90年代の一般的な図面には幾何公差の記載は多くはありませんでしたが、近年の図面は幾何公差が非常に多用される様になってきました。その背景には部品を海外(アジアなど)に手配することが多くなった事と密接な関係があります。幾何公差とは何か、海外生産を受けてどう複雑化しているのかについて説明します。
目次
幾何公差とは?
寸法公差は部品の各サイズ許容範囲を示しますが、幾何公差は部品形状の精度を示します。例えば穴が真円であることを指示したい場合には真円度の幾何公差を利用します。幾何公差が定義されていないと製造された穴が歪んでいても図面上は問題なしとなってしまいます。
日本の製造業では幾何公差の少ない図面が使われてきました。筆者も設計者時代には、最小限度の幾何公差のみを記入して図面を描きましたが、問題無く製品が生産できた記憶があります。当時の手配先は国内が大半でしたので幾何公差を入れなくても円は真円として部品が納品されたのです。
しかし、近年は手配先が海外になり、部品の品質の問題が急増しました。その原因は幾何公差の無い図面です。
忖度ありきの従来の図面
まず、従来の図面について見てみましょう。
従来の図面例
単純な四角のブロックの図面です。日本の部品メーカーに製造を依頼すると全ての角が垂直で、4辺が全て直線の部品が出来上がります。
図面では角の角度を垂直に指定されていませんが、日本のメーカーは図形が垂直に描かれていれば”忖度”して垂直で製造してくれます。
その理由は、国内メーカーへの手配は図面と”打ち合わせ”が行われているからです。加工工程や測定方法を図面以外で伝えることがあるので、高品質な部品が製造されていたのです。
同じ図面を海外で製造すると
図面が忖度されませんので、幾何公差が無い以上、メーカーは角を垂直で製造する責任はありません。したがって期待した形状で無いのに図面上はOK品にせざるをえなくなります。
海外は契約社会ですので、日本以上に図面が契約書として扱われます。したがって図面に描かれていることは遵守する反面、描かれていないことは”忖度”してくれません。
幾何公差付きの図面
幾何公差で部品の形状を規定していますので、期待した部品が製造されます。
この図面であれば歪んだ形状の部品をNGにできます。しかしこの図面でも幾何公差の指示が完璧ではありませ。期待した部品が製造されるには、より多くの幾何公差を指示する必要があります。
これにより、契約書としての図面が完成するので精度の高い部品が製造されます。幾何公差により、加工方法や測定方法が図面のみで指示されます。
複雑化する幾何公差
幾何公差は部品形状の精度を指示する大切な物ですが、使い方を間違えると図面の幾何公差が複雑化してしまうことがあります。よくあるのが一つの形状に2つ以上の幾何公差がダブって定義され製造不可能な高精度が意図せず要求される場合です。その場合は通称Ⓜ︎マークと呼ばれる最大実体公差方式を適用する事で回避できるのですが、考え方が難解で慣れないと上手く使えません。
日本の図面がガラパゴス化しない様に、設計者は幾何公差を使いこなす必要があります。ISO規格に準じてJIS規格も幾何公差での表現をルール化しており、従来の図面はJIS規格に準拠できなくなっています。たとえば穴の位置は寸法での指示ではなく”位置度”の幾何公差を使わないといけません。