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人とロボットが共に協力し合う社会へ 産業用ロボットメーカー、安川電機はメカトロニクスで世界を変える

(写真提供:安川電機)

2011年にドイツ政府が打ち出した製造業のデジタル・コンピューター革新を目指す「インダストリー4.0」を皮切りに、日本でも製造業の現場にIoT技術や産業用ロボット導入の動きが強まってきました。IoTで工場内の設備をつなぎ、稼働状況の情報を収集・分析することで、より生産性の向上を目指す「スマート工場」実現の機運が高まっています。

 

そこでは人間の代わりに機械の組み立てなどを行なう産業用ロボットが大きな役割を担います。写真は青色の機体に白の「YASKAWA」の文字が印象的な安川電機社製の「MOTOMAN-MH12」です。

 

福岡県北九州市黒崎に本社を構える安川電機さんは、代表的な産業用ロボット以外に、サーボモータやインバータなどの制御装置でも世界トップクラスのシェアを持つ日本を代表する企業のひとつ。

 

2015年には創立100周年記念事業として営業所を「ロボット村」として整備し、敷地面積約10,000㎡を誇る「YASKAWAの森」や、一般来場者へ向けて安川電機の製品や創業者を含めた安川家の歴史を伝える「安川電機歴史館」、そしてものづくりのすごさ、楽しさを伝える「安川電機みらい館」をオープンしました。

ロボット生産の他にも、ものづくりの魅力を発信するためさまざまな活動を積極的に行なっているのです。

 

今回はmeviyスタッフの進藤が安川電機本社を訪れ、現場をレポートしてきました。

 

今回案内していただいたのは安川電機みらい館館長の岡林千夫さん(右)と広報・IR部課長の名村知美さん。工場見学と、安川電機歴史館、そして安川電機みらい館と見どころが盛りだくさん! まずは工場から案内いただきました。

 

人とロボットが共に働く 製造工場見学

(写真提供:安川電機)

安川電機では、一般来場者向けに製造工場の見学ツアーを行っています。こうした製造工場は、国内に4ヵ所設置され、本社のロボット第1工場ではアーク溶接・ハンドリング用途の小型ロボットを生産しています。

 

内部は写真撮影NGでしたが、現場ではロボットが小型のアーク溶接用ロボット、ハンドリングロボットなどを組み立てて出荷するまでの一連の工程を間近で見ることができました。「ロボットがロボットを作る」工場というのはなかなか類を見ないのではないでしょうか。

 

工場内には見学者向けの歩道が設けられており、シームレスに内部を見渡すことができました。

岡林さんは「もともとこの工場は、お客さまや一般の方に見てもらうということを第一に設定してスタートしました。現場をまず見てもらって、安川電機のロボットを使ったらこんなことができるんだ、とまずお客さまに知ってもらうことが大切だと考えています」と話してくれました。

 

(写真提供:安川電機)

こちらではロボット同士が協力して製品を組み立てていました。この小型ロボットは1台では20kgまでしか持ち上げることができません。しかし、上部のクレーンで重さを支え、位置決めをロボット側が指示をすることで動きを同期しスムーズに行なうことができます。特段大きなロボットを使わなくても済むので、コンパクトな製造ラインの実現が可能になります。

 

「すべてロボットを導入して自動化しようと思えばできなくはないかもしれませんが、やはり、人間が得意なところは人間がやり、ロボットが得意なところはロボットに任せるというバランスが大事ですね。今まではロボットと人間は安全上の都合などで安全柵を設けてでしか仕事をすることができませんでしたが、こうして一緒に仕事ができる人協働ロボットを組み込んだ製造ライン設計を視野に入れた展開を考えています」(岡林さん)

 

(写真提供:安川電機)

次の「ロボット第2工場」は、半導体のウエハーを搬送するロボットや、医療用精密ロボットの生産工場。第2工場では月500台ほどのロボットを生産しています。精密機械を作るため、工場内はISOのクリーンルームの基準に則り厳密に管理されています。

 

ものづくりの志を伝える 安川電機歴史館

工場見学の次は、「安川電機歴史館」へ。アーチ状の構造が特徴的なこちらの建物は、1954年に竣工された旧本社事務所の講堂を保存活用したものです。日本のモダニズム建築の発展に寄与したとされるチェコの建築家、アントニン・レーモンドが設計し、当時としてはかなり異色な建物だったそう。

 

建物の中では安川家の歴史資料や、過去に作られた製品の展示が行われていました。

 

安川電機は1915年、福岡の筑豊炭田など炭鉱業を営んでいた明治鉱業を興した安川敬一郎、息子の安川第五郎によって創業されました。安川敬一郎は政治家としても活躍し、北九州の鉄道整備や、製鉄所を誘致するための基盤を作るなど多大な貢献をしています。

 

当時、安川敬一郎は「一時的な利益のために永遠の理想を忘れるものではない」という営業方針を掲げており、目先の利益にほだされることなく、地域貢献と従業員の働きやすさを第一に考えていたそうです。昔から現在に至るまでこの黒崎地区で営業を続けているのは、「地域貢献」という安川電機の強い柱があってこそ。岡林さんによると、「従業員を第一にするあまり、創業から17年間連続で赤字を出していた」という逸話があるのだとか。

 

そんな安川電機のルーツは、炭鉱・製鉄用のモーターの製作にあります。溶かした鉄をだんだんと薄く伸ばしていく圧延(あつえん)工程では、一定の速度での安定した力の出力が要求されます。そこで、滑らかな速度制御が可能なモーターを製作・導入することによってスムーズな仕事が可能になりました。その電気制御、モーター技術が現代にまで受け継がれ、今のロボット技術につながっているというわけです

 

モーターの近くには、1977年に作られた国内初の全電気式産業用ロボット「MOTOMAN-L10」受注第1号機が展示されていました。今から40年以上前にこうしたロボットが存在していたというから驚きです。

 

館内に飾られていたこの絵は、1960年代後半に描かれた理想のモーター工場の図です。昔の工場は、大きな蒸気機関などの動力源があり、そこを基点に動力分配をする方式でした。しかし、その方式だと未来の工場は上手く行かないと考え、制御用計算機などのロボット機器を導入した新しいコンセプトの工場を描いています。

 

図下部に描かれているのは「Unmanned Factory(アンマンドファクトリー)」という言葉。「No man(ノーマン)」として人を排除するのではなく、間に人が介在した、人と機械が協調して働く未来の工場を展望しています。

 

ファクトリーオートメーション的考えの先駆けでもあり、言うなればこれは「インダストリー4.0」そのものと言うことができます。1960年代後半に既にこのような思想があったということは驚くべきことなのではないでしょうか。安川電機の慧眼恐るべしです。

 

ロボットに親しむ展示がたくさん! 安川電機みらい館

歴史館のあとは、ものづくりの魅力を発信し、ロボットの最新技術を伝える「安川電機みらい館」へ向かいます。3階建てになっており、1階は安川電機の先端技術を感じるラウンジ、2階は最新ロボット技術に親しむアクティビティ展示、3階は産学連携のコミュニティラボになっています。

 

館内はどこか近未来的な雰囲気が漂っていてとてもスタイリッシュ。まずは1階から案内していただきました。

 

こちらはバイオメディカル分野で利用されている調薬ロボット。例えば、新薬の開発では人間が何度も同じ実験をして効果を確認する作業がありますが、そこをこのロボットが担当します。そうすることでヒューマンエラーもなくなって精度も上がり、ひとつひとつの開発期間を大幅に縮めることができるのです。

 

2005年に開発されたこちらのロボットは、モーターが7個搭載された7軸ロボット。通常の産業用ロボットはほとんど6軸なのに対し、7軸にすることでより細かく多彩な動きが可能になります。今まで干渉していたスペースの削減にもつながるので、工場の生産現場をコンパクトにできます。

 

こちらは7軸ロボットを活用したデジタルサイネージ。日本サインデザイン賞大賞を受賞しています。従来のデジタルサイネージにロボット技術をプラスすると、よりアクティブな広告表現が可能になるという新たな試みです。デジタルサイネージをロボットアームで動かすことで、視覚的効果をより高めています。岡林さんは「ロボットは製造現場だけではなく、アイデアによっていろんなところに使えるんじゃないか、とインスピレーションを働かせてもらえれば」とニヤリ。

 

次は2階に上がってロボットアクティビティを体験します。2階はいっしょにロボットと遊んでより興味を引きつけるようエンタメ色を強めています。進藤が操作しているこちらはいったい何でしょうか。

 

実はロボットとのかるた取りゲームです。上部に表示される図形と同じ形を選択し、6本先取で勝利となります。ロボットは善戦したものの、進藤が危なげなく勝利しました。勝負に負けると悲しそうなポーズを取るロボットがとてもかわいいです。

 

お次は光ったボタンをハンマーで叩く、ロボットとのもぐら叩き対決。ロボットのスピードと正確さに驚きながらも、ここでもなんとか勝利を収めた進藤。しかし、急いで叩こうとするあまり間違えた場所を叩いてしまう場面もちらほらありました。やはり単純な操作でも速く正確にやるのはやはりロボットのほうが向いているのかもしれませんね。

 

その隣にはルービックキューブを揃えるロボットも。キューブの色を崩してセットすると、ロボットが額部分に備えられたカメラで、ルービックキューブの色と場所を確認。そして認識した箇所をマッピングし、自ら動きを考えながら作業を進めます。今回は、全面を揃えるのにかかった時間は、およそ1分でした。

 

他にも見どころは盛りだくさん! こちらは2015年の日本サインデザイン賞最優秀賞を受賞した「メカトロニクスウォール」です。壁面には256個のサーボモーターが組み込まれた立方体が配置されており、そこに様々な映像をプロジェクションマッピングとして投影、壁面の動きと空間を楽しむというもの。

 

休憩スペースにはソフトクリームロボット「やすかわくん」もいました。器用な手つきでソフトクリームを巻いてくれ、とてもかわいらしかったです。

 

鮮やかな作業の手つきはこちらの動画から。

 

未来へものづくりのバトンをつなぐ安川電機のメカトロニクス

工場や安川電機歴史館、安川電機みらい館などボリュームたっぷりの見学でした。どうしてこのような施設を作ったのか、安川電機がこれから目指すものはなにか、お話を伺いました。

ご案内いただきありがとうございました。そもそもなのですが、どうしてこのような施設を作られたか、理由を教えていただけますか?
安川電機はいわゆるBtoB、家庭や個人ではなく工場で使われる製品を生産している会社なので、一般の方にとってあまり馴染みのある会社ではありません。そこで、こういった施設を作って、一般の方にも安川電機のことを広く知ってもらおうという思いで2015年から各施設を含む「ロボット村」を整備しました
おっしゃる通り、産業用ロボットは我々の業界だと既にメジャーな存在ですが、一般の人が直接目にして知る機会はずっと少ないのかもしれませんね。
それともうひとつ、安川電機は創業から103年、ずっとこの北九州の地で会社を続けています。そのあいだずっとお世話になった地元の人たちに、何か恩返しができないかという地域貢献も大きな目的のひとつです
北九州市をはじめとした小・中学生の社会科見学先にも選んでいただくなど、おかげさまで好評をいただいています。来場者の満足度もかなり高く、2018年6月には来館者数が累計10万人を突破しました
一般企業がまったく毛色の異なる施設を作ってここまで成功させるとはすごいですね……。やはり相当な苦労があったのでは?

やっぱり最初はすごく大変でしたね。私がまずみらい館の館長に任命されたときは、みらい館がもたらす効果は何なのか、活動の評価指標はどう考えるかとものすごく悩んだんです
確かに、直接会社の利益につながるようなものではないですからね。
そこで全国に300種類以上ある、企業主催の博物館をリストアップし、何か所かみらい館とコンセプトが近かった企業ミュージアムに見学に行ったんです。そこの担当の方に効果指標をどのように測っているのか質問したところ、「自分たちもわかりません」と。そこでもうどうしたらいいか途方に暮れちゃって……。
なんだかすごい話ですね。
悩んでいたところ、ホスピタリティに関する講演会を聞きにいき、その講師の先生に、みらい館のこととこの悩みを話したんです。そしたら「効果効果って考えすぎですよ」「ホスピタリティを常に意識しつつ、その企業でしかできないことに着目するのが大事」と言われて目から鱗が落ちました。
そこで、安川電機にしかできないことって何なのかを第一に意識して運営をスタートし、今では口コミで県外からお越しいただく人もいるほど反響をいただいています。イベントも積極的に開催しているので、施設をきっかけに安川電機のことを知ってもらって、次世代のものづくりを担う人材育成にもつながればいいなと考えています。

 

それを安川電機さんがトップリードして体現されていて素晴らしいですね。ところで、ずっと気になっていたのですが、なぜ安川電機のロゴは「YASUKAWA」ではなく「YASKAWA」なのでしょうか?
これは、外国の方がヤスカワと発音しやすいように、ですね。創業40周年の1954年に改称されたそうです。当時からグローバル展開を意識していたようですね。現在は全体の売上のうち海外比率が約70%なので、その見通しも正解だったようです。
まずスペルの綴りから海外を考えていたというのが驚きですね。ちょっとした箇所にも工夫がある……。
他にも言葉の面でいうと、弊社は1960年代後半に「メカニズム」「エレクトロニクス」を組み合わせた造語“メカトロニクス”を生み出しています。安川の電機製品をお客さまの機械と融合し、より良いものにしていこうとの考えから現在まで広く提唱してきました。この言葉は1972年に商標登録していたのですが、今では登録を破棄しているんですよ。将来の産業の発展に絶対に必要になる言葉なので、より広く社会で使ってもらえるように、という意図でこのような対応となりました。

 

ロボットだけでなく概念をも作り上げていたとは! まず言葉を作るというのがまったく思いつきませんでした。
このメカトロニクスの概念から、「モーターとコントローラーで世界を変える」という安川電機の行動指針が生まれ、新しくモーションコントロール事業も興しました。そのあと自ら産業用ロボットを作ろうじゃないかということでロボット開発に乗り出し、現在に至ります。このように長い歴史で積み上げた技術力で社会をもっとより良くしていこうと活動を続けています。
ありがとうございます。最後に安川電機さんの今後の展望をお聞かせいただければ!

 

こちらの動画は2015年に作られた、「MOTOMAN MH24」が居合術の神業に挑戦する『YASKAWA BUSHIDO PROJECT』のプロジェクト・ムービーです。「6mmBB弾居合斬り」を始め数多くの世界記録を保持する町井氏の神業とも言える剣技を、”俊敏性”・”正確性”・”しなやかさ”を高次元に融合させるという産業用ロボットの性能限界に挑みながら「MOTOMAN-MH24」で忠実に再現すると同時に、日本の武士道が大切にしてきた礼節や相手を思いやる心まで表現したプロジェクトです。
今は自動化を進めるとロボットに人間の仕事を奪われるというネガティブなことが囁かれることもあるますが、けしてそうではなく、人間が得意なことは人間がやり、ロボットが得意なことはロボットがやる。そうして両者が共に働ける社会になれば良いなと思っています
今でこそロボットは多くの現場で導入されていますが、やっぱりまだまだ使えるところはいっぱいあるんじゃないかと思っています。世界中の産業用ロボットの市場規模は年間で1兆円と言われています。ロボットが多く用いられているのは自動車産業なのですが、その自動車産業は市場規模が200兆円ほど。その他にも、産業用ロボットが関わっている分野の市場規模をすべて合計すると、500兆円以上にもなります
つまりロボットが自身の市場規模の500倍の市場に対してインパクトを与えているということです。これからロボットを使うところが増えれば、ロボットが産業の起爆剤となることは間違いありません。医療領域や食品領域など、もっといろんなところでロボットがお手伝いできれば嬉しいですね。

 

まとめ

最後はソフトクリームロボット「やすかわくん」の前で記念撮影!

 

1960年代に既に「インダストリー4.0」を予見していた安川電機の眼力には圧倒されました。これからのものづくりはきっとロボットと人が協力して働く新しい形へとシフトしていくのではないでしょうか。そんな来るべきものづくりの未来を肌で感じられた取材でした。

 

我々のサービスmeviyも、そうした次世代のものづくりの一助となれば幸いです。

 

(神田 匠 /ノオト)

 

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