ダイセキのメカ設計道場 プロフェッショナル連載記事

ピックアンドプレースユニットを設計してみよう-静力学的検討-

ピックアンドプレースユニットは、ワークをピック(つかみ上げる)し、指定された位置まで移送してプレース(おろして実装する)という一連の動作を行うユニット(装置)です。

このシリーズでは、ピックアンドプレースユニットの設計を通して、装置設計に必要な計算や検討事項などを考えていきたいと思います。

まずは、装置についてです。

ピックアンドプレース装置の概要

次のビデオと図は、コンベアにより搬送されたワークを1枚ずつメカチャックでピックアップし、パレット上に整列させて積載する装置です。

ピックアンドプレースユニットを含む装置の全体図

  • ワーク仕様
    外径:63.5㎜(2.5inch)
    内径:19.05㎜(0.75inch)
    厚さ:1.0mm
    材質:ガラス
    質量:0.008kg

ピックアンドプレースユニットを含む装置のワーク部分

  • パレット仕様
    積載枚数:20枚(70㎜ピッチ、X5枚、Y4枚)
    外径寸法:365×295×t10
    材質:エンジニアリングプラスチック

ピックアンドプレースユニットを含む装置のパレット部分

  • ピックアンドプレースユニット
    走行速度:250mm/sec(X,Y)
    走行ストローク:X680mm , Y210mm
    昇降ストローク:20㎜
    チャック機構:メカチャックによる内径把持
    タクトタイム:10sec / 枚

ピックアンドプレースユニット

第1回 静力学的検討

この装置ではワークチャック部の※1 オーバーハング(張り出し)が大きいので、この部分のたわみや、把持部の傾き度合いの検討から進めていきます。

リニアガイドからチャック部を片持ち梁と考えて、図のようなポンチ絵を描いて検討をしていきます。

部材は軽量化のためにアルミ材(A5052又はA2017)を使用するものとします。

装置全体のポンチ絵

プレート先端部でのたわみは自重たわみとチャック部品による集中荷重によるたわみの合計になりますので、それぞれを求めて、和を取ります。

自重たわみ分
自重たわみを求める式
E:ヤング率(縦弾性係数)
I:断面二次モーメント

集中荷重によるたわみ分
先端部の部品の質量は794gですが、ボルトや配管材等を考慮し、15%増しの1㎏としておきます。
集中荷重によるたわみを求める式

合計で
自重たわみと集中荷重によるたわみの合計を求める式

これで、プレート先端部のたわみが出ました。
これが、チャックハンド部に影響があるかどうかを考えておきます。

プレート先端部のポンチ絵

チャックハンド部への影響を求める式

限りなくゼロに近いので、今回の装置ではハンド部分(★)には影響が無いと思われます。ワークの端面で考えても、ワーク外径が63.5㎜ですので、両端での高さの差は、プレートの長さとの比例計算で、
両端での高さの差を求める式

となりますので、影響は出ないと考えます。

装置の大きさ、ワークの取扱い条件、要求精度などにもよりますが、大きさがこの程度の装置であればθが0.05°位の値になるようなら、影響を考えておいた方がいいと思います。
(0.05°だとたわみ量もそれなりの値になっていますし…。)

その時、考えるべきことはたわみ量の大きさもさることながら、ミスアライメントによる影響の方をより重視した方がいいと思います。

 

θの影響について少し考えてみます。
たわみ量とθの関係はこの装置の場合、下表のようになります。

θ(°) たわみ量(mm)
0.01 0.059
0.02 0.117
0.05 0.294
0.1 0.589

プレート先端部のポンチ絵

プレート先端部を拡大すると、図のようにフィンガー部に傾きが生じます。このままフィンガーを挿入すると(スライドテーブルのガイドに沿って移動)、どうなるでしょうか?

ワークに対して、高さが異なりますので、次のようなことが発生すると考えられます。

  1. フィンガーが穴に入らない(a側が先にワークに当たり、b側が入らない)
  2. チャック時にワークを引きずる(穴とフィンガーの隙間がa側とb側に差ができる)
  3. ワークを斜めに掴んだまま搬送する(搬送中にワーク落下の可能性)

 

どれも良くないですが、搬送中のワーク落下(3)は最悪です。(2)についてもワークの品質にかかわる部分ですので、注意が必要です。

ピックアンドプレースユニットのトラブルは、チャック部に関わるものがほとんどだと思います。たわみの計算は機械剛性の検討もありますが、構成要素(機構)が要求精度を満足できるか、トラブルの種は持っていないかの検討でもあります。

「たぶん大丈夫・・・」と済ませると、だいたい後からしっぺ返しを食らいます。手間かもしれませんが、キッチリと押さえておきましょう。

今回はたわみだけを考えましたが、他の方向の荷重の影響もあります。これについては、今後、リニアガイドの選定などを進めていきますが、そこで考えていきたいと思います。

おさらい

1)断面係数・断面二次モーメントを求める公式
カタログ等の技術資料のところに書いてあることが多いので、付箋など付けておくと良いかも知れません。

ミスミカタログのページ

ミスミFAメカニカル カタログより抜粋

2)複合断面の断面二次モーメント

複合断面の図解

図のような複合断面の断面二次モーメントを求めてみます。

手順としては、

  1. 形状を計算しやすいように分割する
  2. 図心(y0)を求める
  3. 各部の断面二次モーメントを求める
  4. 各部の和を取る

となります。

1.形状を計算しやすいように分割する
形状の図解

形状を左図の赤線部分で2つに分割します。

上部分(60×20)の断面積をA1
下部分(30×40)の断面積をA2

とします。

また、図のように全体の下端から分割した形状の中心までの距離をそれぞれy1,y2とします。

2.図心(y0)を求める

図心は下の式で求めます。
図心を求める式

いま、
それぞれの辺の長さの式

なので、
図心を求める式

3.各部の断面二次モーメントを求める

上部分の断面二次モーメントをI1、下部分をI2とし、図心まわりの断面二次モーメントをそれぞれI11、I21とすると、
図心まわりの断面二次モーメントを求める式

となります。従って、
図心まわりの断面二次モーメントを求める式
4.各部の和を取る

この部材の断面二次モーメントIは
断面二次モーメントを求める式
となります。

3)梁のたわみを求める式

最大たわみだけを求めるなら、下の式でまとめて覚えておくと便利です。

はりのたわみの図解

最大たわみだけを求める式

はりの種類の表

はりのたわみ(機械工学と自動機設計-17)

装置設計はまず骨格作りから始まります。その骨格が仕様を満足するものか、使用に耐えうるかを今回のように静力学で検討を行います。装置設計をする際は、静力学での検討が行えるようになりましょう。

次回はこの設計からは少し離れて、機械機構についてちょっと考えてみたいと思います。

それではまた。

出典:株式会社ミスミ 技術資料及びHP

 

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