皆さんはVR(Virtual Reality:バーチャルリアリティ・仮想現実)に興味がありますか?
VRゴーグルを持っているでしょうか。
私はメタ社のVRゴーグルを使いバーチャルリアリティの世界で遊ぶことがよくあります。
このVR技術は製造業のDXと関係はあるのでしょうか。
今回は、長野県南信工科短期大学校にて「-DX時代へ-VR技術の今と未来、製造業におけるその活用」(2022年6月29日開催、主催:県立南信工科短期大学校、共催:南信工科短大振興会)と題して先生の皆さん、振興会の皆さんと共に技術研修会を企画実施しました。
そのレポートと私が考えたことをお話します。
目次
1.XRとは?
最近よく聞くVR(バーチャルリアリティ)とは何でしょう?似たような言葉にXRというものもあります。
VR(Virtual Reality:バーチャルリアリティ)
コンピュータによって作られたサイバースペース(Cyber Space:仮想空間)を現実世界のように体験できる技術のことを言います。 メタバース(metaverse)という言葉を最近よく聞きますが、これはインターネットを使ってオンラインでつながり形成される仮想空間のことを言います。 |
私は、「VRはメタバースにつながるための手段」だと考えています。
日本では2020年1月に開催された「第48回総合科学技術・イノベーション会議」でムーンショット計画が議論され、内閣府により立案されました。この計画の中のひとつ【ムーンショット目標①】には、
「2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現」
と書かれています。
SF世界の話のようですが、これは仮想空間のサービスの中でいかに社会活動を営むことができるかを目指したものだと私は考えます。これこそVRによって実現できるものです。
VRですが、似たようなARやMRという言葉を聞いたことはあるでしょうか?それらを整理します。
頭字語 | 用語 | 日本語 | 解説 |
VR | Virtual Reality | 仮想現実 | 仮想世界を現実世界のように体験できる技術 |
AR | Augmented Reality | 拡張現実 | 現実世界に仮想世界を重ね合わせる技術 |
MR | Mixed Reality | 複合現実 | 現実世界と仮想世界を融合させる技術 |
XR | Xtended Reality/Cross Reality | VR・AR・MRの総称 |
具体的なサービスの事例をあげてみましょう。
- VR:Meta VRやPlayStation VRでのゲーム
- AR:ポケモンGO
- MR:Microsoft HoloLens
などがあります。
ARとMRの区別はわかりにくいかもしれませんが、ARは現実世界に仮想空間を重ね合わせるようなものです。
MRではARではできなかった現実世界にある仮想空間上のモノを操作することができます。
MRの例としてホログラム映像がPCのキーボードだったとします。映しだされた映像のキーを押すことも、押されたことで、そのボタンが下がる様子や、実際のキーボードの操作で、コマンド実行や文章をうつこともできますが、ARでは映像があるというだけで、キーを押す指は、ただ映像を突き抜けるだけのものにすぎません。また、操作を行うことはできません。イメージとして、これがARとMRの違いといえます。
このように、現実世界と仮想現実を重ねたり、融合したりする技術の総称をXRと表現しています。
2.コンピュータ企業が考える製造業のVR
技術研修会では、日本HP パーソナルシステムズ事業本部 ビジネスディベロップメント マネージャー 島﨑さくら氏に登壇いただき、「VR技術の今と未来」と題した講演をしていただきました。
もうここまできている、製造業におけるVRの活用
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HP Reverb G2が法人で支持される理由
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3つのVR実現方法メリット・デメリット
種類 | メリット | デメリット |
PCVR※ |
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一体型 |
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スマホVR |
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※PCVR:スタンドアロン型ではなくPCとの接続を必要とするPCVRはVR Readyという認証があり、この認証PCは 「PCがVRを快適に楽しむためのスペックを備えている」 といえる。
これまで製造業のDR(デザインレビュー)では、たとえ3D CADで設計されたものであっても平面ディスプレイを介して見るので没入感を得られるものではありませんでした。いわば、疑似的な3Dだとも言えます。製造業でVRを活用することは、仮想空間の中でまるで実物のように可視化できることになり、そのレビュー精度は高まります。
日本HPでは、より高精度にこれを実現できるPCVRを製品化し、これを使用するソフトウェアとの検証を行っています。その用途は、実機レス・実物レスのトレーニングや、現物とデジタルを結びシミュレーションを可視化するようなデジタルツインなどがあります。
「モノがなくても、どこでも、リアルタイムに、まるで実物があるかのごとく、検証ができる」というのが効果的であることは明確です。
3.3D CAD企業が考える製造業の製造業のVR
技術研修会ではソリッドワークス・ジャパン株式会社 マーケティング部 原島辰雄氏に登壇いただき、「製造業で活かすVR・AR~最新情報早わかり~」と題して講演をしていただきました。
ソリッドワークス社でもVRについては注力しています。
2018年開催SOLIDWORKS WORLD JAPAN 2018(現在は3DExperience World Japanに名称変更)から、「SOLIDWORKS Extended Reality(XR)」以降、この技術の紹介は活発です。
<ソリッドワークスにおけるVRソリューション>
- 今でもできるVR
・eDrawings for Mobile
・SOLIDWORKS Visualize Professional
- よりリアリティのあるVR
・SOLIDWORKS Extended Reality(XR)
・SOLIDWORKS製品からVR/AR環境へデータを出力
・SOLIDWORKS製品をVR/AR環境に直接接続
・SOLIDWORKS Visualize Professional 2019で
ファイル>エクスポート>NVIDIA® Holodeckにエクスポート
・eDrawings Professionalで
SOLIDWORKSデータをそのままVR/AR環境へ
- もっと”魅力的な”コンテンツを作るには
・SOLIDWORKS XR Exporter
SOLIDWORKSデータの情報を活用したVR/ARコンテンツ作成を支援
3Dデータを徹底的に活用することは、3Dデータが開発設計部門だけのモノではなく、全社で活用して、その効果を上げることにあります。もっとも3D CADがなければ、この活用もできません。
CADメーカーは、この活用レベルを上げることが、設計の本質とともに重要性があると考えているのでしょう。没入感のある3D映像は、3D CAD導入をためらう設計現場に対し、その利用者からも導入を薦めるものになるかもしれません。
4.教育機関が考える製造業のVR
長野県南信工科短期大学校では、設計者教育として設計製図を学ぶ授業の中で3D CADおよびCAEの教育に注力しています。
また従来の金属製の金型に代わる、3DプリンターでデジタルABSという特殊な樹脂を使って造形した樹脂型を金型として活用する技術(デジタルモールド)についても紹介講座を行うなど、徹底的に3Dデータを活用することを学び、将来のエンジニアを育成することを目指しています。
今回行ったVR技術研修も3Dデータ活用のひとつであり、この技術を活かせるエンジニアを育成していきたいという考えのもと、この企画を行いました。同校は「ものづくりのスペシャリストを目指して」をビジョンとしています。教育機関がVR技術に注目し、そのエンジニアの育成の可能性を持つということも、今後、製造業の中でこの技術が求められていることの表れです。
当日は多くの学生が参加し、VR技術を学び、経験をしました。
全国的にも先進的な同校では、基礎知識とともに3Dソリューションに優れたエンジニアを輩出していくでしょう。
また当日は社会人向けの技術研修も行われ、多くの企業の方々が参加されました。これもまた長野県、南信地域の意識の高さを表しており、地域と学校の結びつきが強いとも言えます。
5.まとめ
VRやARなどのXRは「遊び的なものに見られてしまうのでは?」、「うちには早い」などと言われてしまうのではないかと私自身思うこともあります。しかし、大手企業では真面目にこの活用を始めています。これはどういうことなのでしょう。
この「誰もが理解しやすい手段」は、ユーザーエクスペリエンスにつながります。その効果を得ているに間違いありません。
また、決して高額なものではないので「うちには早い」ということも該当しません。「うちにはまだ早い」と言っている間に先進企業のアドバンテージは大きくなります。
製造業において、もはやインフラとも言える3D CADからはじまる3Dデータを徹底的に活用し、技術検証だけではなく、販売促進にもつながる製造業のVRへの取り組みは、企業全体の仕事のやり方を変える可能性を持っています。
今あるDXの次につながることでしょう。