ものづくり基礎知識 金属・樹脂の材料

SKS3とは|特性・用途・熱処理・選び方まで徹底解説


SKS3(合金工具鋼)は、炭素工具鋼(SK材)にCr(クロム)やMn(マンガン)などを添加して焼入れ性を向上させた冷間ダイス鋼です。油焼入れにより、焼き割れや変形のリスクを抑えながら高い硬度と耐摩耗性が得られます。

本記事では、SKS3の特性やメリット・デメリット、他材料との比較、加工・熱処理のポイントを整理します。金型や治具のコストと性能の両立を考える際の参考にしてください。

SKS3とは

SKS3は、日本産業規格(JIS G 4404:2015)で規定される「合金工具鋼鋼材」の一種で、一般的に冷間ダイス鋼として分類されます。化学成分は以下のとおりです。

単位%

C Si Mn P S Cr Mo W V
0.90~1.00 0.35以下 0.90~1.20 0.030以下 0.030以下 0.50~1.00 0.50~1.00

※意図的に添加してはならない。

炭素工具鋼(SK材)に、マンガン(Mn)やクロム(Cr)、タングステン(W)といった合金元素を添加し、焼入れ性を向上させています。また、SKS3は熱処理時の寸法変化(歪み)がSK材に比べて格段に小さく抑えられている材料です。

「焼き割れしにくく、変形が少ない」という使い勝手の良さから、精密さが求められるゲージや金型、治具の標準的な材料として定着しています。

SKS3の特性

SKS3が広く使われるのは、コストと性能のバランスが良く、熱処理時の扱いやすさにも優れているためです。以下では、機械的特性と物理・化学的特性の2つの観点から説明します。

機械的特性

SKS3の機械的特性は、高い硬度と優れた耐摩耗性にあります。焼入れ・焼戻しによってマルテンサイト組織を形成し、さらにクロム(Cr)やタングステン(W)の炭化物が微細に分散することで、摩擦に強い表面状態を作り出します。

JIS G 4404で定められている、焼入れ・焼戻し後の硬さの基準は以下のとおりです。

焼入れ(℃) 焼戻し(℃) 焼入焼戻し硬さ(HV)
830 油冷 180 空冷 697

一方で、靭性に関しては、耐衝撃工具鋼(SKS4など)やハイス鋼に比べるとやや劣る傾向があります。高い硬度を持つ反面、大きな衝撃荷重がかかると欠けや割れが発生するリスクがあるため、設計時には過度な衝撃が加わらない用途を選定しなければなりません。

物理・化学的特性

SKS3の主な物理的性質(代表値)は以下のとおりです。

比重 熱伝導率(20℃時) 線膨張係数(20~100℃)
7.85 0.083CGS 12.2×10−6/℃

物理・化学的特性におけるSKS3の特徴は、油焼入れによる熱処理安定性です。

化学成分として添加されたマンガンやクロムが鋼の焼入れ性を向上させています。これにより、冷却速度の速い水冷ではなく、緩やかな油冷でも深部まで十分に硬化可能です。

ただし、耐熱性については注意が必要です。SKS3は低温焼戻し鋼であり、約200℃を超えると硬度が低下します。ハイス鋼のような赤熱硬さ(高温硬度)は持たないため、摩擦熱が高温になる高速切削や、熱間鍛造のような用途には適しません。

SKS3のメリット

優れた耐摩耗性と硬度

SKS3のメリットは、熱処理によって得られる高い硬度と優れた耐摩耗性です。焼入れ・焼戻しを行うことでHRC60前後の硬さを確保でき、さらに組織内に硬い炭化物(セメンタイト)が微細に分散するため、金属同士が擦れ合う環境でも摩耗しにくい性質を持ちます。

パンチやダイ、ガイド部品など、摺動や面圧による摩耗が寿命を左右する部品において、SKS3は優れた耐久性を発揮します。擦り減りにくいという特性が、金型や機械装置のメンテナンス頻度低減に役立つのです。

加工性が良く、コストパフォーマンスに優れる

SKS3は、材料費と加工費のトータルコストを抑えられる点もメリットです。高価なレアメタルの含有量がSKD11やハイス鋼に比べて少なく、材料単価が比較的安価だからです。また、熱処理前の状態では被削性が良好で、一般的な工具鋼の中では切削加工がしやすく、加工時間の短縮にもつながります。

「SKD11ほどの超寿命は不要だが、SK材では性能不足」というケースにおいて、SKS3は性能とコストのバランスが最も優れた選択肢となります。この経済性の高さが、少量多品種の金型や治具製作で重宝される理由です。

熱処理変形が比較的少ない

SKS3は、熱処理時の寸法変化や割れのリスクが小さいという、製造上のメリットを持っています。マンガンやクロムの添加により焼入れ性が向上しており、急激な冷却を必要とせず、穏やかな油冷で硬化できます。

この特性から、SKS3は国際的には「ノンシュリンク(無変形)鋼」とも呼ばれ、焼入れ後の寸法精度維持が容易です。精密な仕上げが求められるゲージや複雑形状の金型において、設計通りの精度を実現しやすい材料です。

SKS3のデメリット

耐熱性が低く高温環境に不向き

SKS3のデメリットは、耐熱性が低く、高温環境下での使用には適さない点です。SKS3は低温焼戻し鋼であり、約200℃を超える温度にさらされると、組織が変化して急激に硬度が低下してしまうためです。

ハイス鋼が600℃近くまで硬さを維持できるのに対し、SKS3の使用限界温度は低く設定されています。そのため、摩擦熱が高温になる高速切削工具や、熱間鍛造の金型として使用すると、すぐに軟化して機能が失われてしまいます。

靭性が不足しやすく、衝撃に弱い

SKS3は高硬度である反面、大きな衝撃に対しては靭性が不足しやすいというデメリットがあります。硬さを優先した組織構造であるため、強い衝撃荷重や繰り返しの打撃を受けると、割れや欠けが発生するリスクが高まるからです。

プレス金型でも大きな衝撃が加わる抜き型や、薄肉で割れやすい形状の部品には、SKS3では強度が不足する場合があります。そのような用途では、より靭性に優れた耐衝撃工具鋼を選定するか、焼戻し温度を調整して硬さを少し落とし、粘りを持たせるといった対策が求められます。

SKS3の主な用途

冷間プレス金型部品

SKS3は、冷間プレス金型におけるパンチやダイ、ストリッパプレートなどの主要部品として広く利用されています。焼入れによって高い硬度が得られ、板金の打ち抜きや曲げ加工における摩擦や面圧に耐えられるためです。

大量生産用の金型には長寿命なSKD11が選ばれますが、中~少量生産の金型においては、SKS3のコストパフォーマンスが光ります。油焼入れによる寸法変化が比較的小さいため、複雑な形状の金型部品でも、熱処理後の仕上げの手間を抑えつつ、必要な精度と強度を確保できる実用的な材料です。

治具・ゲージ類

寸法の正確さが命となる治具やゲージ類の素材としても、SKS3は標準的に採用されています。油焼入れ鋼であるSKS3は、熱処理時の変形や経年による寸法変化が少ない「熱処理安定性」に優れているためです。

具体的には、穴の直径を検査するプラグゲージや、軸径を測るリングゲージ、スナップゲージなどに使われます。SKS3は「ノンシュリンク(無変形)鋼」と呼ばれるほどの特性を持ち、精密測定具の信頼性を支えています。

耐摩耗性が求められる機械部品

SKS3は金型だけでなく、自動機や生産設備の機械要素部品、特に耐摩耗性が求められるスライド部分にも適した材料です。硬いマルテンサイト組織と炭化物の効果により、金属同士が擦れ合う摺動面でも優れた耐久性を発揮するためです。

ガイドブッシュやスライドレール、カムといった部品は、摩耗すると機械の動作精度に直結します。こうした部品にSKS3を採用することで、一般的な構造用鋼よりも遥かに長い寿命を実現し、設備のメンテナンス頻度を低減させることができます。

少量生産向けの切削工具

SKS3は、専用の刃物や小ロット生産用の切削工具の材料としても利用されます。熱処理前の状態では切削加工がしやすいため、複雑な刃型形状を作りやすく、その後の熱処理で十分な硬度を出せるからです。

ハイス鋼のような耐熱性はないため、高速切削には向きませんが、比較的低速で使用する切削工具であれば十分な性能を発揮します。

SKS3の加工と熱処理

推奨される熱処理条件(温度・冷却方法)

SKS3は油焼入れが推奨される鋼種で、水焼入れが必要なSK材に比べて穏やかな冷却で高い硬度を得られます。

具体的な条件としては、800~850℃の温度域で加熱し、油中で急冷する方法が一般的です。高速度工具鋼に比べると低い温度ですが、過度な加熱は結晶粒の粗大化を招き、靭性低下の原因となるため厳密な温度管理が求められます。なお、水冷は急激な冷却により割れのリスクが高まるため避けるべきです。

焼入れ直後の脆さを取り除くための焼戻しは、150~200℃で行います。SKS3は「低温焼戻し鋼」であるため、硬度を重視する場合は150℃付近、靭性を重視する場合は200℃以上といったように、用途に応じて温度を微調整し、硬度と靭性のバランスを最適化することが重要です。

加工時の注意点(切削・研削・放電加工)

SKS3の加工は、熱処理前と後で工法を使い分けるのが基本です。まず、熱処理前の焼なまし状態では比較的柔らかいため、一般的な超硬工具を用いて容易に切削加工が可能です。

焼入れ・焼戻し後のSKS3は高硬度になるため、砥石による研削で寸法を仕上げます。この際、摩擦熱で表面が再焼入れ・焼戻しされてしまう研削焼けや割れが発生しやすくなるため、十分な冷却液を供給しながら、浅い切り込みで慎重に加工しなければなりません。

また、複雑形状の加工に有効な放電加工(EDM)を行う場合は、加工表面に「白層(再凝固層)」と呼ばれる硬く脆い層が形成される点に注意が必要です。

寸法変化と歪みへの対策

SKS3は熱処理変形が小さい材料ですが、完全にゼロになるわけではありません。特に形状が複雑な部品や、厚みが不均一な部品では、冷却速度の差によって歪みが発生します。

設計・製造時における有効な対策として、応力除去焼なましが挙げられます。粗加工(切削)の後に、残留応力を開放するための熱処理を行ってから本番の焼入れを行うことで、焼入れ時の歪みを最小限に抑えられます。

さらに、仕上げ代の確保も欠かせません。どれだけ対策しても数十ミクロン程度の寸法変化は起こり得るため、図面寸法ぴったりに加工するのではなく、熱処理後の歪みを研削で修正するための取り代をあらかじめ見込んだ寸法で加工することが、精密部品製作の鉄則です。

他材料との比較と選定ポイント

SKD11(高クロム冷間ダイス鋼)との比較

SKS3とSKD11は、共に代表的な冷間ダイス鋼ですが、生産量と加工コストのバランスによって使い分けられます。SKD11はクロムを約12%含む高合金鋼であり、耐摩耗性が高いため、数万から数百万ショットの大量生産を行う金型に適しています。

一方で、SKS3はSKD11に比べて合金量が少なく、耐摩耗性では劣りますが、材料費が安く、かつ被削性に優れるというメリットがあります。SKD11は難削材であり製造コストが高くなりがちですが、SKS3であれば加工時間を短縮し、トータルコストを抑えることが可能です。

したがって、耐久性最優先の量産型ならSKD11、コストと納期のバランスを重視する中~少量生産型や治具ならSKS3というのが、一般的な選定の基準となります。

SKH(ハイス鋼)との比較

SKS3とSKH(ハイス鋼)の決定的な違いは、耐熱性と使用温度域にあります。SKS3は約200℃を超えると硬度が低下してしまうため、摩擦熱が発生する高速切削や熱間加工には使用できません。対して、SKHはタングステンやモリブデンを多量に含み、約600℃まで硬さを維持できるため、ドリルやエンドミルといった高速回転工具に不可欠な材料です。

しかし、SKS3はSKHよりも材料単価が大幅に安く、冷間環境下(常温)での使用に限れば十分な硬度と強度を発揮します。そのため、熱を持たないパンチやゲージ、あるいは低速で使用する特殊刃物などでは、高価なハイス鋼ではなく、コストパフォーマンスに優れるSKS3が積極的に採用されます。

SKS3を選ぶ際のポイント

SKS3が最適な選択肢となるのは、「コスト・精度・性能のバランス」が求められる場面です。設計者がSKS3を選定すべき判断基準は、主に3つの要素で構成されます。

まず大前提として、使用環境が冷間であり、使用温度が200℃以下で熱による軟化の懸念がないことです。次に、SKD11ほどの超寿命は不要だが、安価なSK材では焼き割れや変形のリスクがあり、必要な精度が出せない場合が挙げられます。そして最後に、形状が複雑で熱処理変形を抑えたいものの、加工工数と材料費は低く抑えたいというケースです。

つまり、SKS3は「SK材の欠点である変形や割れのリスクをカバーしつつ、SKD11ほどコストをかけたくない」という、実用性と経済性を両立させたい設計において、最も合理的な選択肢となります。

SKS3の加工見積もりはmeviy(メビー)へ

メビーでは、SKS3(相当)の他、SK105(SK3相当)、DC53といった焼入材質を取り扱っています。ズブ焼入れ・真空焼入れの熱処理や、無電解ニッケル・黒染め・硬質クロム(フラッシュ)・窒化処理にも対応しています。ぜひご活用ください。

製作事例

材質 SKS3(相当)
表面処理 無処理
サイズ 90×30×10
焼入れ ズブ焼入れ(HRC58~63)
出荷日 16日目~(焼入れ指定時)
参考価格 15,322円

※表中は2025年8月時点の情報

まとめ

SKS3は、炭素工具鋼の弱点であった焼き割れや変形のリスクを克服するために開発された冷間ダイス鋼です。最大の特徴は、油焼入れによって寸法変化を最小限に抑える「熱処理安定性」と、高い硬度・耐摩耗性を低コストで実現できる点にあります。これにより、精密な仕上げが求められる治具・ゲージや、中~少量生産の金型部品において、バランスの取れた選択肢となります。

また、加工性が良く材料費も安価であるため、トータルコストの削減にも大きく貢献します。ただし、その性能を適切に活かすには、200℃を超える高温環境では使用できないという耐熱性の限界を理解し、より耐久性が必要な場合はSKD11、耐熱性が必要な場合はSKHといったように、用途に応じた使い分けが不可欠です。

本記事の内容を参考に、SKS3の安定性と経済性をうまく設計に取り入れ、高品質かつ効率的な部品製作や金型設計にぜひご活用ください。