はじめまして。林 義人(はやし よしひと)です。
このブログでは、板金加工機オペレーターとCADオペレーターの経験を活かして、板金部品の勘どころ、生産プロセスなど事例を交えてお伝えしていきたいと思います。
今回の記事は、溶接なしで板金を接合する設計方法や実際の加工工程についてご紹介します。
ごあいさつ
私は20年ほど工場板金業界に在籍していました。
高校を卒業し岐阜県に所在する鉄工所に入社して10年間、タレットパンチプレス、レーザー加工機、プレスブレーキのオペレーターを担当してきました。この10年で国家資格である工場板金技能士も取得することができました。
また、SOLIDWORKS Expert認定技術者を取得し、ソリッドワークス・ジャパン社公認のSOLIDWORKSユーザー会のリーダーも務めています。
工場板金といいますと、
・鉄板を切断するタレットパンチプレスやレーザーのブランク加工
・鉄板を曲げるプレスブレーキ
・鉄板をくっつける溶接
・鉄板に色を塗る塗装
などがあり、弊社にはその設備すべてが揃っています。
入社10年経った頃、会社に3D CADのSOLIDWORKSが導入され、私はCADオペレーターになりました。操作が難しい反面、思ったとおりに形にできる面白さもたくさんあり、どんどんその魅力に惹かれ今に至ります。
たくさん失敗もしましたが、自身のアイデアを反映した製品が実際に使用され、お客様に喜んでいただいたときに仕事の醍醐味を感じます。
このブログでも皆さんに喜んでいただければと思います。
目次
溶接なしで板金を接合するときの課題とその解決方法
今回は曲げのある板金部品を、溶接を施さずに接合する方法を鉄材で製作した装置カバーを例に解説します。
※この記事では鉄材(SS400/SPCC/SPHC)での製作事例をご紹介します。ステンレスやアルミをご選択の場合、meviyでは製作できない場合があります。
図1のように装置カバーを想定した2曲げある材質SECC 板厚2.3ミリの板金部品ですが、その曲げの突合せ部分を溶接なしで使用したい。しかし、溶接を施さないと強度不足が心配です。
そんな時は図2のように皿穴とタップ穴を加工し、皿小ねじを使用したねじ締結方法を提案します。
溶接と違い、熱の影響を受けず、溶接部の防錆処理が不要になるメリットがあります。
皿ねじは頭部を出っ張らせたくないときに使用します。
皿穴サイズは板厚2.3ミリで使用できるM3を使用します。
下記はmeviyで対応可能な板厚と皿穴ボルト呼び径表です。
皿小ねじはM3-6を使用します。
皿小ねじの3DデータはMISUMIのカタログからダウンロードできます。
※MISUMI「十字穴付皿小ねじ」はこちら
溶接を施さずねじ締結をする際の板金設計のポイント
板金加工において皿小ねじを使用してねじ締結をする場合、設計のポイントが2つあります。
- フランジを追加
図3のようにM3ねじ加工用にフランジ20ミリを追加します。
M3加工用の穴は曲げに近づけすぎないよう、曲げから12ミリ離した位置に穴中心をおいています。 - 平板へ展開できるよう実形状に影響のない程度の隙間を設ける
実際の使用では皿穴面とタップ穴面は“ねじ締結”により接触しますが、3Dデータ上で接触すると平板への展開ができません。図4のように今回は0.1ミリの実形状に影響のない程度の隙間を設けました。※meviyでのご注文の際は0.1ミリ以上の間隔が必要です。
切断加工する形=展開図は図5のようになります。
板金の切断と曲げ加工をしてみよう
それでは実際に切断加工と曲げ加工を行っていきましょう。まずは切断です。
タレットパンチプレスとレーザー加工を組み合わせたパンチ・レーザー複合加工機で加工します。
パンチ・レーザー複合加工機を動かすためのプログラムを事前にCAMで作成します。
展開図を基に加工順、金型、レーザー条件などの加工詳細を設定し、出来上がったプログラムをパンチ・レーザー複合加工機で読み込みます。
(CAMとはComputer Aided Manufacturingの略=コンピュータ支援製造)
タレットパンチプレスとはタレット(旋回式金型ホルダ)にパンチ(金型)を入れてプレスする機械です。
今回の加工では皿穴とタップ穴をタレットパンチプレス加工します。
材料をセットして加工スタート。
皿穴は下穴を加工した後に皿モミ加工をします。
タップ穴は下穴を加工した後にタップ加工をします。
タレットパンチプレス加工が終了したら外周をレーザー加工します。
レーザーとはLight Amplification by Stimulated Emission of Radiation=誘導放射による光の増幅を意味します。
発振器で光を発生し集光レンズで光を絞り鉄板を切断します。
レーザー加工では出力や切断送り速度、補正量などの加工条件があり、板厚材質により異なります。
これでレーザーによる切断が完了しました。
次はプレスブレーキを使用した曲げ加工です。
プレスブレーキとは鉄板に圧力をかけて任意の角度に曲げる機械です。
図7のようにパンチとダイの金型を取り付けした間にワーク(加工対象物)を通し、バックゲージに当てた状態で曲げ加工します。パンチ先端1点、ダイ肩部2点、計3点の領域内で塑性変形します。(塑性変形=外力を取り除いても残る変形)
図8のように3点に接さない場合は曲がりません。最小曲げ高さや穴と曲げの最小距離を設定しているのはこの理由です。
曲げ加工も事前にプレスブレーキを動かすためのプログラムをCAMで作成します。
展開図を基に加工順、金型、L値、D値などの加工詳細を自動で設定します。
L値=金型からバックゲージの距離を示す
D値=パンチからダイの距離を示す
プログラムが完成しました。
プログラムをプレスブレーキの画面で読込します。
金型からバックゲージの距離を示すL値、パンチからダイの距離を示すD値が入力されています。
金型の取り付けを行います。
金型種類と取り付け位置はプログラムで設定されています。
画面を見ながら取り付けします。
スタートボタンを押して曲げ加工を開始します。
<1曲げ目>
画面で曲げる位置を確認して、ワークをバックゲージに当てます。
ペダルを踏んで曲げを開始します。
曲げ終わったらノギスで曲げ高さ、スコヤで角度を検査します。検査合格しました。
<2曲げ目>
先に曲げ起こした部分に金型が干渉しないことに注意して 曲げを開始します。
<3曲げ目>
ここでも曲げ完了部分が干渉しないことに注意し曲げ開始します。
1曲げ目のフランジが2曲げのフランジの中に入ります。それぞれの曲げ精度がでていないと干渉が発生し曲がりません。
溶接なしで板金接合カバーが完成!
このように設計で少しの工夫を加えることで、溶接なしでも強度ある板金カバーをつくることができました。
※この記事では鉄材(SS400/SPCC/SPHC)での製作事例をご紹介しています。ステンレスやアルミをご選択の場合、meviyでは製作できない場合があります。
溶接した場合とのコスト比較と溶接なしカバーの応用
1.コスト比較
コスト面について気になると思います。溶接した場合と溶接なしでねじ締結した場合とで meviyで見積もりをして比較してみましょう。
材質は溶接性を考えSPCCを選択します。
<溶接ありカバー> meviyで購入後、2次加工で溶接を行うことを前提としたモデルで製作した場合。
合計 3,360円 (※)参考価格 |
<溶接なしカバー> meviyで購入後、2次加工で溶接を行わない場合のモデルで製作した場合。
合計 2,710円 |
よって溶接あり板金モデルに対して溶接なし板金モデルは20%コストダウンできます。
2.面と接合箇所が増えても対応可能
ここまで紹介したカバーは3面構成ですが4面、5面と接合箇所を増やしても下の図のように製作することができ、工夫次第で応用が可能です。
4面や5面に増やす場合、曲げ加工でワークがプレスブレーキ金型と干渉して製作できないことがあります。サイズを決定後、すぐにmeviyで製作可否の判定することをオススメします。
まとめ
いかがだったでしょうか。
今回は、1つめのレシピ「溶接なしで板金を接合する方法」をご紹介しました。
溶接なしで板金を接合するときによくある強度不足という課題は、皿小ねじを使用したねじ締結で解決することができます。
ねじ締結を使用した板金を設計する際は、フランジの追加や平板展開に支障がでないくらいの隙間を設定することがポイントです。
こうすることでスムーズに加工工程に進むことができます。
少しの工夫で広がる板金レパートリー!次回のレシピは、「Rカバーのつくり方」を紹介予定です。
皆さんのアイデアにつながるような情報を発信していきますね、お楽しみに。