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MR 技術で進化する建築構造設計!|建築技術の最新トレンドをレポート

皆さんは「MR(エムアール)」という技術をご存知ですか?
MRとは?VR(ブイアール)とAR(エーアール)のちょうど中間に位置するような技術です。

MR技術で進化する建築構造設計_TOP

VRは専用のゴーグルを使って「仮想現実」を体験できるもの。

そして、ARは現実の世界に仮想の世界を重ねて「拡張現実」を体験できるもの。その中間がMR。

現実世界と仮想世界を融合させ、現実のモノと仮想的なモノが影響しあう、よりリアルなバーチャルの世界のことをいいます。

そのMRが、建築構造設計において多彩な可能性を秘めているといわれています。

現在、MRの可能性を研究・検証し、建築というフィールドでの活用を模索している株式会社ラムダデジタルエンジニアリングのCEO田村尚土さんにお話を聞きました。

※MRの詳細は「MR技術とは? 」をご覧ください。

仮想空間✕現実空間
MR(複合現実世界)で実現する新たな取り組み

一級建築士の田村さん

田村さんは一級建築士で現役の構造設計者でありながら、株式会社ラムダデジタルエンジニアリングで建築建設のDXに関わる事業を展開しています。

構造設計とは、建築家がデザインした建物を構造という側面から検証し、耐震性やコストなどを考慮し、建物の骨組みをデザインすること。

現実世界と仮想世界を融合させるMRが建物の構造設計にさまざまな価値をもたらします。

具体的に価値を発揮する場面としては以下の5つがあります。

<MRが構造設計にもたらす5つの活用シーン>

  1. デジタルモックアップ
  2. ディテール検証
  3. 力の可視化
  4. 建築関係者とのコミュニケーション
  5. 現場監理、リモートアシスト

それでは、それぞれについて紹介していきましょう!

1. デジタルモックアップ

建築では一般的に設計は2Dで行われます。いわゆる、よく目にする設計図面のことですね。
平面上に情報を落とし込むことで、完成のイメージを共有していきます。

そして、その完成形を具体的にイメージし、全体像を把握するためにさまざまなスケールのモックアップ(模型)を製作します。

このモックアップ、製作にはかなりの時間がかかり、さらに製作途中に設計変更があると、「もう一度つくり直し…」などという事態になることも。

このモックアップの代わりにMRが活用できるのです!

専用のゴーグルをつけると、目の前にリアルでスケール調整可能な建築物が見えてきます。

画像は田村さんのワークショップで実際に組み立てた、木材を金物でつないだ多面体構造物。

木材を金物でつないだ多面体構造物

設計を変更すれば、その変更された設計情報に基づく建築物がリアルタイムで表示されます。

これまでモックアップ製作にかかっていた時間はまったく不要になります。

次の画像はワークショップで多面体構造物を組み立て中に、完成形をMRの専用ゴーグルで見た映像。

MRの専用ゴーグルで見た映像

青い部分がバーチャルで、設計データが現実世界に重なって映しだされています。

このように、組み立て説明書がなくても完成したデータに合わせながらモックアップの組み立ても可能となります。

2. ディテール(詳細)検証

MRはスケール調整可能なデータが目の間に展開しますので、設計した部材形状や配置、および部材同士の納まりや接合部など、ディテール検証に使うことができます。

MR専用のゴーグルにはアイトラッキング(視線追跡)によりユーザーがどこを見ているかを認識しながら、ハンドトラッキングでMR上の物をつかんだり動かしたりという操作が簡単にできます。

ゴーグル越しにどのような風景が見えるのか?
MRで映しだされた映像を動画で体験してみましょう!

MR上には部材の属性情報が表示されていますが、それだけでなく重量や価格などあらゆる情報を付与することができるので、さまざまな角度から細かく確認することができます。

3. 力の可視化

MRにはさまざま建築物のデータを映しだすことができます。

田村さんはこの応用例として自社開発の構造計算プログラムの解析結果をリアルタイムにMR上で可視化させることに成功しています。

日常的に目に見えない「力」を可視化することで、建築構造物に発生している力の度合いを確認することができます。

MRはその力を可視化し、これにより誰もが力を視覚的に認識することが可能となります。

HoloLens_力の可視化

色のついている線が可視化された「力」。

ここでは多面体構造物の曲げモーメントを色の濃さで力の強弱が把握でき、どこにどのくらい力がかかっているか、直観的に把握することができます。

4. 建築関係者とのコミュニケーション

構造設計した3Dデータや構造物に発生する力を可視化することで、建築家に構造デザインの提案を行ったり、建築主にも構造的な性能をわかりやすく伝えたり。

建設会社に施工上重要なポイントやディテールの説明をするなど、MR上で可視化された情報を共有することで、スムーズなコミュニケーションが可能になります。

5. 現場監理のリモートアシスト

これまでは設計監理者が現場に赴き、設計図書と相違ないことを自分の目で確認して、建設会社の監督員に指示を出して配筋検査や部材製品検査、建て方検査など工事監理を進めていました。

ところが!MRを使ったリモートアシストを使えば監理者は常時現場に行く必要はなくなります。

現場の作業員が専用ゴーグルを使って確認し、監理者はオフィスのPCでその作業現場を確認。画面を通じて指示を出すこともできます。

監理者からの情報は、作業員のMR上にリアルタイムで表示されスピーディなリモートアシストが実現します。

検査業務の進捗確認には、これまでは1日に何百枚という写真を撮って、それを整理して書類を作成する必要がありましたが、検査報告書等も作成されるようなソフトウェアが開発されれば、その必要もなくなります。

検査の手間が大きく削減されることになるので、建築全体の業務生産効率の向上が期待できます。

画像は3Dモデリングを行った建物データを、MRを介して現実の建物データと位置やスケールを合わせて表示している状態。

3Dモデルのリアルスケール

建物検査も今後はこのように行われるようになると考えます。

現状のMRが抱える課題

MRを活用することで、2D図面やPCのディスプレイでしか見ることのできなかったさまざまな建築情報を、現実の建築物に重ね合わせながら確認できるようになります。

建築業界にとっては、その可能性に期待が膨らみますが、技術としてはまだまだ始まったばかり。

MRの普及にはいくつかの課題があります。

<MR普及の課題>

  • 専用ゴーグルが高額
  • 専用ゴーグルが大きくて使いづらい
  • エンジニアが少なく技術が広がらない

これらの課題はこれまでのIT技術の進化同様、黎明期の特徴的な課題ともいえます。

今後研究がさらに進み、その有用性が広く伝われば、技術者は増え、技術は革新され、専用ゴーグルはコモディティ化の方向に進み価格も落ちついてくるでしょう。

「現状は、ワークショップの開催などMRの技術を広く発信すると同時に、トライ&エラーを繰り返し情報の蓄積を行っている段階です。

情報が蓄積されれば、これまで以上の可能性が見えてくるので、さまざまな事業化の可能性があるのではと期待しています」と田村さんは考えています。

社会にメリットをもたらすMR

未知の可能性を秘めているMRですが、建築業界に技術革新をもたらすだけではなく、社会的なメリットを提供することでも注目されています。

現実空間にバーチャルを重ね合わせた映像でのコミュニケーションが可能となりますので、2D図面もモックアップも必要ありません。

ペーパーレスを実現し、環境資源の少量化に貢献します。また、リモートでもリアルな情報共有が可能なため、人対人の接触が難しいコロナ禍においては大変有効な技術といえます。

もう数年すれば、さらに技術が進みデバイスの価格や大きさも抑えられ、MRを活用した技術が社会に広がっていきます。

今後は、さまざま業界でビジネスを加速するツールとして活躍していくことが期待できますね。

MR技術とは?

MRとはMixed Realityのことで、ARとVRの中間にある技術といわれています。
ということで!ちょっとVRとARをおさらいしてみましょう。

<VR(Virtual Reality:仮想現実)>
あたかも現実かのような映像の世界(仮想現実)を体験できる技術です。
専用のゴーグルを覗けば360度の全周囲映像を体験することができます。

<AR(Augmented Reality:拡張現実)>
実際の世界にバーチャルの視覚情報を重ねて拡張する現実を体験できる技術です。
カメラアプリで顔の写真にネコミミをつけたりする画像加工アプリがありますが、それがAR技術です。

<MR(Mixed Reality:複合現実)>
VRとARの中間に位置する「複合現実」がMRとなります。

現実の世界にバーチャルな世界をぴったりと重ねることができ、現実世界と仮想世界が融合し、よりリアルにバーチャルな世界を体験することができる技術です。

具体的には、MR専用のゴーグルを装着し、現実に見えている世界にバーチャルの情報を重ねて体験します。

網膜センサーがついているので、どこを見ているのかも把握します。

すべての情報を一瞬で取り込むので、バーチャル空間にある物を触ったり、つかんだり、別の場所に移動することができます。

マイクロソフトが開発した「Microsoft HoloLens」が代表的です。

この記事の著者

株式会社ミスミ
meviy編集部

meviy(メヴィー)は、「ものづくりに創造と笑顔を」というミッションを掲げ、部品調達におけるムダ削減に取り組んでいます。
meviyのインフォメーションサイトを運営するmeviy編集部では、ミスミのカタログ販売で長年培った知見を活かして、部品加工に関するトピックを丁寧にわかりやすく解説しています。また、商品やサービスの新着情報もいちはやくインフォメーションでお届け。

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