ものづくりをテーマにした商業施設「2k540 AKI-OKA ARTISAN(ニーケーゴーヨンマル アキオカ アーティサン)」があるのは、JR秋葉原と御徒町のガード下中間地点。この中に、精密鋳造メーカーキャステムが運営する“鋳造(ちゅうぞう)”をコンセプトにしたカフェがあります。鋳造とカフェという異色の組み合わせ、どんな店になっているのか、meviyスタッフ・進藤が現地に向かいました。
お店の名前は「アイアンカフェ」。鉄板を切り出して作られた看板は、鉄の光沢がなんともスタイリッシュです。鉄の元素表記は「Fe」、店名に遊び心が感じられます。扉を開けて店内へ。
▼ アイアンカフェってどんなところ?
鉄の銀色を基調とした店内は小さな町工場のような雰囲気が漂い、とても落ち着いています。無骨ながらもどこか温かみがあるような、ほっとできる空間です。
カフェとして、店内ではドリンクやフードなどを提供しています。コーヒーには「アイアン」、「カッパー」といった名を付け、それぞれの金属をイメージした風味を演出。そのほかにも、鉄分の多いフルーツを使った「アイアンスムージー」や鉄の文字を入れた日本酒「鉄のくじら」など、金属にちなんだメニューがずらりと並びます。細かいところまで、ものすごいこだわり!
アイアンカフェ店長の戸田有紀さんが店内を案内してくれました。有紀さんはキャステムグループの代表取締役・戸田拓夫さんの息子さんです。
店内にはギャラリースペースがあり、鋳造で作られた鋳物が展示されていました。花びらや葉っぱにいたる細かな部分まで精緻に表現されています。こちらは実際に購入可能です。
こちらは私たちがスーパーで普段目にしているブロッコリーの鋳物。金属になると質感も変わって何だかかっこいい!
「これらの作品は、モデルを鋳型に入れ、高熱を加えて焼失させ、その空洞に金属を流し込む焼失鋳造という方法で制作しています。かなり複雑な形状でも対応できますよ」(戸田さん)
小さくて可愛らしいこちらのミニチュア工具は飾りのように見えますが、実際に使えるシロモノ。技術力の高さを感じられる一品です。使用している様子はこちらから。
▼ 店内で鋳造体験!
店内に鋳造作品が並び、鉄の魅力を余すことなく感じられるアイアンカフェ。その一番の魅力は、店内で鋳造体験ができることです! そもそも鋳造とは、液体にした金属を型に流し込んで目的の形状に固める加工法で、ポイントは金属の融点。たとえば鉄の融点は1538℃ですから、金属を溶かすだけでも個人が簡単にできるものではありません。
……というのは一般的な話で、実はアイアンカフェが独自に制作した鋳造キット(5,400円)を使えば、比較的簡単に鋳造が体験できます。キットに含まれるスズとビスマスとインジウムの合金は80℃で液体化するので、大掛かりな準備をしなくとも気軽に鋳造の楽しさを味わうことができます。
戸田さんに手伝ってもらいながら鋳造体験スタート! なんだか科学の実験を思い出します。
今回は落花生を使って鋳造を進めていきましょう。お店に自分の作りたいモデルを持ち込んでも受け付けてくれます。
まずはキットに同梱された粘土を半分に切り、落花生をギュッと押し込み型取りをしていきます。ここで作った型があとで金属を流し込む鋳型になるので、形が崩れないよう慎重に作業を進めます。
切っておいた反対の粘土をギュッと押し付け、もう片方にもしっかりと型をつけます。
バッチリ型が付きました。これで金属を流し込む鋳型は完成です。ふたつの型を合わせる向きを逆にしてしまうと、全く見当違いのモノが出来上がってしまうのでご注意を!
次は、金属を流し込むホダ口を作っていくため、カッターで粘土の上部をえぐっていきます。深く削りすぎると、中の鋳型が変形してしまうので慎重に。
戸田さんのレクチャーを受けながら作業を進めます。ようやく終盤に差し掛かりましたが、まだまだ気が抜けません。
ひしゃくに合金を入れてしばらく湯せんをすると、金属がトロリとした液体になっていきます。この合金は鉄よりもずっと融点が低く、約80℃で溶けるので気をつけて慎重に流し込めば大きな火傷をする心配はありません。
溶けた金属を先ほど作った型に流し込んでいきます。ここが鋳造のキモ。こぼさないようにゆっくりと注ぎます。
5分ほど待って、ゆっくりと粘土型を開くと、落花生の鋳造作品が完成! 表皮の模様もバッチリ再現されています。
思わずニンマリとほほ笑んでしまうほどの完成度。型作りから溶かした金属を流し込んで成形するまで、鋳造の過程を一通り楽しめます。小さなものであれば同じように作れるので、ちょっとしたアクセサリーを作ってみてもいいかもしれませんね。金属作品は、溶かせばまた繰り返し使用することもできます。
▼どうしてこのカフェを作ったの?
精巧な鋳造作品の展示や、店内での鋳造体験など、一般的なカフェでは味わえないアクティビティが目白押しのアイアンカフェ。どうしてこのようなカフェを作られたのでしょうか? 店長の戸田さんにお伺いしました。
ギャラリーも鋳造体験も、普段目にしないものばかりだったので驚きでした! キャステムさんは精密鋳造メーカーなのに、どうしてこのような飲食店型のお店を作られたんですか?
運営母体のキャステムは、基本的に企業に鋳造部品を卸すB to Bの金属部品メーカーでした。エンドユーザーの顔を直接見ることはなく、製品を作ってもあまり反応がないのでモチベーションにつながりにくいというのが正直なところだったんです。だから、部品作りとは別軸でお客さんと関われたら……という思いが、このお店を作るきっかけでしたね。
確かに部品を作るメーカーさんだと、直接製品を使う人たちと顔を合わせることは少ないですもんね。ここまでお客さんとの距離が密な場って、なかなかないと思います。
お客さんと間近で話せるような場所づくりはとても大事で、お店に来てくれたお客さんの反応を直に感じられるのが魅力だと考えています。そもそも鋳造って、あまり一般の人には馴染みがないものなので、お店をきっかけに鋳造に興味を持ってもらえるとうれしいですね。
こうやって金属を溶かす体験は初めてでした! お店にはどういったお客さんがいらっしゃるんですか?
近くを通りかかった方がふらっと訪れたり、ものづくりが好きな方がよく訪れたりしてくれますね。店内の鋳造作品を見て、写真を撮っていかれる人が多いです。
私もですが、そもそも鋳造がどんなものかあまりよく知らない人もいるので、先に作品を見ると「鋳造でこんなの作れるんだよ〜」ということがよくわかりました!
それは何よりです。カフェではオーダーメイドの鋳造の注文も受けているので、クリエイターなどものづくりに関わる幅広いお客様がいらっしゃいます。取引先とこのお店で打ち合わせをしたりもしますね。皆さんとても興味を持ってくれます。
なるほど〜。ところで戸田さんが胸につけているブローチはいったい…?
これは先ほどのミニチュア工具を改造したブローチですね。これから販売していく予定のものです。
かわいい! こうしたちょっとしたアクセサリーがあると、気軽にものづくりに触れられていいですね。私もほしい……。
現在こうした作品をギャラリー展に出展したりしていて、ファッション業界からいくつかお声がけをいただいています。会社として部品を作るだけでなく、会社の特徴を生かした自社製品を作ると、より認知の幅が広がるんじゃないかなと。できることのセクションを広げる場として、カフェが機能している側面もありますね。
鋳造そのものはあまり一般的に触れるものではないので、こうしたライトな入り口があるのはいい試みですね。最後に、戸田さんの今後の展望を聞かせていただけたら!
展望はシンプルで、鋳造のおもしろさと鉄のカッコよさをより多くの人に知ってもらうことですね。鋳造作品などを見て、単純に「おお、すごい」って思ってもらえたら、自分たちの試みは成功だと思います。お店では鋳造体験などのワークショップを定期的に開催しているので、鋳造に興味を持つお手伝いができたらというのが一番の思いです。
店内は鉄、銅、ステンレスといった金属でメタリックに彩られ、金属の魅力を存分に味わうことができました。内装からメニューまで金属で統一されたお店は、鋳造を知っている人でも知らない人でも楽しめるものづくりの空間でした。鋳造を体験してみたいという方はぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。きっと金属のカッコよさに触れられるはず!
(神田 匠/ノオト)
【取材協力】
▼ IRONCAFe (アイアンカフェ)
東京都台東区上野5-9-20
TEL. 03-6806-0304
HP. https://www.ironcafe.jp/
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