
低密度ポリエチレン(LDPE, Low Density Polyethylene)は、優れた柔軟性と加工性から、包装フィルムや日用品の容器などに広く利用される汎用プラスチックです。製造業の設計・開発担当者にとって、軽量でコストパフォーマンスに優れた製品を開発する上で、扱いやすい樹脂のひとつです。ただし、性能を最大限に活かすには、耐熱性の低さや剛性といった材料特性を正しく理解し、適材適所で活用する知識が求められます。
本記事では、LDPEの基本特性からメリット・デメリット、高密度ポリエチレン(HDPE, High Density Polyethylene )との具体的な違い、さらには加工時のポイントまで解説します。プラスチック製品の材料選定に関わる設計・開発担当者の方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
低密度ポリエチレンとは?
低密度ポリエチレン(LDPE)は、「軟質ポリエチレン」とも呼ばれる、柔らかくしなやかな性質を持つ代表的なプラスチックです。この柔軟性は、分子構造に多数の枝分かれを持つことに由来しており、分子同士が緻密に整列できないため密度が低くなっています。
日本産業規格(JIS K 6922-1:2018)によると、密度が911〜925kg/m³の範囲にあるポリエチレンが、低密度ポリエチレンに分類されます。1933年に世界で初めて発見されたと言われる歴史の古い樹脂であり、優れた耐水性、耐薬品性、加工のしやすさから、食品用ラップフィルムやポリ袋、スクイズボトル(押し出し容器)など、私たちの生活に身近な製品に幅広く利用されている材料です。
低密度ポリエチレンの特性
低密度ポリエチレンの材料選定では、特性の正しい理解が重要です。ここでは機械的特性と、物理・化学的特性に分けて、物性値の表を交えながら詳しく解説します。
機械的特性
低密度ポリエチレンの代表的な機械的特性は以下のとおりです。
| 引張強さ(MPa) | 引張伸び(%) | 引張弾性率(MPa) | 硬度(ショア) |
| 8~31 | 100~650 | 180~280 | D44~50 |
低密度ポリエチレンの最大の機械的特徴は、優れた柔軟性と耐衝撃性です。
分子構造に多くの枝分かれがあり結晶化度が低くなるためで、ゴムのようなしなやかさが生まれます。そのため、手で握って中身を出すスクイズボトルや、衝撃を吸収する緩衝材、破れにくいポリ袋などに広く利用されています。また、-60℃程度の低温環境でも脆くなりにくく、冷凍用途にも適している材料です。
一方で、剛性や引張強度は他のプラスチックに比べて低いため、大きな荷重を支える構造部材には向きません。このように、LDPEは強度よりも柔軟性や割れにくさが求められる用途に適しています。
物理・化学的特性
主な低密度ポリエチレンの物理・化学的特性を以下の表にまとめます。
| 比重 | 線膨張率(x10-5/℃) | 耐酸・耐アルカリ性 | 耐溶剤性 | 吸水率(重量%) |
| 0.92~0.93 | 10~22 | 酸化性酸に侵される | – | <0.01 |
低密度ポリエチレンは、軽量で耐水性・耐薬品性に優れるという物理・化学的特性を持つ材料です。
比重が水よりも軽く、分子構造が化学的に安定したポリオレフィンであるため、吸水性が低く、多くの酸やアルカリに侵されません。この特性から、食品の鮮度を保つ包装フィルムや液体容器、薬品ボトルなどに広く使われています。また、無味無臭で衛生性が高い点も大きな利点です。
ただし、一部の有機溶剤や紫外線には弱いため、使用環境には注意が必要です。このように、低密度ポリエチレンは水や薬品に強く、軽くて安全なため、特に包装材や容器の分野で優れた性能を発揮します。
低密度ポリエチレンのメリット
設計材料として見たときの、代表的な低密度ポリエチレンのメリットについて見ていきましょう。
柔軟で割れにくい
低密度ポリエチレンの最大のメリットは、優れた柔軟性と耐衝撃性です。分子構造に由来するしなやかな性質を持つため、硬質プラスチックのように落としても割れにくく、安全性の高い製品設計を可能にします。
例えば、手で握って中身を出すスクイズボトルや、商品を衝撃から守る気泡緩衝材は、この特性を活かした代表例です。このように、低密度ポリエチレンは繰り返し変形させたり、衝撃が加わったりする用途において、壊れにくいという大きなメリットを提供します。
軽量で加工が容易
製品の軽量化と生産性向上に貢献できる点も、低密度ポリエチレンのメリットです。水よりも小さい比重(0.92〜0.93)であるため、部品の重量を抑えられます。
また、融点が低く溶融時の流動性も良いため、射出成形や押出成形といったさまざまな加工法に適用しやすく、少ないエネルギーで高速で大量に生産できます。複雑な形状の金型にもスムーズに充填されるため、成形不良が起きにくいのも特徴です。
この扱いやすさが、低密度ポリエチレンが汎用樹脂として広く使われる理由でもあります。
耐薬品性・耐水性に優れる
低密度ポリエチレンは化学的に安定しており、水や多くの薬品に対して優れた耐性を持つこともメリットです。分子構造が安定したポリオレフィン樹脂であるため、酸やアルカリ、アルコール類と接触してもほとんど劣化せず、吸水による寸法変化もありません。
そのため、食品の包装フィルムや液体洗剤のボトル、薬品容器など、内容物の品質を長期間保つ必要がある用途に適しています。この化学的安定性と無味無臭・無害という性質により、特に衛生性が求められる分野で高い信頼性を発揮するのです。
低密度ポリエチレンのデメリット
一方で、低密度ポリエチレンにはデメリットも存在します。具体的に見ていきましょう。
耐熱性が低く高温用途には不向き
低密度ポリエチレンの大きなデメリットは、耐熱性の低さです。融点が100~115℃と低く、80℃を超える環境では軟化・変形が始まってしまうため、高温下での使用には適していません。
そのため、低密度ポリエチレン製の容器に沸騰したお湯を入れたり、電子レンジで加熱したりすることはできません。また、食器洗浄機のような高温環境にも耐えられないため、用途が限定されます。
機械的強度・剛性が低い
低密度ポリエチレンは、柔軟性の裏返しとして、機械的な強度や剛性が低いというデメリットがあります。荷重に対する変形が大きく、形状を保持する力が弱いため、大きな力を支える構造部材には向きません。
低密度ポリエチレン製の薄い板は自重でたわみやすく、重い液体を入れた容器は側面が膨らんでしまうことがあります。十分な形状維持が求められる用途では、肉厚を増やしたり、リブ(補強)を設けたりといった設計上の工夫が欠かせません。
屋外暴露で劣化する(耐候性が低い)
低密度ポリエチレンは、屋外での長期使用には適さないというデメリットがあります。太陽光に含まれる紫外線によって分子構造が破壊され、時間と共に材料が脆くなってしまうためです。
未対策の低密度ポリエチレン製品を屋外に長期間放置すると、表面にひび割れが生じ、最終的にはボロボロに崩れてしまいます。そのため、農業用フィルムや屋外用の配管など、耐候性が求められる用途では、カーボンブラックのような紫外線劣化防止剤を添加した特殊なグレードの選定は必須です。
低密度ポリエチレンの用途
低密度ポリエチレンの用途について、4つのカテゴリに分けて、具体的な製品例と共に見ていきましょう。
包装材・フィルム製品(食品包装・ラップ・袋類など)
低密度ポリエチレンの代表的な用途は、柔軟で破れにくい包装用フィルムです。低密度ポリエチレンが薄くても一定の強度があり、優れた防湿性を持つため、内容物を安全に保護するのに最適だからです。
具体例としては、家庭用の食品ラップフィルムや、スーパーで野菜を入れるポリ袋、商品を衝撃から守る気泡緩衝材などが挙げられます。また、その柔軟性と保温性を活かし、農業用ビニールハウスの被覆フィルムとしても利用されています。
成形品(キャップ・容器・チューブなど)
低密度ポリエチレンは、柔軟性を活かしてさまざまな成形品にも利用されている材料です。特に、手で握って中身を押し出す「スクイズ性」が求められる容器に適しています。
代表的な製品が、マヨネーズやケチャップのボトル、ハンドクリームなどのチューブ容器です。繰り返し変形させても割れにくいという低密度ポリエチレンの特性が、こうした製品の使いやすさを実現しています。また、タッパーなどの密閉容器のフタにも、そのしなやかさから生まれる高いシール性(密閉性)を目的として採用される場合があります。
電気・電子部品(絶縁被覆・ケーブルなど)
低密度ポリエチレンは、優れた電気絶縁性を持つことから、電気・電子分野でも重要な役割を担っている材料です。分子構造に電気を通しやすい部分がなく、水分の影響も受けにくいため、電線やケーブルの絶縁被覆材として古くから利用されてきました。
特に、高圧電力ケーブルには、低密度ポリエチレンの絶縁性能をさらに高めた架橋ポリエチレン(XLPE)が不可欠な材料となっています。また、信号の損失を抑える必要がある通信ケーブルや同軸ケーブルにも、その優れた電気的特性を活かして採用されています。
建築・土木・農業資材(防水シート・農業用フィルムなど)
建築・土木・農業の現場でも、低密度ポリエチレンはその耐水性と加工のしやすさから資材として広く活用されている材料です。これらの分野では、安価で大面積を覆うことができるシートやフィルムが求められるためです。
例えば、建築現場でコンクリートの品質を保つために被せる養生シートや、地面からの湿気を防ぐ防湿フィルムとして使われます。農業分野では、畑の雑草を抑制し地温を保つための黒いマルチシートが代表例です。
低密度ポリエチレンの加工方法とポイント
低密度ポリエチレンは、熱可塑性プラスチックの中でも特に加工しやすい材料です。ここでは代表的な3つの加工法と、その際のポイントを解説します。
押出成形
低密度ポリエチレンの加工で最も代表的なのが、溶融した樹脂を口金から押し出す押出成形です。これは、低密度ポリエチレンが溶けた状態で滑らかに流れ、安定して連続成形できるためで、特にフィルムやシートの製造に広く用いられます。
例えば、ポリ袋の元となるチューブ状のフィルムは、この方法で作られます。ポイントは、低密度ポリエチレンの溶融時の粘性が適度で、薄く引き伸ばしても切れにくい性質を活かすことです。これにより、均一な厚みの製品を効率良く大量生産することが可能になります。
ブロー成形
低密度ポリエチレンの柔軟性を活かした中空容器の製造には、ブロー成形が用いられます。この加工法は、溶かした樹脂を筒状(パリソン)にし、金型内で空気によって膨らませて成形するため、マヨネーズボトルのような製品に最適です。
低密度ポリエチレンは溶融状態でよく伸びるため、薄肉でも均一な厚みの容器を作りやすいのが特徴です。成形時は、低密度ポリエチレンが柔らかいため、パリソンが自重で垂れて厚みムラが出ないように押出速度などを精密に制御しなければなりません。
射出成形
低密度ポリエチレンは、複雑な形状の部品を高速で量産する射出成形にも適しています。その理由は、溶融時の流動性が良く、低い圧力でも金型の隅々まで樹脂が行き渡るためです。この特性により、保存容器のフタのような薄肉製品の成形が容易になります。
加工時のポイントは、低密度ポリエチレンが柔らかく固化した後も変形しやすいため、金型からの取り出しタイミングを急がないことです。冷却時間を十分に確保することで、製品の反りや歪みを防ぎ、寸法安定性を高めることができます。
低密度ポリエチレンと他素材の比較
低密度ポリエチレンを採用する際は、よく比較される汎用プラスチックとの特性の違いを把握しておかなければなりません。ここでは高密度ポリエチレン(HDPE)やポリプロピレン(PP)、その他の樹脂との使い分け基準を解説します。
高密度ポリエチレン(HDPE)との違い
低密度ポリエチレンと高密度ポリエチレン(HDPE)は、柔軟性と耐熱性の違いで使い分けられます。同じポリエチレンでも、高密度ポリエチレンは結晶密度が高く硬いため、高い剛性や耐熱性が求められる用途に適しているからです。
頑丈さが必要なタンクや工業用パイプには高密度ポリエチレンが、中身が見える透明性やしなやかさが必要な食品ラップやマヨネーズ容器には低密度ポリエチレンが選ばれます。したがって、硬さと耐熱性を重視するなら高密度ポリエチレン、柔軟性と透明性を重視するなら低密度ポリエチレンという基準で選定します。
ポリプロピレン(PP)との違い
ポリプロピレン(PP)との比較では、使用する温度環境が選定の鍵です。ポリプロピレンは100℃以上の耐熱性があり電子レンジも使用できますが、氷点下では脆くなる弱点があります。一方で、低密度ポリエチレンは耐熱性で劣るものの冷凍環境でも柔軟さを維持可能です。
耐熱容器や繰り返し折り曲げられるヒンジ部品にはポリプロピレンが、冷凍食品の包装袋には低密度ポリエチレンが適しています。そのため、高温環境下で使用するならポリプロピレン、低温環境下や非常に高い柔軟性が必須なら低密度ポリエチレンという使い分けが重要です。
EVA・PVCなど他樹脂との比較
低密度ポリエチレン単体では性能が不足する場合、EVA(エチレン酢酸ビニル共重合樹脂)やPVC(ポリ塩化ビニル)などが代替候補となります。これらは低密度ポリエチレンの弱点である接着性や難燃性、耐久性などを補うことができる材料だからです。
具体的には、低密度ポリエチレンよりもさらに高い柔軟性や接着性が必要な場合にはEVAが、建材のように長期間の耐久性や燃えにくさが求められる用途ではPVCが選ばれます。低密度ポリエチレンはバランスの良い安価な材料ですが、特定の機能がさらに必要な場合は、これらの樹脂への切り替えや、低密度ポリエチレンとのブレンドを検討するのが有効です。
低密度ポリエチレン加工の見積もりは「meviyマーケットプレイス」へ
低密度ポリエチレンの部品製作には、ぜひメビーマーケットプレイス をご活用ください。
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まとめ
低密度ポリエチレン(LDPE)は、優れた柔軟性と加工性から、包装フィルムや容器など非常に広い用途で利用される代表的な汎用プラスチックです。分子構造に由来するしなやかさと耐衝撃性が最大の特徴で、製品の軽量化や安全性の向上に大きく貢献します。
また、耐水性や耐薬品性にも優れ、衛生性が高いため食品用途にも適していますが、耐熱性や機械的強度が低いという弱点も持ち合わせています。そのため、その性能を最大限に引き出すには、使用環境を考慮し、他の樹脂材料との違いを理解した上での適切な材料選定が不可欠です。
本記事の内容を参考に、材料選定や製品設計、部品調達の業務にぜひご活用ください。





