今回は、圧空を使用した電磁弁、マニホールド電磁弁について考えます。
電磁弁は機械装置の中で圧空をはじめとする各種流体の方向制御に使用されます。電磁弁を複数台まとめる方法としてマニホールド電磁弁を使用する方法があります。
装置の小型化やメンテナンスを容易にするために、これまでは単体の電磁弁を何台か並べて使用していたものをマニホールド化することがあると思います。ほとんどの場合は何の問題もなく動作するのですが、ある条件の場合に不具合が発生します。
これはマニホールド電磁弁の欠陥だとか故障だとかの問題ではなく、構造的な部分の特性によります。単体の電磁弁を使用している場合には、まず出ない不具合なので、知らないとびっくりする事案です。
単体の電磁弁からマニホールド電磁弁にした時に何が起きるのか考えていきたいと思います。
目次
1.マニホールド電磁弁の構造
【図1】に単体の電磁弁とマニホールド電磁弁の模式図(エア流路のみ)を示します。

【図1】電磁弁の構造(エア流路の模式図)
単体の電磁弁ではP(供給)→ A とB → EB(排気)という流路になります。
マニホールド電磁弁でも同じ流路になりますが、こちらは電磁弁が複数台になりますので、Pポートはマニホールドブロック内で各電磁弁に供給できるように枝分かれしています。
排気側のEAポート 、EBポート についても集約して排気するために複数台のEA/EBポート がそれぞれ連結されています。
マニホールドブロックに搭載される電磁弁の台数が増えると、Pポートの圧空供給が1ヶ所からでは不足するので、2ヶ所から供給します。
排気側も同様に各々2ヶ所から排気するようにします。
2.電磁弁内でのエアーの流れ
電磁弁が動作した時のエアーの流れを見ていきます。
エアシリンダなどの駆動機器の動作には5ポートの電磁弁が使用されることがほとんどです。この電磁弁には、スプールの切替えが2位置の2ポジション型と3位置の3ポジション型の電磁弁があります。
5ポート2ポジションでのエアーの流れ
【図2】が示している5ポート2ポジションの電磁弁では、Pポートから供給された圧力は必ずAポートまたは、Bポートのいずれかに接続されます。したがって、アクチュエーターを見ると、どちらかのポートが加圧された状態になっています。

【図2】5ポート2ポジション電磁弁(ダブルソレノイド)
この状態ではアクチュエーターの出力部、例えばエアシリンダのロッド等を手で動かそうとしても動きません。
5ポート3ポジションでのエアーの流れ
5ポート3ポジションの電磁弁では、2ポジションと異なり、Pポートの供給圧力がAポートまたはBポートのいずれかに供給されるポジションではない、スプールが中立の位置が存在します。
P → A、中立、P → B の3つのポジションがあるので、3ポジションと呼ばれます。
P → A、P → B のポジションでは2ポジション電磁弁と同じ動作になりますが、中立のポジションのポート接続には
- オールポートブロック(センターブロック)
- プレッシャーセンタ
- エキゾーストセンタ
の3種類があり、それぞれ接続状態が異なります。
この中立位置の使い分けは電磁弁OFFの状態でアクチュエーターの状態をどのようにしたいかで使い分けをします。
オールポートブロック
その名の通り、全てのポートがブロック(封鎖)された状態になります。【図3】

【図3】オールポートブロックの構造
Pポートの圧力はA 、Bいずれにも供給されません。
また、A/B ポートとEA/EB ポートも接続されません。
これをアクチュエーター側から見ると、A/B ポートに残留した圧空が封鎖された状態が作り出されます。エアシリンダの場合では、ヘッド側とロッド側の力がバランスした位置で停止します。
シリンダ動作中に非常停止等で電磁弁OFFとなった場合、片方のポートは加圧中、もう片方は排気中となっているので、その場でピタッと停止ではなく、低圧側に少し流れるような感じで停止することが多くなります。
プレッシャーセンタ
【図4】は、P → A とP → B が接続される状態となり、A/B ポートが両方加圧された状態となります。ただし、A – B 間の接続はありませんので、注意してください。

【図4】プレッシャーセンタの構造
アクチュエーター側から見ると、A/B ポート両方に加圧されるので、受圧面積の差の分だけアクチュエーターは動きます。
エキゾーストセンタ
これは、A → EA と B → EB が接続され、Pポートの圧力供給は遮断されます。【図5】

【図5】エキゾーストセンタの構造
A/B ポートの圧力はリリーフされるので、アクチュエーターを手で動かすことも可能となります。
ただし、アクチュエーターはフリーになった状態ですので、昇降軸に使用した場合、非常停止時には自重で落下することになりますので、昇降軸に使用する場合には別途ブレーキを用意しなければいけません。
水平軸の場合も慣性の大きなものを扱うアクチュエーターでは、その場で止まらず、流れるような動作になりますので、注意してください。
以上の注意点を考慮して使用すれば、非常停止時の手動復旧や、エアー駆動と手動駆動の混在使用が可能になります。
3.不具合の発生するケース(エキゾーストセンタの混在)
電磁弁の構造と動作は前章での説明の通りです。単体の電磁弁として使用している時には前章で触れた注意事項に気を付けていればよいですが、マニホールド電磁弁に使用する場合にはもう一つ注意が必要です。特に原因を見つけにくいエキゾーストセンタ(5ポート3ポジション)の電磁弁を使用した際のトラブルについて説明します。
改めて【図1】を見てみます。

再掲【図1】電磁弁の構造(エア流路の模式図)
単体の電磁弁では、一つの電磁弁に一つの供給(P ポート)があり、 A/B ポートにもそれぞれの排気(EA/EB ポート)があります。
マニホールド電磁弁では各電磁弁のポート構成は同じですが、マニホールドブロックで各電磁弁の P ポート 、EA ポート 、 EB ポートが連結されています。
各ポートを集約できるマニホールド電磁弁の利点であるのですが、欠点にもなります。
ここに5ポート3ポジション電磁弁のうち、エキゾーストセンタの電磁弁を搭載したマニホールド電磁弁の場合を考えます。【図6】

【図6】エキゾーストセンタ電磁弁が混載された状態
ソレノイド ON(励磁された状態)ではどちらかのポジションにスプールは移動しています。ソレノイド OFF になると、スプールは中立位置に戻りますので、ポートの接続はA → EA および B → EB となります。【図6】の状態です。
この状態で、他の電磁弁を動作させてみます。【図6】では2ポジション電磁弁を動作させます。
2ポジション電磁弁を動作させると、【図7】のようになります。

【図7】排気の廻り込みが発生
B ポート加圧方向に動作をさせると、A ポートは排気されます。( A → EA )この排気はマニホールドブロックを通って、サイレンサー等から排気されます。
この電磁弁に接続されているアクチュエーターが高速で動作する場合やエアー使用量が多い大径、ロングストロークのシリンダ等であった場合、マニホールド上の複数の電磁弁が同時動作する場合には、マニホールドブロックの排気ポート(排気の流路)があふれ返るような状態になり、サイレンサー以外でも圧力の低いところには排気が廻り込むことが起きます。
圧力の低いところ、つまり、エキゾーストセンタ3ポジション電磁弁の EA ポートに流れ込みます。そうすると、EA → A と圧力が伝播し、その先のアクチュエーターが微動することが起きます。
動作確認を取っていないアクチュエーターなら微動しても問題ないかも知れませんが、シリンダスイッチ(オートスイッチ)で動作確認を取っている場合にはセンサーの検出位置から外れてしまい異常発生となることがあります。
自動機や生産ラインの場合には、これだけでライン停止となり生産に影響が出ます。
また、レアケースのトラブルなので、原因として見つけにくく復旧まで時間が掛かることがあります。
4.エキゾーストセンタ使用時のトラブル解消法
上記のようにエキゾーストセンタの電磁弁を使用した場合には排気の廻り込みに注意が必要となります。このトラブルの解消法として、有効なのが1つの電磁弁の排気だけをマニホールドブロックから切り離す方法です。【図8】

【図8】単独エキゾーストスペーサの利用
電磁弁とマニホールドブロック間に設置するスペーサは、「単独エキゾーストスペーサ」「排気スペーサ」などの呼び名で販売されています。これを使用すると、マニホールドブロックの排気ポートと電磁弁の排気ポートを切り離すことができます。
P ポートはマニホールドブロックからスペーサをスルーして電磁弁に供給されますが、電磁弁の排気はマニホールドブロックに返されず、スペーサに設けられた排気ポートから排気されます。マニホールドブロックのポートに接続されないので、排気の廻り込みが起きません。
今回のトラブルは一度経験すると、エキゾーストセンタの電磁弁を使用する時、使用されている装置を見た時に気がつきますが、経験がない場合や上司、先輩からアドバイスがない場合には設計段階ではほぼ見落とします。
5.まとめ
今回はマニホールド電磁弁を使用する際の注意点、特に原因を見つけにくいエキゾーストセンタ(5ポート3ポジション)の電磁弁を使用した際のトラブルについて説明しました。
電磁弁を使用する際、省スペースや省配線、省配管のためにマニホールド電磁弁を使用することは多いと思います。特に装置の小型化をする際にはマニホールド化は頻繁に行われます。
コンパクトに収まるので便利なマニホールド電磁弁ですが、構造的に排気の廻り込みに注意が必要です。今回は触れませんでしたが、マニホールド電磁弁の1台にエアブロー等が入っていると、Pポートの供給が不足し、他の電磁弁が動作不良を起こすケースもあります。
マニホールド電磁弁を使用する際の注意点は次のようになります。
1.Pポート、EA/EBポートはマニホールドブロック内で連結されているので、単体の電磁弁で使用する時と異なり、他の電磁弁の動作状況が影響する。
2.特にエキゾーストセンタの電磁弁を使用する際には、電磁弁が中立位置で他の電磁弁の排気が廻り込み、アクチュエーターに影響を与えることがある。
3.排気の廻り込みが懸念される場合には単独エキゾーストスペーサ等を使用してマニホールドブロックから排気ポートを分離する。
※この連載では、各回のテーマに応じた部分にフォーカスして解説しており、別回との内容とは関連しません。
※設計時の課題解決には複数の方法が考えられますが、この記事ではその中の一例を紹介しています。