ダイセキのメカ設計道場 プロフェッショナル連載記事

ロッドレスシリンダの構造とガイド使用時の注意点

第14回では、二次側減圧弁の使い方について学びを得ました。併せて、減圧弁の構造についても学習をしました。

今回は、ロッドレスシリンダとリニアガイドを組み合わせた搬送装置を考えます。

ロッドレスシリンダだけでは、モーメント荷重(搬送方向と直角方向)には弱いですが、リニアガイドと組み合わせることで、モーメント荷重に強くなります。これにより2点間の搬送(Point to Point)においては、モーターを使用するより安価な搬送システムが構成できます。

しかし、このような多軸のガイドやロッドレスシリンダを使用する場合には、必ず「芯出し」と言われる作業が必要になります。また、ロッドレスシリンダのスライダ部分と走行体はリジッドに接続せず、「フローティング」させることが必要になります。

この2点について、なぜ必要になるのか考えていきたいと思います。

【図1】ロッドレスシリンダとリニアガイドを組み合わせた搬送装置

【図1】ロッドレスシリンダとリニアガイドを組み合わせた搬送装置

1.ロッドレスシリンダの種類と構造

ロッドレスシリンダとは、その名の通りシリンダロッドを持たないエアシリンダです。チューブ状のボディの中をピストンは左右に動きます。ピストンはチューブ外部のスライダと接続されており、実際の製品を見たところでは、このスライダが左右に動いているように見えます。

1.ピストンとスライダの接続方法

ピストンとスライダの接続方法には、「マグネット式」と「メカジョイント式」の2種類があります。

【マグネット式
マグネット式のロッドレスシリンダは、ピストンとスライダがマグネットの力で接続されています。

スライダに過度の力が加わると、ピストンとスライダは分離して(ずれて)しまう、若しくは完全にスライダと外れてしまいます。外れてしまうと、スライダと関係なくピストンだけが動きますので、正常な機能は失われてしまいます。機能面では目的を果たさなくなりますが、移動部への過度な力が掛かることによる装置やワークの破損を保護してくれるという考え方もできます。

【図2】マグネット式ロッドレスシリンダの内部構造

【図2】マグネット式ロッドレスシリンダの内部構造

【メカジョイント式】
対して、メカジョイント式のロッドレスシリンダは、ピストンとスライダが機械的に結合されていますので、スライダに強い力が加わってもピストンと分離することはありません。外部から力が掛かる場合や搬送物の質量が大きい場合(搬送物の慣性が大きい場合)にはメカジョイント式の方が適しています。

【図3】メカジョイント式ロッドレスシリンダの内部構造

【図3】メカジョイント式ロッドレスシリンダの内部構造

2.ガイド無しとガイド付き

もう一つ、ロッドレスシリンダの内部構造を見た時に、基本型の「ガイド無し」と「ガイド付き」の2種類に分けることが出来ます。

【ガイド無し(基本型)】
ロッドレスシリンダ単体でワークを搬送(特に水平搬送)する場合、ガイド無しのタイプでは、ピストンやスライダとシリンダのチューブが干渉するため、正常な動作は期待できません。

【ガイド付き】
ガイド付きには、大きく分けて、すべり、ローラー、リニアガイドの3種類があります。ガイドによって耐荷重も変わります。また、外形寸法(断面形状)も変わります。

【図4】を見ると、基本型 < すべりガイド付き < リニアガイド付きの順に外形寸法が大きくなっているのが分かります。

【図4】ロッドレスシリンダの断面形状

【図4】ロッドレスシリンダの断面形状

当然、価格も変わりますので、カタログを確認し、用途に合わせて選択することが大切です。

2.ロッドレスシリンダとガイド併用時の動作不良

ガイド付きのロッドレスシリンダを使用すると、ある程度の質量のワークを搬送することは可能ですが、それ以上の質量の場合やモーメント荷重が発生する場合はどうすればよいでしょうか?

その場合、ロッドレスシリンダと平行にガイドを設けて、荷重をガイドで受けるようにします。そうすると、ロッドレスシリンダには荷重が掛かりませんので、大きな荷重の物も搬送が可能になります。この時のガイドには、小型で許容荷重の大きい特徴があるリニアガイド等が多く使用されます。

*参考:MISUMI(総合Webカタログ)「メカジョイント式ロッドレスシリンダ リニアガイド形 MY1Hシリーズ

しかし、ロッドレスシリンダとリニアガイドの許容荷重には問題が無いのに、スムーズに動作しない場合があります。主な動作不良と原因の例として、【表1】の4ケースが挙げられます。

【表1】動作不良の例

ケース 不良の状態 考えられる原因
1 全体的に動きが重い ガイドとの平行度が悪い(ガイドと段違い、ハの字)
2 始動はスムーズで終端に向けて動きが悪くなる 始動部分の平行度は良いが終端に向けて悪くなる
3 始動で飛び出しが発生する 始動部分のみ平行度が悪く、中間部以降は平行度が良い。
4 始動、終端はスムーズだが、中間の動きが悪い ロッドレスシリンダが中間で垂れている(ロングストロークの場合)

 

【ケース1】

  • 不良の状態:全体的に動きが重い
  • 考えられる原因:ガイドとの平行度が悪い(ガイドと段違い、ハの字)
【図5】ケース1 ガイドとの平行度が悪い

【図5】ケース1 ガイドとの平行度が悪い


【ケース2】

  • 不良の状態:始動はスムーズで終端に向けて動きが悪くなる
  • 考えられる原因:始動部分の平行度は良いが終端に向けて悪くなる

例えば、終端に向けてガイドが反っているなど

【ケース3】

  • 不良の状態:始動で飛び出しが発生する
  • 考えられる原因:始動部分のみ平行度が悪く、中間部以降は平行度が良い
【図6】ケース2,3 ガイドとの平行度が終端部のみ悪い

【図6】ケース2,3 ガイドとの平行度が終端部のみ悪い


【ケース4】

  • 不良の状態:始動、終端はスムーズだが、中間の動きが悪い
  • 考えられる原因:ロッドレスシリンダが中間で垂れている(ロングストロークの場合)
【図7】ケース4 中間部が垂れる

【図7】ケース4 中間部が垂れる

動作不良の原因として共通するのは、ロッドレスシリンダとガイドまたはガイドの複数使用時ではガイド同士の平行度が悪いということが挙げられます。

走行体部分はガイドに沿って動きますが、平行度が悪いとロッドレスシリンダのスライダと走行体の接続部分にずれが生じ、ロッドレスシリンダに無理な力がかかります。そうすると、スライダの動きが悪くなり、【表1】のような動作不良が発生します。

この中で、ケース4(図7)だけは原因がロッドレスシリンダのたわみにあるので、ロッドレスシリンダの中間を支持(中間サポート)すると、解消することができます。中間サポートの必要な長さ、設置するピッチはカタログに記載されているので、設計・選定する際には必ず参照してください。

3.ロッドレスシリンダやガイド使用時の注意点
(接続のフローティング化と芯出し)

ロッドレスシリンダはロングストロークの搬送をエア駆動で行う際に駆動部をコンパクトに設計できるため、非常に重宝されます。完成された形で販売されていますが、そのままポンと取り付ければ使用できるわけでもありません。使用条件から荷重条件を検討し、リニアガイドを併用するかどうか検討が必要になります。

しかし、ロッドレスシリンダシリンダとガイドを併用する際に注意を怠ると、上記のような動作不良に繋がります。

それでは、動作不良を防ぐためにはどのような対策があるでしょうか?
動作不良の原因はロッドレスシリンダとガイドや、ガイドとガイドの平行度が悪いことですので、その点について注意が必要になります。ここでは、リニアガイド使用時の注意点と、ロッドレスシリンダとガイドを併用したときの注意点を見ていきます。

1.リニアガイド使用時の注意点

リニアガイドはそれ自身の剛性があるため、直線ガイドとして優れた性能を持ちます。それ故に、複数本のリニアガイド使用時や、ロッドレスシリンダ、ボールねじ等と併用した場合には、平行度がきちんと出ていないと、「かじり」や「せり(せった)」状態が発生し、動作不良やロッドレスシリンダ等の破損に繋がります。このようなことを防ぐためには「芯出し調整」が必要になります。

芯出し調整には、次のようなポイントがあります。

  1. 基準ガイドの真直度
  2. 従動側ガイドと基準ガイドの平行度

手順としては、a → b の順に行います。基準ガイドの真直度は取り付け方法によっては機械加工に依存しますが、一般的には下記の手順で基準レールの真直度の調整(芯出し)を行います。

<リニアガイド使用時の注意点>
①ガイド両端を取り付け基準(位置決めピン)に合わせて取り付ける。
②ガイドと平行になるようにストレートエッジを設置する。
③ガイドブロックにダイヤルゲージを取り付ける。
④取り付け基準位置(両端)でダイヤルゲージが「0(ゼロ)」を指すようにストレートエッジの位置を調整する。
⑤ガイドブロックをレールの取り付けボルト近くに移動させて、ダイヤルゲージの読みを確認し、調整を行う。

基準レールの芯出しが出来たら次に従動側レールを基準レールに平行になるよう取り付けします。従動側は基準レールを基準として平行になるように調整(芯出し)します。調整の手順は基準レールと同様ですが、ストレートエッジを基準レールに読み替えて行います。

【図8】基準側リニアガイドの芯出し調整

【図8】基準側リニアガイドの芯出し調整

2.ロッドレスシリンダとガイドを併用したときの注意点

ロッドレスシリンダとガイドを併用した場合、ガイドの真直度(複数ガイドの場合は組み合わせた真直度)やロッドレスシリンダとの平行度の調整が必要です。組立現場ではこれらの作業を「芯出し調整」や「芯出し」と呼んでいます。

リニアガイドはレールの取り付けボルトが何本もあるので、真直度や平行度を調整することができますが、ロッドレスシリンダは調整することができないので、スライダと走行体をボルトでがっちり固定すると、ロッドレスシリンダの反り等によって「かじり」や「せり(せった)」が出ます。これを避けるために、走行体とスライダの取り付け部には「ニゲ(逃げ)」が必要です。

設計する側は組立てから芯出しまでの作業がスムーズに行えるような設計にしておかなければなりません。このニゲを持たせた取り付け方法を「フローティングさせた接続」、または「フローティングジョイント」といいます。

このような接続とすることで、ロッドレスシリンダの動作方向以外には余裕ができ、スムーズに動作するようになります。【図9】

【図9】フローティングさせた接続の例

【図9】フローティングさせた接続の例

4.まとめ

今回はロッドレスシリンダの構造から、ロッドレスシリンダを使用した搬送装置での動作不良や注意点、そして「かじり」や「せり(せった)」について考えました。ロッドレスシリンダを例にして考えましたが、複数のガイドやガイドと直線駆動機構(ボールネジ、ラックピニオン等)でも同様のことが発生します。

機械剛性や駆動機構によって、影響が顕著に表れるか否かの違いはありますが、組立時には必ず、「芯出し」が必要です。芯出し調整をしていない装置は、機能を発揮しない「オブジェ」のようなものです。設計する立場では、「芯出し調整ができる構造になっているか?」を意識して設計することが必要です。

ロッドレスシリンダを使用した搬送装置で注意する点は次の点になります。

  1. 使用時のロッドレスシリンダに掛かる負荷条件を確認する。(ラジアル・ピッチング・モーメント荷重)
  2. 1.で問題があれば、サイズ変更やリニアガイドとの併用でロッドレスシリンダに掛かる負荷が許容範囲内に収まるようにする。
  3. ロッドレスシリンダとガイドの併用など複数のガイドを併用する場合、真直度と平行度の調整(芯出し)を行う。また、容易に行える構造の設計にする。
  4. ロッドレスシリンダと走行体のジョイントはフローティング構造にする。
    これにより、ガイドとロッドレスシリンダのミスアライメントを吸収することができる。
  5. ストロークの長いロッドレスシリンダでは、中間サポートが必要になることが多い。取り付けピッチについてはカタログに記載されているので、それに従って取り付ける。

 

次回は軸締結(軸とボスの間)の時にある不具合について考えていきます。キーによる締結が多いと思いますが、キーによる締結では不都合や不具合が発生する場合があります。そんな時に使用するのが摩擦締結(メカロック)です。メカロックの利点、特徴、使用方法についてお話をしていきたいと思います。

それではまた。

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