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焼付塗装とは?メリット・工程・金属ごとの使用場面と注意点を解説

焼付塗装は、素材に塗料を塗布し、高温で加熱して塗料を硬化させる塗装方法です。ここでは、焼付塗装の基本的な概念から、そのメリットや工程、さらに金属ごとの使用場面や注意点などを解説します。

焼付塗装とは?

焼付塗装は、金属の表面に塗料を塗布し、加熱することで塗料を硬化させる塗装方法です。塗膜が素材表面にしっかりと結合し、耐久性や外観を大幅に向上させることができます。焼付塗装は、特に自動車、家電製品、建材など、耐摩耗性や耐腐食性が求められる分野で広く利用されています。
焼付塗装は、まず素材表面に塗料を均一に塗布し、その後、乾燥炉で加熱処理を行います。この加熱によって、塗料は化学反応を起こし、硬化して強固な塗膜を形成します。
粉体塗装も一般的に焼付を行うため、焼付塗装の一種とみなされます。粉体塗装では、溶剤を使用せずに粉体状の塗料を静電気などの力で金属表面に付着させ、その後、焼付乾燥炉で加熱して塗膜を形成します。一方で、液体塗料を用いる従来の焼付塗装と比較すると、塗膜の質感や色調のバリエーションに違いがあります。使用する塗料の種類や目的によって、適切な方法を選択することが重要です。

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焼付塗装の機能性(メリット)

焼付塗装には多くの機能があり、さまざまな分野で活用されています。ここでは、焼付塗装のメリットを簡潔に説明します。

耐腐食性の向上

焼付塗装によって形成される塗膜は金属表面にしっかりと密着するため、酸化や腐食の進行を防ぎます。特に屋外で使用される製品や湿度の高い環境で使用される製品に対して効果を発揮します。

耐摩耗性の向上

焼付塗装は、素材の表面に強固な塗膜を形成することで、優れた耐摩耗性を発揮します。この塗膜は、摩擦や衝撃による損傷を効果的に防ぐ役割を果たします。

外観的な美しさの向上

焼付塗装は、塗料を高温で硬化させるため、均一でムラのない塗膜を形成します。また、さまざまな光沢や色調を選択できます。複雑な形状の製品にも適用でき、デザインの自由度が高いことも特長です。

金属ごとの焼付塗装

焼付塗装は120~230℃で加熱するため、熱に弱い樹脂製品や木材などには塗装ができません。基本的には金属製品に対して行われる塗装です。ここでは、ステンレス、アルミニウム、スチールといった主要な金属ごとに、焼付塗装がどのように適用されるかを解説します。

ステンレス

使用されている場面

ステンレスはその耐腐食性と耐熱性から、食品加工機器、医療機器、化学プラント、建築物の外装パネルなど、過酷な環境下での使用が想定される場面で多用されています。焼付塗装は、これらのステンレス製品にさらなる耐久性を与えるために行われます。さらに、見た目の美しさを向上させる目的で、デザイン性が要求される製品にも適用されます。

■注意点
ステンレスに焼付塗装を施す際の注意点は、下地処理です。ステンレスの表面は滑らかなので、塗料が密着しにくく剥がれやすいという特徴があります。そのため表面を研磨し、塗料の密着性を高める必要があります。

使用されている塗料

ステンレスに用いる塗料は、耐腐食性と耐熱性に優れたものが選ばれます。エポキシ樹脂系塗料やポリエステル樹脂塗料、ポリウレタン樹脂塗料、フッ素樹脂塗料、アクリル樹脂塗料、無機複合樹脂塗料などが使用されます。

アルミ

使用されている場面

アルミはその軽量性と優れた耐食性から、輸送機器、建築分野、電気機器など、さまざまな分野で利用されています。特に、車両のホイールやボディパネル、建築物の外装材や内装部材など、軽量化が求められる場面で多く使用されます。焼付塗装はアルミ製品の耐久性と美観をさらに向上させるために適用されます。

■注意点
ステンレスと同様に塗料の密着性が悪いため、研磨してから塗装を行います。

使用されている塗料

アクリル樹脂塗料、ポリエステル樹脂塗料、エポキシ樹脂塗料、メラミン樹脂塗料、フッ素樹脂塗料などが使用されています。

スチール

使用されている場面

スチールはその強度と加工のしやすさから、建築資材、産業機械、自動車部品、家電製品など、さまざまな分野で広く使用されています。焼付塗装はスチール製品の耐久性や見た目を向上させるために実施されます。

■注意点
スチールの表面は錆びやすいため、脱脂と防錆処理が必要です。表面に油分や汚れが残っていると、塗料の密着性が低下し、塗膜の剥がれやムラが発生することがあります。さらに、スチールは熱膨張する性質があるため、焼付温度を適切に管理しないと、塗膜にひび割れが生じる可能性があります。

使用されている塗料

アルキドメラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂などが使われます。

焼付塗装の工程

焼付塗装は、金属製品に耐久性と美観を与える重要な表面処理技術ですが、その効果を最大限に引き出すためには、適切な工程を踏むことが不可欠です。ここでは、焼付塗装の一連の工程を解説します。

前処理(下地処理)

脱脂

シミや色ムラの発生防止、塗装の密着性を高めるため、金属表面の汚れや油分を除去する作業です。脱脂の方法は、物理的方法(蒸気洗浄、ウェットブラスト法など)と化学的方法(アルカリ性洗浄、有機溶剤洗浄、炭化水素系洗浄など)の2種類に大別されます。

■注意点
脱脂剤は素材や汚れの種類に応じて選定する必要があります。洗浄する部品の材質や、汚れの種類、量によって洗浄時間(浸漬する時間)や洗浄液の温度管理が必要です。また、脱脂洗浄後には残留物が残らないよう除去する必要があります。

研磨

研磨は、金属表面の凹凸をなくし、塗装表面にあえて小さなキズを付けることで塗料の密着性を高める働きがあります。

■注意点
研磨の方向を一定に保つことで、表面に一定のパターンを持たせ、塗料の密着性を高めることができます。特にデザイン性が重視される製品では、研磨方向が外観に影響を与えることがあります。

塗装

下塗り

下塗りは塗料の密着性を高め、上塗りの発色を良くするための工程です。下塗り塗料はプライマーと呼ばれ、スプレーガンや刷毛を使用して均一に塗布する必要があります。また、希釈シンナーは季節や塗装条件によって調整することもあります。

■注意点
使用時によく混合攪拌し、塗料を均一な状態にする必要があります。スプレー塗布では、均一な噴霧ができるように、スプレーガンの距離や速度を一定に保つことが重要です。

上塗り

上塗りは、製品の最終的な外観と性能を決定する重要な工程です。 目的に応じて、耐久性や外観を考慮した塗料を選定します。

■注意点
塗料を均一に塗布し、ムラを防ぐことで、外観の質を高めることができます。ただし、過剰な厚みはクラックの原因となるため注意が必要です。

乾燥炉で焼付

乾燥炉での焼付は、焼付塗装の最終工程です。塗料を高温で硬化させることで強固な塗膜を形成します。各塗料に合わせて加熱し、冷却します。

■注意点
焼付温度は塗膜の品質に大きく影響するため、塗料メーカーが設定した温度・時間に従う必要があります。不均一な温度では、塗膜の硬化にムラが生じる可能性があります。
焼付時間も重要で、短すぎると硬化不足、長すぎると硬化しすぎて塗膜の品質を損ないます。

まとめ

焼付塗装は、金属製品の耐久性を高め、美観を向上させるために欠かせない技術であり、製造業のさまざまな分野で広く応用されています。ステンレス、アルミ、スチールといった各金属に適した焼付塗装の方法を理解し、適切な処理を行うことで、製品の性能と美観を最大限に引き出すことが可能です。