機械部品によく使われるSCM435は、高い強度と耐久性が特徴のクロムモリブデン鋼です。自動車から産業機械まで多用されている一方で、「S45Cとの違いは?」「加工時の注意点は?」といった疑問を持つ方もいるでしょう。
本記事では、SCM435の特性やメリット・デメリットについて詳しく解説します。具体的な用途や加工のポイントについてもまとめているので、材料選定や技術導入の判断の際の参考にしてください。
目次
SCM435とは?
SCM435とは、日本産業規格(JIS G4053)で規定される機械構造用合金鋼鋼材の一種です。主要成分である鉄にクロムとモリブデンが添加されていることから、通称「クロムモリブデン鋼」または「クロモリ鋼」とも呼ばれます。
具体的な化学成分は以下のとおりです。
単位%
C | Si | Mn | P | S | Ni | Cr | Mo | Cu |
0.33〜0.38 | 0.15〜0.35 | 0.60〜0.90 | 0.030以下 | 0.030以下 | 0.25以下 | 0.90〜1.20 | 0.15〜0.30 | 0.30以下 |
一般的な炭素鋼を凌ぐ高い強度と優れた焼入れ性を有し、熱処理(焼入れ・焼戻し)によって機械的性質が大幅に向上するのが最大の特徴です。
クロムの添加により耐食性が向上しており、未処理の炭素鋼と比べて錆びにくい性質を持ちます。ただし、ステンレスには劣るため注意が必要です。
なお、SCM435と比較される材料としてSCM435HとS45Cがあります。それぞれとの違いについて、以下にまとめます。
SCM435とSCM435Hの違い
SCM435Hは、JIS G4052で規定されている焼入れ性を保証した構造用鋼鋼材(H鋼)の一種です。一定の硬さが厚み方向にも保証される仕様となっており、大きな部品で均一な強度を得たいときには、このH鋼規格が用いられることがあります。
SCM435Hの化学成分は以下のとおりです。
単位%
C | Si | Mu | P | S | Ni | Cr | Mo | Cu |
0.32〜0.39 | 0.15〜0.35 | 0.55〜0.95 | 0.030以下 | 0.030以下 | 0.25以下 | 0.85〜1.25 | 0.15〜0.35 | 0.30以下 |
SCM〇〇Hのように末尾にHを付けることで、対応する鋼種に焼入れ性保証が付加されていることを示します。
SCM435とS45Cの違い
S45Cは、JIS G4051で規定されている機械構造用炭素鋼鋼材です。SCM435がクロムやモリブデンを含む合金であるのに対し、S45Cは炭素を主成分とするほぼ無合金です。
S45Cの化学成分は以下のとおりです。
単位%
C | Si | Mn | P | S | Ni | Cr | Cu | Ni+Cr |
0.42〜0.48 | 0.15〜0.35 | 0.60〜0.90 | 0.030以下 | 0.035以下 | 0.20以下 | 0.20以下 | 0.30以下 | 0.35以下 |
合金元素の差から、調質後の引張強さはSCM435に劣るものの、機械加工では切削しやすいという利点もあります。コストを抑えつつ中強度で十分な部品にはS45C、高強度と信頼性が不可欠な場合にはSCM435が選択されるのが実務的な使い分けです。
SCM435の特性
SCM435の機械的特性
SCM435の最大の魅力は、熱処理(調質)によって得られる優れた機械的特性です。具体的な機械的特性は以下のとおりです。
引張強さ(N/mm²) | 降伏点(N/mm²) | 硬さ(HBW) | 伸び(%) | 絞り(%) | シャルピー衝撃値(J/cm²) |
930以上 | 785以上 | 269~331 | 15以上 | 50以上 | 78以上 |
さらに耐熱性に優れている点も、SCM435の特徴です。500℃前後の高温環境下でも強度低下しにくいとの報告もあり、エンジン周辺など高温にさらされる用途でも安定した性能を保つことができます。
このように高い強度・靭性・耐熱性を持つSCM435は、強度と耐久性を求められる多くの機械部品や構造部材に採用されているのです。
SCM435の物理的特性
主な物理的特性は以下のとおりです。
比重 | ヤング率(GPa) | ポアソン比 |
7.85 | 210 | 0.30 |
これらの標準的な物理的性質は、純鉄や炭素鋼に比べて特殊というわけではありません。したがって、設計計算や加工時の熱影響を予測する上で特別な考慮が不要であり、扱いやすさの一因となっています。
また、元素添加による焼入れ性の向上も物理的特性の一つです。炭素0.35%相当の炭素鋼では困難だった厚い部品の硬化も、SCM435であれば大径部品でも深部までマルテンサイト組織を得やすくなっています。
SCM435のメリット
次に、SCM435のメリットについて見ていきましょう。主なメリットは以下の3つです。
高い強度と耐摩耗性
SCM435の最大のメリットは、調質処理によって得られる強度と耐摩耗性です。適切な焼入れ・焼戻しを行うことで、引張強さは930N/mm²以上に達し、硬度も269〜331HBWと高硬度が得られます。したがって、高負荷がかかる構造部品や締結力の高いボルト・ナット類に最適です。
さらに、単に硬いだけではなく優れた靭性(ねばり強さ)も併せ持つため、衝撃的な荷重に対しても破壊しにくいのが特徴です。この高硬度と靭性のバランスが、歯車やシャフト、クランクシャフトなど、高い面圧や摩耗にさらされる部品での長寿命化を実現します。
良好な加工性と焼入れ性
SCM435は高強度合金鋼でありながら、熱処理前の焼なまし状態では比較的良好な被削性を示す加工性に優れた材料です。必要に応じて鉛を添加した快削鋼(SCM435Lなど)も存在し、量産加工にも対応しています。
さらに、クロムとモリブデンの含有により焼入れ性に非常に優れている点もメリットです。油焼入れという比較的緩やかな冷却でも、鋼材の内部深くまで均一に硬化させることが可能です。そのため、大型のギアや厚肉のシャフトといった断面の大きな部品でも、中心部まで所望の強度と硬さを確保しやすいという大きな利点があります。総じて、「加工しやすく、狙った通りに硬くできる」材料といえるでしょう。
安定した供給とコストパフォーマンス
SCM435は、特殊鋼の中でも汎用性が高く、国内外で広く使用されているため、市場での流通量が豊富で安定した供給が期待できます。鋼材メーカー各社が製造しており、丸棒・角棒・平鋼・厚板・鍛造品など、多様な形状・サイズでの入手が比較的容易です。
また、長年にわたり多くの産業分野で使用されてきた実績から、熱処理条件や加工ノウハウが業界に広く蓄積されており、製造コストの安定化にもつながっています。
SCM435は優れた機械的特性と、比較的安価な材料費・加工費のバランスが取れた材料です。この「高性能でありながら比較的手頃」という点が、自動車部品から産業機械まで幅広く採用される理由のひとつとなっています。
SCM435のデメリット
一方で、SCM435には以下のようなデメリットも存在します。
応力腐食割れや焼割れの懸念
SCM435は高強度である反面、特定の環境下では応力腐食割れ(SCC)や水素脆化による遅れ破壊のリスクを考慮しなければなりません。特に、腐食性雰囲気や湿度の高い環境、あるいは電気メッキ処理時に鋼材内部に水素が侵入すると、時間経過とともに強度低下や割れが発生する可能性があります。これを防ぐため、メッキ後のベーキング処理(水素除去焼なまし)が不可欠です。
また、熱処理時の急冷によって「焼割れ」が生じる懸念もあります。SCM435は油焼入れが基本ですが、部品形状が複雑であったり肉厚が急変したりする箇所では、冷却時の熱応力によって微細なクラックが入ることがあります。適切な冷却方法の選択や必要に応じた予熱・段階冷却といった慎重な熱処理管理が必要です。
熱処理に対する管理の難しさ
SCM435の優れた機械的性質を引き出すには、適切な熱処理が必要です。焼入れ温度・保持時間・冷却速度、そして焼戻し温度と時間といった各パラメータを厳密に制御しなければ、目標とする強度や靭性を得られないばかりか、逆に材料を脆化させてしまう危険性もあります。
また、部品のサイズや形状によって熱処理条件の最適化が必要であり、均一な熱処理を施すには高度な技術と経験、そして適切な設備が不可欠です。加工工程全体を計画する際には、熱処理による寸法変化や歪みも考慮しなければなりません。
溶接性に注意が必要
炭素含有量や合金元素量が比較的多いため、SCM435の溶接性は一般的に良好とはいえません。溶接時の急熱急冷によって熱影響部(HAZ)が非常に硬く脆いマルテンサイト組織に変態しやすいため、溶接割れ(特に低温割れ)のリスクが高まります。
このリスクを抑制するためには、溶接前に部材を200〜350℃程度に予熱し、溶接後も適切なパス間温度管理や後熱(応力除去焼なましなど)を行うといった慎重な施工管理が必須です。
また、低水素系の溶接材料を選定し、溶接部への水素侵入を極力避けることも重要です。溶接部の機械的性質は母材と異なる可能性があるため、構造設計においてもその点を考慮に入れる必要があります。
SCM435の用途
SCM435はその優れた特性から、さまざまな分野の機械部品に広く使用されています。代表的な用途は以下のとおりです。
自動車業界 | クランクシャフトやコンロッド・歯車類・トランスミッションの部品など |
建設機械・重機分野 | 油圧ショベルやクレーンの各種ピンやシャフト・ギア部品・高強度ボルトなど |
航空・宇宙部品 | 航空機の着陸脚部品やエンジン周辺の部品・ロケットの地上試験設備の部品など |
産業機械部品・金型関連 | 工作機械やロボットの軸やギア・油圧機器のシリンダーロッド・プレス機の金型ホルダーなど |
SCM435の加工方法とポイント
SCM435の性能を最大限に引き出すには、適切な加工方法の選択と各工程でのポイントを理解することが不可欠です。主な加工種類と注意点は以下のとおりです。
- 切削加工
熱処理前の生材は比較的削りやすいものの、調質後は硬度が高く難削材となります。適切な工具材質の選定、加工硬化への対策、十分な冷却と潤滑が重要です。
- 熱処理
焼入れ・焼戻し(調質)により高強度・高靭性を付与します。焼割れ防止のための適切な冷却速度管理や、歪み・寸法変化を考慮した工程設計が求められます。
- 表面処理
耐摩耗性・耐食性・疲労強度などをさらに向上させるために行う処理です。高周波焼入れ・窒化処理・各種めっき(硬質クロム・無電解ニッケル等)・黒染めなど、目的に応じた処理を選択します。
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まとめ
本記事では、自動車部品から産業機械まで幅広く活用されているSCM435について、特性からメリット・デメリット、用途や加工時の注意点についてまとめました。コストパフォーマンスに優れた材料であるものの、性能を最大限に引き出すには適切な対策が必要です。
紹介した内容を参考にSCM435の活用方法を理解し、信頼性の高い製品設計・開発につなげてください。