現場取材・対談連載記事

これまでの金型の常識を覆す!? 長野県・有限会社スワニーの「デジタルモールド」技術を体験してきた

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突然ですが、この成形品が何かわかりますか?

 

こちらは有限会社スワニーさんの「デジタルモールド」という技術で製作された樹脂金型。金型の設計から実際に樹脂を流し込んだ試作品成形まで、なんと最短1日でできてしまうそうなのです!

従来の金型は切削や放電加工などで金属を加工したものがほとんど。製作コストも作業日数も多くかかるのが当たり前でした。しかし、今までよりカンタンに金型を作れてしまうこちらの技術があれば、ものづくりの可能性がより広がるのではないでしょうか。

 

いったいどのようにしてこちらの樹脂金型が生まれたのでしょう。meviyスタッフの進藤、川野、神田が現地へと向かいました。

 

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スワニーさんの本社があるのは長野県伊那市。辺りに他の工場はなく、のどかな田園地帯のど真ん中です。今回は会社案内に加え、実際に部品成形を体験できるデジタルモールド1日体験セミナーを受講してきました。

 

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案内してくれたのは、代表の橋爪良博さん。スワニーさんはかつて弱電部品製造を営んでおり、2010年から設計・試作に業務転換をしたそうです。

スワニーさんっていったいどんな会社?

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はじめまして。今日はデジタルモールドの体験セミナーをさせていただけるとのことでとても楽しみです! まず、スワニーさんはいったいどんなことをされている会社なのか、改めてお聞かせいただけますか?
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業態としては設計会社ですが、一般的な設計会社とは違って自分たちで製品の設計から試作、成形からデザインまで幅広くやっています。だから一概に何をやっているか説明するのは難しいですね。カンタンに言えば、3Dデータを駆使して、アイデアを迅速に形に変える仕事をしています。
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製品の設計から製作まで、ものづくりに必要な工程すべてを自社で手掛けられているんですね。なぜこのような取り組みをされたのでしょうか?
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もともとは受託設計、3Dモデリング、試作が本業でしたが、何度か試作を作っているうちではこれはもう生産レベルだねって話になって。それから切削機や射出成形機などを導入して設備投資をしっかり始め、今のような形になりました。
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他の会社だと外注するような部分も内製されていますよね。そんな会社さんはなかなか珍しいと思います。
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デザインから金型のデータを出すところまで部署を分けずに、社員がひとりで担当するようにしています。というのも、デザイン段階から生産技術ノウハウを盛り込んでほしいし、製造段階での課題をデザインで解決するようなセンスを持っていてほしいためです。ものづくりの工程を一貫して体験することで、どこに時間を割けばいいのかを理解できれば仕事のスピードが上がります。また、設計者が現場を知っていれば、出来上がりにほぼズレはありません。

 

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自分の作業内容がどのように連携しているのか、現場の人間はなかなか把握しづらいですよね。社員教育という意味でも、有効な手法だと思いました。ちなみに、一連の作業工程はどれくらいの期間でやられているんですか?
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長いものだと6カ月、短いものだと1週間くらいですね。設計会社ではなく設計もできる生産技術会社でありたいと思っているので、他社よりかなり工程はコンパクトかもしれません。といっても1人だとやっぱり大変なので、社員が積極的にチャレンジして失敗できるような環境づくりを心がけています。
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失敗してもいいからやってみろと後押ししてくれる環境は、社員さんにとってもありがたいですね。
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チャレンジのモチベーションを高めるために、会社の設備や材料を使って好きなものを作っていいことにしました。ただ、いきなりそう言っても誰も作らないので、『いいね手当』を導入したんです。
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いいね手当?

 

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http://swany-ina.jugem.jp/?eid=868456

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Facebookの投稿についた「いいね」×100円を給与にプラスするという制度です。とある社員がこのことをFacebookにアップしたら、なんと「いいね」が646もついちゃって。
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646ということは……6万4600円! 太っ腹ですね!
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これはヤバい!と思いつつも、しっかり払いました(笑)。でも、これがきっかけで新聞やテレビの取材を受けたりして、かなり広告効果はありましたね。社員もこのお金を元手にアルミブロックを買って切削機で型を掘ってみるなど、自ら新しいことにチャレンジしていたようです。
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漠然と何をしてもいいと言われても動きにくいかもしれませんが、そんな制度があったらついチャレンジしてみたくなりますね!

 

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そういう意味では、モノづくりとは別に「コトづくり」を意識しています。物だけではなく新しい仕事やきっかけづくりといいますか。他にも伊那市や地元企業と連携して、商店街に雇用創出のための「内職ワークスペース」という作業場を設立しました。
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物を作るだけに留まらず、様々なチャレンジをされているんですね。仕事がない人はそこで働くことができ、企業は内職業務を委託できる、と。
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仕事があると人も集まるし、新たな交流も生まれます。ものづくりが地元を巻き込んで、もっと街が元気になればいいなと思います。

 

デジタルモールドっていったいナニ?

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御社には「デジタルモールド」という技術があると聞きました。最短1日で、金型から試作品の作成までできてしまうとか……。
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デジタルモールドは従来の金属製の金型に代わって、3DプリンターでデジタルABSという特殊な樹脂を使って造形した樹脂型を金型として活用する技術です。今までは金型を作るまでに10日以上かかっていましたが、デジタルモールドなら最短1日でできてしまいます
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そんなに短い期間で! しかも3Dプリンターで金型が作れちゃうんですか? 突然すぎて、あまり信じられないです(笑)。
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あとで実際に体験してもらいますが、試作品を作るときってやはり金型部分がネックになってきますよね。たとえば、販売価格1000円の商品を1000個量産したい場合に、部品の金型が170万かかっちゃう。これだと全然成り立ちません。

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いくら企画がよくても、現実的に諦めざるを得ないですね……。
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デジタルモールド技術なら樹脂型を使うため、コストも大幅にカットできます。小ロット部品の製作はもちろん、最終製品と同一の部品を使用した試作品の製作にもスムーズに取り掛かれます。また、メタルインジェクションモールドやプレスで金属部品の試作製造も可能です。金属型ではできない新しい表現にも期待が持てますね。
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低コストで少量生産も可能になるということですね。新しいことに挑戦しやすくなりますし、製品開発プロセスがもっと柔軟になりますね。
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そうですね。現代は「大量消費型」ではなく、いろんなものをちょっとずつ作る「多様消費型」の時代になってきたと感じています。今までの金型作りでは成り立たなくなっているので、積極的にデジタルツールを取り入れるなど、変えられる部分はしっかり変えていかなくちゃですね。
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それはすごく感じます。今までのやり方では立ち行かなくなっている部分は、新しい技術を入れてテコ入れしていく必要がありますよね。デジタルモールド技術は実際に運用が始まっているのですか?

 

 

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以前にタカラトミーさんやストラタシス・ジャパンさんたちと共同で、デジタルモールド技術を使ってトミカの試作品を作りました。従来のプロセスだと、金型製作など含めて完成までに4〜6カ月かかるはずが、たったの3週間でできました。その後も、いろんな企業さんにお声がけしてもらっています。
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ますます気になってきました。さっそく、体験セミナーをお願いしてよろしいでしょうか!

 

デジタルモールドセミナー開始!

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この日デジタルモールドで作るのは、イヤホンを巻きつけるイヤホンホルダー。事前に用意いただいた3DCADデータをもとに製作を開始します!

 

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設計いただいたのは、スワニー社員の窪田恭子さん。

 

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完成したデータを3Dプリンターに送信し、製品を成形するための樹脂金型を製作していきます。今回はインタビュー前から造形にかけてもらっていたので、型ができるのはおよそ2時間後とのこと。これで金型の設計作業は一段落です。

 

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造形を待つ間に、射出する樹脂の色を決めます。今回はミスミのイメージカラーである青と黄色、そして赤色の樹脂ペレットを選びました。

 

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樹脂を乾燥機に入れ、水分を飛ばしていきます。射出成形時に水分が残っていると、成形中に水分が蒸発して成形不良(シルバー等)が発生してしまうためです。

 

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樹脂ペレットを乾燥機に入れて一段落してから、射出成形機などが設置された作業ブースへ移動し、いざ製作開始!

 

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スワニーの社員さんにも手伝っていただき、実際の樹脂型の製作に取り掛かっていきます。

 

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まずは樹脂型についたサポート材剥がしから。リーマーでピンを通す穴を開け、ヤスリで磨きをかけていきます。

 

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母体となる樹脂型のクリーニングは完璧! 思わず笑みがこぼれます。

 

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できあがった樹脂型をモールドベースに装着。いよいよ射出の準備に入ります。

 

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装置に装着するエジェクターピンは、ミスミの部品発注サービス「meviy」を利用して取り寄せました。小ロットからでの注文も可能なので、あの部品がちょっとだけ欲しい!という要望にも対応しています。スワニーさんでも実際に活用いただいています。

 

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出来上がったモールドベースを射出成形機にセット。赤いボディが特徴的なこのマシンは「BabyPlast」の6トン機で、非常にコンパクトです。

 

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事前に乾燥させておいた樹脂ペレットをマシンにセット。成形機の温度を上げていきます。

 

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以前使用した樹脂が残存していることがあるため、中の樹脂を押し出して取り除くパージ作業を行います。ここでしっかりパージできていないと、樹脂の色がマーブル状になって見栄えが悪くなるので要注意。

 

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パージが済んだら、射出成形機をスイッチオン!

 

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プシューッという音とともに金型が型締めされ、樹脂が流し込まれていきます。果たしてうまくできているのでしょうか……。

 

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無事ランナー(プラスチックが流れ込む通路)部分が成形されました。いきなり全部流し込もうとすると過充填で型がダレてバリが発生してしまうので、この作業を繰り返して徐々に樹脂を注入していきます。

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何度か繰り返すうちに、少しずつ内部まで樹脂が浸透していくことがわかります。出来上がりに応じて、ショットサイズや射出圧も調整していきます。

 

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樹脂金型は金属と比べるとどうしても耐久力が落ちやすいため、熱によって割れや歪みが生じやすくなります。そのため、作業中は温度計できちんと温度を測り、エアーを吹くなどして金型の温度管理をするのが重要なポイントです。

 

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成形作業を20回ほど繰り返し、ようやく形になってきました。樹脂型ができあがってからまだ2時間ほどですが、ここまでスピーディーに成形品ができるとは! 仮のこの時点で樹脂金型に異常があれば、データに戻って再造形をかけることができるので、作業にも無駄が起こりにくくなっています。

 

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樹脂注入作業を繰り返し、樹脂型にも異常がないことが確認できたため、ミスミカラーの青色と黄色の樹脂も成形作業を行っていきます。

 

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途中で橋爪さんも作業に加わってくれました。さすが熟練の手さばき!

 

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表面、裏面でそれぞれ設計を済ませ、組み立てて完成! ちょっとマーブルになってしまったのはご愛嬌ということで、無事イヤホンホルダーが完成しました。「meviy」と「デジタルモールド」のマークが刻まれています。裏面にはスワニーのロゴも!

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金型製作から樹脂を注入しての射出成形まで、なんとたった1日でした。思わずその出来栄えにうっとりする一同。

 

まとめ

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最後はセミナーの修了証を持ってみんなで記念撮影! 一同デジタルモールドの技術に驚きっぱなしの一日でした。従来の金型のままではコストも時間も多くかかってしまいますが、デジタルモールドであれば低コスト、短納期を実現することができます。橋爪さんがおっしゃられていた、今は大量消費型ではなく、「多様消費型」の時代であるという言葉がずしりと胸に響きました。

 

昨年12月には、デジタルモールドが長野県の南信工科短期大学校で、金型の基礎から実践を学ぶための教育課程として導入されたそうです。デジタルモールド技術が教育の現場にも着実に根付きはじめていることが伺えます。

 

時代の変化に伴って、ものづくりの形も変わっていきます。積極的にテクノロジーを取り入れ、それぞれがよりよい形のものづくりを目指していくことが、これからの製造業にとっても非常に重要になってくるのではないでしょうか。スワニーさんのデジタルモールド技術が、次世代のものづくりに大きなインパクトを与えることは間違いなさそうです。

 

(神田匠/ノオト)

 

取材協力:有限会社スワニー
http://www.swany-ina.com/

デジタルモールド体験セミナーの申込みはこちらから
http://www.swany-ina.com/dm_training

 

この記事の著者

ライター
神田匠

1995年生まれ、山口県周南市出身。立命館大学産業社会学部卒業。父親が自動車の整備士だったので、日頃から工具に囲まれて暮らしていたが手先は不器用。好きな工具はラチェットレンチ。

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