クロロプレンゴム(CR)は、1931年に開発された合成ゴムで、「ネオプレン」という商品名でも広く知られています。天然ゴムの代替として、耐候・耐熱・耐油性と機械的強度をバランス良く備えています。
本記事では、クロロプレンゴムのポテンシャルを引き出すために必要な特性やメリット・デメリット、具体的な用途について解説します。加工における重要なポイントにも触れるので、設計・開発担当の方は最後までご覧ください。
クロロプレンゴム(CR)とは?
クロロプレンゴム(CR)は、クロロプレンを重合させて作られる合成ゴムの一種です。天然ゴムが持つ弾性を維持しながら、耐油性や耐候性といった弱点を改良する目的で開発されました。屋外や高温・油環境でも劣化しにくい点が特長です。
塩素原子を含む構造により、耐熱・耐オゾン・耐薬品性と難燃性が付与されています。この汎用性の高さから、単一の材料でさまざまな要求仕様を満たさなければならない設計において、選択肢の一つとして検討される信頼性の高い材料です。
クロロプレンゴムとネオプレンゴムの違い
設計の現場でクロロプレンゴムは、しばしばネオプレンゴムと混同されます。クロロプレンゴムは、化学的な名称(物質名)であり、特定の化学構造を持つ合成ゴム全般を指します。一方、ネオプレンは、1931年に世界で初めてクロロプレンゴムを商業生産したアメリカのデュポン社の商品名です。長年にわたり市場をリードしてきたため、この商品名がクロロプレンゴムの代名詞として広く浸透しました。
設計図面や仕様書でネオプレンゴムと記載されていても、クロロプレンゴムを指していると理解して問題ありません。一般的な呼称としては、クロロプレンゴムまたは化学略称であるCRを使用するのがより正確といえます。
クロロプレンゴムの特性
クロロプレンゴムの機械的特性
クロロプレンゴムは、機械的強度に優れた材料です。代表的なクロロプレンゴムの機械的特性は以下のとおりです。
項目 | 単位 | 値 |
比重 | – | 1.6 |
硬度 | ショアA | 65 |
引張強さ | MPa | 13.3 |
伸び | % | 460 |
※引張強さ、伸びの各特性値はJIS規格K6251に基づき試験を行っております。
引張強さや弾性といった物理的な強度が高いため、繰り返し使用される部品や、ある程度の力がかかる部分にも安心して使用できます。また、反発弾性にも優れるため、衝撃吸収や振動抑制用途にも適しています。耐摩耗性も良好で、摺動部や接触が多い箇所でも長期間性能を維持可能です。
機械的特性は、配合によって調整が可能であり、設計者は用途に応じて最適な物性値を持つ材料を選べます。
クロロプレンゴムの物理・化学的特性
クロロプレンゴムの最大の特長は、物理・化学的特性のバランスです。主鎖に塩素原子を含むため、ほかの合成ゴムと比較して、耐候性や耐オゾン性、耐熱性に優れています。屋外での使用や、エンジンルームのような高温環境でも劣化しにくいのが大きな利点です。使用温度範囲の目安は-35℃から100℃とされています。
また、優れた耐油性・耐薬品性を持ち、鉱物油や多くの化学薬品に対して高い抵抗力を示します。塩素の働きにより自己消火性を有しているため、難燃性が求められる電線の被覆材や建築資材などにも有効です。ただし、耐水性や電気絶縁性、耐寒性には一定の限界があるため、設計時には考慮しなければなりません。
クロロプレンゴムのメリット
性能バランスに優れ、多用途に対応できる
クロロプレンゴムの最大のメリットは性能バランスです。特定の性能が突出しているゴム材料はほかにもある一方で、クロロプレンゴムは耐候性や耐熱性、耐油性、耐薬品性、難燃性、そして機械的強度といった、設計で要求される多くの特性をひとつの材料で高い水準で満たしています。非常に汎用性が高く、自動車、建設、電線、接着剤など、多岐にわたる分野で使用されている材料です。
部品点数の削減や材料選定プロセスの簡略化につながるため、結果としてコストダウンや開発期間の短縮にも有効です。設計者にとって、「迷ったらまずCRを検討」という信頼性と汎用性は、大きな強みといえるでしょう。
過酷な環境に強い(耐候・耐熱・難燃性)
クロロプレンゴムは、屋外や高温環境といった過酷な条件下でも安定した性能を維持できます。分子構造に含まれる塩素原子の効果により、紫外線やオゾンによる劣化が起こりにくく、優れた耐候性・耐オゾン性を発揮します。
また、耐熱性も良好で、一般的な使用温度範囲は100℃程度までとされており、エンジン周辺のホースやベルト類にも使用可能です。さらに、自己消火性を持つという難燃性の特性を示すため、安全性が最優先される用途で使用されます。
機械的強度・加工性が高く扱いやすい
優れた機械的強度と加工性を両立しているクロロプレンゴムは、設計者や製造者にとって扱いやすい材料です。ゴムでありながら金属との接着性にも優れており、防振ゴムのように金属と一体で成形される製品も容易に製造可能です。
射出成形や圧縮成形、カレンダー加工など、一般的なゴムの加工方法に対応できます。切削加工や打ち抜き加工によるシート材からの部品製作も容易であり、試作品から量産品まで柔軟な生産が可能です。
強度と加工しやすさのバランスが取れているため、設計の自由度を損なうことなく、信頼性の高い製品を効率的に生み出せます。
クロロプレンゴムのデメリット
低温環境で硬化しやすく、耐寒性に限界がある
クロロプレンゴムのデメリットのひとつが耐寒性の低さです。低温環境下ではゴムの柔軟性が失われ、低温脆化が起こりやすくなります。一般的な使用温度範囲の下限は-35℃前後とされているため、極寒冷地や特殊な冷凍・冷却環境での使用には注意しなければなりません。
部品が硬化すると、シール性が低下して流体漏れを引き起こしたり、振動吸収能力が失われたり、衝撃によって亀裂や破損が生じやすくなったりします。-40℃以下の環境が想定される設計では、シリコンゴムや天然ゴムなど、優れた耐寒性を持つほかの材料を検討すると良いでしょう。
塩素含有ゆえの環境上の制約
クロロプレンゴムの優れた特性の多くは、分子構造に含まれる塩素に由来します。ただし、塩素が環境面での制約となる点に注意が必要です。とくに、廃棄・焼却時にダイオキシンなどの有害なハロゲン系ガスが発生する点を認識しておきましょう。
近年、RoHS指令やELV指令、REACH規則など、環境負荷物質に対する規制は世界的に強化される傾向にあります。欧州向けの製品や、環境配慮を強くアピールする製品においては、クロロプレンゴムの使用が制限されたり、代替材料への切り替えが要求されたりするケースも増えているため注意が必要です。
高い耐水・絶縁用途には不向き
クロロプレンゴムは、一定の耐性は持つものの、高いレベルの耐水性や電気絶縁性が求められる用途には不向きです。耐水性に関しては、長時間水に浸漬されるような環境では、水を吸収して膨潤する性質があります。寸法安定性が厳しく求められる水中ポンプのシール部品や、常に水と接触するパッキン類に使用すると、性能低下や寿命の短縮を招く可能性があります。
電気絶縁性についても、汎用ゴムとしては平均的なレベルであり、特別に高い絶縁破壊強度はありません。高電圧がかかる部品の絶縁カバーや、精密な電気回路を保護するような用途には、より高い電気絶縁性を専門とする材料を選定するべきです。
クロロプレンゴムの用途
クロロプレンゴムは、バランスの取れた特性から、以下のように多種多様な用途で使用されています。
用途分類 | 具体的な用途 | 採用される理由 |
自動車部品 | エンジンマウント、各種ホース(パワーステアリング、ヒーター)、ベルト(ファンベルト)、ブーツ類、ウェザーストリップ | 耐熱性、耐油性、耐候性、振動吸収性、機械的強度がバランス良く求められるため |
建設・土木資材 | 建築用ガスケット、窓枠シール、防振ゴム、橋梁用ゴム支承、コンクリート目地材 | 優れた耐候性と耐オゾン性により屋外での長期使用に耐え、振動吸収性や圧縮永久歪みが小さいため |
電線・ケーブル | キャブタイヤケーブルの被覆、鉱山用ケーブル、溶接用ケーブル | 難燃性、耐摩耗性、耐油性、耐候性を活かし、過酷な現場での断線や火災のリスクを低減するため |
工業用製品 | コンベアベルト、ゴムロール、パッキン、ガスケット、送風機ダクト | 耐油性、耐摩耗性、耐熱性を持ち、さまざまな工業プロセスにおける耐久性が要求されるため |
接着剤 | ゴム・金属・木材・プラスチック用の接着剤 | 初期接着力が強く、柔軟性と耐水性のある接着層を形成できるため |
その他 | ウェットスーツ、救命筏、ゴムボート | 気密性、水密性、耐候性に優れ、独立気泡構造による断熱性や浮力を活かせるため |
クロロプレンゴムの加工種類とポイント
成形(射出・圧縮)加工のポイント
射出成形と圧縮成形は、クロロプレンゴムで部品を製造する際の代表的な加工法です。射出成形は、金型内に溶融した材料を高速で射出・充填するため、Oリングやガスケットのような小型部品の大量生産に適しています。設計時には、材料がスムーズに流れるよう、極端な肉厚の変化や鋭い角を避けることがポイントです。
圧縮成形は、金型に配置した材料を熱と圧力で時間をかけて硬化させる方法で、防振ゴムのような大型の製品や、厚みのある製品に向いています。圧縮成形品を設計する際は、金型からの離型を考慮し、適切な抜き勾配を設けることが重要です。
いずれの製法でも、金型費用が発生するため、初期投資と生産ロット数のバランスを考慮し、工法を選定しましょう。
切削・打ち抜き加工のポイント
切削加工や打ち抜き加工は、クロロプレンゴムのシート材やブロック材から、ガスケットやパッキンといった平面的な形状の部品を製作する際に用いられます。金型が不要、もしくは簡易的な抜き型で済むため、試作品や小ロット生産に有利です。
ゴムは弾性を持つため、切削や打ち抜きの際に材料が変形しやすく、金属加工のような高い寸法精度を出すのは困難です。一般的な公差よりも広い公差を設定するか、加工業者と事前に達成可能な精度について協議しましょう。また、製品の角部は、応力集中を避けるために可能な限りR(丸み)をつけることが推奨されます。
接着・二次加工のポイント
クロロプレンゴムは、接着性に優れたゴムです。専用のクロロプレン系接着剤を使用すれば、ゴム同士はもちろん、金属やプラスチック、布など異種材料とも接着できます。接着設計のポイントは、十分な接着面積を確保することです。接着強度は面積に比例するため、可能な限り広い面で接合するよう設計しましょう。接着面は剥離方向の力(ピール強度)に弱いため、せん断方向に応力がかかるような接合構造にすることが理想的です。
二次加工としては、表面にコーティングを施して滑り性を向上させたり、印刷でマーキングを入れたりすることも可能です。後加工を検討する際は、使用するコーティング剤やインクとクロロプレンゴムとの相性を確認して、剥がれや変色といった不具合を防ぎましょう。
クロロプレンゴム加工の見積もり依頼は「meviyマーケットプレイス」へ
クロロプレンゴムの部品製作には、ぜひメビーマーケットプレイスをご活用ください。
メビーマーケットプレイスは、製造パートナーからあらゆる機械加工部品を手配できる日本最大級の製造業マーケットプレイスです。ミスミのIDがあれば新規の口座開設なしで加工部品を手配できます。
3Dもしくは2Dの設計データをアップロードし、加工方法・材質・表面処理などの見積条件を設定すると、条件に合ったパートナーが提案されます。複数の加工会社に個別で問い合わせる手間を削減できるほか、見積もりや出荷日などの条件を比較・検討する時間も短縮できます。
まとめ
クロロプレンゴム(CR)は、耐候性、耐熱性、耐油性、難燃性、機械的強度といった多くの性能をバランス良く兼ね備えた、非常に汎用性の高い合成ゴムです。一方で、耐寒性や耐水性、環境規制といったいくつかの注意点も存在するため、要求仕様に合った設計が求められます。
本記事で紹介した特性やメリット・デメリット、加工上のポイントを参考にして、クロロプレンゴムのポテンシャルを引き出した部品設計を行ってください。