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「ベンチャーマインドを持った町工場であり続けたい」 福岡県飯塚市のソレノイドメーカー、タカハ機工のきめ細やかな会社づくり

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電磁コイルに電流を流すことで発生する電力を応用し、内部のプランジャーという鉄芯を直線運動させる電気部品「ソレノイド」。聞き馴染みのない部品ですが、実は自動ドアの開閉機構やピンボールゲームの押し出し部分など、実は身近なところで使用されています。

 

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今回訪れた福岡県飯塚市のソレノイド専業メーカー、タカハ機工さんは1979年創業。ソレノイドを使った発明品コンテスト「タカハソレノイドコンテスト(ソレコン)」を主催したり、社内に商品化を視野に入れた試作開発を支援するものづくりコミュニティスペース「タカハイノベーションパーク」を設置したりと、従来の製造業の枠にとらわれない多角的な取り組みをしています。

 

なぜこういった活動をしているのでしょうか?
さっそく、meviyスタッフの進藤と川野、神田が現地を訪問し、タカハ機工さんのものづくりや会社づくりについてお話を伺ってきました。

 

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社内を案内してくれたのは、タカハ機工取締役の大久保千穂さん。まずはソレノイドを作っている工場を見学させてもらいました。

 

ソレノイドを部品から生産する一貫生産システム

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まずは生産加工部門の工場へ。工場内にはプレス加工機やNC旋盤、射出成形機など部品加工に必要な設備が整えられています。

というのも、タカハ機工さんはソレノイドに必要な部品をすべて自社工場で生産、加工、組み立てる「一貫生産体制」を整えているのです。生産工程を自分たちで管理することで価格を抑え、精度にブレがない高い品質を保っています。

 

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引用 http://www.takaha.co.jp/technological/action.html

ソレノイドの基本的な構成パーツは、大きく分けて可動鉄芯(プランジャー)フレームコイル固定鉄芯の4つ。導線部分に電流を流すことで磁力を帯びた固定鉄芯が可動鉄芯を吸い寄せ、磁界の切り替えによって押し出しや引き込みなどの直線運動を行います。この動作を応用したさまざまなバリエーションのソレノイドがあります。

 

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工場の入り口近くでは、ソレノイドの外枠になるフレームパーツが次々と生産されています。大きな音を立てながら稼働するプレス機を目の当たりにし、その迫力に圧倒されました。

 

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部品を外注して、社内で組み立てるという体制を取る製造業が多いなか、こうして部品を一貫して内製するスタイルはなかなか珍しいかもしれません。ソレノイド生産だけでなく、周辺のパーツ生産も同時に進めているため、中間コストの削減も実現しています。

 

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轟々と音を立てながら稼働していたこちらの機械は、ソレノイドの駆動部品である鉄芯の切削加工を行っています。見るからに年季が入ったこの切削機は、創業からずっと現役で活躍しているそうです。使い込まれた金属光沢がシブい!

 

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この小さな部品は可動鉄芯を引き寄せるための固定鉄芯。こうした部品が集まって、やっと1つのソレノイドができ上がります。

 

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工場内には、社内で加工したものや外部から購入したものを集めて検品を行う検査室が。ソレノイドはきちんと機能を果たすかどうか、その精度が求められる部品。寸法や穴径にズレがないか、きちんと動作するかをしっかりと確認します。

 

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続いて、加工した部品を組み立てる組立部門を見学しました。50人を超える作業員のみなさんが、それぞれの持ち場で黙々と部品を組み立てていました。

 

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こちらはコイルと電源をつなぐリード線の取付作業。スムーズな手さばきで、次々と部品が組み上がっていきます。まさに熟練の技……!

 

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タカハ機工は10年前からネットショップを展開しており、工場内にはソレノイドを集めた棚がありました。工場直販はなかなか珍しいのではないでしょうか。

「ネットショップを始める前は中小企業を相手に販売をしていたのですが、いざ始めてみると個人のお客さんや別の会社さんからの注文が多く入り、新たな需要の存在を知りました。学生さんからの注文は30%オフにしています」(大久保さん)

 

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さまざまな用具が集められたこちらは、開発試作部門。生産、加工から組立まで、社内で一貫しているため、使用条件に合わせたソレノイドの各種製品開発・試作をスムーズに行うことができます。

 

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開発試作部門では、ミスミの特注部品を使用いただいていました!

ものづくりのプラットフォーム 「タカハイノベーションパーク」

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工場見学を終えて外に出ると、レンガ造りの建物が。ここは3Dプリンターやレーザーカッターなどの工作機械を設置した試作開発スペース「タカハイノベーションパーク」です。

ベンチャー企業の商品化支援ほか、地元の中小企業や行政と連携して試作品をつくる窓口になっています。施設内にはカフェスペースと社内託児所が併設され、社員がより働きやすくなるためのコミュニティスペースとしても機能しています。

 

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施設に入ると、スタッフさんと拍手ロボット「ビッグクラッピー」が出迎えてくれました。パンパンと拍手をしたり、大きな声であいさつをしたりと、周りを癒やしてくれる愉快なロボットです。この製作を手がけたエンタメイカー企業、バイバイワールド代表の髙橋征資(まさと)さんと連携・協力し、同施設で量産化を実現したとのこと。

 

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利用者は施設内の工作機械を自由に利用でき、思いついたアイデアをその場ですぐに試すことができます。また、施設ではできない金属加工なども、敷地内工場の工作機械を利用して試作することが可能です。

工場で金型やプレス、切削、プラスチック射出成型、組み立てを一貫して行えるため、試作品の量産や製品化を実現できる体制が整えられています。企業がものづくりを全面的にバックアップしてくれるとは、なんて心強い!

 

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施設内には、タカハ機工さんが主催する、ソレノイドを使ったものづくりコンテスト「第5回ソレコン」で「いいね!賞」を受賞した作品が展示されていました。つぶらな瞳が特徴的なこちらは、薬の飲み忘れを防止するためのお知らせロボット「クスリッピー」です。

時計機能が内蔵されており、設定した時間になると拍手をして賑やかに薬を飲む時間を知らせてくれます。さらに頭の帽子を押すと、1回分の薬を口から勢いよく吐き出してくれる仕掛けも! この薬を射出する部分にソレノイドが使用されています。

※ほかの作品の詳細はこちらから。

 

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梁にはスズメの人形が置かれ、ちょっとした遊び心を感じさせてくれます。

タカハイノベーションパークができたきっかけについて、大久保さんは「今までは工場で部品を作るだけで、何もない無駄なところがなかったんです。そういうゆとりがある場所が必要だなと思って発案しました」と話してくれました。

 

施設のオープニングイベントでは、ピアニストの新垣隆さんと、ちょっと変わった電子楽器「オタマトーン」を製作した明和電機代表の土佐信道社長によるライブショーを開催。このように、外部にアンテナを張って、業界を盛り上げるさまざまな試みが展開されています。

当日は新垣隆さんがタカハ機工をイメージした即興のピアノ演奏を披露。

 

ベンチャーマインドを持った町工場を目指して

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工場見学や社内コミュニティスペースを見学させていただき、並々ならぬバイタリティに驚きました。社長の大久保泰輔さんも交えて、会社の取り組みについてお話を伺ってみましょう。

 

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進藤

本日はご案内いただき、誠にありがとうございました。生産の現場なのに雰囲気とかカルチャーが新しくて、すごくおもしろい試みをされているなと感じました。こういった取り組みは、なにかきっかけがあったのでしょうか?
千穂さん
私の父がこの会社を創業し、今の社長と結婚して会社を引き継いだんです。それで浮き沈みを繰り返しつつなんとかやっていましたが、大きな転機は2008年に起きたリーマンショックでした。そこで経営がどん底になって、イベントに出るなどして必死に営業をしたんですよ。それが1つ2つ花開いて今に至る、という感じですかね。

進藤

なるほど。大打撃を受けて、そこからのリカバリーが結果的に今の会社の発展に結びついているんですね。

泰輔さん

そうですね。それまではじっとしていても仕事があった時代でしたから。2012年にはYouTubeチャンネルや公式Facebookページを開設して、外部に向けて情報発信を始めたんです。その翌年には、明和電機の土佐信道社長を審査員に招いて、ものづくりが好きな学生に向けて「ソレコン」を初開催しました。それから「Maker Faire Tokyo」の公式スポンサーに就任するなど、どんどん露出を増やしていったんです。おかげさまでソレノイドと言ったらタカハ機工というくらい、業界内では広く認知していただいています。

神田

私がタカハ機工さんを知ったのも、「ソレコン」がきっかけだったんです。会社主導でこんなに幅広い取り組みをやられているのはホントに珍しいなと。

千穂さん

私たちが作っているソレノイドって全然一般の人にとってはメジャーではないので、イベントを開催したり解説マンガを作ったりと、まずは若い人たちにソレノイドを知ってもらおうために日々活動しています。今は個人でものづくりをしている方が増えていますが、まだまだソレノイドは知られていません。
例えばモーターだと、直線運動をするのってすごく大変なんですよね。ソレノイドだとポンと押すだけなのに、わざわざモーターに機構をつけて直線運動にしているエンジニアの方も結構いるんです。だから「ソレコン」を通じて、いまから直線運動=ソレノイドという啓蒙をしておけば、学生さんたちが10年後に立派なエンジニアになったとき、ソレノイドを思い出してくれるかもしれないねって。

 

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川野

そもそも製品を知ってもらわないと始まりませんもんね。製造業界にいる人間として、今はどこも採用に困っているという話をあちこちから聞くのですが、そのあたりはどうですか?

泰輔さん

ソレコンなど外向きの展開のおかげで、弊社のことを知ってくれている人が応募してくれるなど、志望者自体は多いんじゃないかと思っています。

ただ、私たちのような中小企業はあまり余裕がないので、どうしても即戦力の中途採用が多くなってしまいます。でも、入れてみようかなと思って新卒を取ったら、社員の人が変わるんですよ。新人にちゃんとしないと!と思って、会社全体が締まってくるといいますか。やはり新しい人を入れないと、会社は変わらないものですね。

川野

保守的にならず、どんどん新しいことに挑戦するってすごく大切ですね。

 

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千穂さん

うちは女性社員が多いので、みんながより気持ちよく働けるよう2014年に女子トイレの大改装を行いました。いろんなホテルのトイレを回って研究を重ねるなど、かなり力を注いだんです。それが、社内だけじゃなく社外にも大好評でして。

進藤

トイレの改装とは目の付け所が違いますね! 特に女性はトイレで化粧直しや雑談をするので、そういった改革は女性ならではの視点だと思います。

千穂さん

やっぱり普段使う場所だから、そこを変えてあげると社員の満足度はぐんと上がってくるんです。NHKにも取り上げてもらったり、東京の社長さんがトイレ改装についてお話聞きたいとわざわざ福岡まで訪れてくれたりと、かなり話題になりました。季節によって内装も変えて、リラックスできるような空間づくりも心がけています。

川野

社員のモチベーションもかなり高まるでしょうね。ここまで社員さんに寄り添っている企業さんは、なかなか珍しいと思います。最後に、タカハ機工さんの今後の展望をお聞かせいただければ。

 

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千穂さん

イベントを開催したりタカハイノベーションパークを作ったりと、たくさんのベンチャーの方々と関わりを持たせてもらいましたが、やはりベンチャーの人って最先端なんですよ。そういう人たちと組むと新しい知見を得られますし、私たちが長年やってきたことを共有して手助けしてあげることもできる。だからこそ、そういうベンチャーマインドを持った町工場に私はなりたいと思っています。
アプリ開発などソフトウェアの会社の上場はよく耳にしますが、ハードウェアのスタートアップってかなり伸び悩んでいる状況でしょ? でも、私たちモノを作っている立場からすれば、どうにかその挑戦をステージに乗せて上げたいんです。それくらいモノづくりに惚れていますから。外部としっかり連携しつつ、これからもどんどん新しいことに挑戦したいですね。

 

まとめ

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ソレノイドの生産だけでなく、学生やベンチャーの支援、ひいては自社製品を使ったイベントを開催するなど、幅広く活動しているタカハ機工さん。社内託児所の用意や女子トイレの大々的な改装など、社員の働きやすさを意識した細やかな心配りが印象的でした。

経営層が保守的にならず、積極的に新しいことに取り組む姿勢にこそ、これからのものづくり企業に必要なマインドがあるのではないでしょうか。旧態依然のままではなく、ベンチャーなど新しい波をしっかりキャッチするアンテナの感度も、これから成長する企業が持つ鍵になると感じました。

 

(神田 匠 /ノオト)

 

取材協力 :タカハ機工
http://www.takaha.co.jp/index.htm

タカハイノベーションパーク
http://www.tipiizuka.com/

ソレコン
http://www.takaha.co.jp/kokuchi/