プロフェッショナル連載記事 中小企業経営から学ぶ生産性向上の秘訣 仕事の付加価値を上げよう!

企業の役割と事業投資(中編)–企業の隠れた役割?信用創造のしくみとは

3. もうひとつの企業の役割とは!? 借金でお金が増える不思議

経済を考えるときには、「家計」、「企業」、「政府」、「金融機関」、「海外」の5つの経済主体に分けて扱うのが一般的です。

・「家計」は私たち国民1人1人を総合したものです。基本的には、労働などで所得を得て消費や投資(主に住宅)をしながら、「金融資産」が増えていく主体です。

・「企業」は前回解説した通り、顧客の仕事を代行して付加価値を稼ぐ主体です。稼いだ付加価値のうちから、労働者(=多くの消費者≒家計)に給与を支払います。さらに、本来は「負債」を増やし「事業投資」により生産性を向上させる主体でもあります。

・「政府」は公共性のあるサービスを提供し、消費(政府最終消費支出)や投資(公的総固定資本形成=公共投資)を行う主体です。また、景気の調整や再分配のために、民間主体の所得から税を徴収したり、補助金を分配したりします。

主にこの3つが国内経済の主役と言えます。

次に知っていただきたいのが、「お金のしくみ」です。私たちの感覚からすると不思議なのですが、実は「お金」は「負債」によって生まれます。つまり、誰かが負債を増やす事で、経済全体で使えるお金が増えるという事になります。これを「信用創造」と言います。

負債と投資

負債の代表的なものに、家計の住宅ローン、企業の借入、政府の国債、海外の対外直接投資などがあります。

例えば、

  • 企業が借入をして3,000万円の設備投資をしたとします。
  • すると、この企業は3,000万円の負債が増えますが、3,000万円相当の設備(固定資産)と生産能力を獲得します。
  • 当然、この3,000万円という設備費用は、設備メーカーやその下請け企業等の付加価値となり、労働者などに分配されます。

このように、負債と投資によって社会全体が豊かかになっていくのが、資本主義経済における成長の基本といえます。

各国の経済主体ごとの純金融資産

このシリーズでは、ある主体のお金=金融資産と負債を差し引きした正味の金額を純金融資産と呼びます。この金額がマイナスであれば、純金融負債と呼びます。つまり、純金融負債とは金融資産よりも負債の方が大きい状態です。
(日本の統計では、金融資産・負債差額などと呼ばれています)

全ての経済主体の金融資産と負債を合計すると、必ずゼロになります。つまり、誰かが純金融負債を増やすと、別の誰かの純金融資産が増えるという関係性です。

一般的な資本主義経済では、主に「企業」が借入を行って負債を増やし、事業投資によって生産性を高め、付加価値と利益を増やし、労働者への賃金を増やしていきます。これによって需要が増えるので、企業はさらに事業投資を増やして…という循環になります。企業が事業投資とともに負債を増やし続けることで、行加価値や資産とともにお金が増え続け、結果的に家計の金融資産が増えて、国民が豊かになっていくことに繋がります。

企業にはこのように、主に純金融負債を増やす主体として、事業投資を通じて経済全体のお金を増やすという隠れた役割もあるわけです。このことを主要国の統計データからも確認してみましょう。

図9がアメリカの経済主体ごとの、純金融資産(マイナスの場合は純金融負債)の推移です。

図9 経済主体ごとの純金融資産 アメリカ

図9 経済主体ごとの純金融資産(アメリカ)

家計()は純金融資産が増加し続けています。マイナス側では対称形に近い形で企業()の純金融負債が増え続けています。

このように、主に企業が純金融負債を増やし、家計の純金融資産が増えていくような経済の形をしているわけです。

アメリカ以外の国も同じように統計データを見てみましょう。図10が代表的な国の経済主体ごとの純金融見産のグラフです。イギリス、カナダ、フランス、ドイツなどの主要国(G7)の他、スウェーデン(北欧)、ポーランド(東欧)のグラフも入れてみました。

純金融資産(イギリス・カナダ)

純金融資産(フランス・ドイツ)

純金融資産(スウェーデン・ポーランド)

図10 経済主体ごとの純金融資産(OECD各国)

政府()や海外(黄色)の純金融資産はプラスになったりマイナスになったりしますが、企業が純金融負債を増やし、家計が純金融資産を増やすという関係性は共通しています。

これが、資本主義経済における経済成長の一般的な形と言えそうです。

日本の経済主体ごとの純金融資産

それでは、日本の場合同じように表現したときどうなるでしょうか?

図11が日本のグラフです。日本の場合は企業が純金融負債を減らしてしまっています。そして、家計の純金融資産の伸びも緩やかです。

図11 経済主体ごとの純金融資産(日本)

図11 経済主体ごとの純金融資産(日本)

実は日本の家計の金融資産は2,000兆円にも達していて、世界の中でもまだ「家計がお金持ちの国」ではあります。ところが、家計の金融資産の内訳を見ると、多くは高齢層に偏っていて(貯蓄の7割以上が60歳以上の高齢層に偏在)、労働世代はむしろ困窮しているという実態もあります。このまま労働者の所得が停滞を続け、いずれは家計の金融資産も国際的に見て低い水準にまで低下していくことは明らかですね。

日本の場合、企業の代わりに純金融負債を増やしているのが、政府と海外です。日本経済の状況を理解するうえで、図11は極めて重要なグラフであるといえます。

日本企業の変質

ニュースなどでは「国民1人あたり1000万円の国の借金」と報道されますが、これは国民が借金しているわけではなく、政府の負債が増えている事を意味します。企業が負債を増やさない代わりに、政府が負債を増やしているという側面があるわけです。

また、海外の純金融負債も増加傾向が続いていますね。この中には、企業による「対外直接投資」が150兆円ほど含まれます。

日本企業は国内への事業投資は減らしていますが、海外への投資を増やしています。その分が「海外」の負債の増加分として観測されるわけです。この企業による対外直接投資も、「日本型グローバリズム」とも言うべき特殊な状況なのですが、詳細は別の回で取り上げる予定です。

日本の経済は、このように「企業」が変質しているというのが大きなポイントとなります。

4. 企業の変質の正体と転機

何故日本の企業ばかりこのように変質してしまったのでしょうか?せっかくですので、もう少し掘り下げて考えてみましょう。

企業変質の原因

この変質の原因に、生産性向上を考えるうえでのヒントも隠されているように思います。

その原因となった出来事は「バブル」と「バブル崩壊」と考えられます。この時期に企業が過剰に負債と資産を抱えてしまったがゆえに、その後はさらなる事業投資ができず、ズルズルと停滞が続いてきたと推測されます。

具体的に統計データで確認してみましょう。

図12は企業の生産資産について、人口1人あたりの数値をグラフ化したものです。生産資産とは、機械設備や工場・施設など、土地以外の固定資産を意味します。

図12 企業生産資産 1人あたり推移

図12 企業生産資産 1人あたり推移

日本は1995年に極めて高い水準(60,000ドル)に達しますが、その後は停滞しています。当時はアメリカ(25,000ドル)の2倍以上、ドイツ(40,000ドル)の1.5倍以上だったわけですね。現在は、アメリカ、ドイツと同等ですが主要国ではまだ高めの水準です。

当時の日本企業は、極めて高い水準の事業投資をしていたことが窺えます。(1985年のプラザ合意を機に、急激に円高が進んだという背景もあります)

図13が負債のうち借入のグラフです。

図13 企業 負債 借入 1人あたり推移

図13 企業 負債 借入 1人あたり推移

やはり日本は1995年に極めて高い水準に達していて、その後目減りしていきます。現在はフランスやカナダより低いですが、ドイツやアメリカよりも高い水準です。1995年の時点では日本は50,000ドルで、アメリカ(10,000ドル)の約5倍、ドイツ(15,000ドル)の3倍以上という極めて高水準の負債を抱えていたことになります。

このように日本の企業は、バブル期、ポストバブル期(1990~1997年)に過剰ともいえる生産資産や負債を抱えることになりました。その後長らく過剰な負債を抱えながらも、「供給過剰」の状態が続くことになるわけです。そして、日本だけ停滞が続いている間に、他国の水準が上がってきているので、現在はまだ高めながらも他国並みに落ち着いてきている状況です。近年になりやっと、バブルとバブル崩壊の影響が解消されつつある状況に至っているわけですね。

 

3ページ目‐企業の役割と事業投資(後編)–経営者がこれから考えるべき事

1ページ目‐企業の役割と事業投資(前編)–日本経済の長期停滞と企業の変質