3D CAD推進プロジェクト プロフェッショナル連載記事

設計者CAEを考えてみる 後編

最近、メッシュレスCAEと言われる設計者CAEが盛り上がっていると、私は実感しています。
さて、「メッシュレスCAE」とは何でしょう?

 

前回話したように、有限要素法によるシミュレーションシステムの「プリ処理部」には、「メッシュ作成機能」があります。これは「要素分割」「メッシュ分割」と言われています。これは何かといえば、解析対象の部品を「要素」に分割することなのですが、解析に関わらない人にはピンとこないことと思いますので、もっとも単純なモデルの「片持ち梁※1」を例に説明しましょう。

※1 片持ち梁とは
片持ち梁は、1端を固定端、他端を自由にした梁(建物の水平方向に架けられる床や屋根などの荷重を柱に伝える材料です)です。つまり1端でしか支えられていないような梁のことを言います。

片持ち梁モデル

実際に片持ち梁を解析(CAE)を行ってみましょう。はじめにメッシュ作成です。

メッシュ作成されたパーツモデル

次に、荷重や固定方法、材料の特性値を入力した上での解析結果です。

片持ち梁の解析結果

このように、CAEを行うときには、部品を小さな「有限要素(Finite Element)」または「要素(Element)」と呼ばれるものに分割します。この要素の頂点を「節点(NodeまたはNodal Point)」と呼びます。このようにして行う解析のことを「有限要素法」といいます。

要素(メッシュ)を取り出してみる

ミッドレンジの多くのCAEでは、図のような四面体の要素を作成します。

言い方を変えれば、CAEを行う時には、「部品は四面体の集合で表される」ということになります。
(ハイエンドCAEでは、これに加え六面体の要素を作成することも可能です)

有限要素法の仕組み(解析モデル)

片持ち梁を正面から見ることで、平面的に見た例で、有限要素法とは何かを説明します。

 

図のように、頂点に荷重(F)がかかった時、「要素に作用する応力は等価な節点力で表される。この節点力と節点変位が剛性マトリックスを介して結び付けられる」ということになりますが、とっても難解ですね。

「この梁の中の変位と応力は、図のような節点を通してのみ伝えられる」ということになります。これだったら、わかりやすいのではないでしょうか。

このように要素は、その力の伝わりを決めるものですので、解析対象に応じた要素分割が適正に行われていないと、その計算結果も正しくならないことは予想できます。

解析を行う人の中で、よく言われる「きれいなメッシュ(要素)」というものです。

 

実際に、この要素の大きさを大きなものから小さなものに変化させて(要素の数を増やして)いくと、その解析結果は変化し、ある要素の大きさ以降に、収束する、すなわち変化しなくなるような現象を見ることができるので、正しい計算結果を得るには、解析対象モデルごとに、適切な要素の大きさがあることが必要です。

また、あまりにいびつな要素の形が好ましくないことも解析経験者は経験的に知っています。

 

設計者が自身で解析(CAE)を行うような場合も、片持ち梁のような単純な形状が解析対象にはなることは多くありません。

薄板形状で板厚の厚みの変化は見ないもの、片持ち梁モデルのような鋼材モデルで曲げモーメントなどに注目したいもの、また、その薄板と鋼材の組み合わせ、単一部品でもより複雑なモデルで応力の状態を注視したいというようなもの、と様々です。

設計者は求める結果に合わせ、また力のかかり方を想定しながら、メッシュタイプや部分的に細かなメッシュを作成し、要素分割を行います。

シェルメッシュ

梁(ビーム)メッシュ

構造解析教室のようになってしまいましたが、ここでお話したのもあくまでも概論です。

この要素を作成する上では、要素を作成しやすい、解析しやすい形状に変更する作業も必要となり、その時間も少なくはないというのが現状です。

また要素数を著しく増やしてしまえば、計算時間はより必要となり、場合によってはPCは止まってしまいます。

 

構造解析を行うには、このように知識や経験が必要になり、その知識は、解析対象により広がりを持つとともに、深くなっていきます。

これらは、設計者CAEを経験していくことで得られていくものなのですが、そもそも設計者は解析することが仕事ではなくて、設計することが仕事です。

設計者が、設計者CAEを使用するのは「設計の方向性を確認したい」「設計パラメータを決めたい」ということが目的です。

はたして設計者は、この要素の精度を上げることに時間を費やす余地があるでしょうか?

「出来ることなら、瞬間的にその答えが欲しい」
「1時間でさえ待ちたくない」
「数日待つだなんてありえない」
というのが、設計者の本音でしょう。

 

そこで、これまでの設計者CAEが進化したものとして、メッシュ作成時間にとらわれない「メッシュレスCAE」が登場したのだと私は考えます。

メッシュレスといっても、基本的には有限要素法の技術を使用しています。私が経験したメッシュレスCAEシステムは次のふたつです。

メッシュレスCAE

ひとつは、GPUによる計算を行うもの。
こちらは、解析モデルを変更すると同時に解析結果を得ることができます。

もうひとつはCPUによるもの。
こちらは、CAEの作業で必要とされる解析モデルに適した形状への変更作業を必要としません。

いずれも、メッシュを編集作成するような作業はありません。どちらのハードウェア(GPU・CPU)も高価なものなのですが高スペックなものが以前に比べれば、購入しやすい価格になってきているのではないでしょうか。

ハイスペックなPCを持っていなくても、クラウドサービスで利用できるようにもなりつつあります。(例 サイバネットシステム(株)のCAEクラウドなど)

 

ANSYS Discovery LIVEでは、ベースモデルを作成後、CAE結果を見ながら、解析モデルの設計変更を行い、ほぼ瞬間的に解析結果を得ながら、設計変更を行うことが可能なことを確認しました。

ANSYS Discovery LIVE(アンシス社)の例(出典:土橋作成 ANSYS Discovery LIVEレポート)

SIMSOLIDでは、解析用のモデル編集を行うこともなく、パーツの接触面の自動認識や、締結要素(ボルト)を自動認識するなどの機能で、構造解析からモーダル(固有振動数)解析まで一気に行うことができました。

SIMSOLID(アルテア社)の例(出典:土橋作成SIMSOLIDレポート)

それぞれがそれぞれの特徴をもったメッシュレスCAEシステムでした。

メッシュレスの機能については、全く評価なしで運用するのではなく、これまでの設計者CAEや解析専任者がベンチマーク評価することで、その特性を理解することが必要です。

また、設計者にその特性を理解させることも必要です。ベンチマーク評価の結果を、解析の基礎知識とともに、設計者に指導してほしいですね。

  • 設計者が設計の方向性を見極める
  • 設計者が設計パラメータを求めるため

この目的のために、ぜひ、協力してほしいものです。

 

更に高度な解析は、これまでの設計者CAEを行ってきた人がステップアップすることができるでしょう。

これからの設計者CAE

私の経験では、これまでの設計者CAEは、ひとつの解析モデルに対してその答えを出して、その答えをもとに設計変更し、また更に解析を行うことを繰り返してきました。

また、設計内容によっては、そのパラメータが勘や経験で決められたものも少なくはありませんでした。しかし、この経験を次が引き継ぐことは人材不足から難しくなってきています。

しかも、市場の変化から、開発リードタイムは短縮されるばかりか生産性も上げていかなければなりません。

 

これからの設計者CAEとしては、

  • 設計根拠をデジタル化していくことによる設計技術の共有化
  • 短時間に設計案を導くために

ということが重要になります。

既にAIを使用したジェネレーティブデザインという手法も登場していますが、メッシュレスCAEは、これまでの設計者CAEとは「一味違う」解析による結果をもたらしてくれるかもしれません。