3D CAD推進プロジェクト プロフェッショナル連載記事

ただ見えてりゃいいっていうものじゃないのです

 

さて、今回からあらためて3DCADのお話しをしていきます。

いい事ばかりが言われる3DCADってどうなのでしょうね。

もちろん“いいこと”があります。でも初めが肝心だと思います。

 

【1】はじめに・・・私がうまくいかなかったこと

このブログをお読みの皆さんの中には、様々な人がいるのかと思います。

 

●2次元CAD(以下2DCAD)を使っている設計者
●3次元CAD(以下3DCAD)を使っている設計者
●2DCADも3DCADも使っている設計者
●3DCADを導入したものの上手く運用できずに2DCADに戻ってしまった企業
●3DCADを導入したいのに2DCAD信者と戦っている推進者
●部品発注部門のかた
●部品加工担当のかた
●組立製造現場のかた
●管理職
●経営者

 

3DCADが登場してずいぶん経つというのに、何で3DCADの記事やコラムが今でも読まれているのでしょうか?

 

私が最初に3DCADに関わったのは1990年代はじめだったと思いますが、Hewlett Packard MDD (Mechanical Design Division)社のME30という3DCADでした。この3DCADの運用に向けて挑戦したのですが、業務運用にもっていくことはできませんでした。とにかくアセンブリ作成に苦労しました。

 

周りからも「大変そう」「2DCADの方が早い」という意見が出ました。そして、そっと消えていきました。

 

なぜ運用できなかったのでしょうか?

 

その後、数年が経ってPTC社Pro-Engineerというハイエンド3DCADが数台導入されました。Pro-Engineerの導入・立ち上げは成功しました。

 

なぜ成功したのでしょうか?

 

その後、導入コストの課題から、SOLIDWORKS社SOLIDWORKSが全設計課員に対して展開されます。SOLIDWORKSの導入も結果的に成功しています。

 

なぜ成功したのでしょうか?

 

そして今日、私は導入立ち上げが上手くいっていなかったiCAD社のiCAD-SXの立ち上げるために新たな職場で挑戦をしています。

 

なぜ、これまで立ち上げることができていなかったのでしょうか?

 

これは、3DCAD製品のせいではありません。3DCADが導入される前、多くの設計者は2DCADを使用していたことと思います。私もHewlett Packard MDD社のME10を使用していました。

 

ME10はHewlett Packard社の2DCADとして広く使用されていました。私が使用し始めた頃は、UNIX(ユニックス)と言われるOSでした。

 

その後、CoCreate Software GmbH(コクリエイト・ソフトウェア)社ブランドとなりましたが、PTC社によるCoCreate社の買収によって、現在はPTC社のCreo Elements/Draftingという製品として販売されています。何となくME10と言う方がしっくりします。

 

【2】ドラフタ―から2次元CAD

前回のブログでもお話ししましたが、私の設計者の始まりは、ドラフタ―でした。

 

ドラフタ専用の定規で図面尺度を設定して、製図用シャープペン、製図用コンパス、テンプレート、字消し版を駆使して“設計製図”をしていました。時々大学で使っていた製図の教科書も参考にしたりもしました。

2機械製図の教科書

必ずしも十分ではない「設計計算」をしては、線を引いていきます。
「今思うと、線1品の重みがあった・・・」

 

もちろん間違えば、書き直しです。
「泣きたくなる時もあったな~」

 

設計に配属されると、先輩の設計した組立図面から部品を読み取り、部品図を製図します。この時、頭の中では、3次元的な形状が頭の中に思い浮かべられていました。

 

もちろん組立図面を見る時も同じです。描かれているものは2次元でも、頭の中にあるのは空間にある3次元形状でした。先輩が「よし」と言ってくれる部品図を描くことは簡単なことではありませんでした。

 

製図用紙の中の“三面図”の配置、“外形線”・“隠れ線”・“中心線”の入れ方、“寸法”の入れ方、“寸法公差”・“幾何公差”の正しい値や設定とその入れ方といったように様々です。そのためにも組立図から正しい部品形状の認識と、設計意図を読み取る必要もあります。

 

部品図が上手く描けるようになれば、簡単な組立図に始まり、複雑な組立図、装置のメイン担当者とスキルアップは続きます。

 

そうしているうちに2DCADの登場です。

 

「図面を消しゴムで消さなくていい!!」
「削除した線も復活できる!!」
「レイヤーでパーツやサブアセンブリ化ができる!!」
「伸縮が自由にできる!!」
「パーツライブラリを作ることができる!!」
「購入品の2次元用CADカタログが出来た!!」

 

入社前、大学生の時にも設計製図”の実習でCADの授業がありました。CADと言ってもコマンドをひたすら入力しました。例えば、円を書くのであれば、確か Ciecle(円の中心X座標、円の中心Y座標、直径)といった感じだったような・・・

 

モニタを見ながら「ピッ!!」みたいな感じではなくて、プログラムを作成する感じ。

 

書かれた製図を見ることもなく設計をしていたことを今でも思い出します。こんなCADと言えるのか言えないのかわからないものしか知らなかった私だったのでこの2DCADは衝撃的でしたね。

 

でも、当時の2DCADも現在の2DCADも基本は変わりませんね。
この便利さから抜けられない“2DCAD”が今でも多いのかな・・・

 

そんな私もいつの日かCAD管理者になってしばらくたった後、出初めの3DCADに出会うことになります。

 

【3】3次元CADとの出会い    

ある日、代理店の方が、3DCAD ME30の紹介に来ました。今のようにCADの紹介がメディアなどで取り扱われることもあまり見られなかった時代(というよりはメディアさえ知らなかった)自分自身で3DCAD情報を得ることもできていませんでした。

 

2DCADでも十分に満足していたのですが、見てびっくり。
「3次元CADってすごい!!」
「立体形状で設計ができる!!」
「これはこれからの設計だ!!」

 

先輩からも認められ、そして導入を決めました。それだけインパクトがあったのでしょう。

 

今使用しているSOLIDWORKSの初版販売が1995年、またiCAD/SX(3D-CAD)が使われるようになったのが1990年代後半からなので、今使っている3DCADの販売開始とほぼ同じ時期から関わっているのかもしれません。

3SOLIDWORKS WORLDで体験したSOLIDWORKS95

ここに3DCADの運用に持っていけなかった理由があります。皆さん、おわかりですか?

 

当時の私には、「3DCADは2DCADから立体に見えるCADの置き換え」「3次元設計することが目的」でした。

 

今の私が言えることは、「それじゃあ、失敗するよ」

 

ドラフタの2次元設計から2D-CADに移り変わっていった中で、2次元設計そのものの問題はなかったのでしょうか?

 

【4】ある会社が3次元設計を検討するときのお話

 

ここからは、今、2D-CADを利用している仮想のX社として考えてみましょう

 

X社は産業用機械の開発設計製造を行っています。量産型の企業ではなく、個別受注生産型の企業です。そして、私は日頃悩んでいる設計担当者で、組立図の設計をしていますが、3次元設計への移行検討を上司から言われています。

 

悩みを綴ってみましょう。

 

●組図を書いている時に、部品も書いているのに、また部品図を書かなきゃいけないのは面倒だな。

●公差や幾何公差って2次元の組図では表現できるの?

●製図してもらった部品図が間違っているよ。組図がわかりにくかったかな?でも、もう出図期限だから自分で直すしかない。

●流用した組図、三面図がちゃんとしてないよ。平面図間違ってない?

●流用した組図を参考にしたら不具合がフィードバックされていなかったみたい。ちゃんと修正しといてよ。

●流用した部品の改訂漏れがあったみたい。え!!もう出図しちゃったよ。

●部品表にあるこんな購入品はないって発注部門から言われた。

●あ、組図の型式間違っていた。

●この穴加工でいいのかって発注部門から言われた。あ、確かに穴同士が干渉している。検図で見落としちゃった。

●組立担当者から呼ばれた。こんな組立図じゃ組めないって・・・

●やばい!!駆動部が動いたら干渉した

●剛性不足で組んでいたら変形してしまった。手計算間違っていたのか?

●メンテナンスから補修部品の依頼があったけど、組図と部品表が合ってないみたい。どっちが正解?

●営業からプレゼン用に“アイソメ図”を書いてくれって言われたけど、今、忙しい。

 

設計部門内からも部門外からも、様々な設計品質について苦情や要望、設計への依頼があります。

 

そして私は気が付きます。「ちょっと待って。この問題って3DCADで解消するのかな・・・」

 

そうです。この意識がポイントです。

 

過去の私がそうだったように、3DCADって、“可視化ツール”として“設計のツール”として注目してしまうのですが、「ただ見えてりゃいいっていうものじゃないのです。」

 

次回に続きます。