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使ったら地球へ還るエコなプラスチック? ものづくり日本大賞内閣総理大臣賞を受賞した小松道男さんにお話を聞いてきた

軽くて成形しやすく、安価。飲み物のペットボトルから食品トレーまで、私たちの生活は使い捨てプラスチックであふれています。

 

欧州連合(EU)は5月28日、海洋保護のためにストローや皿といった一部プラスチック製品の使用を禁止する方針を発表しました。このように、昨今は使い捨てプラスチック問題が国際的に大きく注目を集めています。環境省が2017年に発表した資料によると、毎年少なくとも800万トン分のプラスチックが海洋に流出しており、2050年までには海のプラスチック量が魚の数を上回る見通しです。

 

国連広報センターが発表している動画によると、海鳥や魚たちが不法投棄や台風で海洋に流れ出たプラスチックや微細に砕かれたマイクロプラスチックを体内に取り込んでしまい、生態系への影響が危ぶまれています。特にマイクロプラスチックは海水中のPCB等の有害物質を大量に吸着して、生物濃縮によってマグロ等へ蓄積されていることがわかってきました。そんな中、現在の使い捨てプラスチックに代わり、自然界の微生物によって最終的に二酸化炭素と水に分解される「生分解性プラスチック」が注目されています。

 

 

この生分解性プラスチックの射出成形技術の第一人者が、小松技術士事務所所長で創成国際特許事務所の顧問を務められている技術士、小松道男さんです。今年1月に開催された第7回「ものづくり日本大賞」では、生分解性樹脂・ポリ乳酸の量産加工技術の開発で内閣総理大臣賞を受賞されました。一体どういった技術なのか、将来展望をどう考えているのか、meviyスタッフの進藤と中島が、小松さんのもとを訪れました。

 

生分解性プラスチックとは

 

ものづくり大賞での内閣総理大臣賞受賞おめでとうございます! まずは先生がどんな研究をされていたのか、ご説明いただいてもよろしいでしょうか。
私は今回、これまで射出成形が困難で量産が難しかった生分解性プラスチック「ポリ乳酸」の量産射出成形技術を開発しました。生分解性プラスチックは一般的な石油プラスチックと比べると粘度が極めて高いという特徴があります。通常に射出成形で金型に流して成形すると、うまく流動できないことや、耐熱性を高めたポリ乳酸では成形品が離型する際に急激に収縮して金型から取れなくなってしまうこと、またエジェクターピンで押し出すと成形品に穴が開いて破れてしまうことが悩みどころでした。
なるほど。やはり材質の特性からして異なるんですね。その問題をどのように解決されたのでしょうか。
超臨界状態で溶解した窒素や二酸化炭素を材料に流し込む「超臨界成形」によって素材内に微細な気泡を生じさせたり、流動性を改善しました。また、生分解性プラスチックは一般的な石油プラスチックと比べ耐熱温度が低いので、ナノコンポジット技術で耐熱性を高めた素材を射出成形できる方法を創作したり、薄肉化を目指しました。
そもそも生分解性プラスチック「ポリ乳酸」とは、いったいどのような素材なのでしょうか。
ざっくり言うと、植物から抽出したデンプンと乳酸菌で作られたプラスチックのことです。生分解性プラスチックとしてポピュラーな素材で、とうもろこしなどのデンプンを発酵させて乳酸を作り出し、化学合成してポリ乳酸を製造します。使用後に廃棄しても、土中や水中の微生物によって最終的に水と二酸化炭素に分解される植物由来の成分ですから、環境にもやさしい素材です。
植物などの天然素材からプラスチックが作れるんですね! 普段食べているようなものからプラスチックができてしまうとは……。もう具体的に製品として目にすることはできるんですか?

 

 

こちらはポリ乳酸で作られた「iiwan(イーワン)」という赤ちゃん向けの食器です。愛知県の豊栄工業さんがライセンスにより製造しています。ポリ乳酸は熱に弱く、70℃くらいで変形してしまうんですが、熱湯消毒などの実用性に耐えうるように、層状珪酸塩という天然の粘土を混ぜ込んで耐熱温度を140℃まで上げています。
また、石油プラスチックは人体に影響はないレベルですが、どうしても鉛や水銀など取り切れない有害物質が残ってしまうんです。赤ちゃんには安全でクリーンなものを使わせてあげたいという需要が追い風となり、国外からも注文が来るほど人気を集めていますね。
陶器のような手触りなのに、分解されて自然に還るなんてすごいですね。 天然素材から作られているということで、なんだか見る目も変わります。赤ちゃんに使うものなら、安全で環境にやさしいものをという気持ちもわかりますから。

 

こちらは材木の粉を使ったポリ乳酸製品です。今までは焼却するしかなかった木クズをポリ乳酸と混ぜて、射出成形で製造しています。農業資材や土木作業の支柱、海で浮きとして使用するなど、多方面の分野で活躍が期待されています。こちらもすべて自然に還るので、ゴミにはなりません。
こうした種類のものもあるんですね! 今までは捨てるしかなかったものが生分解性プラスチックに変わることでゴミの量も減らせますし、環境への影響も少なくなります。そもそもですが、先生はどうして生分解性プラスチックの研究を始められたんですか?
もともとポリ乳酸は、2005年に開催された「愛・地球博」でメジャーデビューしたものだったんです。小泉首相(当時)が衆議院本会議で、「愛・地球博では植物から作られ分解されて土に還る食器を使用するレストランを出店します」と演説しました。私はそれを聞いてこういうのをやらねばならない!と思い、量産に向けた研究をスタートしました。

 

すでに2005年の段階で導入が始まっていたんですね。もう10年以上経ちますが、最近になって生分解性プラスチックが注目され始めたのはどうしてなのでしょうか。
やはり海洋汚染が顕在化してきたことをきっかけとして、フランスが2020年から非生分解性の使い捨てプラスチック食器の使用の禁止法を制定したことが大きいのではないでしょうか。欧米諸国ではマイクロプラスチックによる汚染が深刻化しており、地中海が「プラスチックスープ」と呼ばれてしまっているほどです。
フランスでは2016年7月から、使い捨てのプラスチック製レジ袋の使用を禁止する具体的な動きが始まっています。また、EUは石油プラスチックに課税を検討するといった報道もされています。
海外ではそのような動きが始まっているんですね。日本ではどうなんでしょうか。
正直、この分野ではかなり遅れていますね。国として地球温暖化を防ぐためのゴミ削減などはありましたが、海に流出しているプラスチックをどうするかという視点は、今までほとんどありませんでした。6月15日にはマイクロプラスチックを規制する法律が成立しましたが、6月11日に開催されたG7サミットでは、日本は海洋ゴミ削減の数値目標等を盛り込んだ海洋プラスチック憲章に署名せず、依然として足踏みをしている状況です。しかし、6月19日には第四次循環型社会形成推進基本計画が閣議決定され、国の取り組みとして、生分解性プラスチックや植物由来プラスチックを石油由来プラスチックとの代替促進を総合的に推進することが明記され、2030年までに現在の約40倍である197万トンのバイオプラスチック国内出荷量とする目標も明記されました。
ようやく日本の政府も動き出したというところです。
たしかに、地球温暖化を防ぐためにプラスチックを減らそうという動きはあっても、今まで法律で厳格に規定する動きはなかった気がします。海洋に流出しているプラスチックについても、あまり目を向けることはなかったですよね。プラスチックをめぐる動きがどんどん広がっていますね。

 

アメリカが気候変動への国際的な取り組みを決めたパリ協定から脱退表明するなど、世界的に環境問題に注目が集まっています。その中で、プラスチックに目が向けられることは必然だったとも言えます。日本がどのように対応していくか、目下の課題と言えますね。
なるほど。では、もし日本で使われている石油プラスチックを生分解性プラスチックに変えていくとしたら、どのような課題があるのでしょうか。
生分解性プラスチックの弱みは、原材料コストが高い点です。ポリエチレン等の石油プラスチックを1キロ200円前後とすると、生分解性プラスチックは当初は1キロ1,000円くらいしましたから。現在でもまだ450円から650円くらいします。それに、生産するのにも時間がかかります。大量に作ればスケールメリットで価格を抑えられるのですが、売れ行きが見通せないため少量生産のまま様子見をしています。結果として、材料の値段は高いままなのです。
なるほど。いくら環境にいいとしても、コストを切り離すことはできませんから……。
ただ、最近では生産量や材料メーカーも増えてきて、アメリカでは1キロ2ドル前後まで低下し、石油プラスチックに肉薄してきています。それに、フランスのように石油プラスチックに課税をするようになったら、今までのバランスは追いついて、さらに逆転しますよね。
日本は諸外国に比べてまだ遅れを取っているとはいえ、東京オリンピック・パラリンピックが行われる2020年に向けて、私たちを取り巻く環境は間違いなく変わっていくはずです。

 

来たるべき未来に向けて先生の研究が役に立つわけですね。
強度を上げて付加価値を高め、市場価格にマッチングするポリ乳酸技術を開発するのが私の取り組みです。そういう意味で、今回の「ものづくり日本大賞」での受賞は、国内に向けて生分解性プラスチックのことを広く知ってもらういい契機になりました。上が変われば下も変わる。トップダウンの改革ですね。
消費者だけでなく、生産者も大きな変革を迫られる時期ですよね。プラスチックが生分解性に移り変わっていく中で、プラスチック材料メーカーはどう動けばいいのでしょうか?

 

今までは生産者は大量に生産して、作ったあとのことを考えなくても成り立っていました。しかし、今の時代においてはきちんと製品の機能を満たして、廃棄したときにどういう処理をするか、最後まで責任を持ったものづくりが求められます。今すぐに変えるのは難しいですが、これからの未来に必要なことです。
私たちもただ部品を作るだけではなく、できた部品がどうなるかを考えながら取り組んでいこうと思いました。最後に、ミスミに期待することを教えていただけたら!
私が開発したポリ乳酸の射出成形技術にも、金型部品などに間接的にミスミの部品が多く使われています。日本の金型技術は世界に誇るものです。金型部品の世界一のサプライヤーとして、未来に向けた持続可能な開発を意識してもらいたいですね。

まとめ

 

私たちの生活を取り巻くプラスチック。あまり意識することなく生産、消費を繰り返していましたが、マイクロプラスチックによる海洋汚染が顕在化し国際的に関心が高まるなか、日本に住む私たちも大きな変革を迫られています。

 

これからの未来に向かって歩んでいくために、消費者も生産者も持続可能な開発を意識していく必要があるのではないでしょうか。ミスミも製造業の部品のいちサプライヤーとして、これからの新しいものづくりの一助となれたら幸いです!

 

(ノオト/神田 匠)

 

▼iiwan
▼第7回ものづくり日本大賞

この記事の著者

ライター
神田匠

1995年生まれ、山口県周南市出身。立命館大学産業社会学部卒業。父親が自動車の整備士だったので、日頃から工具に囲まれて暮らしていたが手先は不器用。好きな工具はラチェットレンチ。

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