ダイセキのメカ設計道場 プロフェッショナル連載記事

タイミングベルトの剛性 – オーバーシュートの顕在化(ばね定数の変化)

第12回では、「運転姿勢(搬送姿勢)を変更したい!」というお客様の要望から、「搬送トルクが増加するためモーター容量が不足する」という問題が発生した場合を想定し、「モーターを変更、又は減速機を追加する」という解決策を考えました。これにより、搬送姿勢が変化すると、負荷への重力のかかり方が変わるので、モーター負荷トルクの検討が必要であるということがわかりました。

今回はタイミングベルトの一軸アクチュエータを使用した場合に、設備レイアウトの変更で「搬送ストロークを延長したい」というお客様の要望に対し、その注意点と検討事項を見ていきます。

搬送ストロークを延長するということは、駆動側とアイドラ側のプーリー芯間が少なくとも延長した分だけ長くなります。それに伴い、タイミングベルトも長くなります。見た目にもベルトのたわみが大きくなり、ストロークが短いときのような剛性感がなくなっています。

また、この状態で動作させると、減速~停止時にワークがちょっと行きすぎて戻る、“オーバーシュート”が発生します。これは、タイミングベルトの剛性(ばね定数)が影響しており、今回はこの点に注目して考えていきます。

タイミングベルトはボールネジと違い、危険速度*の問題もなく、安価で、取り付け面の加工精度も高くなくていいので便利ですが、特徴を押さえておかないと全て設計変更することになりますので注意が必要です。

*参考:【第10回】「今すぐ搬送速度を速くしたい!(ボールネジ使用の場合)危険速度の検討」

1.ベルト搬送における停止時のワークの挙動

ワークをベルトやボールネジで搬送する際、多くの場合は加速~等速運転~減速の動作を台形パターン*で動作させます。この時、加速・減速時には加速度が発生しますので、ワークには力がかかります。同時にワークを移動させているベルトやボールネジにも同じだけ力がかかります(作用・反作用の法則)。この力がかかる状態でベルトやボールネジはどのようになるでしょうか?

*参考:【第7回】「タイムチャートを書いてタクトタイムを計算してみよう」

ボールネジの場合、ナットとねじ軸の間にあるボール列の部分が弾性変形を起こします。この変形に対する強さを「剛性」としてボールネジのカタログには記載されています。ベルトの場合、素材であるゴムの弾性変形により伸縮が発生します。この伸びについてはカタログには明確には記載されていません。

では、ボールネジとベルト、剛性が高いのはどちらでしょうか?答えは当然、ボールネジです。ベルトの方は剛性が低いので、同じ加速・減速の条件で動作させると伸縮量は大きくなります。

【図1】にベルト駆動の一軸アクチュエータの外観、【図2】に内部構造を示します。

タイミングベルトとタイミングプーリーがあり、スライダとタイミングベルトを連結しているだけのシンプルな構造です。ボールネジでは、ねじ軸のたわみによりストロークには限界がありますが、ベルトの場合はたわみの影響は少ないので、ボールネジよりも長いストロークに対応できます。

【図1】一軸アクチュエータ(LST10 ミスミ)

【図1】一軸アクチュエータ(LST10:ミスミ)

【図2】一軸アクチュエータ内部構造

【図2】一軸アクチュエータ内部構造

タイミングベルト駆動のアクチュエータの動作時、特に動作を目視して分かりやすい減速時について考えます。

減速時には減速の度合いによってワークには力がかかります。ゆっくり減速すれば、小さな力。急激に減速すれば大きな力がかかります。この発生した力を受け止めるのは、タイミングベルトとモーターです。前記のように、タイミングベルトの素材はゴムなので、伸縮します。減速時に発生した力でベルトは伸び、減速終了(モーター停止)でその伸びは元に戻ります。つまり、強い減速(加速)をすると、ベルトが伸び、目標位置を超えてから目標位置に戻る。ということが起きます。これを行き過ぎ量(オーバーシュート量)といいます。機械の設計をする上では、どちらの表現でもいいですが、ここではオーバーシュート量を使うことにします。

タイミングベルト駆動の場合には、タクトタイムを短縮するために加速度を大きくすると、この現象は多かれ少なかれ発生しています。目視できない、品質に影響がない場合には気になっていないだけです。ダイヤルゲージ等で停止位置を計測するとほとんどの場合、針が振れると思います。

次にこの伸びがどの程度なのか予測できないか考えていきます。

2タイミングベルトの許容張力と伸び(ばね定数)

タイミングベルトにある力が加わったときの伸びがいくらになるかわかれば、実際に加わる力に対しての伸びが予測できます。タイミングベルトをばねに読み替えて頂くと、「ばねにある力が加わったときの伸び」となります。もうおわかりですね、これがばね定数です。タイミングベルトの場合のばね定数をどうやって求めるか考えてみましょう。

最初に、これから考えることに前提条件が一つあります。タイミングベルトの代表的な材質としてクロロプレンゴム(黒色)やウレタンゴム(白色)がありますが、クロロプレンゴムとウレタンゴムとでは弾性変形の特徴が異なるので、今回はウレタンゴムを前提としてお話しします。

ベルトのカタログや技術資料を見ると、【表1】のようにベルトの型式とベルト幅によって許容張力が定められています。

【表1】タイミングベルトの許容張力

【表1】タイミングベルトの許容張力

参考:MISUMI(総合Webカタログ)[技術情報]タイミングベルトアイアンラバー®タイプの選定方法3

この許容張力はベルトが適正に使用される条件下でベルトに「どれだけの力(張力)が加わって良いか」という数値になります。初張力は最大でこの許容張力の50%としてください。この時の伸びを考えてみます。上の技術資料には【図3】が示されています。「伸びの目安」に注目してください。

【図3】初張力のチェック方法

【図3】初張力のチェック方法

一軸アクチュエータで使用されるのは、フレックスタイプかオープンエンドタイプのベルトになります。どちらもベルトにジョイント部を持たないので、【図3】初張力のチェック方法の赤枠で囲んだ「オープンエンド」で考えてください。ベルトに許容張力の力を加えると、1mのベルトは4mm伸びるということです。

具体例として、歯形=H、ベルト幅=100(25.4mm)、ベルト長さ=1mでは、【表1】タイミングベルトの許容張力より許容張力は1280Nなので、許容張力と伸びをグラフで表すと【図4】のようになります。

【図4】張力と伸びの関係

【図4】張力と伸びの関係

圧縮ばねに加える力と変位と同じグラフとなっています。したがって、このベルトのばね定数は、1280 / 4 = 320 (N/mm) ということになります

ワークはベルトに繋がって動かされているわけですが、ベルトの特性を分析すると“ばね”と考えられるということです。

3.ばね定数とオーバーシュート量

前述の通り、ベルトは実はばねとして計算できることがわかりましたので、停止時のオーバーシュート量は停止時の荷重とばね定数から簡単に求めることができます。数種類のベルトで計算すると、次のようになります。

【表2】オーバーシュート量(ベルト幅=20mm、停止時荷重=200N)

ベルト型式 許容張力
(N)
ばね定数
(N/mm)
オーバーシュート量
(mm)
MA8 2160 540 0.37
T10 880 220 0.91
AT10 2160 540 0.37

 

ベルトによって、許容張力に差がありますので、オーバーシュート量もそれだけの差が出てきます。ベルト駆動で加速・減速を急にしたいときには、注意が必要です。

では、今回のお客様の要望である搬送ストロークを延長したい場合にはどのような問題があると考えられるでしょうか?

前章で「ベルトはばねである」という話をしました。1mのタイミングベルトを一つのばねと考えたとき、ストローク延長によりベルト長さが2mになるとどうでしょうか。答えは、バネを2つ直列に繋いだことになります。この時のばね定数は元のばね定数の1/2となります。

したがって、オーバーシュート量は2倍、【表2】のT10の場合であれば、1.82mmのオーバーシュート量が発生します。これだけ大きくなると、目視でわかるようになりますので、機能上は問題なくても、見た目で「ちょっとこれは・・・いかがなものでしょうか。」となる可能性が高いです。

では、ストローク延長しても、オーバーシュート量を増加させないためにはどうすればよいでしょうか。

ベルト幅を広げる、またはベルトを複数本使えばよいのです。ただし、ベルト幅が2倍になっても、許容張力が2倍になっていない場合が多いので注意が必要です。複数本の場合、ばね定数は本数倍になると思ってしまいますが、ベルトの張り具合は必ず一定にはならないと考えるべきなので、10%程度の損失を考えておいても良いでしょう。

復習のために、バネを組み合わせた場合のばね定数をまとめておきます。

【表3】組み合わせたばねのばね定数

接続状態 ばね定数
単体 単体 K
並列 並列 2K
直列 直列 2分の1K


また、タイミングベルトを複数本使う場合には、ベルトどうしの歯のピッチやベルト厚さを合わせなければ、使用しているうちに不具合が発生します。複数本使う場合はその旨を指定して注文してください。指定方法は各社異なりますので、カタログや技術資料を参照してください。

4.まとめ

今回、一軸ユニットを取り上げてタイミングベルト駆動でのストローク延長時に発生する問題を考えました。ボールネジでは対応できない長いストロークではタイミングベルトは非常に有効ですが、材質が弾性体(ゴム)であるので、その特徴を押さえておく必要があります。

タイミングベルトを使用した駆動系の設計時に注意する点は以下になります。

  1. タイミングベルトの許容張力と伸びからベルトのばね定数を求める。
  2. 設計する運転条件(加速・減速)とベルトのばね定数からオーバーシュート量を求める
  3. 仕様上と使用上からオーバーシュート量が許容できるか確認する。


タイミングベルトを使用したアクチュエータは安価で構造も簡単、ロングストロークにも対応できる、といいことばかりのように思いますが、素材がゴムである故の特徴があります。他のアクチュエータ、ボールネジやシリンダ、リニアサーボなどそれぞれに特徴があるので、仕様に合わせて最も適したものを選択してください。

 

次回はロッドレスシリンダ使用時の不具合について考えていきます。単体で使用している場合は特に問題はないですが、リニアガイドと組み合わせる場合には注意すべき点があります。併せてリニアガイドの芯出し調整にも触れたいと思います。

それではまた。

 

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