この記事では、前回に引き続き「meviy 板金溶接加工サービス」を利用して、板金部品に溶接を追加する方法について紹介します。
前回の「メビーの板金溶接を使ってみた– 溶接レスとの比較も」では1辺を溶接するのみを紹介しましたが、今回はガーデンシンク(屋外用の流し台)を例に溶接を多用したモデルについて紹介します。
目次
水浸し問題と解決案
林家の庭の場合
写真は私の自宅庭にある立水栓です。手洗いに使用します。
家を建てた当初、ガーデンパンやガーデンシンクなどの水受けを設置せず、自然排水(雨が降ったときと同様に地面にそのまま水を浸透させる方法)で造りました。しかし、実際に居住し、立水栓を使用してみると、毎回水浸しになることがわかりました。
この場所は通路も兼ねていて、人や自転車が通過するので靴が汚れてしまいます。
家族からも「何とかしてほしい」と要望があり、ガーデンシンクの設置を検討します。
ガーデンシンクからの排水は、既存の雨どいに接続して利用します。排水については、市町村ごとに規則がありますので、確認して了承を得ました。
さっそく、ガーデンシンクをホームセンターやECサイトで探してみます。
探す条件は、設置後の通路幅を850mm確保したいので、ガーデンシンクの奥行が300mm以内であることですが、探した結果、大きいものばかりで条件に合うサイズが見つかりませんでした。
そこで、「meviy 板金溶接加工サービス」が登場します。
meviy 板金溶接加工サービスでオーダーメイド
市販していないものや、取り扱いがないサイズの物は、スーツのオーダーメイドのようにメビーで製作することが可能です。
ガーデンシンクの設計の前に、まずは立水栓と周辺の壁や雨どいを採寸し3D化します。
設計はSheetWorks※で作成します。
※SheetWorksは、3次元CADソフトウェアSOLIDWORKSをベースCADとし、板金製造業向けに特化したあらゆるコマンドを搭載したアマダ社製の3D CADソフトです。
ガーデンシクの設計
ガーデンシンクの設計を開始します。
ガーデンシンク底面の設計
立水栓周辺の3Dモデルを使用し、アセンブリモードでガーデンシンクの設計を行います。水が飛び散らない蛇口と底面の距離、ガーデンシンク壁面形状の基となる底面に焦点を置きます。
今回の設計において最も重要な部分は、ガーデンシンクの底面からの設計です。
[アセンブリ]-[新規部品]-[平面]を選択します。
※平面を地面とします。
ガーデンシンクの壁高さと水を受ける面を事前に参照平面として定義します。
蛇口-地面間は460mmです。
壁高さは蛇口と手を洗う隙間を考慮して地面から350mmにします。
水を受ける面は水が溢れないことを考慮して地面から290mmにします。
[平面]右クリック-[参照ジオメトリ]-[平面]-[オフセット距離]に350mmを入力。
同じ作業を繰り返し、290mmを入力します。
平面が2種類できました。後ほど活用します。
ツリーにあるそれぞれの平面の名前を「ガーデンシンク底面」「ガーデンシンク壁高さ面」に変更します。
次にガーデンシンクの上からみた形状を平面にスケッチします。
次にガーデンシンク底面を押し出しボスで作成します。
[フィーチャー]-[押し出しボス]を選択します。
次から[サーフェス/面/平面]に先ほど作成した「ガーデンシンク底面」を選択、方向1に[ブラインド1]、[1.5mm]、[輪郭選択]をします。
ガーデンシンクの底面が出来上がりました。
ガーデンシンク壁面の設計
次にガーデンシンクの壁を作成します。
シンクの底面と壁をすべて曲げ加工の一体物で展開することはできず、どこかの面を分割して溶接する必要があります。溶接よりも曲げのほうが低コストなので、なるべく長い距離が曲げになるよう、どの部分を曲げと溶接にするか決めます。
まずはガーデンシンク壁の曲げにする部分を押し出しボスで作成します。
ガーデンシンク底面にスケッチを開始し、図の3面をエンティティ変換します。
[フィーチャー]-[押し出しボス]を選択します。
方向1に「端サーフェス指定」先ほど作成した「ガーデンシンク壁高さ面」を選択、結果のマージにチェック、薄板フィーチャーに[片側に押し出し][1.5mm]を選択します。
ガーデンシンク壁の曲げにする部分が完成しました。
結果のマージにチェックをすることで、ガーデンシンク底面とガーデンシンク壁がくっついて単一ソリッドとなります。
ツリーにあるボディ名称を「メインボディ」に変更します。
次に溶接するガーデンシンク壁を押し出しボスで作成します。
ガーデンシンク底面にスケッチを開始し、図の3面をエンティティ変換します。
[フィーチャー]-[押し出しボス]を選択します。
方向1に[端サーフェス指定][ガーデンシンク壁高さ面]を選択、薄板フィーチャーに[片側に押し出し]、厚み[1.5mm]を選択します。
※結果のマージにはチェックしません。
溶接するガーデンシンクの壁が完成しました。
結果のマージにチェックしていないので、メインボディとはくっつかず複数ソリッドになります。
ガイドの設計
次に水を穴から雨どいに確実に落とすためのガイドを2パーツで作ります。
1つ目は溶接するガーデンシンク壁にくっつけます。
ガーデンシンク底面にスケッチを開始し、長さ36.5mmの直線を2本作成します。
[フィーチャー]-[押し出しボス]を選択します。
方向1に[ブラインド][41.5mm]、結果のマージにチェック、薄板フィーチャーに[片側に押し出し]、厚み[1.5mm]を選択します。
1つ目のガイドが完成しました。
2つ目のガイドを作成します。
ガーデンシンク底下面にスケッチを開始し、長さ36.5mmの直線を2本作成します。
[フィーチャー]-[押し出しボス]を選択します。
方向1に「頂点指定」で、さきほど作成したガイド1の「頂点」を選択、薄板フィーチャーに[片側に押し出し]厚み[1.5mm]を選択します。
※結果のマージにはチェックしません。
2つ目のガイドも完成しました。うまく水を雨どいに落とせそうです。
固定機能の設計
ガーデンシンクの機能は完成したので固定機能を作成します。
手前部分に2本の脚を作成し高さを地面の固定をします。
奥側部分はブラケットを作成し立水栓と固定します。
脚の作成
まずは脚の作成です。平面にスケッチを開始します。
30角、Φ10を作成します。Φ10は地面固定用の杭を通す穴です。
[フィーチャー]-[押し出しボス]を選択します。
方向1に[ブラインド1][1.5mm]を選択します。
脚の地面に接する部分が完成しました。
続いて足地面にスケッチ開始して長さ36.5mmの直線を2本作成します。
[フィーチャー]-[押し出しボス]を選択します。
方向1に[オフセット開始サーフェス指定]、[ガーデンシンク底下面]、[0.1mm]を選択し、結果のマージにチェック、薄板フィーチャーに[片側に押し出し]厚み[1.5mm]を選択します。
メインボディとは0.1mm隙間をあけることにより別ボディとし、足地面とは結果のマージにチェックしていることにより単一ボディになりました。
メインボディと0.1mm隙間があいていても「meviy 板金溶接加工サービス」では0.15mm以内の隙間は溶接箇所と認識します。
メインボディを基に中間平面を作成し、脚をミラーコピーして対称品を作成します。
脚が完成しました。
単体ブラケットの作成
次に、立水栓と固定するブラケットを作成します。
単体部品ブラケットとガーデンシンクに溶接するブラケットの2つを作成し蝶ボルトで固定します。
単体部品ブラケットの作成です。新規部品作成します。
平面にスケッチを開始します。
[フィーチャー]-[押し出しボス]を選択します。
方向1に[ブラインド]、[20mm]を選択、薄板フィーチャーに[片側に押し出し]、厚み[1.5mm]を選択します。
次に蝶ボルト固定用のM4タップを作成します。
[フィーチャー]-[穴ウィザード]を選択します。
穴タイプに[ねじ穴-ストレート]、穴の仕様:サイズ[M4x0.7]、押し出し状態[全貫通]を選択します。
穴ウィザードを使用することで、メビーにアップロードした時点で自動的に穴仕様を認識します。
けが防止で「フィレット(R)」を追加して単体部品ブラケットの完成です。
ガーデンシンクに溶接するブラケットの作成
次に、ガーデンシンクに溶接するブラケットの作成です。
ガーデンシンク壁高さ面にスケッチ開始し図のスケッチを作成します。
立水栓幅71mmでピッタリのところ、調整しろ1mm設け72mmとします。
[フィーチャー]-[押し出しボス]を選択します。
次に[オフセット]、[20mm]を選択し、方向1に[ブラインド]、[20mm]を選択します。
※結果のマージにはチェックしません。
固定用穴を作成します。
ブラケット面に長丸スケッチします。
[フィーチャー]-[押し出しボス]を選択します。
方向1に[全貫通]を選択します。
けが防止で「フィレット(R)」を追加します。
ガーデンシンクが完成しました。
meviy 板金溶接加工サービスの見積もり方法
3D CADデータをアップロード
メビーにログインし、板金溶接加工3Dモデルをアップロードします。
「ガーデンシンク」「ガーデンシンク」の2つのデータを同時にドラッグアンドドロップでアップロードします。
アップロードが完了しました。
ガーデンシンクが複数ソリッドのため、単一ソリッドごとの7個の部品に認識されます。
板金溶接加工サービスを利用するため対象プロジェクトにチェックを入れ[溶接構造にする]を選択します。
加工方法が[板金溶接]に変わりました。
溶接箇所の確認と溶接設定
操作詳細に移り溶接設定状態を確認します。
自動で展開ラインが設定され溶接箇所が設定されています。
しかしメインボディの曲げ想定部分が、分割され溶接構造になっています。
脚などそのほかの曲げ想定部分は問題ないです。
誤認識箇所の修正
形状に対し、押し出しボスで作成したピン角状態が悪影響かもしれません。
板金モデルに変換することで正しく認識できるケースがあります。設計のSheetWorksに戻りメインボディを板金に変換します。
ガーデンシンク底下面を選択し[板金]-[板金に変換]を選択します。
ベンドエッジに曲げたい3つの[エッジ1]、[エッジ2]、[エッジ3]を選択します。
再度アップロードし、問題なく認識できました。
3Dビュワーで溶接設定
再度、溶接設定状態を確認します。
溶接種類は[おまかせ]、溶接方法は[連続溶接]、溶接方向は[片側]、溶接仕上げは[焼け取りのみ]が選択されています。
今回は、家庭用ガーデンシンクなので水漏れ不可は指定しませんが、水漏れ不可を希望の場合は、その他追加指示のコメント入力(担当者見積)で依頼が可能です。
体裁面の変更
次に体裁面の確認です。体裁面はオレンジ色です。
メインボディの水が当たる面は非体裁面になっています。良く目に入る部分なので体裁面に変更します。
ツリービューにある[体裁面を反転する]項目をダブルクリックまたは3Dビューワー上部のツールバーから[体裁面を反転する]と記載のあるアイコンをクリックします。
体裁面反転指示ダイアログが表示されました。
該当するパーツを選択し[反転]をクリックします。
メインボディの体裁面が反転されました。
体裁面が反転すると溶接箇所も反転しました。
同様に溶接するガーデンシンク壁も反転します。
<ポイント> このように複数のソリッドデータをアップロードした場合、体裁面の向きがバラバラになり、そのままでは溶接の方向も揃いません。 都度確認し、ソリッドごとに体裁面を反転して揃える必要があります。 |
自動見積もりで型番を発行し注文
「見積条件を確定」を押して見積を確定させます。
価格と出荷日、型番が表示されました。価格は23,840円です。
安くはないですが、オーダーメイド品と考えると決して高い価格ではないと思います。
単体部品ブラケットと共に注文します。
ガーデンシンクの到着と取り付け
6日後、ガーデンシンクが届きました。
届いたガーデンシンクを確認する
運送中の変形がないように丁寧に梱包されているものを開梱していきます。
うまく形になっているか緊張します。
開梱しました。第一印象は思っていたより小さいです。
幅300x高さ350x奥行280ですから当然ですね。
体裁面に水を受ける面を指定したので綺麗です。
溶接箇所も綺麗に施されています。恐らくレーザー溶接です。これなら水漏れもなさそうです。
ブラケットはTIG溶接で、こちらも綺麗で頑丈に溶接されています。
ガーデンシンクの取り付け
ガーデンシンクを取り付ける前に、雨どいに集水機を取り付けます。
緊張の瞬間ですがガーデンシンクを立水栓に取り付けます。
うまく仮付けができました。
単体部品ブラケットと蝶ボルトを使用して固定します。
足底面にあけた穴を利用して地面に杭を打ち固定します。
実際に水を流して効果を確認します。狙いどおり排水口に向けて水が流れます。
溶接部分の水漏れもありません。
立水栓を使用しても水浸しになることなく、自転車も通過できます。
家族からもガーデンシンクがちゃんと機能して「便利になったし、かわいい」と好評です。
まとめ
いかがでしたか。
9つめの板金レシピ「板金溶接を多用したモデルの作成事例-ガーデンシンクを作ってみた」では、溶接を多用したモデルの作成方法について紹介しました。
溶接前の構成部品数が7個の製品を図面作成なしで製作できました。
今回のポイントを下記にまとめました。
<設計のポイント> ●溶接よりも曲げのほうがコスト安いので、なるべく長い距離が曲げになるように考える ●マージのオンオフで単一ボディ、複数ソリッドを使い分ける ●0.15mm以内の隙間は溶接箇所と認識する |
<メビーへアップロード後のポイント> ●誤認識箇所の手直しは板金モデルに変換 ●体裁面の確認と変更 |
家族からの「何とかしてほしい」の声を「メビーならできるかも?」の発想で解決しました。みなさんの職場の困りごとも「メビーならできるかも?」の発想で解決できるかもしれませんね。
次回もみなさんのアイデアにつながるような情報を発信していきますね、お楽しみに。