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ミルシートとは|鋼材検査証明書の必要性・記載内容・設計者向けの注意点まで解説

設計や調達に携わっていると耳にする「ミルシート」について、「具体的にどんな情報が載っているの?」「材料証明書とは何が違うの?」といった疑問を抱えている方もいるでしょう。 

本記事では、ミルシートの定義・役割や記載内容の具体的な見方、スムーズな取得方法について解説します。設計者として知っておくべき注意点や、材料証明書や検査成績書との違いも整理するので、実務で関わる方は最後までご覧ください。

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ミルシートとは|定義・役割 

ここでは、ミルシートの基本的な定義や役割について詳しく解説します。 

ミルシートとは何か? 

ミルシートとは、鉄鋼メーカーが製品出荷時に発行する鋼材の品質証明書です。日本語では正式に「鋼材検査証明書」や「材料検査証明書」と呼ばれています。一般に「工場(Mill)で発行される書類(Sheet)」という意味から、ミルシートという通称が用いられています。 

対象となる鋼材のロットごとに、化学成分や機械的性質(強度など)の試験結果が記載されており、JISなどの規格に適合している点をメーカー自身が証明する書類です。鋼材の品質を一次的に裏付ける最重要の証憑といえます。 

なぜ必要?品質保証とトレーサビリティの観点から 

ミルシートが必要とされる理由は、大きく分けて2つの役割があるからです。 

  • 品質保証
    ミルシートは、材料の強度や特性が設計どおりであることを、客観的なデータで示す証拠になります。特に、人命に関わる建築物や輸送機器などでは、安全性を担保するためにミルシートの提出が契約や法律で義務付けられるケースもあります。 
  • トレーサビリティ(履歴追跡)
    万が一、製品に不具合が発生した際に、ミルシートに書かれている情報は、原因を究明するための重要な手がかりです。使用材料のロットを特定し、材料に起因する問題なのか、あるいは加工工程に問題があったのかを切り分けられます。スピーディな影響範囲の特定や再発防止策のために、ミルシートは欠かせない存在です。 

ミルシートに記載される内容と見方 

次に、ミルシートに記載されている内容と、設計者や調達担当者が確認すべきポイントを解説します。 

基本情報欄:発行元・注文者・製造ロットなど 

まず、書類の上部に記載されている基本情報を確認し、手元にある材料と一致しているかを照合しましょう。主な記載内容は以下のとおりです。 

項目 

内容 

発行者名・工場名 

どのメーカーの、どの工場で発行された書類か 

需要家名・商社名 

材料の最終使用者や、流通経路となった商社の名前 

証明書番号、注文番号 

書類を管理するための識別番号 

品名、規格、寸法、数量 

発注した材料の仕様(例:SPCC、2.0mm×1219mm×2438mm) 

ロット番号、ヒートナンバー 

材料の製造単位を示す番号で、トレーサビリティのキーとなる 

化学成分表・機械的性質の見方(成分記号・単位解説付き) 

次に、ミルシートの核心部分である品質データを確認してください。 

化学成分表には、炭素(C)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)の主要5元素をはじめ、鋼種に応じた合金元素の含有率が「%」単位で記載されています。「規格値」と「実績値」が併記されているので、すべての元素が規格の範囲内に収まっているかを確認してください。 

機械的性質は、材料の強度に関する項目が記載されています。主な記載項目は以下のとおりです。 

項目 

単位 

内容 

降伏点または耐力 

N/mm² 

材料が変形し始める力の大きさ 

引張強さ 

N/mm² 

材料が破断するまでに耐えられる最大の力 

伸び 

% 

材料が破断するまでにどれだけ伸びるか 

 こちらも「規格値」に対して「実績値」が基準を満たしているかの確認が重要です。 

よく使われる略語(Bal. / Tr. など)とその意味 

化学成分表では、以下のような略語が使われる場合があります。意味を知っておくと、記載内容の理解に役立ちます。 

  • Bal. (Balance):「残部」という意味。例えば「Fe: Bal.」とあれば、記載されている他の元素以外はすべて鉄(Fe)であることを示す 
  • Tr. (Trace):「微量」という意味。成分は含まれているものの、定量できる下限値に満たないことを示す 

ミルシートの発行・取得の流れ 

ミルシートの発行から取得までの流れについて解説します。 

メーカー直送と商社経由での入手の違い 

ミルシートは、メーカー直送と商社経由の場合で、入手経路が異なります。 

メーカーから直接購入する場合、納品時に、その材料ロットに対応したミルシートの原本が同梱されるのが一般的です。 

一方で、商社や販売店から購入する場合は、メーカー発行のミルシートのコピーが提供されます。切板などで購入した場合、ミルシート記載の数量や寸法は切断前のコイルや大板の値となっている点に注意しましょう。 

電子ミルシート(PDF)と紙の違い・有効性 

近年は、PDF形式の電子ミルシートでの提供が増えています。電子ミルシートは、保管や検索、共有が容易であるという点でメリットがあります。 

電子署名やタイムスタンプが付与されていれば、紙の原本と同等の有効性が認められます。長期保管が必要な場合は、将来の閲覧性を担保するPDF/Aという形式で保存するのが望ましいです。 

発注時に伝えるべき情報とは?スムーズな取得のためのチェックリスト 

ミルシートを確実に入手するために、発注時に以下の情報を明確に伝えるようにしましょう。 

チェック項目 

チェックポイント 

ミルシートが必要な旨を明記 

見積依頼書や注文書に「ミルシート要」や「鋼材検査証明書添付のこと」と記載しているか 

適用規格や鋼種を正確に指定 

JIS規格番号や材料記号などを正しく伝え、それに合致したミルシートを依頼したか 

追加の試験項目があれば事前に依頼 

硬さ試験など、標準項目以外のデータが必要な場合は、対応可能か、追加費用や納期はどうかを事前に確認したか 

用途や提出先を共有 

相手方の手配漏れを防ぐために、「公共工事の検査で必要」など、提出期限や重要性を伝えたか 

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ミルシートの用途、必要な場面 

ミルシートの用途について、必要な場面ごとに見ていきましょう。 

建設・土木・公共工事でのミルシート提出義務 

建築物の鉄骨や橋梁など、構造の安全性が最優先される分野では、仕様書や契約条件でミルシートの提出・保管が義務付けられます。使用する鋼材が設計図書で要求された強度を持つことを証明し、建造物の品質を保証するための公的な手続きの一環です。 

製造業での監査・品質保証・顧客対応での重要性 

製造業においても、ミルシートは品質管理に不可欠な書類です。 

監査対応においては、ISO9001などの品質マネジメントシステムの審査や、顧客による工程監査の際に、材料の受け入れ品質を管理している証拠として提示します。 

また、品質保証の場面でミルシートは、顧客に対して、使用している材料が指定された規格を満たしていることを客観的に証明する書類です。製品トラブルが発生した際には、ミルシートのデータに立ち返り、材料起因の問題か、製造工程起因の問題かを切り分けます。 

ミルシートの注意点 

ミルシートについて、実務で陥りやすい注意点についてまとめます。 

ミルシートが入手できない場合のリスク 

ミルシートを入手できない最大のリスクは、使用材料の品質を客観的に証明できなくなる点にあります。顧客や監査機関から提出を求められた際に提示できなければ、「規定の材料を使っている」という主張の根拠を示せず、検査不合格や納入品の受け取り拒否につながりかねません。 

また、製品に不具合が発生した際、トレーサビリティが途絶えてしまうため、原因が材料にあるのか、それとも加工工程にあるのかの切り分けが困難になります。原因究明が大幅に遅れ、対策の遅延や損害の拡大を招く可能性もあります。 

ミルシートがなくなった場合の対処法 

ミルシートを紛失してしまった場合は、購入元の鋼材メーカーや商社に連絡し、再発行が可能か問い合わせましょう。材料にロット番号の刻印やラベルが残っていれば、確実な手掛かりとなります。 

多くの企業では、ミルシートの控えを一定期間保管しています。保管期間は、企業の文書管理規程・業界の慣行・顧客との契約によって異なりますが、定められた期間内であれば写しの提供を受けられる場合があります。 

ただし、保管期間を過ぎると再発行は困難となるため、入手後は速やかにスキャンして電子化し、共有フォルダなどによる一元管理をおすすめします。 

ミルシートの保管期間と「製品品質の保証ではない」という位置づけ 

ミルシートの保管期間は、法律で一律に定められているわけではなく、企業の文書管理規程や業界の慣行、顧客との契約内容によって決定されます。分野や案件によって求められる水準に差があり、実務上も幅をもって設定されるのが一般的です。 

また、ミルシートはあくまで「材料」段階の品質を証明するものであり、「完成品」の品質を直接保証するものではないという点に留意が必要です。ミルシートで保証された材料を使っても、その後の加工(プレス、溶接、熱処理など)が不適切であれば、製品の品質は保証されません。 

製品の品質は、寸法検査や機能検査の結果をまとめた検査成績書と合わせて、総合的に保証されるものです。ミルシートは、大元となる材料の品質を裏付ける書類と位置づけましょう。 

ミルシートと関連する法令・規格・ISO 

ミルシートが関連する、国内外のさまざまな法令や規格、品質マネジメントシステムについて解説します。 

建築基準法・JIS・ASTMなどとの関係 

ミルシートは、国内では建築基準法や公共工事の仕様書で提出が求められる法的根拠を持つ重要な書類です。構造物の安全確保のために使用する鋼材が強度や品質を満たしていることを証明します。 

海外プロジェクトではASTMなど現地の材料規格への適合を示す証明書としても機能します。ミルシートは国内外のさまざまな規格や法令と連携し、材料の信頼性を担保する共通言語としての役割を担っているのです。 

EN10204・ISO9001・IATF16949とミルシート 

ミルシートは、EN10204のような国際的な材料証明書規格や、ISO9001のような品質マネジメントシステムの国際規格において、材料検証の客観的証拠(品質記録)となる重要な書類です。 

特に、自動車産業向けの品質マネジメント規格であるIATF16949では、サプライチェーン全体で厳格なトレーサビリティが求められます。材料の素性を証明するミルシートは、その要求に応えるための重要な手段として活用されており、グローバルな品質保証の基盤となっています。 

監査対応における保管義務と社内運用の注意点 

ミルシートの適切な保管は、ISO審査や顧客監査に対応するための必須要件です。監査では、材料の受け入れから製品出荷までの一貫した品質管理とトレーサビリティが問われ、ミルシートは材料の品質を検証した客観的証拠として提示が求められます。 

スムーズに提示するためには、ミルシートを図面番号品番、ロット番号と紐付けて電子データ化し、検索可能な状態で一元管理するなどの社内ルールの整備が重要です。監査時の指摘事項を防ぎ、企業の品質管理レベルへの信頼を高められます。 

材料証明書や検査成績書との違い 

ミルシートと似た書類である材料証明書や検査成績書との違いや、電子データの扱いについて見ていきましょう。 

材料証明書との違い 

「材料証明書」は材料の品質を証明する書類全般を指す広い概念で、鋼材だけでなく樹脂や非鉄金属などにも存在します。特に鋼材分野では、「ミルシート」が最も代表的な材料証明書であり、実務上は「材料証明書をください」という依頼が「ミルシートをください」とほぼ同義で使われます。 

検査成績書との違いと併用が必要なケース 

「検査成績書」は、加工後の完成品や部品に対して行われた最終検査(寸法、外観、機能など)の結果を記録したものです。両者の違いは、証明する対象です。 

ミルシートは材料の品質を証明し、検査成績書は製品の品質を証明する書類です。高い安全性や信頼性が求められる製品では、この2つをセットで管理し、材料から最終製品まで一貫した品質保証体制を構築します。 

電子データの有効性、保存形式と法的効力の考え方 

PDFなどで提供される電子ミルシートや電子検査成績書は、電子署名やタイムスタンプが付与されている場合、紙の原本と同等の法的効力を持つと解釈されます。 

長期保管を前提とする場合は、将来のOSやソフトウェア環境の変化に依存せず、いつでも同じように表示できる国際標準のアーカイブ(長期保存)用形式「PDF/A」での運用がおすすめです。PDF/Aは、文書の見た目を長期にわたって維持できるため、公文書や記録管理の分野で広く採用されており、将来的な閲覧不能リスクを低減できます。 

さらに、BOM(部品表)や図面データと連携させれば、監査時のスムーズな提示に役立ちます。 

メビーのミルシート対応

メビーでの購入品でミルシートが必要な場合は、ご購入前にmeviyサポートまでご相談ください。 
0120-343-626 受付時間:月曜日~金曜日(祝日を除く)9:00~18:00 

ミルシートを正しく理解して品質管理に活かそう 

本記事では、ミルシートの定義から記載内容の見方、実務上の注意点までを解説しました。ミルシートは、「使用する材料が規格どおりである」ことを示す一次証憑であり、設計・調達・品質の連携を支える要の書類です。 

ミルシートの価値を最大限に引き出すためには、基本情報や試験値を確実に照合し、発注段階で要求を明記、受領後は検索しやすい形で管理するといった流れの標準化が重要です。本記事の内容を参考に、発行から取得・保管までの体制を構築してください。 

また、ミルシートが材料の品質証明であり、加工後の製品品質を保証するものではないという点を忘れてはいけません。製品の品質は検査成績書で補完し、「材料→工程→製品」という一貫した保証ラインを築きましょう。 

ミルシートを単なる保管書類ではなく、設計の信頼性や監査対応を支える運用資産として活用することが重要です。 

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