この記事では板金製作で必要な展開図を、3D CADで描く方法について紹介します。
板金部品の展開図の描き方や、設計段階で注意するポイントを、ブックエンドの製作を例に詳しく解説します。
皆さんの日々の設計業務に役立てれば幸いです。
目次
1)まずは、3D CADでL形モデルを作成する
展開図を描くためには、基となる3Dモデルが必要です。
ブックエンドの基となる幅150ミリ×高さ200ミリ×奥行70ミリのL形モデルを作成しました。(図1-1)材質はSUS304で、板厚は2ミリです。
私が普段使用しているSheetWorks※の標準機能で展開すると、第三角法の正面図、平面図、右側面図に加え展開図を自動で作成します。
※SheetWorksは、3次元CADソフトウェアSOLIDWORKSをベースCADとし、板金製造業向けに特化したあらゆるコマンドを搭載したアマダ社製の3D CADソフトです。
下図(三面図と展開図)のようなモデルを展開します。
① 左下に板金部品を正面からみた正面図
② 左上に板金部品を上からみた平面図
③ 右下に板金部品を右からみた右側面図
④ 右上に立体が平面になった展開図が表示されます。
製造現場で例えば、プレスブレーキオペレータは三面図のそれぞれの方向からの図を把握して立体をイメージします。
正面図がない状態だと、曲げる方向が判らない等のトラブルになります。
2)3D CADで作る板金部品の展開図を理解しよう
展開とは立体の面を平面上に広げることです。板金製品も設計段階では立体です。板金製品は、平らな板から加工をするため展開する必要があります。展開にはいくつかポイントがあり、それを無視しては設計通りの板金部品を作ることはできません。
展開図の描き方や設計のポイントを解説
下図のように右側面からみたモデル寸法を展開すると、展開長が266.5ミリになっています。
折紙のように厚みを考慮する必要がないものは、200ミリ+70ミリ=270ミリが正解です。
しかし、板金製品のように厚みがある場合には、270ミリから3.5ミリ小さい266.5ミリに展開長が変わります。
なぜ、展開長は266.5ミリになるのか?
板金製品は厚みがあるため曲げると、この図のように板の内側には縮む力(圧縮応力)、板の外側には伸びる力(引張応力)が働きます。
また板の内部には伸び縮みしない線が存在します。これを中立線と言います。
曲げ後の出来上がった寸法で欲しいのは外側寸法です。
外側寸法が200ミリと70ミリになるように伸び値を逆算して展開長を計算します。
3)伸び値を求めてみよう‐レーザー機で切り出して製作
伸び値とは展開時に必要な値で、外側寸法の合計から伸び値を引きます。
まずは伸び値が判らないので折り紙と同じ200ミリと70ミリを足した270ミリの板をレーザー機で切り出します。
次に、プレスブレーキで曲げていきます。
SUS304 T2.0に対応するV金型はV12※です。
※板金加工会社により異なります
金型をセットし、曲げる寸法70ミリを入力して曲げてみましょう。
曲がりました。次は寸法を測ります。
200ミリだった高さは、201.75ミリに
70ミリだった奥行きは、71.75ミリに
1.75ミリ + 1.75ミリ=3.5ミリ伸びたことが判ります。
つまり、270ミリからあらかじめ伸び値3.5ミリを引いて、266.5ミリを展開長にすれば良いことが判りました。
このように板金加工会社では材質板厚に応じてテストし伸び値を設定しています。
設定した伸び値はSheetWorksのパラメータに記憶させます。SheetWorksで展開図作成すると自動で展開長を計算します。これにより、常に安定した板金製品の製造が可能になります。
L型モデルに設計した段階で展開長が判りました。
4)ブックエンドの設計を完成させる
ブックエンドは曲げ構成で1部品です。アーチ穴をあけ、自立機能を追加設計し、ブックエンドの設計を完成させます。
この時、アーチ穴より小さい面積で自立機能を作り、展開時に製品同士が干渉しないことがポイントです。
アーチ穴をあける
幅70ミリ×高さ150ミリのスケッチを描きます。
[押し出しカット]方向1、[ブラインド]深さ3を入力します。
自立機能を追加
底面に、アーチ穴より2ミリ小さい面積でスケッチを描きます。
高さ方向は、150ミリ – 2ミリ=148ミリとなりますが、さらに伸び値3.5ミリを引いて、144.5ミリとします。
[押し出しボス]で、方向1:端サーフェス指定、面(ピンク)は、結果のマージ(M)にチェックを入れます。
ブックエンドの設計が完了しました。
展開図の作成
展開図を作成して、アーチ穴部分が干渉しないかを確認します。
自立機能スケッチに伸び値3.5ミリを反映したことでアーチ穴から均等に2ミリオフセットした形状が作れました。
伸び値3.5ミリを反映しないと、どうなるでしょう。
伸び値を反映しないと自立機能部が飛出し、アーチ穴に干渉してしまいます。
5)金型の干渉を確認する
金型の干渉を事前に確認する方法があります。
meviyで製造可否を確認
meviyでは3D CADデータをアップロードするとAIが自動に見積もりする他、製造可否がその場で把握できます。先ほどのブッエンドをmeviyにアップロードして確認したところ、問題なく作れることが判りました。
伸び値を反映していないモデルは、meviyで干渉を検知し、製作ができないことが判ります。
K係数を使用して干渉の有無を確認
自社にSheetWorksや、板金製造機械があればテストし伸び値を設定検証が可能です。
それらがない場合に、板厚材質ごとに伸び値をテストして設定するのは板金加工会社に外部委託することになり、やりとりが大変です。
SOLIDWORKSで干渉を確認
SOLIDWORKSがある場合は板金機能ベンド許容差「K係数」を使用して干渉の有無が確認できます。K係数とは板厚に対する中立線の位置を表す比率です。
例)
板厚2ミリで、K係数が0.5ミリの時、内側から1ミリの位置に中立線が設定されます。 |
[板金タブ]固定面:青色面を選択、[ベンド許容差] K係数の値(K):0.5を入力します。
板厚:2ミリ×0.5=1ミリに置いた中立線を平らにしたときの「長さ」を展開長にする方法です。
[板金タブ]展開を選択します。
モデル上で展開し、干渉を確認したところ、干渉していないことが判りました。
2ミリになるところが、2.98ミリと誤差があり、実際の伸び値よりも安全な数値になります。あくまで干渉を確認する方法として活用してください。
また、製作する際には展開図は作らず、外部の板金加工会社に伸び計算も含めて依頼するのがおすすめです。
明確な伸び値を知るには、板金加工会社と連携して材質、板厚、曲げ角度ごとにベンドテーブル値を構築する必要があります。
6)まとめ
いかがでしたか。
7つめの板金レシピ「3D CADで板金部品の展開図を描く方法‐ブックエンドを製作してみよう!」では、板金部品で製作したブックエンドを例に展開図面の描き方のポイントを説明しました。
<設計と製造のポイント> ●展開とは立体の面を平面上に広げること ●曲げると伸びる力と縮む力が発生し中立線が存在する ●展開図には伸び値がある ●干渉確認はK係数を使う ●実際の展開の伸び値は板金加工会社と連携するか任せる |
少しの工夫で広がる板金レパートリー!
次回も皆さんのアイデアにつながるような情報を発信していきますね、お楽しみに。