プロフェッショナル連載記事 開発現場でプロジェクトマネジメント力を極める

製造業における分業化の加速により生じる課題の対策を提案

製造業では、求められる製品の高性能化や自動化により、ハードウェアとソフトウェアを組み合わせた製品が多く開発されています。必要な技術範囲が広くなりそれぞれで高い専門性が必要になるため、業務の細分化・分業化の加速が顕著です。

前回の記事では、分業化が加速することによりどのような課題が生じるかを紹介しました。そこで今回は、課題を解決するために取り組むべき対策案を解説します。

部分最適を脱却するための業務範囲適正化(分業マネジメント)や属人性を解消するために必要な標準化の実現方法など、一つでも取り組めるものを見つけて頂けると幸いです。

分業化によって生じる課題の再確認

前回の記事で解説した、分業化の加速によって生じる代表的な課題を改めて確認します。

  • 課題1:全体最適を重視すべき業務の過度な部分最適化
  • 課題2:プロジェクトマネジメント業務の増加
  • 課題3:属人化による業務標準化の停滞

分業化を加速していくと、これらの課題は自然に発生してしまうことが多く、意図的な対策を取らないと解消することはできません。
日々の業務の中では気にならなくても、直接的な成果に繋がらない調整業務に追われていたり、お互いの主張を優先して他部署との調整がうまくいかなかったりすることは、経験したことがある人が多いのではないでしょうか?
また、急な退職や休職により配置転換が必要になっても、内容を把握している人がおらず途方に暮れてしまうことも少なくありません。このように、分業化が進んでいくことで大きな課題が生じてしまいます。

分業化の加速により生じる課題の対策案

分業化の加速により生じる課題の対策案を紹介します。
私は、ハードウェアとソフトウェアを組み合わせた製品開発の中で、分業を行うことによりさまざまな課題を実際に経験してきました。そのたびに、組織自体の変更や組織全体での取り組み、また、個人での取り組みも試行錯誤してきたため、その中で効果的だった対策案について紹介します。

対策案1:過度な部分最適化は周辺領域の知識を得ることで解決

分業化を進めることで、部分最適化は避けられません。しかし、自身の担当業務に関する知識しか持たず、過度に部分最適化されてしまうことは、製品開発において大きなデメリットに繋がります。そこで、過度な部分最適化を解消するためには、担当業務以外の周辺知識を得ることが重要です。

個人:担当範囲外への影響を知ることから始める

組織は、分業された状態でも全体最適を考えて各担当が業務に取り組むことを求めています。しかし経験の浅いエンジニアの場合には、与えられた範囲の業務を最適化することに精一杯で、全体のことを考える余裕がありません。
すぐに全体最適を考えた仕事をすることは難しいため、まずは自身の担当領域に近い範囲、また自身の担当領域を最適化することがデメリットとなる背反領域のことを知る必要があります。周辺の知識を得られれば、担当領域の仕様変更により、どこにどのような影響が出るか知ることができ、相談のきっかけをつかめます。
担当範囲の最適化を進める際に、影響が出そうな領域には早めに相談できるようになり、従来よりも少し広い範囲での最適化が可能です。これを繰り返し実施し範囲を広げていくことで、最終的には製品全体での最適化に繋がります。

組織:周囲への影響を知る仕組みを構築する

部分最適化を回避するために、組織としては担当範囲外への影響を知る仕組みを構築することが可能です。仕組み化してしまえば個人の能力に依存せずに、対策を実現できます。
影響を知る仕組みとしては、少し広い範囲に分業したチームを作ることが効果的です。チームミーティングなどで日常的に担当周辺の業務に関する知識を得られるため、日常業務の中で担当領域に近い領域への影響を把握できます。
他の例としては、定期的な業務実績共有会の設定が有効です。製品開発に関わる業務範囲全体で、生じている課題や今後の方向を報告し合うことで、日常的に得ることが難しい領域でも影響を把握することが可能です。
このように、組織としての仕組みを構築することは、業務範囲の拡大、さらには過度な部分最適化の解消に効果的です。

対策案2:プロジェクトマネジメント業務の増加は当事者意識と情報共有の仕組みで解決

分業化を進めることで、その間を埋めるためにはプロジェクト全体を把握し調整するプロジェクトマネジメント業務が増加します。しかし、プロジェクトマネジメント業務は難易度が高いため誰にでもできるわけではなく、増加しすぎるとかえってプロジェクトがうまく進みません。そこで、プロジェクトに関わる各個人が当事者意識を持つことや情報共有を適切に行うことで、プロジェクトマネージャーの負荷を低減できます。

個人:プロジェクトマネージャー担当に任せず当事者意識を持つ

分業化を進める中で、担当領域同士の隙間を埋めるためにプロジェクトマネージャーが設定されても、最初から隙間を埋め、全体のバランスを取ることは簡単ではありません。そこで、各領域の担当が当事者意識を持って進めることが重要です。
実際にどうかは別として、プロジェクトマネージャーに任せているだけでは、必要な情報が取れず、抜け漏れが生じる可能性があると考えて行動する必要があります。待ちの姿勢では得られない情報を得たり、漏れてしまう検討事項に気づけたりするため、当事者意識を持って動くことは重要です。
各担当が主体的に取り組むことで、プロジェクトマネージャーへ負担が集中しすぎることなく、業務を円滑に進めることが可能です。また、個人としての評価が高まり、部分的にプロジェクトマネジメント業務を経験できるというメリットもあります。

組織:情報を「見える化」する仕組みを構築する

プロジェクトマネージャーの負担が増える要因の一つに、メンバーからの頻繁な問い合わせ対応があります。とりあえず質問しておけば何か情報が得られるかもしれないと思われることが多いため、その対応に時間が取られてしまいます。
そこで、情報を「見える化」する仕組みを構築することが効果的です。具体的には、プロジェクトの工程や必要な検討事項、スケジュールなど、必要な情報を集約する場所を決め、そこに情報を整理していきます。
プロジェクトの関係者に、まずはその置き場を確認してもらい、それでもわからない場合には問い合わせをしてもらうことを徹底すれば、問い合わせ対応を削減できます。その結果、自分でなければできない業務に時間を割き、プロジェクトを円滑に進めることが可能です。
この仕組みは、一度作ってしまえばどのプロジェクトにも流用できます。置き場の選定や情報の分け方、検索性の高め方については、時間をかけて調整するといいでしょう。

対策案3:進まない業務標準化は強制的な時間確保で解決

分業化の加速により専門性が高くなると、他の人には代わりができない属人性が高い状況に繋がります。もし休職や退職、突発的な業務が発生した場合などに柔軟な対応を取るためには、サポートに入ったメンバーを速やかに戦力にできるように、業務の標準化が必要です。そのためには、業務標準化を実施するために必要な時間を強制的に確保する必要があります。

個人:標準化業務に集中する時間を強制的にカレンダーに設定する

個人で進められる業務標準化としては、自身が取り組んできた暗黙知を形式知に落とし込むマニュアルの作成などが挙げられます。しかし、直接的にプロジェクトを進める業務ではないため、忙しいときには優先順位を下げてしまいがちです。
そこで、あらかじめ強制的に標準化のための時間を確保しておくことが重要です。可能であれば、チーム全体で1日15分、週に1時間などカレンダー上で会議設定しておくと、確保できる可能性が高まるでしょう。
その時間は、他の業務は実施せずに標準化業務に集中する必要があります。

組織:組織目標への明記と担当ペア化でメンバーの能力を底上げする

業務標準化を進めるために組織が実施する重要な対応は、組織目標に業務標準化に関して明記することです。その結果、構成メンバーは時間を確保しやすくなり、組織方針に従った業務として成果がアピールしやすくなります。
また、具体的な組織構成としては、複数人が一つの業務に関わるペア化を進めることが効果的です。急なトラブルでメインの担当者が急に不在になっても、ペア化により情報共有が日常的にできていれば、スムーズに引継ぎが可能です。

まとめ

複雑化した製造業の業務を効率的にこなすために分業化は有効ですが、分業化が進んでいくことにより生じる課題も多くあります。実際にソフトウェアとハードウェアという広い業務範囲に関わる中で、組織や個人として取り組んできた対策の中から効果的だと考えられるものを提案しました。
組織の状況に応じて効果の程度は異なる可能性があるので、まずは小さな範囲で試してみて、効果が見込めるようであれば対象を拡大していくといいでしょう。
また、これらの対策に取り組むことで、一時的に個人の負担が大きくなってしまう可能性があります。マネージャーは部下の状況を適切に確認し、構成メンバーは無理せず早めに相談することを心がけることが重要です。