日本の伝統色で、別名をジャパンブルーとも呼ばれる藍色。タデ科の一年草「藍」を天然染料として使うことで、濃い青に染め上げます。2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックの公式エンブレムカラーに採用されるなど、昨今は国内外からも広く注目を浴びています。
大分県佐伯市の精密板金加工メーカー・長尾製作所は、自然藍に含まれる色素を配合した染料で着色した『藍色アルミニウム』の精密板金製品の生産技術を確立しました。
藍染というと、布に染色するものというイメージがありますが、そもそもアルミニウムに染色なんてできるのでしょうか? 藍色に染められたアルミはどういうところに使われているの? そんなギモンを解決するためにmeviyスタッフの進藤、川野、神田が現地に向かいました。
古来よりものづくりが盛んな大分県佐伯市
長尾製作所がある佐伯(さいき)市は大分県の南東部に位置し、平成の大合併によって九州の市町村の中で最大の面積をもつ街となりました。九州山地へと続く山間部、番匠川下流に広がる平野部、佐伯湾・米水津(よのうず)湾・入津(にゅうづ)湾が連なるリアス式海岸部それぞれのエリアで豊富な資源が育まれ、佐伯市では林業や水産業、造船工場など、幅広い産業が盛んです。
▼2016年10月に行われた進水式の様子 (写真提供:進水式を推進する会)
佐伯市では古来より造船業が盛んでした。市内の三浦造船所さんでは毎年、船舶の誕生を祝う「進水式」が行われます。meviyスタッフも取材当日、幸運にも現場で式典を目の当たりにしました。巨大な船が海に勢いよく着水する様子は圧巻の一言!
古き日本のものづくりの面影を残す佐伯市の伝統に触れたあと、一同は長尾製作所へと向かいました。
精密板金加工メーカー・長尾製作所へ
車で山道を進み、今年設立41年目を迎えた長尾製作所本社へとたどり着きました。創業当初は冷蔵庫の木枠を作る木工所でしたが、時代の流れとともに精密板金加工業へとシフト。現在の従業員数は、派遣社員と技能実習生を含めて総勢134人です。
さっそくタレパンが板金を打ち抜く音がこだまする工場内へ。曲げ加工、溶接、仕上げと、熟練の職人さんの手によって、スムーズに作業が進んでいました。
藍色アルミニウムとは?
今回の取材の目玉、藍色アルミニウムとはいったいどういうものなのでしょうか。さっそく長尾製作所代表取締役の長尾浩司さんにお話を伺いました。
まずは会社概要と藍色アルミニウムについてご説明いただきました。
今回は貴重な機会をいただきありがとうございます。藍染のアルミニウムがあるという噂を聞きつけて訪問させていただいたのですが、これはいったいどういったものなのか、長尾社長の言葉で解説いただけますか?
その名の通り、自然藍で染めたアルミニウムのことです。「藍プロジェクト」として2016年から本格的に動き出し、現在はさまざまな展示会に出展するなど露出の場を増やしています。
藍染めって布などに限ったものだとずっと思っていたのですが、金属にも染色できるんですね! いったいどういう方法で染色しているのでしょうか?
これはちょっと技術的な話になりまして、まずアルミニウムの表面を酸化させ、腐食しにくくした「アルマイト」という金属の保護膜を作ります。その保護膜には表面に10ナノメートルほどの小さい穴が無数に空いているので、そこに染料を入れていく。アルミそのものが化学変化しているので、まさしく金属が染まっているわけです。
なるほど。藍染も布の繊維の中に染色していくわけですし、基本的には仕組みは同じなんですね。
はい。ただし、技術的にはかなり難しい部分がありました。アルマイトの中には、弱酸性の有機染料で酸化皮膜に色付けする「カラーアルマイト」があるのですが、水に溶けた自然藍はアルカリ性なのでこのアルマイト層を破壊してしまいます。そもそも皮膜表面の穴(ボアー)には酸性分子しか入らないので、アルカリ性の藍分子を入れるのはかなり苦労しました。これは試行錯誤を繰り返してクリアしたのですが、まだまだ課題は山積みです。
ほかにどういう課題があるのでしょうか?
藍色ひとつとっても、「薄藍」や「濃藍」など、さまざまな色があります。ちょっと色味が変わるだけでまったく別の色になってしまったり。ですので、一定の条件できちっと色を出すのが検討課題ですね。共同開発した企業さんとデータを積み重ねて、現在は6色を標準化しています。
同じ藍でもこんなに種類があるとは! これは条件設定も大変ですね……。そもそもなんですが、どうしてこのようなプロジェクトを始められたんでしょうか?
よくいろんな方に聞かれるんですけど、実は特に理由はなくて(笑)。単純にきれいなものを見たかった。ただそれだけなんです。雑談の中でパッとひらめいたんですよね。
社員のメンバーで音楽ライブを見た帰りの車の中で、誰かが金属に藍染めしたらきれいなんじゃないかとぽろっとつぶやいたのがきっかけですかね。そしたら「それいいじゃん! やろう!」ということで、プロジェクトがスタートしました。私たちは板金加工を専門にしているので、ノウハウもすでに蓄積されていましたし。
その瞬発力はすごいですね。藍色アルミニウムは実際に、どのようなところに使われているのでしょうか。
実装はまだですが、弊社は鉄道車両の部品を作る仕事をしていますので、車両内に藍色のアルミ素材を使ってもらえないかと提案をしています。藍は日本を象徴する色ですので、乗客の方に和のテイストを存分に感じてもらえるのではないかな、と。工業製品分野では、このような製品を作って販売する事業と、お客さんが作られた製品を染色してお返しする2軸で展開をしています。
一般消費者向けには、藍色アルミニウムを使ったデザイングッズとして、箸置きやスマホケース、名刺入れ、ヘアアクセサリーなど、身近なところで藍の色合いを感じていただける製品を開発中です。最近では、インテリア業界のパリコレといわれる「メゾン・エ・オブジェ・パリ2018」に出展した、あるメーカー製品のパーツとして海を渡りました。国内ではすでに企業や消費者からたくさんのお問い合わせをいただいていて、ちょっと驚いています(笑)。
藍色アルミニウム製品が市場にお目見えするのを楽しみにしています! 昨今の製造業界ではBtoBだけでなく、消費者に向けたBtoCの自社製品を作る企業が増えつつあるように思うのですが、そのあたりはいかがでしょうか?
やはり業界としても、そういう流れは目立ってきていますね。藍色アルミニウムの技術もそうですが、製造業として我々が持っている板金の技術を伝えるには、一般消費者はターゲットから外せません。実際に製品を手にとってもらって、日本の伝統とものづくりの技術を感じてもらえたらうれしいですね。
また、自社製品のクリエイティブでは、デザイナーや画家などまったく違う業界の方たちとお話する機会がすごく増えたんです。それこそ普通に板金の製作所で働いていたら、お話をすることがなかった人と触れ合えるようになったのは大きな変化でした。
ありがとうございます。最後に、これからの展望をお聞かせいただけたら!
まずはこのプロジェクトで、売り上げをしっかり立てるところですかね。2020年のオリンピック・パラリンピックに向けて、藍色に寄り添っていろんなことができないかを計画している最中です。「インディゴメタル」という名称で商標登録も進めていますし、これからどんどんプロジェクトを拡大していきたいですね。
まとめ
日本の伝統色である藍と、最新の板金加工技術の融合。ふとした思いつきで誕生した藍色アルミニウムは、将来的に大きな可能性を秘めた魅力あるプロダクトではないでしょうか。2020年に向けて、ジャパンブランドの可能性が広がる第一歩になりそうです。
(神田 匠/ノオト)
取材協力:長尾製作所