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金属のクリーンカット 素材や基礎知識とメリット・デメリットを解説

クリーンカットとは、レーザーで金属板をカットする方法の一つで、美しい断面が必要になる場合に利用される方法です。ここではクリーンカットの素材や特徴と、メリット、デメリットについて解説していきます。

金属のクリーンカット 素材や基礎知識とメリット・デメリットを解説

クリーンカットとは?

クリーンカットとはレーザーを用いて金属板を切断する加工法の一つです。一番の特徴は、切断した金属の表面が非常に滑らかで美しく仕上がる点でしょう。
レーザーカットとは、レーザーを集光レンズで集約し、加工物に照射した際に発生する熱を使って加工物を溶かし、加工物を切断する方法で、特に板金加工において、曲げ加工の前に材料を切り出したり、金属板に穴を開けたりする際などに使用されています。またこの際、加工物に吹き付けるガスをアシストガスといい、エアー(大気)や酸素などを使用するのが一般的ですが、加工の熱により酸化皮膜が発生してしまいます。

そこで酸化皮膜を発生させないために、アシストガスに窒素やアルゴンガスを用いるのがクリーンカットです。窒素やアルゴンは不活性ガスとも呼ばれ、化学反応を起こしにくいため、レーザー照射時の高温下でも加工対象の金属と反応しません。そのため酸化皮膜の発生を防ぐことができます。特に窒素によるクリーンカットが多く用いられるため、窒素切断や無酸素切断とも呼ばれます。クリーンカットは主にステンレス板やチタン板のほか、SPCCやSPHCの加工に用いられます。

レーザーカットにおいては、CO2やヘリウムなどを用いてレーザーを発生させるものもありますが、こちらはあくまでもレーザーの発生源であり、アシストガスではないため注意が必要です。
また加工する素材によってはクリーンカットが必ずしも適さない場合もあります。例えばA5052Pなどのアルミニウム系素材では、酸化による材料の変質は少ないため、エアー(大気)をアシストガスに用いるケースが多いです。また反対に厚さ4.5mm以上の、特に黒皮の鋼板の場合には酸化による熱も利用して材料をカットするため、酸素を用いるケースが多いです。

クリーンカットにおけるアシストガス別の適した素材

クリーンカットに使われるアシストガスには窒素とアルゴンがあります。ここではそれぞれの特徴や、加工に適している素材などを紹介します。

窒素

窒素によるクリーンカットはステンレスのレーザー加工に最適です。光沢のある切断面が得られ、酸化被膜を生じないため、溶接などの加工をそのまま行えます。チタンの加工も可能で、見た目にも大きな変化は発生しませんが、チタンはステンレスと異なり窒化してしまいます。窒化した金属は非常に硬くなり、摩耗などには強くなるものの、他の加工がしにくくなってしまいます。そのため、チタンをカットする際には注意が必要です。

アルゴン

アルゴンガスも窒素と同様、不活性ガスなためクリーンカットに使用できます。アルゴンガスは特にチタンのレーザーカットを行う際に使用します。ステンレスのクリーンカットも不可能ではありませんが、ガスの単価が窒素よりも高くなるため、ステンレスを加工する場合には窒素が選ばれるケースが多いようです。

クリーンカットを施すメリット、デメリット

クリーンカットの主な目的は酸化皮膜などの発生を防ぎ、美しい外観を保つことです。それ以外のメリットやデメリットについて解説します。

クリーンカットを施すメリット

作業工程が短縮できる

通常のレーザーカットでは酸化皮膜が発生してしまうため、切断部に溶接などの加工を施す場合には、酸化皮膜を取り除く作業が必要になります。しかしクリーンカットであれば、切断面に被膜を生じないので、そのまま次の加工が行え、作業工程が短縮できます。これにより作業の効率化も可能です。

加工の自由度が高い

クリーンカットによって切断された断面は、酸化や窒化、加工硬化などの性質の変化がありません。そのため切断後の加工に制限がなく、自由度の高い加工が可能です。

クリーンカットを施すデメリット

切断面が錆びやすい

クリーンカットは切断面に酸化皮膜を発生させない加工です。しかし鉄のように、表面の酸化皮膜が錆びの進行を防いでいるケースにおいては、切断面から錆びが進行するケースもあります。

加工不良が起きやすい

クリーンカットは酸素カットに比べ、機械や高額パーツのコンディションの影響を受けやすくなります。そのため、加工不良が発生しやすくなります。

加工速度が低下する場合がある

酸素やエアーをアシストガスに使用した場合、酸素がレーザー光の燃焼を促進します。しかし窒素やアルゴンガスを使用した場合、燃焼がアシストされず、特に厚みのある板では加工速度が低下してしまいます。一方で、前述のように作業工程が短縮できる可能性もあるため、加工速度の低下と後の作業工程とのバランスの確認がポイントになります。

コストが高くなる

アシストガスによるコストも無視できません。特にエアーは、アシストガスの中では最も低コストで運用できます。一方でアルゴンガスなどは運用コストが高くなりがちです。また、ガスを吹き付ける際のガス圧も、エアーや酸素に比べて高くなるため多くのガスが必要になります。さらに加工速度が低下すれば、より多くのアシストガスが必要になるため、コストが上がります。

まとめ

クリーンカットとはレーザーカットの一種で、窒素やアルゴンガスをアシストガスに利用したカットのことです。窒素切断や無酸素切断とも呼ばれます。レーザーカットによる熱で、断面に酸化皮膜が発生しないため、美しい断面が得られ、酸化皮膜の除去といった追加工を必要としません。そのため、工程の削減や作業効率化などのメリットがあります。

一方で、酸素によるレーザー燃焼の促進が行われないため、加工速度が下がるのがデメリットです。加工に時間がかかり、アシストガスをより多く必要とするほか、通常のレーザーカットで使用されるエアーなどと異なり、アシストガスそのもののコストが高くなるため、全体的にコストアップします。そのため工程削減によるコストメリットとのバランスをみながら導入する必要があります。