現場取材・対談連載記事

「ゆるやかな共同体」が進化の鍵を握る

ドイツのFA制御機器メーカーでEtherCATの開発元として広く知られるBeckhoff Automation GmbH & Co. KGの日本法人であり、多くの日本企業の「スマートファクトリー化」を支援しているベッコフオートメ-ション株式会社の川野社長と、2018年5月新たにミスミに発足した3D2M(3D to Manufacturing,スリーディートゥーエム)企業体を率いる吉田が、共にグローバルに製造業を支える裏方として、急速に進化する製造業が今後どのように進化していったらよいかについて語った。

※前編はこちら

実際動いたからこそ見えてきた具体的な課題

 川野 実際に動いたからこそ、動く前には想像もしなかった具体的な課題がたくさんみえてきました。みなさんそれぞれいろんな分野で困っていて、なんとかしてほしいと思っています。

 

標準化のはなしでいうと成形機の世界ではEUROMAPという管理シェルの合意形成が進んできていますが、工作機械やロボットはまだまだです。機械メーカーやサプライヤー側が利害相反のデッドロックに陥っているのです。

 

繋がるための規格を合わせることは市場のために必要であると理解しているものの、同業他社も助けてしまうことになるため、自社が率先して取り組むモチベーションが高まりにくいとお互い顔を見ている状況です。

 

 吉田 利害相反のデッドロックは解決できるのでしょうか?

 

 川野 自由で民主主義的な資本原理に任せているとすすまない標準化は、強制力と政治力の出番になるのではないかと感じています。強制的に今まで許されていたことを禁止すると、新しいフェーズにいかざるをえなくなります。企業は当然世の中に価値を生み出し利益を出して次に投資し続ける必要がありますので、株主がいる以上利益に相反する動きを行うことは非常に困難です。そういう状況を鑑みて、いろんな国や政府がポツポツ政策的な断捨離を行っています。二酸化炭素の排出や内燃機関の禁止など、これは新しいフェーズに行く予兆だと思えます。

 

半分冗談、半分本気で官庁の方に申し上げているのは、例えば「はんこ禁止案」です。はんこを禁止にすることで、ある人が同意を示したことをデジタルで証明する手段を考え、みんな足並み揃えて実装しますよね。

 

何かを思い切って断捨離することでみんなデジタル化ツールをちゃんと使えるようにしていこう、これを電子国家政策として取り組んでいるのがエストニアです。中国の中では深センもそうですね。新興国がそういうことをやってきているので、少なくとも同じことをやろうと思えばできるようにしておかないと、それこそ置いてかれてしまいます。

 

 吉田 エイヤという思い切りが大事だと思う一方で、今まで育て上げてきたものを守らなければ、という気持ちの間で揺れますね。

 

 川野 今後ますます大胆で割り切った取り組みを推進する国や、企業と勝負をしなければいけないという宿命にあります。それを単に危険であると否定しているのでは済まない状況なので、逆にピンチをどうやってチャンスにかえるかが大事です。

 

 吉田 ルールが違うからずるいじゃないか、とグチグチ言っているよりも、この戦いの中でどうやったら勝てるのか、はたまた協調していくのかと考えるべきですね。

 

 川野 サーフィンと同じで波に乗れるかどうかが重要なポイントです。波に乗れればいつしか自分たちが作ったものがデファクトになるかもしれません。また、どうせなら波を起こす側に身をおいた方が良いです。

 

 吉田 日本人はお手本やHow toがわかっているときの模倣はすごく得意ですが、今むかえている転換期はお手本がありません。目指すべきロールモデルが不在のなか、何をコンパスにして進んでいけばいいのでしょうか?

 

 川野 それはみなさん悩んでいるところですね。

 

 吉田 新しいフェーズへ進むには国と民間どちらが主導権を握るべきなのか。それとも外圧が加わるまで待たないといけないのか、前からモヤモヤしていたところです。

 

 川野 我々が得意なことは吉田さんが仰ったとおりですね。例えば六法全書がいろいろな分野にあるとします。六法全書をきちんと理解して実行することや、立法している人たちが気づかなかった論理の矛盾や漏れとかダブリをデバックするのは得意です。逆に六法全書をかきなおすという立法機関の役割は得意では無いかもしれません.

 

 吉田 特に製造業は0から1を作ることは苦手ですね。企業としてこの苦手分野をどのように克服していけばいいのでしょうか?

国内外問わず価値観共有型の共同体を創る

 川野 わたしは緩やかな共同体を業界全体で作っていくべきだと考えています。それは系列や発注元と下請けという関係ではなく、緩やかなパートナーシップです。

 

イメージでいうと航空業界のスターアライアンスが1番近いです。各社それぞれの領域においてプロであり、違いも特徴もあるけれど、同じチームだからお客様の満足という共通目標に向かって動いています。お客様もスターアライアンスの企業からサービスを受けると、特典やマイルが相互で利用できるメリットがあります。

 

オールニッポンといってしまうと国内だけの閉鎖的な印象を与えてしまう可能性がありますが、スターアラインスだとイメージすると国内外問わずさまざまな企業が参画する開かれた関係だと捉えられます。

 

――今までクローズドで守っていたものをオープンにしたとき、ちょっと突拍子もないので自分たちだけが突っ走っているのではないかと思われる怖さもあると思います。そんな中、企業が上手くアライアンスを構築させるポイントはありますか?

 

 川野 2つあると思います。1番典型的なパターンはみんな勝ち馬にのりたいと思うので横綱の立場をうまく利用する方法ですね。横綱企業が自社の規格をオープンにしていけば皆がこれに合わせていく。ただ、これは横綱企業にしかできないアプローチなので、誰もが真似できるわけではありません。

 

もう一つは価値観に共感してもらうことです。みんなが思っているけど誰も言えない、動けないことにリスクを取って「こうしたほうがいいですよね」と声に出してみます。そうすると、「やっぱりそうですよね」と共感してくれる人がたくさん集まってきます。

 

企業もしくは個人で集まってくれたほうがデッドロックは解消しやすいです。力技で鍵を壊すのではなく、合鍵もってきてもらい鍵を開けるという健全なアプローチだと思います。

 

 吉田 今おっしゃったことはまさに組織論に近いですね。儲かりそうだからといって集まってくる組織と、リーダーが自分の夢と志を共有して集まってくる組織、どちらが永続的に強いかといったら明らかに後者ですよね。後者が強いプラットフォームになっていくのは明らかです。

 

 川野 価値観共有型だと、新しい技術がでたときに例えば「この分野にブロックチェーンをいれてみたらどう?」というのをゼロベースで一緒に考えることができるので、広がりの可能性を与えてくれます。我々もお客様に広がりの可能性を提供できるようになりたいと常々思っています。

 

 吉田 高度成長期は市場がどんどん大きくなっていったので相手より一歩先に行く競争戦略でよかったですが、今後はどのように協調していくのかというのが大きな方向性になっていくのでしょうか。

 

 川野 競争か協調というよりも、利己的なのか利他的なのかという考えがより近いですね。仲間に対して自分たちが力になれる支援をしたり、情報、リソースを提供したりすることで、付加価値が折り重なり、いつしか1社ではできなかったことができるようになります。

 

お互いにみんなが違うところで少しずつ折り重なっていけば、全体としてスターアライアンス的なチームが作られていきます。それは競争と協調という二分的な考え方をして、「接点をどこにするのか?」ということばかりを議論するチームよりもずっと強くなります。

 

 吉田 川野さんは日常的に人と人を繋げていて、なぜそういうことできるのかと思っていました。今日お話を聞いて、本業はしっかりやりながらとにかく利他的に動く部分を持っているからだということがわかりました。

 

 川野 最後はなんらかの形で自社のビジネスに戻ってくるだろうというつもりで、おもしろいことはなんでもやります。おもしろい人が困っていたら助けずにはいられないですね。

 

「なんの役にたつの?」「ビジネスモデルは?」といわれると困ってしまいますが、その人を通して新しい体験や気づきを得ることによって、本業により磨きがかかると信じています。特に昨年、私たちはそのご縁で助けられていると強く実感しました。

進化し続けるための「遊び」

――会社の損益を管理する役割である社長は、いつ儲かるかわからないところに時間とお金を使う難しさがあるかと思いますが、どうやってバランスをとっていますか?

 

 川野 一言で言うと余力でやるしかないですね。需要をみたすために今の車輪をまわすことは当然大切です。既存の事業で生まれたお金やリソースを、今まで挑戦したことがないチャレンジ領域に再配分するようにしています。時間や予算をとれる機会はそんなに多くないと思うので、あるときにはそれを最大限生かすべきです。

 

 吉田 言い方悪いかもしれないですが、私のなかでは「遊び」だと思っています。本業ばかりで売上と利益だけをずっと追い求めることは組織にとってよくないと考えています。私自身も勿論ですが私の組織メンバーにも少なくとも1割、できたら2割は本業に直接結びつかないものでも外を見に行って「遊び」を取り入れることを推奨しています。

 

この積み重ねが企業の幅と奥行きを広げていくでしょう。人間もそうじゃないですか。遊びによって進化の「余地」が生まれます。

 

 

――最新技術を駆使して様々な企業とコラボしている川野さんですが、最近注目されているテクノロジーはなんですか?

 

 川野 みなさんお馴染みのものからいうと、AI、VR、ブロックチェーン。まだ勉強不足ですが重要になると思うのが量子コンピューターです。ブロックチェーンの公開電子台帳がスケールするためには量子コンピューティングが実用化される必要が出てくると感じています。

 

4年ぐらい前にMONOistの記事で、「いつか生産財の世界で、AIが搭載された工作機械が自分で材料の不足を判断して発注し、仮想通貨で決済する日が来る」と書いたことがあります。その当時は誰も反応してくれませんでしたが、最近は「ありうるかもしれない」と言われるようになりました。為替、輸出の関税、TPPなどに対応して機械が自動で材料を手配できるようになると、工場の人は楽になりますよね。そういう世界を目標としてイメージすることは極めて重要だと考えます。

 

 吉田 部品を販売している会社として、為替と関税から自由になるのは大きいですね。

 

 川野 あと、バイオにも注目しています。この間ロボットを作ってみて人間には簡単にできることなのに、同じ動きをロボットにさせることが見かけほど簡単で無いことを痛感しました。

 

メカにモータを組み合わせてキネマティクスを解き、GPUでディープラーニングから軌道を生成するロボットもかなりいい線行く実感がある一方で、細胞を培養して腕をつくって電気信号で動かしてしまうのもぜひ試してみたいと。

 

 吉田 それはすごい発想の転換ですね。

 

 川野 SFの世界でしか考えられなかった発想ですよね。いろんな研究が進んでいく中で、そんなに無茶苦茶な話ではなくなってきているかもしれないです。もちろん正しく倫理的に考えないといけませんが。

最後にずっと気になっていたアレについて質問

――ずっと気になっていたのですが川野さんの横にある物はなんですか?

 

 川野 今日届いたばかりのVR用のヘッドマウントディスプレイです!!これをかぶると駿河精機の工場にいけます。

 

 吉田 おー!!現実空間と思うほど鮮明ですね。

 

 川野 クリッカーで上海、ベトナム、静岡の工場があるので好きなところを選ぶとワープできます。

 

 吉田 じゃあ、上海に行ってきます。(ポチ)すごい、この光景は上海だ。

 

 川野 ここにリアルタイムの映像を流すこともできるので、バーチャルで完全に再構築したサイバーフィジカルシステムとして入ることもできます。これから世界中のミスミ関係者で中国で会議しようというときに、みなさんこれを被ればすぐに会議を開始できます。

 

 吉田 マトリックスのような仮想世界ですね。これ買います。

 

後日、本当にVRが届きました。

(聞き手:中川賢治 編集:川野珠美礼)

 

この記事の著者

meviyスタッフ
川野珠美礼

1991年、千葉県生まれ。学生時代東南アジアの国際関係を学び、1年間のギャップイヤーを経て2015年ミスミに入社。以来、営業担当として東京→仙台→名古屋と多地域で活動。

入社当時、金型の知識が全くなく営業マンとして不安を抱えながら営業していましたが、今では東海地区で「meviyちゃん」の愛称で呼ばれています。

好奇心旺盛で暇さえあればどこかに出かけたい。最近気になっているは山形県の銀山温泉。

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