プロフェッショナル連載記事 現場取材・対談

福井県・長田工業所の「アイアンプラネット」で溶接体験! 鉄工の現場で味わったモノづくりの楽しさ

20170828213505

溶接は金属材料を加熱・溶融して互いを硬く結合する、金属加工の中でもメジャーな工作法のひとつ。金属部品のみならず、公園のジャングルジムや鉄棒など、実は私たちの身近なところで溶接の技術が使われています。

 

とはいえ、溶接という言葉は聞いたことはあっても、実際の現場を見たり溶接を体験したりしたことのある人はほとんどいないのではないでしょうか。どこか現場を見て溶接についてもっと知りたい…! というわけで、福井県坂井市の長田(おさだ)工業所さんで溶接体験ができるということを聞きつけ、さっそく現地を訪れてみました。


20170828201306

長田工業所さんは1991年。福井県坂井市で鉄工所を創業。2015年にはクラウドファンディングで資金を募り、鉄のおもしろさを伝えるテーマパーク「IRON PLANET(アイアンプラネット)」を工場内に作りました。

 

IMG_2029 ss

今回はmeviyスタッフの進藤(右)と神田が現地へと向かいました。お互い溶接を体験するのははじめて。ふたりが立っているアーチも溶接で作ったものなのです!

 

長田工業所ってどんなところ?

20170828204706

20170828204928

工場に入ると職人さんたちが作業をしていました。工場内では鉄を切断する音や、金属と金属がぶつかる音がこだまし、鉄工所の雰囲気を体全体で感じます。ここがものづくりの現場……!

 

20170828201823

まずは工場見学から。長田工業所社長の小林輝之さんに工場を案内いただきました。

進藤さん「はじめまして。こういった現場には初めて来ました! ここでは普段どのようなお仕事をされているんですか?」

小林さん「ここでは鉄板を切断したり鉄と鉄を溶接したりと、鉄を加工することで製品にしています」

神田さん「具体的にどのようなところからの注文が多いんですか?」

小林さん「主に設備会社さんが客先の工場で使用する柵や階段、手すりなどの注文をいただいています。製造工場でもっとも重要になるのが、事故を防ぐための安全設備です。工場製品の注文としては、防護柵が多いですね。ちょうど製品にするための材料がこちらにあります」

 

20170901115537

神田さん「働く人の身を守る柵などを作っているんですね」

小林さん「こちらはエキスパンドメタルという、柵を作るための材料です。うちの工場で作ったものではなく、材料屋さんが金属板に千鳥状の切れ目を入れながら押し広げ、菱形や亀甲形の網目に加工したものです。素材は違いますが、作り方は七夕飾りの折り紙と似ているかもしれませんね」

 

20170828204818

進藤さん「あ、ここが溶接の作業場ですね!」

小林さん「はい。加工した金属部品と部品を溶接して、加工機械にかぶせる保護柵を作っています」

神田さん「こういった作業現場が見られるのも工場ならではですね。職人さんの手さばき、ずっと見ていたくなります……」

 

20170828204824

進藤さん「あれ、溶接ってこんなネジくらいの大きさでくっついちゃうんですか?

小林さん「これは金属同士を仮止めしておくための仮溶接です。見た目ははんだ付けっぽい感じになりますね。一つの部分に熱をかけすぎるとそこだけ歪んでしまうので、点々と仮溶接したあとで本溶接に取りかかります」

 

20170828204829

小林さん「こちらが仕上げの溶接をしたものです。金属の接地面を覆うように接合されています」

神田さん「普段仕上げられたものしか目にすることがないので、溶接ってこんな感じで進めるんだと驚きました。大きな家具を組み立てる時、四隅のネジを軽く仮止めして、最後にバランスよくしっかり締め上げますが、それに似ている感じというか」

 

20170828205100

進藤さん「こちらの大きな機械はいったい何に使うものなんですか?」

小林さん「金属の板を曲げたりつぶしたりするときに使う『プレス機』です。ちなみに、動力部以外はすべてうちの工場で数十年前に先代が作ったものです

 

20170828205518

進藤さん「え、こんな大きな機械を作れちゃうんですか!?」

小林さん「といっても、最新の機械ではないので、簡単な加工でしか使っていませんけどね。最近のコンピューター制御で動くプレス機は寸法を入力するとその数値どおりに切断できますが、これはアナログなので大雑把な曲げ加工の時に重宝しています」

神田さん「プレス機によっても性能差が大きいんですか?」

小林さん「そうですね。金属加工って、どこまできれいに加工するかによって、当然ながら加工費も変動するんですよ。どのレベル感の精密さが必要なのか、それによって使う機械も使い分けています。うちで対応できない加工技術があれば、それ専門の会社さんに依頼することもありますから」

 

20170828215437

進藤さん「工場内の端っこまでやってきました。この出口には大きなトラックがありますね。こちらで製品の搬出をするわけですね」

小林さん「そうです。うちの工場では、材料を切断→組み立て→溶接→塗装→トラックで配送という流れを工場の中に組み込んでいます」

神田さん「作業フローが工場内にしっかり作られているんですね」

 

アイアンプラネットで溶接体験

20170828205555

20170828205820-1

さて、いよいよ工場の2階へ。こちらが鉄の溶接テーマパーク「アイアンプラネット」の本拠地です。ネームプレートやアイアンスツールづくりの溶接体験はもちろん、親子で楽しめるワークショップを開いたり、上級者向けの作業レンタルスペースとして貸し出したりすることもあるそうです。

 

今回はせっかくの機会なので、ミスミのサービス「meviy」のロゴプレート作りに挑戦してみます!

 

20170828211136
まずは小林さんと一緒にロゴの構想を固めて、仕上がりの確認から。

 

20170828211143
「meviy」のロゴにあしらわれたメビウスの輪の下絵を書いていきます。こちらは手先が器用な進藤が担当。淀みなく、すいすいとペンが進みます。

 

img class=”size-full wp-image-3884 aligncenter” src=”/info/ja/wp-content/uploads/2019/09/20170828213116.jpg” alt=”20170828213116″ width=”800″ height=”533″ />
下絵が完了しました! この下絵に沿って、プラズマ切断機で金属板を切り抜く作業に入ります。作業着に着替えて準備は万全!

 

20170901181215

社長の父で長田工業所取締役会長の小林伸太郎さんに、安全第一のご指導をいただきながら作業を開始します。まずは鉄板を切り抜く練習から。

 

2017-09-04 16_16_08 a

進藤さんうわ〜〜!! 火花こわい! でも楽しい!!

 

バチバチと飛び散る火花は迫力満点! 思わず腰が引けてしまいます。写真では火花が横に散っていますが、これではうまく切断はできていません。

 

20170828213220

小林さんにレクチャーを受けつつ作業を進めます。上手に切り抜くコツは火花を怖がらず、切断機を鉄板に垂直に向けること。斜めになると自分に向かって火花が飛んできてしまうこともあるそうです。

 

20170828213124

小林さんのアドバイスを受けて、進藤も切断も少しずつ上達していきます。 きちんと火花が下に落ちるようになったのがその証拠です!

 

20170828213357

いよいよ本番の切断へ。練習のときと比べるとだいぶ腕が上がっているのがわかります。そばでやさしく声をかけてくれる会長は、まるで娘を見守るお父さんのよう。

 

20170828213426

試行錯誤を繰り返しつつも、無事「meviy」のロゴマーク切断に成功しました。細かい曲線部分もきれいに仕上がっています。続いてはこれを鉄板に溶接する作業に入ります。

 

20170828213447

次の作業は神田にバトンタッチ! 溶接したときに出るアーク光から目を守るために、遮光溶接面をかぶって作業します。ちなみに、通常の溶接面は目の前のガラスが真っ暗なのでほとんど視界が遮られてしまうのですが、こちらは溶接の火花で自動的にレンズが遮光するタイプ。

 

2017-09-04 16_13_39

まずは練習から。バチバチッという音を立てながら 金属同士を溶接していきます。青白い光とともに飛び散る火花がとてもきれい。

 

20170828213523

神田さん最初はちょっと怖かったけど、目の前で金属が溶けていくのっておもしろい!

早くもコツをつかんだようなので、この勢いで本番に臨みます。

 

20170828213556

先ほど切断したロゴマークを金属板に溶接。ジジジッという音を立てながら、鉄と鉄がくっついていきます。

 

20170828213616

あ、勢い余って土台とロゴがくっついてしまうハプニング! でも大丈夫。会長に手伝ってもらいながら、なんとか取り外すことができました。

 

20170828213706

気を取り直してどんどん作業を進めます。今はロゴのアルファベットを取り付けていく作業。だんだん手つきが手慣れてきたようで作業のスピードも上がっていきます。 あともう少し!

 

20170828214006

ふたりで作った「meviy」のロゴプレートが完成! 鉄のソリッドな風合いがとてもかっこいいですね。鉄板はがっちり土台にくっついているので、ちょっとやそっと引っ張ったくらいではビクともしません。このあと、サビ防止の塗料を塗って乾かしました。

 

20170828213914

2人で作ったものだけに感動はひとしお。鉄板の切断と溶接を自分たちでこなし、1つのものを作り上げる。そんなものづくりの醍醐味を味わうことができました。

 

 

アイアンプラネットの今とこれから

20170902120223

工場見学や溶接体験など、鉄に親しむさまざまなアクティビティが楽しめるプロジェクト「アイアンプラネット」。一体どういう経緯で生まれたのか、そして今後の展望を小林社長に聞いてみました。

 

20170828214133

神田さん「溶接を実際に試すのは始めてだったのですごくドキドキしました! なぜ小林さんはこういった取り組みを始められたんですか?」

小林さん「そもそもの話になってしまうのですが、鉄工所をはじめとしたものづくり業界は若い人がほとんど入らず、人材不足が深刻化しています。じゃあどうすればいいのか。私はまず、少しでも多くの人たちにものづくりへの興味を持ってもらうことが重要だと考えました」

進藤さん「たしかに、そもそも業界がどんなところかわからないと、仕事の選択肢に入らないですよね」

 

20170828214120

小林さん「まずは溶接に興味を持ってもらうため、工場の中に一般の方が気軽に溶接を体験できるような場所を作りました。溶接がどんなものかを説明するよりも、まずは実際にやってもらったほうが早い。そうした場所づくりが必要だと思ったんです」

神田さん「私も溶接についてはぼんやりとした知識しかなかったのですが、今回の体験で溶接との距離がグッと近くなりました」

小林さん「やはり溶接って、気難しいおじさんが眉間にしわを寄せながらやっているようなイメージが強いと思うんです。工場で何をしているのかをオープンにすることで、若い人向けに敷居を下げる意味合いもありました」

進藤さん「工場に勤務されている職人のみなさん、とても気さくでやさしいですよね。寡黙で気難しい人ばかりだと思っていたんですが、全然そんなことなくて」

小林さん「そうおっしゃっていただけてうれしいです。おかげさまで若い人たちも溶接体験に訪れてくれるようになりました。ステレオタイプな業界のイメージを変えていきたいですね」

 

Re_IMG_1683

神田さん「何かこれから新しく考えられていることはありますか?」

小林さん「いろいろたくさんありすぎるのですが、もっとも現実的な話では、長田工業所の家具ブランドを作りたいと考え、すでに試作品づくりにも着手しています」

神田さん「え、鉄工所が家具を作るんですか?」

 

20170828214314

小林さん「こちらにあるスツールが、第1弾として制作したものですね。これからは机とか棚などを作って、海外の富裕層向けに展開していくつもりです」

進藤さん「鉄工所発の家具ブランドってすごいですね。スタックできるスツールもとてもおしゃれ!」

小林さん「今の目標は、来年の春にイタリア・ミラノで行われる家具の展示会に出展することですね。なんかイタリアってかっこいいなっていう単純な理由ですけど(笑)」

 

20170828214154

小林さん「実はもうひとつ新しくやろうとしていることがありまして。これは私の造語なのですが、ファクトリーアートメーション(仮)【※】といって、工場の人がもっと働きやすくする仕組みづくりを追求していきたいな、と」
【※】工場の自動化「ファクトリーオートメーション」 (Factory automation)とアート(art)を組み合わせた造語

進藤さん「それはいったいどういうものなんですか?」

小林さん「簡単にいうと、感性工学や心理学を用いて、いつも働いている工場をカッコいい職場にしていく事業です。今風に言えば“エモい”工場でしょうか。先ほどの人材不足の話とも重なりますが、若い人が『こんなカッコいい工場で働いてるんだぜ』と言えるような工場にできたら、もっと人材も増えて業界が活発化すると思うんです」

神田さん「たしかに自分が働いている工場がカッコよかったら人にも自慢できるし、働く人もモチベーションも上がるかもしれないですね」

小林さん「自社のみならず、業界全体に向けて何ができるかということをいつも視野に入れています。アイアンプラネットの活動もそうですが、若い人がものづくりに全般に興味を持つきっかけになれたらうれしいですね」

 

 

まとめ

20170828214540

機械の音が鳴り響く工場見学から火花飛び散る溶接体験まで。今回訪れた長田工業所では、実際に飛び込んでみないと知らなかったものづくりの現場や溶接の奥深さを学ぶことができました。業界をリードするその動きには、次世代のものづくりを活性化させるヒントが隠されているのかもしれません。

 

▼ 長田工業所(アイアンプラネット)
http://iron-planet.net/
公式サイトから溶接体験などに申し込みできます。

〒919-0404
福井県坂井市春江町西長田41-1-1
TEL:0776-72-1164