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SUS304-HL(ヘアライン材)とは?用途やメリット・デメリットなどの基礎知識を紹介

SUS304-HL(ヘアライン材)は、ステンレスにヘアライン加工とよばれる表面処理を施した部材です。建材や家電製品、インテリアなど、わたしたちの身近な製品にも多く使用されています。

今回はSUS304-HL(ヘアライン材)のメリットやデメリット、用途や他の表面処理との違いなどを解説します。

SUS304-HL(ヘアライン材)とは?用途やメリット・デメリットなどの基礎知識を紹介

SUS304-HL(ヘアライン材)とは?

ステンレスは鉄とクロムとの合金であり、建材や家電製品など、さまざまな用途に使用されています。

ステンレスには結晶構造に応じていくつかの種類が存在します。中でも「SUS304」はさびや腐食に強い代表的なステンレスであり、SUS304にヘアライン加工を施した部材は「SUS304-HL」とよばれます。

SUS304-HLのヘアライン加工とは?

ヘアライン加工は、単一方向に髪の毛(ヘアライン)状の細かい傷をたくさんつける表面加工法です。物理研磨(研磨剤などで物理的に物体を磨く加工)の一種で、記号「HL」(Hairlineの略)で表されます。

ヘアライン加工の目的は、あくまでも「装飾」です。

SUS304などのステンレスは、強度やさびにくさなどが理由でさまざまな分野で使用されており、用途に応じて「金属っぽさ」や「光沢感」、「高級感」といったさまざまな装飾が求められます。

ステンレスにヘアライン加工を行ったSUS304-HLには鈍い光沢が残るため、高級感や大人っぽさ、落ち着いたシャープな印象を演出できます。このような効果を狙い、身近なところでは金属製の高級腕時計にもよく用いられています。

ヘアライン加工は、めっきや溶接などの後処理として行われるケースもあります。また、ヘアライン加工後に塗装など別の装飾処理を施す場合もあるようです。

ヘアライン加工の方法は?

SUS304のヘアライン加工は通常、ベルト研磨機を使用して行われます。

ベルト研磨機を用いる場合、P150~P240番程度の研磨ベルト(研磨剤を付着させた輪状のベルト)をベルト研磨機にセットして高速回転させます。その後、回転しているベルトに被加工材を押し当てて表面を単一方向に磨くことで、ヘアライン加工が施されます。

研磨ベルトの種類や研磨方法を変えて、ヘアライン加工の風合いを変化させることも可能です。たとえば、ラインの太さや形状を変えたり、ラインをクロスさせたりできます。

ヘアライン加工のメリット・デメリット

SUS304-HLには以下のメリットがあります。

  • 傷やゆがみ、凹凸が目立ちにくい
    ヘアライン加工した部材はすでに単一方向に傷が入っている状態なので、ヘアライン加工と同じ方向に傷がついてもほとんどわかりません。また、ゆがみや凹凸も目立ちにくくなります。そのため腕時計のベルトや家電製品など、使用時に傷がつきやすい部材にはヘアライン加工が効果的です。
  • 光沢が鈍くなり、高級感や大人っぽさを演出できる
    ステンレスにヘアライン加工を施すと光沢が鈍くなります。その結果、表面を磨き上げる「鏡面仕上げ」を施した場合と比較して、高級感や金属感、大人っぽさ、落ち着いた感じを付与できます。上品さを演出したいインテリアや家具などには、ヘアライン加工がぴったりです。
  • 凹凸ができ、すべり止め効果がある
    ヘアライン加工を行うとステンレス表面に細かい凹凸ができ、すべり止め効果が生まれます。車のステップガードにも、すべり止め目的でヘアライン加工が施される場合があります。
  • 研磨の方法や方向で、デザイン性が高まる
    研磨ベルトの粒度や研磨方法を変えれば、さまざまなデザインを実現できます。細かい目で刻み模様をつけたり、麻の布目のようにラインをクロスさせたりすることも可能です。
  • 比較的安価で生産できる(ベルト研磨機を使用した場合)
    複数枚のSUS304板を連続的にベルト研磨すれば、SUS304-HLを比較的安価に大量生産できます。ただし、逆に一品ものを加工する場合は割高になる可能性もあります。

SUS304-HLのヘアライン加工にはデメリットもあります。ヘアライン加工を行う際には、次のような点を意識しましょう。

  • 経年劣化でラインが薄くなる
    ヘアライン加工はあくまでも装飾用であり、めっきなどのように耐久性を上げる加工ではありません。そのため経年劣化によりヘアライン加工は少しずつ薄くなり、その効果も減少します。
  • ラインと垂直方向の傷は目立ちやすい
    ヘアライン加工によりラインと同方向の傷は目立ちにくくなりますが、逆にラインと垂直方向の傷は目立ちやすくなる傾向があります。そのため、部品にどの方向から傷が入りやすいかを検討した上でヘアライン加工の方向を決めることが重要です。

SUS304-HLのおもな用途

SUS304-HLは、以下のような用途に使用されます。

  • 建材(例:自動ドアのフレーム)
    建材(例:自動ドアのフレーム)
  • 厨房機器
    厨房機器
  • 家電製品(例:冷蔵庫)
    家電製品(例:冷蔵庫)
  • 装飾品(例:腕時計)
    装飾品(例:腕時計)
  • 輸送機器(例:車のステップガードやスカッフプレート)
    輸送機器(例:車のステップガードやスカッフプレート)
  • 精密機械(例:産業機械のボディ)
    精密機械(例:産業機械のボディ)

SUS304(ステンレス)の表面仕上げ一覧

SUS304には、ヘアライン加工の他にもさまざまな表面仕上げがあります。代表的な表面仕上げを比較してみましょう。

名称 加工後の状態 加工方法 特徴 用途例
HL(ヘアライン加工) ・単一方向に髪の毛(ヘアライン)状の細かい傷
・つや消しされた鈍い光沢あり
・P150~P240番程度の研磨ベルトで表面を単一方向に研磨する ・落ち着いた雰囲気や高級感を演出できる
・すべり止め効果あり
・デザインのバリエーションが多い
・建材
・厨房機器
・家電製品
・装飾品
・輸送機器
・精密機械
No.1 ・銀白色
・キメが粗い
・光沢なし
・熱間圧延後、焼きなまし→酸洗で仕上げる ・表面光沢が不要な用途に使用する ・構造部材
・リロール母材
No.2B ・No.2D仕上げより比較的なめらかで、やや光沢あり
・比較的つるりとしている
・No.2D材(冷間圧延後、焼きなまし→酸洗で仕上げたもの)に、適当な光沢をあたえる程度に軽く冷間圧延(スキンパス圧延)を施す ・市販のステンレス製品に最も多い仕上げ方法 ・一般用材
・建材
#400 ・鏡面に近い
・若干のスジあり
・No.2B材をP400番バフで研磨する ・鏡面仕上げの一種
・2Bよりかなり光沢あり
・BAに近い光沢
・建材
・厨房機器
No.8(鏡面) ・鏡面に近い
・研磨目なし
・研磨剤の粒度を徐々に上げながら研磨した後、鏡面用バフで最終研磨する ・光の反射率が最も高い鏡面仕上げ
・傷が目立つため、傷がつきにくい箇所に使用される
・光沢感
・高級感
・重量感
・建材(天井パネルなど)
・装飾品
・反射鏡

※「P〇〇〇」:番手(研磨剤の粗さ、粒度)を表す。数字が小さいほど研磨目が粗い。
※「No.〇」:光沢の強さを表す。数字が小さいほど光沢あり。

SUS304(片面#400研磨), SUS304(片面ヘアライン), SUS430(2B), SUS304(2B)

SUS304ステンレスの各表面処理の概要を説明します。

表面仕上げ:HL (ヘアライン加工)

研磨ベルトでSUS304表面を単一方向に研磨して、髪の毛(ヘアライン加工)状の細かい傷を入れる表面加工法です。落ち着いた雰囲気や高級感を演出できます。

表面仕上げ:No.1

No.1は、SUS304を熱間圧延(再結晶温度以上に加熱して軟化させてから圧延)した後、焼きなましをしてから表面を酸で洗浄する表面処理方法です。No.1の仕上げをしたものは、「HOT材(ホット材)」や「酸洗材(さんせん材)」ともよばれます。

表面は銀白色で光沢がなく、キメが粗い(梨地に近い)のが特徴です。表面光沢が不要な用途に使用されます。

表面仕上げ:No.2B

No.2B材は、No.2D材にスキンパス圧延とよばれる処理を施したものです。

No.2D材は、冷間圧延(室温での圧延)後に焼きなましをしてから酸で洗浄した部材であり、灰色で光沢が少ない点が特徴です。また、スキンパス圧延とは適度な光沢を得るために施される軽い圧延のことです。No.2D材にスキンパス圧延を行ったNo.2B材は、No.2D材よりもなめらかで、やや光沢がある状態になります。

No.2BはSUS304の表面仕上げの中で最もよく使用されている方法であり、市販されているSUS304製品の大部分が、このNo.2B材です。

表面仕上げ:#400

#400はNo.2B材の表面をP400番のバフで研磨する仕上げ方法であり、いわゆる「鏡面仕上げ」の一種です。#400材はNo.2B材よりもかなり強い光沢をもちますが、完全な鏡面ではなく、その表面には少しスジが残っています。

#400材は、建材や厨房機器などに使用されます。

表面仕上げ:No.8(鏡面)

No.8は#400と同じく鏡面仕上げの一種であり、SUS304の鏡面仕上げの中では最も鏡に近い仕上げ方法です。No.8材の光沢は#400材よりも強く、その表面にはスジや研磨目もありません。実際にNo.8材を鏡として使用するケースもあるようです。

No.8材を製造する際には、研磨剤の粒度を徐々に上げながら研磨し、最後に鏡面用バフで最終研磨します。No.8材はその光沢感や高級感、重量感から建材や装飾品として利用されていますが、傷が目立ちやすい点には注意が必要です。

まとめ

SUS304-HLは、ステンレスの一種であるSUS304の表面に髪の毛のようなラインをつけるヘアライン加工を施したものです。ヘアライン加工を施すと傷や凹凸が目立たなくなると同時に、高級感や大人っぽさを演出できます。また、ヘアライン加工による凹凸はすべり止め効果も発揮します。

SUS304-HLは建材や厨房機器、装飾品など、多くの製品に利用されているすぐれた部材です。今後もその特性を活かし、用途はどんどん広がることでしょう。

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