今回は、オートデスクインダストリー ストラテジー & マーケティング Fusion エバンジェリストの藤村祐爾氏と対談し、「ジェネレーティブデザインによる設計検討プロセスとAI」について伺いました。
出典 オートデスク
藤村氏は、オートデスク株式会社のFusionエバンジェリスト(伝道師)として、その名前が知られています。18歳で渡米し、米国で工業デザイナーとして活動された後、2013年にオートデスクに入社し。
現在は、Fusionのマーケティングを行いながら、精力的にFusionのエバンジェリストとして活躍されており、その魅力や今後の展開について熱く語られています。
オートデスクインダストリー ストラテジー & マーケティング
Fusion エバンジェリスト 藤村祐爾
Fusionは、オールインワンソリューションで、3D CAD、CAM、CAE、PCB(プリント基板設計)、コラボレーション、データ管理のソフトウェアがすべて1つのプラットフォームに統合されたクラウドベースの製品です。使いやすく、導入しやすい3D CADとして評価を聞くことが多いのですが、今回のお話から「その先のAI」を考えると、それ以上の効果があることが対談から見えました。
目次
新たな設計アプローチ:ジェネレーティブデザイン ( Generative Design )
ジェネレーティブデザインとは、設計者がコンピュータ上のソフトウェアに設計課題となる要件を入力することによって、何もないところから最適な形状を自動生成することによって製品設計を行うことができる仕組みのことをいいます。自動設計ともいえる新たな設計アプローチになります。
ジェネレーティブデザインは、数年前から聞くことが多くなった設計手法です。
出典 オートデスク
ジェネレーティブデザインとは? コンピュータにさまざまな設計課題を入力し、最適な形状を自動生成させる新しい技術が、「ジェネレーティブデザイン」と呼ばれるこれまでにない、新たな設計アプローチです。 |
私は、”自然界の原理原則を自動生成エンジンに組み込んだもの” がジェネレーティブデザインだと理解していました。
確かに、これらの情報を機械学習した結果、生成される技術なのでAIともいうことができるのですが、今流行しているChat GPTのような「AIによる自動生成」とも違うような気もするし、CAEの手法のひとつ「トポロジー(Topology)最適化」とも似ているような気もするし、さらには「形状最適化と、いわれる手法(例:HiramekiWorks{ヒラメキワークス}_構造最適計画)」とも似ているような気もするし、「モヤっと」した感じです。
トポロジー最適化 位相最適化ともいわれ、指定した材料分布範囲に対して設定した工学的な条件(設計変数)に 基づき、最適な材料の密度分布を導き出す構造最適化手法のひとつ。 簡単にいうと静解析の結果から要素分割された要素の応力の生じていない部分やその応力の度合いに応じて要素を削除して穴をあけることができます。 |
形状最適化 形状最適化は、目的・制約条件や形状拘束条件から、節点を移動させてモデルの表面形状を変化させ、最適な形状を求めることができる手法です。 簡単にいうと、トポロジー最適化が要素を削除することに対し、形状最適化では要素を移動させることができます。 |
Autodesk Fusion のジェネレーティブデザインはそのアプローチこそが画期的
そこで、藤村氏へ質問しました。「オートデスクの進めるジェネレーティブデザインとは何でしょうか?」
藤村氏:
この設計の本質ともいえる作業をジェネレーティブデザインによって支援を行いますが、トポロジー最適化との違いは、画期的なアプローチにあります。
出典 オートデスク
そもそもAutodesk Fusion のジェネレーティブデザインは、大別すればトポロジー最適化の一部ですが、画期的な部分はそのアプローチにあります。 |
Fusion 360ジェネレーティブデザインと、トポロジー最適化の違い
図 ポイント1では、トポロジースタディが設計されたモデル形状に対して最適化を行うことが示されています。つまり、設計の最大領域が示されているのに対し、Fusionのジェネレーティブデザインでは、最低限必要な部分だけを設定することが設計プロセスの始まりになっています。
言い換えると、限りなく答えに近い状態から解析が始まるともいえます。
![図 ポイント1 計算のために事前に用意するアプローチが異なる 出典 オートデスク](https://jp.meviy.misumi-ec.com/info/ja/wp-content/uploads/2024/02/b5d634c30847f11a291ecf8d95ac5150.jpg)
図 ポイント1 計算のために事前に用意するアプローチが異なる
出典 オートデスク
■一般的なトポロジー最適化 求めるフレームの最大領域を意図的に用意する。 最大領域が間違っていると、計算も間違っているため注意が必要。 また、形状の準備も必要。 ■Fusion360 ジェネレーティブデザイン 設計最大領域は協力人間の意図をいれず定義しない。最低限必須な部分だけを用意して後はお任せ(任意に指定することも可能) |
![図 ポイント4 計算結果にみる違い 出典 オートデスク](https://jp.meviy.misumi-ec.com/info/ja/wp-content/uploads/2024/02/180f7c81f390ed5436611bf6b95e482c.jpg)
図 ポイント4 計算結果にみる違い
出典 オートデスク
■一般的なトポロジー最適化
■Fusion360 ジェネレーティブデザイン
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これはトポロジー最適化とも形状最適化とも異なる新しいアプローチだといえます。
その結果は、最低限必要な部分と設計要件を満足した形状を得られるだけではなく、すぐに利用できる形状が得られることにあります。
ジェネレーティブデザインは検証力の差別化
藤村氏から複数案の設計についてさらに説明がありました。
藤村氏:
Autodesk Fusionジェネレーティブデザインでは、1日で1000を超える設計アイデアを検証することができます。仮に100人が、何年間かで検証ですることを考えれば、その検証数は
と、なります。
これまでの方法で同じ検証の数を行おうとしたら、どうでしょうか?膨大な検証力の違いが生じることがわかるでしょう。
繰り返し行われる検証作業は自動化され、大量のデータから結果分析をすることが可能になり、この検証方法によって設計の”品質”が向上します。
この検証もクラウドプラットフォーム・・・つまり、クラウド上の計算能力から実現できるものです。
この計算は、次のように表すことができます。
並列計算がポイントです。これを行うには、ローカルマシンの計算能力だけでは難しいことでしょう。
新たな設計アプローチとともに、クラウドプラットフォーム運用の強みがこのジェネレーティブデザインの効果をよりいっそう示しています。
![Fusion ジェネレーティブデザインで可能になる検証力 出典 オートデスク](https://jp.meviy.misumi-ec.com/info/ja/wp-content/uploads/2024/02/b992e3e93fc582dfe739dc9235fa101c.jpg)
Fusion ジェネレーティブデザインで可能になる検証力
出典 オートデスク
■Fusion ジェネレーティブデザインで可能になる検証力 1人のエンジニアがわずか一日で1000を超えるアイデアを検証可能。 この検証力に、100人で利用した場合と、数年間にわたって利用を続ける場合を掛け合わせると、最終的に、膨大な数の検討数の違いを企業間に生じさせる。 |
開発設計プロセスで、多くの設計検証をスピーディーに行うことができるということは、検証時間の削減だけではなく、その検証結果から得られた最適な成果物によって、実製品での手戻りの削減にもつながり、トータルの開発期間を短くすることにも注目すべきです。
設計者の役割は、次の項目になります。
- 製品の用途を明確にする
- 製品の制約条件を決める
- 材料
- 強度
- コスト
- 性能
- 最終判断
デジタルの力によって効率化を図る-Fusion360 ジェネレーティブデザインの特徴
藤村氏から、Fusionジェネレーティブデザインの成果事例を見せていただきながら、次のような話がありました。
藤村氏:
多くの有名企業による成果事例からみるように、現在ご利用中の3D CADがなんであっても、Fusion のジェネレーティブ デザインと組み合わせることで、より短時間に多くの検証を行うこととが可能となります。結果として、製品開発期間は短期間となり、早い製品リリースができていて、これにより競合他社と差が生じていることでしょう。
出典 オートデスク
■ジェネレーティブデザインとは 最新のコンピュテーショナルテクノロジーを利用して、より素早く最適解を探るための技術! AIで導く新設計案、ならびに新設計プロセス!つまり他社と絶対差が出る! |
このお話から、ジェネレーティブデザインは「デジタルの力によって効率化を図る」というもの、そのものだと私は感じました。
まとめ
Autodesk Fusionは、単に使いやすく導入しやすい3D CADではないということが、今回の対談でわかりました。
人の手によって行われてきた設計は、優れたコンピューティング技術と、AIという新たな技術によって、ジェネレーティブ デザインと進化し、この進化は設計アプローチを変革するということを実感することになりました。
さらに、こんなお話もお聞きしました。
藤村氏:
プラットフォームとソリューションが、APIによってつながれば、何でもできるようになります。
![図 筆者によるFusion ジェネレーティブデザインの評価](https://jp.meviy.misumi-ec.com/info/ja/wp-content/uploads/2024/02/c6e90a19d436a18b42ca3b45720b5ad8.png)
図 筆者によるFusion ジェネレーティブデザインの評価
藤村氏との会談から、ジェネレーティブデザインの魅力を十分に理解することができました。
さっそく、Fusionの体験プログラムによってジェネレーティブデザインを経験し、その可能性もまた、十分に経験することになりました。プラットフォーマーであるオートデスクによって、さまざまなメーカーの3D CADと、このジェネレーティブデザインの連携の可能性を私は期待します。
次回もAIと設計についてお話します。