抜き方向)はPL面の作り方で決まります。アンダーカットが抜ける方向へPL面を張ってやる必要があります。ただし極端な上り下りはロッドの負担が大きく、かじりの原因となります。

左図は上りの固定スライドコアですが、いったんPL面を水平に出してから上りのPL面を作っています。ここで注意が必要です。上りの固定スライドコアはこれでいいのですが、下りの固定スライドコアでは右図の赤の2点鎖線のようにPL面を水平に出すと本機構が不成立となってしまいます。製品から出すPL面もスライドの作動方向と同一か、それよりも下っていなければなりません。

四、幅広の固定スライドのロッド類

固定スライドコアの幅が広くなるほどに、その作動は不安定となります。大きさによりますが、ガイドロッドを2本とし、コアの両端に設定する必要があります。この場合1本ロッドに比べて廻り止めが不要となります。

1本タイプのガイドロッドを固定スライドコアの両端に設定してもいいのですが、大きさによりガイドロッドとストッパーロッドという具合に役割を分担する方法もあります。コアの両端にガイドロッド、中心部に1本ないし2本のストッパーロッドを配置すればコアの作動が安定するでしょう。なお、このようにガイドロッドとストッパーロッドを分けることで、固定主型の厚み方向でいくらか有利に働きます。

五、固定スライドのガイドロッド・廻り止のバリエーション

固定スライドコアのガイドロッド、引張ブロックや廻り止めの仕様は様々あります。他にも方法論はあると思われますが、その時の製品・型仕様によって柔軟に使い分ける必要があります。

上図のタイプのガイドロッドは固定主型にPL側から組み付ける方法で、スプリングもPL側から組付けるので、その構造穴が固定主型裏へ突き抜けることがありません。またこういった構造物は全てコアの中心線上にあるのが理想ですので、ある程度コアの幅があるときは引張ブロックをコア側と可動主型側の両方に設定するのが良いでしょう。なお、このストッパーブロックはコアの廻り止めを兼ねています。コア側に溝を彫り、ストッパーブロックの先端がその幅で溝と勘合している状態です。

 

以上、第十一巻『固定スライド機構』でした。

さて次巻は固定側貼付き防止機構について紹介していきますので楽しみにお待ちください。