シャー切断は、材料を切り分ける切断加工の1つです。金属の加工をはじめ、紙や樹脂など、幅広く用いられています。ここではシャー切断の特徴や種類について解説します。
目次
シャー切断とは?
シャー切断とは、せん断加工の一つ
シャー(英:shear)切断とは、平行刃によるせん断加工を意味します。せん断力とは、物体をずらす方向に働く力で、例えば壁から突き出している棒にぶら下がって下向きの力をかけると、棒は手からは下向きの力を受けますが、固定されている壁からは上向きの力を受けます。このような力のかかりかたを、物体をずらす方向に働く力といい、せん断力というのです。金属には塑性があるため、せん断力を受けると最初は塑性変形を開始しますが、さらに力を加えていくと破断し、分離されます。シャー切断は、このような仕組みを利用して材料を切っています。
実は「はさみ」も、このせん断を利用して紙などを切っています。子供用のプラスチック刃のはさみでも紙が切れるのは、せん断を利用しているからです。
シャー切断は、金属や紙、樹脂などの切断に利用されています。シャー切断は、板金加工におけるレーザーカットやプレス抜きなどのように、製品の形を切り出すというよりは、コイル材のような大きな材料から加工しやすいサイズの材料を切り離す際や、定尺材から任意のサイズを切り出す際などに使用されています。
シャー切断の仕組み
シャー切断(シャーリング)の仕組みは、はさみとほぼ同じです。はさみで紙を切るとき、私たちは無意識に、下の刃を紙に沿わせ、上の刃を多く動かすようにして紙を切っています。シャー切断でも同じように、ダイとよばれる下刃を固定し、パンチとよばれる上刃を動かして加工物をはさんで切断しています。
はさみと同じように、上刃が加工物の面に対して傾いた状態で切り込んでいくため、この刃の傾きを「シャー角」といいます。切断する板が薄いときにはシャー角は小さく、板が厚いときにはシャー角を大きくとるのが一般的です。また、切断不良が発生する場合には、シャー角を小さ目にとるなどの対策がありますが、シャー角を小さくしすぎると、材料の変形につながるケースもあるため注意が必要です。一方で、シャー角が大きすぎても変形の原因になります。最適なクリアランスは、板の厚みによって変化するため、加工する材料が変わる場合には、その都度調整する必要があります。
シャー切断機(シャーリングマシン)の種類
シャー切断機は、シャーリングマシン、板金切断機、せん断機などと呼ばれています。シャー切断機にはいくつかの種類がありますが、中でも特に多く使用されるのが次の2つです。
機械式シャーリングマシン
機械式シャーリングマシンとは、機械的な動力によって上刃を動かして切断する機械です。フライホイールの力をクラッチで伝達させて、刃を動かします。構造がシンプルなためメンテナンスしやすいことや、加工スピードが速いのがメリットです。しかし切断時の衝撃が大きいことや、あまり厚い加工には向いていないのがデメリットです。目安として6mm以上の金属板は、機械式では切りにくくなります。
油圧式シャーリングマシン
油圧式シャーリングマシンは、油圧ポンプの力によって上刃を動かして切断する機械です。油圧で刃が動くため、負荷に関わらず安定した圧力が加えられます。そのため機械式シャーリングマシンでは加工が難しい、厚めの板の切断も可能で、6mm以上の金属板も加工できます。また切断時の衝撃が小さいのもメリットです。一方で加工スピードは機械式に比べて遅く、定期的なメンテナンスが欠かせません。
シャー切断で生じる「バリ」と「ダレ」とは?
シャー切断を行う際に注意したいのが、切断によって生じるバリとダレです。
先述のように金属板をシャー切断する際、金属板は切断に至るまでの間に塑性変形をしています。シャー切断のバリとダレはこの塑性変形によって生じます。
ダレとは、切断面の上部が上刃に押され、ずらされていった跡で、切断が進んだ方向に向けてRがついたように丸くなっています。
バリとは、切り離される部位が上刃に引っ張られるようにして引きちぎられていった跡で、切断が進んだ方向に向けて尖った形状をしています。
バリは他の加工で生じるバリと同じで、意図せず生じた突き出した形状です。シャー切断によって生じたバリだけの話ではありませんが、バリは他の部品を組み付ける際に邪魔になったり、作業者や製品の利用者を傷つけたりしてしまう可能性があるものです。そのため、バリが発生している面は磨いたり、バリ取りツールを利用したりしてバリを除去しなければいけません。
シャー切断に使用する機械の精度により、ダレやバリの大きさは変わります。特に上刃と下刃のクリアランスはダレの大きさに大きな影響を及ぼします。
シャー切断を施すメリット
シャー切断以外で材料を切断する方法には、ガスやレーザーを使う方法や、グラインダーやのこぎり、プレス機のような機械を使う方法など、さまざまな方法があります。他の方法と比較して、シャー切断には次のようなメリットが挙げられます。
- のこぎりでの切断や切削と異なり、切粉が出ない
- 分割加工と異なり、ブランク材(廃棄される部位)が出ないため、素材を無駄なく使える
- レーザーやガスと異なり、素材が熱により変形、変質しない
- 材料の無駄が出にくく、エコである(切断するサイズによっては無駄が出ることもある)
- 安定的で継続的な生産に向いている
- 刃物で切断しているため、切断面が比較的美しい
- 加工が速い
シャー切断は、薄い板から大きな材料を切り取るのに向いている加工です。そのため、同じような目的での加工としては、他の加工方法も多くあるわけではありません。例えばブランク材を購入していたものを、コイル材や定尺材を購入するようにして、自社でシャー切断を行ってから加工するようにすればコストの削減ができる可能性もあります。
まとめ
シャー切断(シャーリング切断)とは、せん断力を利用して加工物を切断する加工のひとつで、金属や紙のほか、樹脂などの板を切断するために使われます。上刃と下刃で材料にせん断力を利用して加工します。これははさみとよく似た原理です。
シャー切断を行う機械はシャーリングマシンとも、板金切断機やせん断機などとも呼ばれます。機械式シャーリングマシンと油圧式シャーリングマシンが一般的です。機械式では6mm以上の金属板は切りにくく、厚みのある板の加工には油圧式の方が向いています。
シャー切断された金属板には、ダレやバリが発生します。これは金属の塑性変形にともなうものなので、完全になくすのは不可能です。そのため必要に応じて磨きなどのバリ取り作業が必要になります。
シャー切断は、切粉や廃棄される部位が発生しないため、素材を無駄なく使えるエコな加工法です。