プロフェッショナル連載記事 開発現場でプロジェクトマネジメント力を極める

〜ソフトウェア×ハードウェアの開発における課題解決〜
機電一体のシステム開発を円滑に進めるためのスケジュール管理とは

製造業において機電一体システムの開発には、ソフトウェアとハードウェアの双方をうまく組み合わせる必要があります。

しかし、ソフトウェアとハードウェアは、それぞれ開発に必要な期間が異なる場合が多く、スケジュール管理を適切に行えないと開発はうまくいきません。

本来はプロジェクトマネージャーが管理すべきスケジュールですが、任せっぱなしにしていては各担当のエンジニアが苦しむことになる場合もあります。そこで、一人ひとりのエンジニアが全体の状況を把握して、スケジュール管理をすることが重要です。

今回の記事では、製造業の中でも機電一体のシステム開発を進めるために必要なスケジュール管理に関する課題と、うまく管理するために注意すべきポイントを解説します。
一人ひとりが全体のバランスを取りながら開発を進めることで、効率的に高性能な製品開発を実現できるでしょう。

機電一体システムの開発におけるスケジュール管理の課題

機電一体のシステムを構成するソフトウェアとハードウェアは、それぞれ開発に必要なリードタイムや設計仕様変更をする際の労力、期間などが大きく異なります。そこで、筆者が開発現場において経験した、スケジュール管理における課題を紹介します。

ソフトウェアとハードウェアでは必要なスケジュールが大きく異なる

一般的に、ソフトウェアとハードウェアでは開発に必要なスケジュールが大きく異なる場合が多いです。特に開発期間が長いのが、金型から開発が必要なハードウェア部品で、実際に試作品の性能評価ができるようになるまでには、数か月から年単位での期間が必要です。(※)
一方で、ソフトウェアは部品を製造する必要がないため、開発環境さえできている状態であれば、ハードウェアよりも短いスケジュールで開発できます。もちろん、制御仕様の作り込みやソースコードの実装、さまざまなテストの実施には時間がかかります。それでも、ハードウェアの設計、試作、評価に比べると短い期間での開発が可能です。
ソフトウェアとハードウェアの開発スケジュールの違いから、各担当がうまく情報共有しながら進めないと適切なスケジュール管理ができず、双方を組み合わせた試作品が狙い通りの機能・性能を実現できない可能性があります。
(※)近年は、切削加工や3Dプリンタの活用により、短期間での試作が可能になってきています。

ハードウェアが決まらないとソフトウェアが決められない

機電一体のシステムでは、ソフトウェアによってハードウェアを駆動させることで機能を実現するため、ベースとなるハードウェアの仕様が決まらないとソフトウェアの詳細仕様も決められません。
特に新規開発のシステムでは、ハードウェアが存在しないためソフトウェア開発に着手できない状況に陥ってしまいます。また、例えば異音や振動、耐久性などハードウェアの課題で仕様の変更が入る場合、規模や影響範囲によってはソフトウェアの開発がやり直しになります。
このように、時間がかかるハードウェアの仕様がソフトウェアの仕様に大きな影響を及ぼすため、開発への着手タイミング、優先順位の決定には注意が必要です。

ソフトウェアの変更によってハードウェアの動かし方が変わる

機電一体のシステムでは、ソフトウェアの仕様を変更することでハードウェアの仕様変更が必要になる可能性があります。
例えばある機能をシステムに追加する場合、ソフトウェアの仕様変更によりハードウェアの駆動回数が増加します。また、ある機能の動かし方を変える際に、従来実績のない速度を設定することで、異音や振動などが背反になるでしょう。
このように、ソフトウェアの仕様変更によってハードウェアの動かし方が変わり、中には機電一体のシステム全体で考えた際に悪影響が生じるものもあるため、注意が必要です。
ソフトウェアの変更がどうしても譲れないものの場合には、耐久試験の追加や異音や振動が出にくいハードウェアへの仕様変更などが生じ、スケジュールが破綻してしまう可能性があります。

機電一体システムのスケジュール管理において注意すべきポイント

機電一体のシステムを開発する際には、ソフトウェアとハードウェアのそれぞれを仕様変更した際に影響する要素を明確にし、その上で仕様決定タイミングの明確化と、関係者とのタイムリーな情報共有が大きなポイントになります。
これらの注意点を押さえておくことで、早い段階で関係者が影響を把握し、仕様変更が生じたとしても、カバーできるスケジュールを構築できます。

ソフトウェア・ハードウェアのそれぞれが影響する要素を明確にする

ソフトウェアとハードウェアのそれぞれについて、どこを変更したら何に影響するのかを、あらかじめ明らかにしておく必要があります。影響範囲が把握できていないと、変更の情報が必要な担当者に共有されず、発覚したタイミングでは取り返しがつかなくなってしまいます。
影響範囲を明確にしておくことで、変更が必要になりそうなタイミングで的確な情報共有が可能です。影響の大きさを速やかに把握できるため、「変えるべきかどうか」、「変える場合にはいつまでに変えればいいか」、「影響の出にくい変え方はないか」など、前向きな議論に繋がります。

いつまでに何を決めないとスケジュールが成立しないかを整理する

影響する要素があらかじめ明確になっていれば、影響する要素の設計仕様変更期間を逆算することで、どの要素をいつまでに決めないか明確にできます。もし、設計変更のタイムリミットを把握できていないと、いつまでも仕様が決まらずに、開発スケジュールが破綻してしまいます。
多くの場合、開発要素を直列に並べていってもスケジュールは成立しないため、影響をさらに分析して部分的に平行に進めたり、変更が入る可能性を考慮し割り切って進めたりせざるを得ない状況に陥るでしょう。
どこまでであれば譲れるのか、譲れないのかを関係者で協議しながら進めることが重要です。

開発に関わるメンバー全体が情報共有する機会を定期的に設ける

ここまで紹介したように、機電一体のシステム開発においては、ソフトウェアとハードウェアの垣根をなくし、開発に携わるメンバー全体が情報共有する機会を定期的に設ける必要があります。例えば、週に1度のメンバー全体が集まる定例会での共有などが挙げられます。
各メンバーが、関係すると想定する個別のメンバー同士での会話では、情報共有に抜け漏れが生じる可能性があるため、注意が必要です。定期的に、全体が集まる場で情報共有をすれば、情報の抜け漏れが原因となる開発スケジュールの破綻は避けられるでしょう。

スケジュールを成立させるためにシミュレーションの活用は不可欠

近年、製品開発の期間は短縮される傾向にあり、中にはハードウェアの試作品を最低限にすることで開発予算を抑える場合もあります。このような状況において、大きな効果を発揮するのがシミュレーションモデルの活用です。
シミュレーションモデルによってハードウェアを再現できれば、試作品の完成や仕様変更を待たずにソフトウェアの検証が進められます。精度の高いモデルであれば、異音や振動なども再現でき、シミュレーション上でソフトウェアのパラメータスタディが可能です。
また、ハードウェアの開発においても、異音や振動が起きにくい形状の作り込みなど、実際に試作品を作ると時間がかかる検討の当たり付けを効率的に行えます。最終的な仕様で試作品を作り、確認ができれば開発期間を大幅に短縮できます。
このように、開発スケジュールの短期化が求められる状況では、シミュレーションの活用は必要不可欠です。

まとめ

ハードウェアとソフトウェアの組み合わせで構成される機電一体システムを開発する際の、スケジュール管理について紹介しました。それぞれの開発スケジュールが異なるため、あらかじめ影響要素を明らかにし、変更可能なタイムリミットを共有しておくことがポイントです。
製造業全体で、開発期間の短縮や開発費の低減、効率化が求められている状況では、各担当のエンジニアそれぞれが全体のスケジュールを管理することが重要になっています。その上で、実現が難しい場合にはシミュレーションの活用など、新たな取り組みが必要です。