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ロボットが手書きの文章を執筆? 気持ちを伝える代筆ロボット「PENDROID」の製作者にお話を聞いた

それぞれ筆跡が違うふたつの文字。
どちらも違う人が書いたように見えますが、実はこれ、ロボットが書いた文字なのです

 

 

文字を書き上げたのはこちらの代筆ロボット「PENDOROID(ペンドロイド)」

 

コンパクトなボディで、ペン軸を動かしてすいすいと流れるように文章を綴っていました。無機質なロボットが温もりを感じる手書き文字を書けてしまうことに驚きです。

 

 

「PENDOROID(ペンドロイド)」を制作したのはHERO Consulting代表の佐藤博さん。富士ゼロックスを2007年に退職し、御年71歳の大ベテランです。

 

会社員時代に、新規事業の企画から事業開発を色々な分野で行なった経験を活かし、現在は個人事業主として新規事業におけるビジネスモデルの作り方のコンサルティングなどもを手がけつつ、PENDROID事業の立ち上げをしています。

 

今回は、代筆ロボットの開発の経緯や反響についてmeviyスタッフの進藤が詳しくお話を伺いました。

 

代筆ロボットの実演!

 

まずはさっそく代筆ロボットのデモンストレーションをしていただきました。珍しそうにディスプレイを覗き込む進藤。

 

 

まずはパソコン上で文字の設定をしていきます
フォントサイズと行間を指定して、ロボットに書かせたい文字を入力します。

 

 

そしてロボットを紙の上にセット。

 

本体はアルミでできており、軽量で持ち運びも容易です。ペンや紙は好きなものを使用できるため、シチュエーションに合わせた雰囲気を演出することができます。今回はボールペンと市販のノートを使いました。

 

 

ロボットが小気味よくペンを動かし、文章を綴っていきます。
出力された文字はどことなく手書きの癖が感じられます。

 

 

出来上がったものがこちら。

 

書体は、小さく丸みを帯びた女性的な書体(写真上)、下が大ぶりで角ばった男性的な書体(写真下)をプリセットで2種類用意しています。こうしてみると、文字から受け取る印象が少し変わって見えます。

 

 

「薔薇(ばら)」や「檸檬(レモン)」といった画数が多く難しい漢字も何のその。
画数が多いぶん時間はかかりますが、寸分違わず書き上げてくれました。書き順は文部科学省が定めたものを記録させており、順番もバッチリです。文字を直感的に変形させることもできます。

グラフィックデータを読み込ませてイラストを描くことも可能です

 

かわいいカエルの絵が出来上がりました。
自分が描いたイラストをロボットに再現させることもできます。手紙にちょっとしたイラストを添えてみてもいいかもしれませんね。

 

 

こちらはディスプレイに自由筆記で図形を書くと、入力された図形をそのままロボットが出力してくれるサービス。現在はまだ開発段階で、今後のリリースを視野に入れているそうです。

 

進藤も試しに入力させていただきました。

 

 

「ミスミ meviy」と、画面に入力した図形がそのまま出力されました。
文字だけでなく自由図形も再現できるとは! アイドルのサインもこのロボットを使えば楽々書けてしまいますね。代筆ロボットの秘めたポテンシャルに圧倒されました。

 

なぜ代筆ロボットを作ったの?

 

デモンストレーションで充分なポテンシャルを見せつけてくれた「PENDROID」

 

実は、meviyブログでは2017年に掲載したMaker Faire Tokyo 2017のレポートでこちらのロボットを取材していました。開発から2年たった2019年現在ではどのように変わったのでしょうか。また、改めて開発の経緯についてお伺いしました。

 

ご紹介いただきありがとうございました! そもそもなのですが、どうしてこのような手書きロボットを制作されたのでしょうか。
始まりは2015年、飲み会でのちょっとした雑談からでした。隣の人が生命保険の営業の人で、他の人に比べてとにかく業績がいいんだと。それは何でかと聞いたら顧客に挨拶の手紙を送っているからなんだそうです
確かにパソコンで入力した文章よりも、手書きのほうが親しみがあってお客さんに喜ばれそうです。
でも話を聞くと、そのために3日間家にこもって朝から晩まで手紙を書き続けるんだそうです。それでも100枚ちょっとしか書けない。そこで私が「ロボットでやったらどうですかね〜」と軽く話したら絶対売れますよって。そこがそもそものきっかけです。
そんな偶然が! その営業の人がいなかったら「PENDROID」は生まれてなかったかもしれないですね。
もうひとつ、そのアイデアをどう実現しようか1年くらいずっと悩んでいたんです。そうしてウロウロしていたら、とあるお店で証券会社でAIを使った自動トレーディングのソフトを研究している中国人に出会ったんです。
また不思議な出会いが。
それで何やってるのか聞いたら、コンピューターでAIに絵を書かせるのが趣味で、自分のサイトを見てくれって言うんです。そこではAIで自動描画のアルゴリズムを研究していて、そこに漢字を自動生成するデモもあった。それを見た瞬間「これだ!」と彼に連絡して議論した内容が、このPENDROIDのアーキテクチャの基になっています。2017年にプロトタイプを制作し、2018年に機械本体とクラウドサービスを合わせて事業化しました
いろんなつながりから生まれていますね。PENDROIDはどのようなシチュエ−ションで使われているんですか?
現在は、投資用不動産の営業メッセージや、結婚式場のDMなどに使っていただいていますね。手書きの文章が重宝される現場での利用が多いです。話を聞いてみると、式場のDMはこれまで印刷でやっていたそうなんですが、手書きのものに変えたら約10%業績が上がったという声をいただきました。
もう実際に運用が始まっているんですね。
今のところはビジネス用で、必ずお客さんにヒアリングして納入をしています。実際に我々がターゲットにしているのはBtoCの会社で、商品単価が少なくとも100万〜200万のところです。他はあまりターゲットにしていないですね。

受け手にハートを伝える代筆ロボット

個人的には、これまで人が手書きで書いていたものをロボットが代替することに、なんだか無機質な感じがしてしまうのですがいかがでしょうか?
そういう意見は多くいただきますね。ですが私が一番重要だと考えているのは背後に人間がいるよという雰囲気を伝えることです。単純にロボットに代替すれば業績が上がりますよということを言っているわけではない。ロボットを通じて人格を伝えることにより価値があると考えています。
なるほど。手書きのコミュニケーションをロボットが代替してしまうのではなくて、よりコミュニケーションの後押しをする、と。
そうですね。筆記具に筆を使ってみたり、いろんな材質の紙を使ったりと、もっと送り手の雰囲気を伝えられるような展開をしていくつもりです。
ちなみに、個人の筆跡をロボットに取り込むことはできるのでしょうか?
技術的には可能です。時間はかかりますが、本人に300文字くらい文章を書いてもらってその癖をデータに落とし込むという形です。また、理想とするお手本を言ってもらえればその人とお手本の癖を合わせたミックスの筆跡を作ることもできます。
他のものとミックスができるってすごいですね。筆跡をロボットに入力するときはいったいどのように作業されているんですか?
このような感じで、一文字ずつ定規で大きさを測って平均的なものを拾っていくんです。それから文字の大きさや余白をどうするかなどを一文字ずつ試行錯誤しながら制作しています。
すごい……。気が遠くなるほど地道な作業ですね。
時間をかけて丁寧にやることで他と差別化しているんです。もう本当に大変な作業ですが(笑)

今後の展望は?

佐藤さんがPENDROIDのほかにこれからやりたいことってありますか?
今はロボットが面白いのでこれ一本ですね。もう少しこれを真面目に考えたいと思ってるくらいで。まだアイデアが作りきれてないんですがひとつ不満があって。
不満とはいったい?
手紙って送ったらそのままの一方通行でしょ? 今はAさんがBさんにどう出すかってところしか合理化できてないんです。だから受け手が何かしらの反応を返せる双方向的なプラットフォームをどう作ったらいいのかなと考えています。
人の存在を伝えるためのデザインをどう考えていくかということなんですね。
そうです。でもまだ面白くない。もうひとつは手紙の内容をどう良くしていくかということです。制作にあたって顧客の手紙のサンプルを見せていただいているんですが、みんなあまり文章が上手くないんですよ。だから中身の文章を作るサポートもしてあげられればいいなと考えています。書きたいことを入力すると文章のエキスパートが編集して戻してくれる、みたいな。
そこまで総合的に見てもらえると助かりますね。
あとはPENDROIDに関して、文章だけじゃなくて写真やイラストとか、そういうものを得意とする人のマッチングをしてあげたいんですよ。手紙でイラストを使ったら作家にお金が入るような仕組みができればみんなハッピーになるんじゃないかと。
そこまで考えていらっしゃるんですね! 最後に今後の意気込みを教えていただければ!
テクノロジーそのものは全然売り物ではなくて、人と人とがつながる場面をどう作ってあげられるかというところなんですよね。現在は企業のみですが、同人誌とかを作っている一般の人にも使ってもらえるような仕組みを作れたらいいなと思います。

 

まとめ

今なお精力的にものづくりに取り組まれている佐藤さん。手書きロボットだけでなく、そこからつながりを作るかのアイデアや視点に非常に刺激を受けました。

どれだけ電子化が進んでも、気持ちを伝える手書きのコミュニケーションはこれからもずっとなくならないはず。PENDROIDはデジタル技術を用いながらより手書きの良さを伝えてくれる画期的なプロダクトなのではないでしょうか。今後の展開に期待したいです!

(ノオト / 神田 匠)

取材協力:PENDROID
●3次元設計ソリューションサービス「meviy」