A5052はアルミニウムとマグネシウムを主成分とする5000系アルミ合金です。軽量でありながら中程度の強度と優れた耐食性を持ち、溶接性や成形性にも優れるため、半導体製造装置や産業機械、建築資材など幅広い分野で用いられています。
本記事では、A5052の基本知識や物理的・機械的特性、メリットについて詳しく解説します。用途や加工上のポイントについてもまとめているので、設計・開発担当者は最後までご覧ください。
目次
A5052とはどんな合金か
A5052とは
A5052は、約2%のマグネシウムを添加した軽量・中強度・高耐食性のアルミニウム合金で、アルミ合金の中で最も一般的に使用されています。JIS規格(JIS H 4000)によると、A5052の化学成分は以下のとおりです。
単位%
Si | Fe | Cu | Mn | Mg | Cr | Zn | Ti | その他 | Al |
0.25以下 | 0.40以下 | 0.10以下 | 0.10以下 | 2.2~2.8 | 0.15~0.35 | 0.10以下 | 0.03以下 | 0.05以下(計0.15以下) | 残部 |
「A5052」の”A”がアルミニウム合金を、「5」から始まる4桁の数字がMgを主要添加元素とすることを示しています。
熱処理によって硬化しない「非熱処理合金」に分類され、圧延や引き抜きなどの加工によって「加工硬化」を起こして強度を高めるのが特徴です。加工度合いによってさまざまな「調質(質別)」が存在します。汎用性の高さから、単に「アルミ板」と言った場合にA5052を指すこともあります。
A5052とA5052P/A5052Sの違い
「A5052P」や「A5052S」という記号が表しているのは製品の「形状」です。
- A5052:一般には板材を指すことが多い
- A5052P:圧延された板材(プレート)
- A5052S:押出形材(棒材や形材)
設計上は、必要な形状に応じて使い分けられ、板金で筐体を作るならA5052P、フレームや軸にはA5052Sが使われます。製造方法が異なるため、機械的特性に若干の差があるものの、合金としての基本的な性質は同じです。
A5052の機械的・物理的特性
早見表
A5052の代表的な物理的・機械的な数値(質別H34の場合)を以下にまとめます。
項目 | 単位 | 値 |
密度 | g/cm³ | 2.68 |
融点 | ℃ | 607~649 |
ヤング率(縦弾性係数) | GPa | 68 |
ポアソン比 | — | 0.33 |
熱伝導度 | W/(m·K) | 140 |
線膨張係数(20℃) | ×10-6/K | 23.7 |
比熱 | J/(g·K) | 0.9 |
引張強さ(極限強度) | N/mm²(MPa) | 約260 |
0.2%耐力(降伏強さ) | N/mm²(MPa) | 約215 |
伸び(破断時延性) | % | 約10 |
※上記は代表値です。質別(調質)によって値は変動します。
熱特性(熱伝導率・線膨張係数)
A5052は熱伝導率が高く、熱を伝えやすい性質を持つため、熱を効率的に逃がすヒートシンクや放熱板などに利用されます。ただし、線膨張係数が鉄(約12×10-6/K)の約2倍と大きい点には設計上の注意が必要です。温度変化によって寸法が大きく変わるため、精密機器の筐体や異なる材料と組み合わせる場合は、熱膨張を吸収するクリアランスや締結方法の工夫が求められます。
比重・密度と部品重量計算法
A5052の密度は約2.68g/cm³で、鉄(7.87g/cm³)の約1/3です。比重としては、鉄を1.00としたときにA5052は約0.34となります。このように、A5052は鉄に比べて非常に軽く、製品の軽量化に有効です。
部品(板材)の重量は以下の式で簡易的に計算できます。
重量(kg)=縦(mm)×横(mm)×厚さ(mm)×2.68(g/cm³)×10⁻⁶ |
※10⁻⁶は「mm³→cm³(×10⁻³)」と「g→kg(×10⁻³)」を合成した単位換算係数です。
例えば、100mm×200mm×厚さ5mmのA5052板の重量は、上記の式に当てはめると約0.268kgです。実際には加工穴や公差もあるため概算値であるものの、密度が鉄の1/3であるため同形状なら重量を約1/3に抑えられます。
応力-ひずみ線図で見る塑性域と曲げ性
A5052は、鋼材のような明確な降伏点を示さず、なだらかに塑性変形へと移行します。降伏後もすぐに破断せず、一定の強度を保ちながら変形し続ける領域が広いのが特徴です。
「降伏してから破断するまでの塑性域が広い」という特性が、A5052の優れた曲げ加工性や成形性につながっています。曲げ加工時に材料が粘り強く変形し、亀裂が入りにくいため、複雑な形状の部品も安定して製作可能です。
A5052のメリット
ここからは、A5052のメリットについて見ていきましょう。
耐食性に優れる
A5052は、表面に緻密で安定した酸化皮膜(アルミナ膜)を自己形成するため、無処理でも錆びにくい材料です。塩分を含む環境での耐食性(耐海水性)にも優れており、船舶部品や沿岸地域で使われる屋外設備に最適です。耐食性を高めたい場合は、アルマイト処理が用いられます。
また、Mg含有量が2.2~2.8%と抑えられているため、応力腐食割れ(SCC)に対して安全です。Mgを多く含む高強度な合金の場合、引張応力下で粒界割れを生じるSCCのリスクがありますが、A5052のMg含有量は少ないためSCCの懸念はほぼありません。
軽量で中程度の強度
A5052は、アルミ合金の中で「中くらい」の強度を持つと評価されます。引張強さは約260 MPaで、純アルミや3xxx系より高いものの、超々ジュラルミンやジュラルミンには劣ります。SS400と比較して引張強さは半分程度ですが、密度が1/3のため比強度ではA5052が有利です。
剛性も鉄の1/3ですが、重量あたりでは同等です。ただし、薄板の場合には形状設計による工夫が求められます。A5052は強度と軽さのバランスが取れており、多くの用途で必要十分な強度を発揮し、成形や接合も容易な使いやすい材料です。
優れた成形性
A5052は、塑性加工性(成形性)に優れており、板金加工(曲げ加工や深絞り)に適しています。曲げ加工では割れにくく、薄肉の折り曲げ部品などに最適です。A5052-H34板の場合、板厚tに対して内側曲げ半径r = t程度で問題なく曲げられます。
深絞りやプレス成形においても比較的良好な加工性を示し、一般的な絞り加工品や曲げ・絞り複合加工品に広く適用されています。切削加工にも適しており、ひずみが出にくく寸法安定性が高いという点も特徴です。
自動車部品、筐体、日用品など、プレス、曲げ、切削といった多様な加工法で広く利用されています。
溶接性が高い
A5052のメリットのひとつが、優れた溶接性です。溶接時に割れが生じにくく、各種の溶接方法に適しており、溶接構造用材料として採用されています。高強度なほかのアルミニウム合金(2000系や7000系)と比較して溶接後の性能低下が少なく、同系統のアルミ合金(5000系や6000系など)との溶接でも高い強度を維持可能です。
非磁性であるため溶接中の磁気による問題もありません。総合的に見てA5052は「アルミ合金の中で最も溶接しやすいグループ」に属し、溶接構造を伴う部品に採用されます。溶接による時効強化は期待できないものの、ほかの非熱処理合金と比較して溶接による強度低下が少ないため、溶接構造物に適しています。
A5052の用途
A5052の優れた特性は、多岐にわたる分野で活用されています。
自動車・鉄道
A5052は、自動車の車体外装パネル、内装部品(エンジンルーム仕切板、トランク底板、燃料タンクなど)、モータースポーツ用途(ラジエータ周りのシュラウド、小物ステー)に用いられます。燃料タンクでは、ガソリンや水分による腐食に強い点が好評です。
鉄道車両では、車体構体や内装板にA5052やA5083が選定され、地下鉄や在来線車両の側板・屋根板などに耐食性と加工性の高さから採用されています。
船舶・海洋分野
A5052は耐海水性が高く、小型船舶の船体・甲板、マリン用タンク、港湾施設の手すり・梯子、海洋プラントの配管などに用いられている材料です。
塩分による金属腐食が激しい海辺の環境でも、塗装なしで長期間耐久性があり、アルマイト処理を施せば耐食寿命が延びます。漁業用の生け簀や海上筏、マリーナ設備など、強度よりも耐久性や軽さが優先される海上・海中構造物に適しており、他の金属に比べて錆びにくい点が評価されています。
建築・建設資材
建築・建設資材分野でのA5052の用途は、屋根材や外装材、内装としては装飾パネルや天井板、建設資材としては仮設足場板などです。軽量で錆びにくく、加工が容易なため、屋外の道路標識や案内板などにも用いられ、建築・土木の分野で幅広く活用されています。
加工設計のポイント
ここからは、A5052を扱ううえで、設計者が知っておくべき加工のポイントを解説します。
曲げ加工と板厚方向の特性
A5052の板材曲げ加工では、板厚が厚いほど曲げ半径に余裕を持たせなければなりません。厚板(5mm超)を直角に曲げる場合は、内側曲げRは板厚の1.5倍以上が推奨されます。厚板では中立軸の移動や応力分布が大きくなり、割れのリスクが増加するためです。
圧延方向に対して直角(板幅方向)に曲げる方が割れにくいとされています。重要な曲げ加工では、事前に試し曲げを行って割れやスプリングバックの具合を確認すると良いでしょう。
切削・フライス・レーザー加工時の注意点
A5052は切削加工(マシニング、フライス、旋盤)では、比較的良好な切削性を示します。ただし、粘りがあるため切りくずが長く伸びやすく、工具に噛みつきやすい点に注意が必要です。対策としては、鋭利な工具刃先と十分な切削油剤、適切な送り量が有効です。
レーザー切断では高い反射率と良好な熱伝導性から、設定の最適化が求められます。高品位なエッジが必要な場合は機械加工やせん断も検討してください。切削バリや切りくずの噛みつきに注意して、最適な条件で加工しましょう。
他材質との溶接性の注意
A5052は溶接性に優れている一方で、異種材料との溶接には注意が必要です。アルミニウムと鉄や銅などの異種金属の直接溶接は困難で、脆い金属間化合物を生成する可能性があるからです。接合にはボルトやリベットなどの機械的締結を検討しましょう。
また、ステンレスなど異なる金属と接触させて湿気のある環境で使用すると、電食(ガルバニック腐食)が発生し、A5052側が優先的に腐食します。樹脂製のワッシャーを挟むなどして絶縁する必要があります。
A5052に関するQ&A
A5052の欠点は何ですか?
A5052の主な欠点は、他の高強度アルミ合金と比較して強度がやや低く、高温環境での耐熱性も低い点です。高い強度や高温での使用が求められる用途には向きません。熱処理による硬化ができない点も欠点であり、強度向上には加工硬化が必要となります。
A5052はどこで入手できますか?
A5052は、流通量が豊富で入手しやすいアルミニウム合金です。板材として広く流通しており、主に金属加工業者や専門商社から購入できます。
表面処理(特にアルマイト)に適していますか?
A5052は、アルマイト(陽極酸化処理)に適した合金です。アルマイト処理により耐食性が向上し、着色アルマイトも均一に仕上がるため、屋外部品や装飾用途に多く使用されています。
アルマイト処理されたかどうかの見分け方は?
アルマイト(陽極酸化)皮膜は絶縁性があるため、テスターの抵抗モードで導電性を確認し、導通がなければアルマイト処理がされている可能性が高いと判断できます。ただし、塗装膜なども絶縁性を持つため注意が必要です。
A5052の識別方法はありますか?
A5052を外見で判別するのは難しく、通常はメーカーの刻印や材質証明書で確認します。不明な場合は、化学分析や導電率測定によって判別します。
メビーでの部品加工事例
【板金加工】ファンボックス
![]() |
材質 | A5052 |
サイズ | W200×D105×H70mm
タップ、バーリングタップ追加 |
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板厚 | 1.5mm | |
表面処理 | アルマイト(白) | |
出荷日 | 8日目 | |
参考価格 | 10,085円 |
【板金溶接加工】名刺ケース
![]() |
材質 | A5052 |
サイズ | W100×D30×H70mm | |
板厚 | 1.0mm | |
表面処理 | アルマイト(つや消し黒) | |
溶接種類 | おまかせ(アークまたはレーザー) | |
仕上げ方法 | 焼け取りのみ | |
出荷日 | 8日目 | |
参考価格 | 7,405円 |
【切削加工(角物)】リブ
![]()
|
材質 | A5052 |
サイズ | W100×D65×H30mm | |
表面処理 | なし | |
出荷日 | 6日目 | |
参考価格 | 18,218円 |
※2025年7月時点の情報です。
まとめ
A5052は、軽量で高い耐食性と適度な強度を兼ね備えたアルミニウム合金です。曲げやプレスといった加工性や溶接性にも優れており、自動車・船舶・建築分野など幅広い用途で使用されています。鉄に比べて比重が1/3と軽く、比強度にも優れることから、軽量化が求められる設計に最適です。
設計時には、熱膨張や異種金属との接触、加工特性を考慮する必要がありますが、特性を正しく理解すれば、製品の軽量化や高耐久化に大きく貢献します。本記事で紹介した内容を参考に、製品設計・開発にA5052をご活用ください。
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