金属・樹脂の材料 ものづくり基礎知識

SUS304の特性とは?設計上の考慮点や他のステンレス材との比較も紹介

強度と耐腐食性の両立を求める時、適した材料の一つとして真っ先に挙がるのがステンレス材です。今回はステンレス材の中でも特にオーソドックスなSUS304を中心に、その特徴や他のステンレス材との違い、そして設計上考慮する点について解説します。

SUS304の基本概要

SUS304はステンレス材の代表的な種類ですが、改めてその特徴を解説します。また、SUS304と似たステンレス材であるSUS304Lとの違い、つまり「L」の意味についても触れます。

SUS304とは?

ステンレス材は、大きく次の三つに分かれます。

  • マルテンサイト系:SUS410、SUS403、SUS630など
  • オーステナイト系:SUS303、SUS304、SUS316など
  • フェライト系:SUS430など

SUS304はオーステナイト系に分類され、炭素を0.15%以下、クロムを16〜18%、そしてニッケルを8%以上含む材料です。

ステンレスの語源はstainlessであり、錆びにくい理由は鉄を主成分としてクロム(Cr)を10.5%以上含むためです。クロムが鉄より先に酸化して不動態被膜と呼ばれる膜を表面に形成します。この膜が表面を守るため、高い耐腐食性を実現しているのです。

▼ステンレス鋼(SUS)について詳しく知りたい方はこちらから
https://jp.meviy.misumi-ec.com/info/ja/howto/15166/

SUS304とSUS304Lの違い

SUS304とSUS304Lの違いは炭素含有量です。SUS304の炭素含有量は0.08%以下ですが、SUS304Lのそれは0.03%以下となっています。ちなみにSUS304Lの「L」はlow carbonという意味です。
炭素含有量が材料に及ぼす性質の違いとして、次の二つが挙げられます。

  • 使用環境の限界温度
  • 鋭敏化

一般的には、炭素含有量が多いほど高温環境下での強度が高く、使用限界温度が高くなります。たとえば、SUS304では525℃(炭素含有量が0.04%以上の場合800℃)まで使用できますが、SUS304Lは425℃程度までしか使用できないとされています。

また、鋭敏化とはクロム濃度が13%を下回ることで、耐食性が急激に低下する現象です。不適切な熱履歴等により、結晶粒界(結晶と結晶の境界)に不純物である炭素が存在することで、炭素がクロムと結合して炭化物を生成します。鋭敏化には炭素が必要であるため、SUS304に比べてSUS304Lの方が鋭敏化しにくいのです。

SUS304の特徴

SUS304のメリット

SUS304のメリットはバランスの良さです。耐腐食性が高く、水分や薬液(硫酸や塩酸を除く)に強いのが特徴です。高温でも高い強度を示すことや、流通量が多く、ステンレス材の中では比較的安価というメリットもあります。

SUS304のデメリット

一部の特性に絞って考えると他のステンレス材にメリットがある場合もあります。たとえば、海水などより条件の悪い環境には同じオーステナイト系のSUS316の方が向いています。また、価格はフェライト系のSUS430の方が安価です。

▼ステンレスSUS316について詳しく知りたい方はこちらから
https://jp.meviy.misumi-ec.com/info/ja/howto/33948/

SUS304に使用される加工法と使用例

SUS304は材料特性の高さが特徴ですが、それぞれの加工については注意すべきポイントがあります。

溶接

SUS304は鉄を含む材料なので溶接可能です。ただし、溶接時に使用する材料(溶接棒や溶接ワイヤ)について注意が必要です。

アーク溶接棒にはNC-38、溶接ワイヤにはSW-308、TIG棒にはTG-S308と、38あるいは308と数字がついたものを使用します(いずれも神戸製鋼所の製品型番)。たとえばSUS316では、36あるいは316の数字がついたものを使用しますが、SUS304では、34あるいは304の数字がついた材料はありません。

溶接を施したSUS304は各種厨房設備や家庭用シンク、ガス容器(ガスボンベ)などに使用されます。

溶接した面は、元の状態ほどきれいではありません。そのため、一定方向にヘアラインと呼ばれる髪の毛のような細い線がついた表面処理を行います。ちなみにヘアライン加工を施したSUS304のことを「SUS304-HL」(HLとはヘアラインのこと)と表記します。

▼SUS304-HL(ヘアライン材)について詳しく知りたい方はこちらから
https://jp.meviy.misumi-ec.com/info/ja/howto/materials/28600/

表面処理

ステンレス材の表面処理にはさまざまなものがありますが、代表的なものとして次の三つが挙げられます。

  • SUS304-2B ※表面未処理
  • SUS304-HL
  • SUS304 #400

SUS304-2Bは表面が処理されていない状態のため、生産設備のステーなど意匠性が必要ない部品に使用します。また、SUS304-HLはヘアライン加工されて多少の光沢があるため、生産設備のアウターパネルや厨房設備などに使用されます。そして、SUS304 #400は片面をバフ研磨で鏡面に仕上げて非常に意匠性を高くしてあるため、建築材料や高級シンクなどに使用されるのです。

これらの表面処理は基本的にSUS304に施されます。

切削

切削加工については、SUS304は硬く粘り気(靭性)があるため、切削性はあまり良くありません。しかし、フライス盤やマシニングセンタによる加工は可能です。ただし、オーステナイト系ステンレスの特徴である加工硬化に注意が必要です。

加工硬化とは、加工時(切削時)に硬さや強度が次第に高くなることで、結果的に脆くなります。これは加工時に発生する表面の熱により、オーステナイト組織がマルテンサイト組織に変化することで発生します。ちなみにフェライト系ステンレスやマルテンサイト系ステンレスでは加工硬化は起こりません。

切削加工されたSUS304は、生産設備の複雑な形状をした部品や精密な加工が必要なベースプレートなどに使用されます。

SUS304を使用した設計上の考慮点

SUS304を用いて設計する場合、適切な材料選定やコスト効率、そして環境への配慮に気を付ける必要があります。

材料選定

SUS304は特性のバランスの良い材料ですが、SUS316に比べて耐食性が劣ったり、マルテンサイト系ステンレス材に比べて硬度が劣ったりと、他のステンレス材に劣る部分があります。そのため、設計でステンレス材を使用する場合は、使用環境において何を優先するのかをよく考える必要があります。

コスト効率

SUS304は耐久性が高いため、長期間使用でき、コスト効率が高い傾向にあります。ただ、使用環境によっては塗装を施したSS400でも耐えられる場合もあります。SUS304を使用するとコスト効率が高くなりますが、さらに踏み込むならSUS304以外の材料でも使用できるか検討しても良いかもしれません。

環境への配慮

金属材料は一般的にリサイクル性に優れており、ステンレス材も例外ではありません。SUS304は長期使用に耐える材料ですが、装置の寿命や生産ラインの仕様変更により廃棄されることもあります。このような場合でも、リサイクル性の高いSUS304を使用することで環境負荷の低減に貢献できます。

まとめ

ステンレス材にはさまざまな種類がありますが、SUS304はその中でもバランスのよい特性を持ちます。比較的流通量が多く、ステンレス材の中では安価な傾向にあるため使用しやすい材料です。

しかし、耐腐食性や硬度、切削性など局所的な特性だけを考えるとSUS304以外のステンレス材の方が優れている場合もあります。

装置の設計に求められていることや、使用環境で求められていることを整理し、適切なステンレス材を使用するようにしましょう。