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EPDM(エチレンプロピレンゴム)とは?特性や用途・加工上のポイントを解説

EPDM(エチレンプロピレンゴム)は、自動車のドアシールや屋外ケーブル被覆などに広く使われる合成ゴムです。耐候性・耐水性に優れており、近年では鉛フリー・ハロゲンフリーな素材としても注目されています。

本記事ではEPDMの基本特性やメリット・デメリット、用途について詳しく解説します。加工方法とポイントについても説明するので、材料選定に悩む設計・開発担当の方は最後までご覧ください。

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4(エチレンプロピレンゴム)とは?

EPDMとは「Ethylene Propylene Diene Monomer(エチレン・プロピレン・ジエン・モノマー)」の略称で、エチレンとプロピレンに少量のジエン系化合物を加えて共重合した合成ゴム材料です。

最大の特徴は、主鎖(分子骨格)に二重結合を持たない飽和型構造である点です。この化学構造により、熱・光・オゾンによる劣化に非常に強く、優れた耐候性を発揮します。一方で、極性基を持たないため耐油性は低いという弱点も併せ持ちます。

EPDMの特性

EPDMの機械的特性

EPDMは配合次第で硬度を大きく変えられるゴムです。代表的な機械的特性を以下に示します。

項目 単位
比重 1.2
硬度 ショアA 65
引張強さ MPa 12.8
伸び 490

※引張強さ、伸びの各特性値はJIS規格K6251に基づき試験を行っております。

EPDMは配合次第で硬度や引張強さ、破断時の伸びが調整可能で、優れた弾力性と伸長性を示します。耐摩耗性も良好で、多くの工業製品で求められる耐久性を満たす材料です。一方で、引き裂き強さは中程度であり、鋭利な傷からの裂け目には注意しなければなりません。

EPDMの物理・化学的特性

EPDMの最大の特徴は、熱・光・オゾンに極めて強い耐候性です。屋外で長期間使用してもひび割れや硬化が起きにくく、数十年単位の寿命が期待できます。耐熱性も良好で、120℃の高温環境に耐えられます。また、-40℃以下の低温でも柔軟性を保つ優れた耐寒性を持つ材料です。

水、酸、アルカリなどの極性溶剤にも強い耐薬品性を示すものの、鉱物油やガソリンなどの非極性溶剤には膨潤・劣化してしまいます。電気絶縁性にも優れている一方で、自己消火性はないため難燃性が求められる用途には不向きです。

EPDMのメリット

EPDMを採用することで得られる代表的なメリットを3つ紹介します。

過酷な屋外環境でも長期間性能を維持

日光(紫外線)、風雨、オゾンによる劣化に非常に強く、屋外で長期間使用しても亀裂や物性低下が起きにくいのが特徴です。耐熱性・耐寒性も兼ね備えており、高低温の過酷な条件下で長期的な信頼性が求められる用途に適しています。

水・薬品・絶縁用途に強く、クリーンな素材

水や湿気に抜群の耐久性を持ち、給水・排水設備のパッキンとして多用されます。酸・アルカリなどの薬品にも強く、工業用途のシール材にも有効です。高い電気絶縁性を誇り、ハロゲンや重金属を含まないクリーンな配合が可能であるため、環境規制(RoHS指令など)にも対応可能です。

配合設計の自由度が高く、コスト面でも有利

比重が小さく、安価な充填剤(フィラー)を大量に配合しても性能低下が少ない「高充填性」という特性があります。要求性能を満たしつつ材料コストを大幅に削減可能です。ポリマーの種類や加硫方法の選択肢が豊富なので、耐熱性や圧縮永久歪みなどの特性のカスタマイズが容易です。

EPDMのデメリット

多くの利点がある一方で、EPDMには設計・選定時に注意すべきデメリットも存在します。

油や燃料に極端に弱い

非極性の炭化水素系ゴムであるため、鉱物油、潤滑油、ガソリンなどの油に触れると著しく膨潤・軟化し、強度が大幅に低下します。エンジン周りのオイルシールや燃料ホースなど、油に接触する可能性がある箇所での使用は絶対に避けるべきです。

接着しにくく、表面処理に工夫が必要

化学的に安定した非極性材料であるため、一般的な接着剤では十分な接着強度が得られません。ゴム同士や金属との接着には、EPDM専用のプライマー処理やコロナ処理などの表面改質が必要となります。塗装や印刷も定着しにくいため、接着・表面加工が伴う設計では、事前の対策が求められます。

難燃性がないため防火用途に不向き

自己消火性がなく、一度着火すると燃え続ける材料です。建築内装材や車両内装などで難燃性が要求される用途には単体では使用できません。難燃剤を配合したグレードも存在しますが、EPDM本来の優れた弾性や耐候性が損なわれる場合があります。

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EPDMの用途

EPDMの特性を活かし、さまざまな産業分野で利用されています。代表的な用途は以下のとおりです。

業界 用途例 選ばれる理由
自動車 ウェザーストリップ、ラジエータホース 耐候性・耐熱性・耐冷性
建築・土木 屋上防水シート、止水材 耐久性・長寿命・寸法安定性
電気・電子 ケーブル被覆、ブッシング、Oリング 絶縁性・耐湿性・高低温での安定性
医療・食品 パッキン、ホース、ガスケット 無毒・耐熱・薬液耐性・食品衛生適合性

各業界別に詳しく見ていきましょう。

自動車業界

自動車分野はEPDMの最大の用途先のひとつです。ドアや窓枠の隙間を埋めるウェザーストリップは、屋外の過酷な環境に耐える耐候性と耐寒性が求められるためEPDMが最適です。また、高温の冷却水が流れるラジエータホースも、耐熱性と耐薬品性に優れるEPDMが適しています。ただし、オイルシールや燃料ホースなど耐油性が必須の箇所には使用しません。

建築・土木分野

建築・土木分野では、優れた耐久性が高く評価されています。ビルの屋上防水に使われるゴムシート防水材は、EPDMの耐候性により長期間の耐用年数が期待できます。窓サッシの気密・水密を保つガスケットにも、紫外線や温度変化に強いEPDMが主流です。上下水道管の継手用パッキンなど、長期的な信頼性が求められるインフラ設備に不可欠な材料です。

電気・電子分野

EPDMの優れた電気絶縁性と耐候性は、電気・電子分野で重宝されます。屋外に敷設される高圧電線の絶縁被覆や、電力設備の防水ブッシングにはEPDMが長年使用されてきました。ハロゲンを含まないため、燃焼時に有害ガスを発生させない「ハロゲンフリー電線」の材料としても注目されています。水濡れ環境でも絶縁性能を維持できるため、屋外機器の防水シールとしても信頼性が高いです。

食品・医療分野

EPDMは、適切な配合により食品衛生法やFDA(米国食品医薬品局)規格に適合し、安全性と清浄性が求められる分野でも使用されます。食品製造ラインのパッキンや、飲料タンクのシール材が具体例です。繰り返しの高温蒸気洗浄にも耐える耐熱性も利点です。医療分野では、注射器のピストン(ゴムプランジャー)など、薬液に対する低溶出性と安定性が評価されています。

EPDMと他材料の比較・選定ポイント

EPDMを選定する際は、ほかのゴム材料との比較が不可欠です。主なゴム材料との比較を以下の表にまとめます。

特性項目 EPDM ニトリルゴム クロロプレンゴム シリコンゴム
耐候性
耐熱性 ○~◎
耐寒性
耐油性 ×
難燃性 ×
電気絶縁性

要求される特性の優先順位(耐候性>耐油性など)を明確にすることが、最適な材料を選定する鍵となります。

EPDMの加工種類とポイント

金型成形(射出成形・圧縮成形)におけるポイント

金型成形は、Oリングやブーツ類など複雑な形状の部品や、量産品の製造に不可欠な工法です。後工程での手戻りを防ぐため、ゴム特有の性質を設計初期段階で図面に織り込む必要があります。

耐熱性や圧縮永久ひずみなどの要求性能に応じて、硫黄加硫か過酸化物加硫かといった加硫システムを材料メーカーと協議し、指定しなければなりません。成形後の収縮率(1.5〜2.5%程度)を考慮した寸法公差の設計は必須です。

EPDMは他材との接着性が低いため、金属部品とのインサート成形では、単に接着剤を指定するだけでは不十分です。剥離を防ぐためのアンダーカットやローレット加工といった機械的な結合(アンカー効果)も設計に盛り込むことが、製品の信頼性を大きく左右する重要なポイントとなります。

押出加工におけるポイント

ウェザーストリップやホースなど、長尺で均一な断面形状を持つ製品には押出加工が用いられます。最も重要なのは、金型(ダイス)の出口で材料が膨らむ「ダイ膨張」の考慮です。目標とする寸法を正確に得るには、ダイ膨張を見越したダイス形状を設計に反映させる必要があります。

シール材を軽量化するためにスポンジ状に発泡させる場合は、寸法公差が大きくなることを許容できるようなクリアランス設計が不可欠です。金属芯材を一体で押し出す複合押出では、EPDMの接着性の低さを補うため、ゴムが芯材を完全に包み込み、機械的に抜け落ちないような断面形状を設計することが長期信頼性の確保につながります。

切削・打ち抜き加工におけるポイント

試作品や少量多品種、大型のシートガスケットなど、金型製作がコストやリードタイムに見合わない場合に、切削・打ち抜き加工は効果を発揮します。ただし、金属加工のようなミクロン単位の精度は望めず、一般的に±0.5mm程度の公差が限界と認識してください。精密な嵌合が求められるシール部品には不向きであり、フランジガスケットや防振スペーサーなど、比較的ラフな寸法で機能する部品への適用が現実的です。

加工性は材料硬度に依存するため、ショアA硬度50以上の材料を選定することが前提となります。開発の初期段階で迅速に形状を検証する手段と割り切り、量産時には金型成形へ移行することを見据えた使い分けが賢明です。

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まとめ

EPDMは、優れた耐候性を誇る一方で、耐油性に乏しいという明確な長所と短所を持つ合成ゴムです。特性を深く理解し、自動車のシール材や建築の防水シートといった「適材適所」で用いることが、製品の信頼性を高めます。

本記事で解説した内容を参考に、用途や適切な加工法を選び、効率的な製品開発に活かしてください。

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