こんにちは。工作ライターのたばねです。
様々な機材や人が集まる工作施設を紹介する<Fabスペース探訪記>第2回目。今回は、コピー・プリンターやデジタルカメラで有名なリコーの新横浜事業所内にある社内Fab施設「つくる〜む新横」にお邪魔しました!
案内してくれたのは、つくる〜む運営担当の井内育生さん(左)と北川岳寿さん(右)。お二人はスペースの立ち上げから関わり、リコーの研究開発本部に所属しながら現在も運営管理をしています。
いったいどんな施設なの?
こんにちは! 窓からの眺めがすごく良いスペースですね。こちらはどういった場所なのでしょうか?
ここは社内で出たアイデアの試作や話し合い、ものづくり相談などに使える社内Fab施設です。試作だけ、話し合いだけという分け方ではなく、一括してアイデアを形にできる場所を目指しています。リコーグループ社員なら誰でも使うことができ、一般の人はグループ社員と同伴でしたら利用可能です。
なるほど! 確かにここは工作スペースだけでなく、ゆったりと腰掛けられるソファがあったり、ミーティングにも使える大きい机があったりと、工作設備以外も充実していますね。話し合って出たアイデアをすぐ試せるという環境がとてもいいですね。
新規事業を提案する時、アイデアの資料だけだとなかなか相手に伝わりにくいというのが悩みの種だったんです。「モノがすぐに作れて見せられるような環境があれば……」という思いが、この施設を立ち上げたきっかけでした。
実際にモノがあってこそお互い納得できますし、提案の可能性も広がりますよね。特に全く新しい提案だと内容がいくら良くてもうまく伝えられず、ボツになってしまうことも考えられますし。
井内さんが手に持っている未来ビジョンライトも、つくる〜むで生まれた作品。
この未来ビジョンライトは、壁画に当てると壁画の画像を認識して対応する動画を投影するライトで、御殿場にあるリコー環境事業センターで使われているそうです。THETA懐中電灯という懐中電灯型のプロジェクターが未来ビジョンライトの発想の元になっています。
他にも、北川さんがこの施設で製作したドローンや3Dプリントの試作品など、様々なものが並べられていました。どんなものが作られているのか、見学者向けにサンプルとして置かれているとのこと。
どんな設備や機材があるの?
そんなワクワクするような新製品のアイデアが日々練られているつくる〜むには、どんな設備や機材が揃っているのでしょうか? 部屋の隅から隅までご案内いただきました!
まずは3Dプリンター。設立当初はFDM式1台だけだったのが、利用者の増加にともなって台数も種類も増やしたそうです。普段は全プリンターが稼働するほど、利用者が多いのだとか。
こちらはアクリル板や木材などを切断・加工するレーザーカッターです。隣には作業の際に出るガスやゴミを処理するための集塵脱臭装置を備えているので、換気の難しいビル内でも安全に運用することができます。
他にも穴を開けるためのボール盤や基盤加工機など、モノづくりに必要な機材がコンパクトな工作スペースにギュッと集まっていました!
こちらはハンダ付けなどができる作業机。工作スペースにある机は、施設利用者の有志で自作したものや、産廃業者から譲ってもらったものがほとんどなのだとか! 井内さんは「立ち上げに際して資金が潤沢にあったわけではなかったので」と話してくれましたが、それにしても環境から設備まで自分たちで作り上げていたとは……!
窓際の棚には、リコーで開発された製品を使用した作品やロボットなどが置いてありました。これらの作品はほとんど、井内さんと北川さんのお二人が手がけたものだそう。
こちらは井内さんが発案し、北川さんが製作したテレイグジスタンスロボット「ベジー」。テレビ会議で相手にジェスチャーを伝えられたらもっと会議がスムーズになるのでは? という思いつきが開発のきっかけです。よく見ると、胸のランプがハートマークになっていてかわいい!
こちらは、農作物の鳥獣被害を防ぐためのロボット「KAKA-THETA」。物体が近づくと、搭載されたTHETAで周囲を撮影し、写真をクラウドへ転送して解析。近づいてきた物体が鳥だった場合は、あらかじめセットしておいたクラッカーが炸裂! 実際の運用はまだだそうですが、何ともユニークな試作品です。
つくる〜むが社内に与えた影響とは?
案内していただきありがとうございました!こうした場所があると社内にも良い影響を与えそうですね!
実はこれまで、社内でこのスペースの意義についてあまり伝わっておらず、「アイツら変なことやってるみたいだぞ」と言われることもあったんです(苦笑)。イベントへの露出も増え、やっと社内に広まってきたかなと感じますね。
てっきり社内でも有名な場所なのかと思っていたので意外でした! そういえばつくる〜むのFacebookに、「存亡の危機を切り抜けて〜」という投稿があり、とても気になっていました。何があったのでしょうか?
Facebookの投稿
つくる〜む運営は他の部署と違い、直接売り上げに貢献するような製品を作っているわけでもないので、その曖昧なポジションに社内でもいろんな意見がありまして (笑)。
新しい存在だからこそ、いろいろ大変なことがあるのですね……。
つくる〜むを使った人が、数週間後に同じ部署の人を連れて来ることもあって、今は口コミで利用者が増えている状況です。
そうやってつながりが広がっていくのって、すごく素敵です! このスペースに社員さんたちを集めたり交流したりということもあるのですか?
集めるというよりは、我々がそれぞれの部署や個人とどんなものが作りたいのかを話したあと、その目的に合った人同士を繋ぐことが多いですね。場合によっては社外の人などを紹介することもあります。
確かに1回話しただけではお互い何をしたいのか、何ができるのかまでは見えてこないことも多いですからね。お互いをつなげるハブになっているんだ!
大人数で集まるイベントも開きますが、どちらかというと個人とじっくり話すことの方が多いです。最初に来た時はまだアイデアも曖昧だったりするので、まずは何がしたいのかをきちんとヒアリングするよう心がけています。
アイデアを実現させるためのサポートが手厚い! ぼんやりとした状態でも相談できる人がいるのは心強いですね。
営業の人が、「お客さんから言われたことを実現できないか」という相談に来ることもあります。そんなときは話を聞きながらアドバイスをしたり、実際に試作したり。
実際にここの利用者で、技術者やデザイナーは3割程度でしょうか。あとの7割は相談や雑談をしにいらっしゃる方といいますか。この部署は「今こんなことをやっているよ」という雑談でも、何かのきっかけになるので。
こうした場所って、実際にものを作る方が入り浸っているイメージなのですが、誰でもふらっと訪れることのできる土壌はとてもありがたいですね。
設立当初は作る人だけを対象にしていたので、私たちにとっても意外でした。途中からそれに気づいて、今では来た人とまずはしゃべってみようというスタイルにしています。結果的にその方がいろんなことが見えてくるので良かったなと、今では思っていますね。
とりあえず困ったらつくる〜むに行けばなんとかなる!という雰囲気なのですね。頼もしい!
社内Fabスペース、今後の展望は?
社内のことなど教えていただきありがとうございます! 今後、つくる〜むをどうしていきたいかといった展望を教えてください。
これからはもっと社内の研究所と関わりたいですね。研究所ではコピー機やプリンター、カメラなどに用いる新技術の開発をしているのですが、今は主にその製品に技術を利用しているいので、非常にもったいないなと感じています。我々の方で「その技術ってここにも使えるんじゃない?」という提案ができれば、もっと新しくておもしろいものができるのではないかと感じています。
この場所がきっかけで、新技術を活かしたコラボ製品ができたらステキですね!
そもそも研究所は外部との交流が少ないので、そういった面でのお手伝いができたらいいなと思います。おもしろいものや技術を発信していく役割も担っていきたいですね。
直近で、具体的に構想している取り組みはありますか?
リコー社内には「ラピットファブ」という、3Dプリント出力サービス専門の部屋があるので、そこと連携して、つくる〜むだけでは難しい100個単位のプロトタイプの製造などができるといいなあと思います。
量産品に近い試作品を試すことができるので、よりものづくりの可能性が広がりそうですね。本日はありがとうございました!
まとめ
ものを作る場所という役割はもちろん、実は相談所やアンテナとして機能していたつくる〜むさん。Fabスペースというと、どうしても置いてある機材や作られる製品に注目が集まりがちですが、そこにいる人や取り組みがとても重要だと感じました。
1つの部署から始まったFabスペース。これからどのように社内外に影響を与えて行くのか、今後も楽しみです!以上、現場からたばねがお届けしました。
取材・文:たばね 編集:ノオト
【取材協力】
つくる〜む新横
横浜市港北区新横浜 3-2-3 リコー新横浜事業所12F-N
HP: https://www.facebook.com/tukuroom/