図面は部品や製品をつくる際に欠かせないものです。図面の品質によって最終部品や最終製品の品質が決まるため、多くの企業は図面の品質を上げたいと考えています。
いい図面、つまり見れば誰でも同じものを製造でき、製造後の検査もしやすい図面を描くにはどうすればいいのでしょうか。ここで重要なのが「基準」という考え方です。今回は、図面を読み描きする際のキモとなる「基準」について解説していきます。
目次
図面の「基準」とは?
図面で部品の形状を表すとき、部品の基準を指示しなければいけません。基準とは、寸法の起点となる点や面を意味します。例えば、机の上のような平面に置いて使用する状態を想定されている部品ならば、机に接する面が基準面になります。他の人が描いた図面の中から基準点や面を探す場合には、寸法線(長さを示す線)がたくさん出ている点や面を探してみるといいでしょう。
図面の基準は、加工や検査における基準にもなります。たとえば、基準部分から加工を開始したり、基準から寸法が出ている穴はすべて同じ型でプレスするようにしたり、基準部分を固定して長さを測定したりといった具合です。そのため、設計者は加工や検査の作業性を考えた上で図面の基準を設定する必要があります。
このように、図面の基準は設計、加工、検査の全工程にかかわる重要なものです。図面を描くときには最初に基準をどこにするか決める必要がありますし、図面を読むときにはまず基準がどこかを把握することが大切です。
基準の決め方
図面の基準は、つくられる部品(製品)の使用方法をもとに決めるのが一般的です。
たとえば、ある面を壁に押しつけて固定するような部品の場合には壁と接する面を基準とします。また、止め金の場合は穴にハンドルの軸を入れて回転させて使用するので、回転中心である穴の中心が基準となります。
図面の基準はいわばその部品(製品)のキモとなる部分。基準を適切に設定するには、部品(製品)の機能を正確に理解することが必要不可欠なのです。
図面に基準がないとどうなる?
基準を設定せずに図面を描いた場合、どのようなことが起こるのでしょうか。基準がない図面のデメリットを以下に示します。
- 図面に統一性がなく見づらい
図面に基準がないということは、図面内のさまざまな線(面)から寸法線が出ているということです。結果として、統一性がなく見づらい図面になってしまいます。複雑な形状の部品(製品)の図面では特に見づらさがきわだってしまうでしょう。図面は、描いた本人が読めるだけでは意味がありません。誰でも理解できる分かりやすい図面を描くには基準を設定することが重要なのです。 - 加工や検査がしづらい
上で説明したように、図面の基準は加工や検査における基準でもあります。そのため図面に基準がない場合、加工者や測定者はどの部分を基準として加工や検査を進めたらいいか判断できません。したがって、改めて加工や検査の段取りを考え直す必要が出てくるために余計な工数がかかってしまいます。設計者は、後工程の作業効率が上がるような図面を描くことが重要なのです。 - 図面内で公差が累積する
図面の基準を決めずにさまざまな線(面)から寸法を記載すると、各寸法の公差が累積し、結果として別の部分の公差が大きくなってしまうことがあります。下記のような段差のある軸を例に考えてみましょう。軸全体の長さに注目してみると、OK例では基準となる左端から寸法を指示しているため、公差±0.1になります。一方NG例では寸法の指示が基準からではないため、3つの寸法分の公差が累積し軸の長さの公差は最大±0.3mになってしまいます。部品は完成したけど組み立てられない、という事態を防ぐためにも、公差を意識して設計することが大切です。
まとめ
図面の品質を保つには、基準を適切に設定することが重要です。図面を読み描きする際には、部品(製品)の機能を考えた上で、どこを基準とすべきか、どこに基準が設定されているはずかを考えるよう心がけましょう。そうすれば設計力がぐんぐんと伸び、他の設計者や後工程にとって優しい図面を描けるようになるはずです。