プロフェッショナル連載記事 現場取材・対談

製造業界で働く女性たちの本音座談会【前編】 パイオニア女性社員からYouTuber院生まで。

「もっと女性が活躍できる現場を!」という声はどの業界でも高まっているが、製造業において女性社員が占める比率は低い。
今まさに現場で働いている女性たちは、どんな動機でこの業界を志望し、仕事にどんなやりがいを感じているのか。

20・30代の女性から見たものづくりの魅力とは?
第一線で活躍中の技術者からYouTuber大学院生まで、ものづくりに携わる5人の女性たちによる座談会を開催。彼女たちの本音を聞いた。

 参加者プロフィール


株式会社永和 清水綾子さん

CADオペレーター、建築関係ソフト開発部勤務を経て、2015年に株式会社永和に入社。CADは就職後から学び始める。現在は機械設計および調達業務に携わるかたわらロボットのティーチングなども勉強中。

株式会社永和 清水綾子さん
建築関係の会社から転職し、自動車部品メーカーの派遣社員を経て、2015年に株式会社永和に入社。就職後にCADを学び始める。機械設計および調達も担当する他、ロボットのティーチングなども勉強中。

 

株式会社N社 田中さん(仮名)
2016年、株式会社N社に入社。大学では化学を専攻。CADは就職後に学び始め、現在は設備開発部で自動車部品をつくる設備設計などを担当。

 

 株式会社N社 姜さん(仮名)
韓国出身。明治大学で建築を専攻後、2003年に株式会社N社に就職。車の樹脂製品から建築部門の構造経営、電気・機械の設計など幅広く担当する。海外支社への勤務経験も豊富。

 

有限会社スワニー 窪田恭子さん
長野県の実家が金属加工の工場を経営していたため、幼い頃からものづくりに興味を持つ。高校卒業後、その家業である金属加工工場で旋盤などのオペレーターとして勤務。その後、有限会社スワニーに入社。アミューズメント関係の筐体設計などを経て、現在はCADで様々な製品の設計を行いながら、型設計や切削、部品加工、量産までを一貫して行う。

 

千葉大学大学院 イジュさん
工業デザイン専攻。文科省の奨学金制度「トビタテ!留学JAPAN」を利用してドイツ、アメリカに1年間留学。プロダクトデザインとサービスデザインを学び、3カ月前に帰国。使っているソフトはFushion360。CADを使用しての設計・解析が趣味。You Tubeで「IJU channel /イジュチャンネル」も開設。

文系や化学部出身者も! 設計女子への道のりは多種多様

――まずは、皆さんのプロフィールから教えてください。

永和 清水さん

株式会社永和という会社で、メカ設計や補助業務、調達などを担当しています。大学を辞めた後に就職した建築関係の会社で「CADで図面を書け」と突然命じられて(笑)。「CADってなんですか?」からのスタートで2DのJW_CADから学び始めました。工場での仕事も楽しかったし、そんな風に経験を積んでいくうちにこの分野についてもっと学びたくなって、今の会社にたどり着きました。

N社 田中さん

株式会社N社の田中です。うちの会社は自動車の部品の開発・設計・製造をおもに行っていて、そこの設備開発部に所属しています。製品をつくるための設備の検討、見積もり、作業手順の考案、部品の調整から組み立てまで、基本的に全行程に携わっています。とはいえ、まだ入社3年目なので、上司に色々教わりながらですが。

 

大学は工学部でしたが、機械系は得意じゃなくて途中で化学専攻に移ったんです。高分子の研究をしたので、樹脂製品を多く扱っているN社に興味を持ちました。入社後に設計をすることになるとは、まったく思っていませんでしたが(笑)。

 

N社 姜さん

同じくN社の姜です。出身は韓国で、来日して13年目です。明治大学で4年間建築学を学んだ後、N社に就職しました。弊社は樹脂成形品がよく知られているのですが、ホームソリューション、家の中のちょっとした部品も結構つくっているんですね。そこに興味を惹かれて入社しました。

以前はイギリスの支社に1年、名古屋の事業所に8年いて、最近本社に異動になりました。電機設計、機械設計など色々やってきましたが、今は人と一緒に働ける協働ロボットの動作設計やティーチングなどを担当しています。それぞれに全然違うやりがいがあって、どれも楽しいですね。

 

スワニー 窪田さん

長野県の有限会社スワニーという製品設計会社で働いている窪田です。実家が長野の伊那市にあるのですが、そこで両親が町工場を経営していたことから、自然とものづくりに興味を持つようになりました。今は弟が社長になって、両親の事業を継いでいます。私も一時期は実家の工場を手伝っていたのですが、外で経験を積んでみたい気持ちもあって今の会社に入社しました。

スワニーは、創業当時はアミューズメント関係の筐体設計を主に行っていましたが、最近は製品設計だけではなく、3Dデータを駆使した製品企画や量産樹脂による部品試作、3Dプリンタで造形した金型を活用した試作や小ロット生産など幅広いサービスを提供しています。

お客様から「こういうものをつくりたい」とご相談をいただき、場合によっては手描きのデザイン画から3Dデータを起こすところから始まって、設計、切削加工、納品まで自社で一貫して行っています。

 

イジュさん

千葉大学大学院1年生のイジュです。大学は工学部でプロダクトデザインを学んだのですが、その過程で3D CADを使って解析・設計をするようになりました。Fusion 360というソフトを使っていて、そのアンバサダーとしてイベントやオンラインセミナーでプロモーション活動もやっています。YouTubeで3D CADの解説とかもしています。

アメリカとドイツでプロダクトデザインやサービスデザインを一年間学んでいました。3カ月前に帰国したばかりですが、そろそろ就活が始まるので進路に迷っていて…。

ものづくりやテクノロジーに興味はあるけれども、女性比率が低い業界だし、働きやすい会社ってどんなところなのかな? という不安があるので、今日は先輩の皆さんに色々教えていただけるとうれしいです。

 

どの職場でも女性は少数派、メリットがあれば不自由も

――ものづくりの現場は男性比率が高いことで知られています。皆さんが今所属している会社や大学もそうですか?

イジュさん

私が所属している研究室は、日本人の同期は4人いて私以外が全員男性です。とはいえ、デザイン学科の男女比が半々なせいか、普段の生活でそこまでジェンダーの差を感じることはないですね。
むしろ、実験で重いものを扱うときなどは手伝ってくれる男性も多いので、助けられる場面も多いくらい。

 

永和 清水さん

うちは従業員が15人いて、そのうち女性は私含めて2人だけです。ただ、1人は経理なので、女性で設計者なのは私1人ですね。でも社内環境的なやりづらさを感じることはそんなになくて。職場の方たちはみんな親切なので、居心地がいいですね。

 

N社 田中さん

私は今の部署全体で従業員が30人くらいで、うち3人が女性です。姜、私、それから今年入ってきた後輩女子の3人。今はそうでもないですが、入社当時は正直大変でした。私が今の部署に入った最初の女性社員だったので、そもそも男性社員が女性に慣れていなくて(笑)。

 

N社 姜さん

そうそう、まず女性と目を合わせてくれないんだよね(笑)。あとから聞いたら、高校からずっと男子校だった、という男性社員がすごく多くて。

 

N社 田中さん

そんなふうに最初の半年はずっと遠慮されている感じがあって、仕事がやりづらかったですね…。

永和 清水さん

言われてみれば私も過去に同じようなことがありました。年輩の男性は普通に接してくれるのですが、30歳前後の男性社員の対応がすごくぎこちなくて困った覚えがあります。

N社 田中さん

やっぱりそうですよね。でも皆さん、半年くらいが経つと“女性がいる空間”に徐々に慣れていくみたいで。その後は女性社員が増えたこともあって、ここ最近はだいぶ緩和されています。

N社 姜さん

確かに女性のほうが数は少ないですが、私としては男性と対等に仕事をしたいんですね。私たち設計者は女性も男性も同じ給料をもらっていますから。でも、女性だから任せてもらえないという場面も現実にはあるんです。

たとえば、うちの名古屋の工場は24時間稼働しているので、3交代制で社員がシフトを組むんですね。でも、女性の設計者は夜勤に入れてもらえない。それが納得できなくて「私も夜勤できますよ!」と上司に掛け合ったのですが、結局最後までやらせてもらえませんでした。それを「得だね」と感じる人もいるかもしれませんが、私は嫌なんですよ。対等じゃないから。

スワニー 窪田さん

私の場合は、環境面で最初にしんどさを感じましたね。入社当初は女性が私1人だったので、古い社屋で男女同じひとつのトイレしかなかったんです。だから生理用品の処分に困ってしまって…。

イジュさん

それはリアルな悩みですよね。入ってみないとわからないことだし、自分以外が全員男性だと、改善も求めづらいかも…。

 

スワニー 窪田さん

そうなんです。でもしばらく経って女性のクレイモデラーが入社したんですよ。そこからいろんな環境が少しずつ女性仕様に整っていきましたね。

人間関係の悩みに関していえば、私の場合はそれを感じるほどの余裕もなかったんです。当時は創業したばかりの会社だったということもあり、社長が受託した仕事は全部やるし、日々納期に追われて帰宅が深夜になることもしばしば、という状況だったので、みんなが自分の持ち場で精一杯だったんです。だから良くも悪くも特別扱いされることもなく、最初から対等に接することができた気がしますね。

 

――取引先などの社外的にはどうでしょう?

 

永和 清水さん

一概に損とも得とも言えないですね。対男性には当たりが強いのに女性には厳しくない人もいれば、女性相手だから文句を言ってきやすいんだろうな、と感じる人もいるので。とくに建築の現場だと、ほぼ男性だけの環境なので、初対面からいきなり理不尽に怒られたりすることもありました。

 

N社 姜さん

現場はほとんど男性ばかりですからね。私も初めて行く協力工場では、「あれ、あなたが設備担当者?」と驚かれることがよくあります。

 

スワニー 窪田さん

私も展示会に来た年輩男性のお客様から、「ちょっとわかる人、呼んで」と言われて「私がご説明できます」とムキになって説明したことがあります(笑)。

プライベートでも3Dプリンタでものづくり実践中

イジュさん

ところで、窪田さんのお手元にあるSDカードケースって…もしかして自作されたものですか?

 

スワニー 窪田さん

そうです。見本をお見せしたほうが仕事内容を伝えやすいかな、と思って持参しました。私、プライベートでも自分でものをつくるのが好きなので、余った材料でこっそり型をおこしたりしちゃうんです(笑)。これは3Dプリンタで造形した樹脂型で成型したSDカードケースです。長野の山の麓にある会社なんですが、最新設備が揃っているので結構色々つくれちゃうんですよ。

ちなみにこの3Dプリント樹脂型は「デジタルモールド」と言って、スワニーの特許技術なんです。

     

イジュさん

金型でつくるよりコストも時間も削減できますもんね。実は最近、私も3Dプリンタを手に入れたので、サンドイッチケースを試作しているんです。コンビニで買ったサンドイッチを持ち歩くと、バッグの中で潰れちゃうじゃないですか? その悩みを解消しようと思って、板金か3Dプリントでつくれるかな、って。完成したらYouTubeで紹介するつもりです!

 

永和 清水さん

私も最近、自宅に組み立て式の3Dプリンタを導入したんです。もともと手芸が大好きでものをつくることに目覚めたので、プライベートでももっと色々つくってみたくなって。窪田さんのお持ちになっている型とSDカードケースの素材は何ですか?

スワニー 窪田さん

型の材料は3Dプリンタ独自の造形材料で、アクリル系の光硬化性樹脂です。

 

イジュさん

樹脂を樹脂の型に流し込むのですか?

スワニー 窪田さん

そうです。普段はABSが多いですが、このケースはPPですね。

 

N社 田中さん

この会話、傍から見たらすごくマニアックかも(笑)でも、プライベートでも何かをつくりたくなる気持ち、わかる気がします。自分でCADを使って設備をつくったり、苦労して入れたプログラムが思い通りに動いたりすると、やっぱりうれしいですもんね。

イジュさん

それがものづくりの楽しさですよね!

 

永和 清水さん

私は結婚しているのですが、夫は他業種なので私とは仕事内容がまったく別物なんですね。だから仕事の悩みを相談しても、「俺に言われてもわからない…」で終わってしまう(笑)。今日みたいに同性同士でものづくりの楽しさを共感しあえる場ってそんなにないので、すごくいいですね。