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加工図に欠かせない幾何公差ってどうして必要なのか?

幾何公差を指定する理由はなんでしょうか?また、幾何公差を指定している図面と指定していない図面では、具体的にどのような違いがあるのでしょうか?
国内の製造業では重要視されてこなかった幾何公差が、近年になって重要な位置づけになり加工図面には多くの幾何公差が指定されるようになりました。

幾何公差とは?

寸法公差は部品の各サイズ許容範囲を示しますが、幾何公差は部品形状の精度を示します。例えば穴が真円であることを指示したい場合には真円度の幾何公差を利用します。幾何公差が定義されていないと製造された穴が歪んでいても図面上は問題なしとなってしまいます。

幾何公差の種類と表記

幾何公差は寸法だけでは表しきれない公差を定めるもので、図面上に寸法などと併せて記載します。

分類 記号 名称 定義
形状 真直度 正しい直線に対する誤差範囲
平面度 正しい平面から最も低い位置と最も高い位置の誤差範囲
真円度 正しい円に対するズレの誤差範囲
円筒度 正しい円筒に対し、円筒両端の円サイズの誤差範囲
輪郭 線の輪郭度 理論的に正しい輪郭からの実際の形状の誤差範囲
面の輪郭度 理論的に正しい輪郭からの実際の面の誤差範囲
姿勢 平行度 基準の直線または平面に対し平行であるべき線や面の誤差範囲
直角度 基準に対して直角であるべき面や直線の誤差範囲
傾斜度 基準に対して指定された角度の誤差範囲
位置 位置度 基準に対する位置の誤差範囲
同軸度
同芯度
2つの円筒軸の誤差範囲
対称度 基準に対して対称であることの誤差範囲
振れ 円周振れ 正しい軸で回転させたときに表面が変位する範囲
全振れ 正しい軸で回転させたときに円筒全体が変位する範囲

幾何公差は積極的に使う必要がある

幾何公差を積極的に使う大きな理由の一つに、2016年に改訂された日本工業規格(JIS)の改正があります。この改正では幾何公差の使用が必須とされ、これに伴い、従来の図面とは全く異なる図面を描くことが必要になっています。
この改訂は筆者も驚くほどの改正であり、設計現場では混乱を招いています。またこの改訂を知らない企業も多く存在します。

寸法公差の表現と幾何公差の表現の違い

下図に旧JIS図面と新JIS図面を示します。JIS改正前後の表記の違いを確認してみましょう。

旧JIS図面

  • 旧JIS図面
    多くの設計者は違和感なくこの図面を見る事ができると思います。穴位置をXY寸法と寸法公差で完全に定義してあります。

新JIS図面

  • 新JIS図面
    多くの設計者はこの図面に違和感を感じると思います。従来の図面と比較すると全く異なる寸法表記になっています。しかし現在はこの図面がJIS規格上の正式図面になります。

 

新JIS図面の特徴は、形体同士の位置に関する指示には寸法公差ではなく、幾何公差を使うことです。したがって記号だらけの図面になってしまいます。また穴の直径寸法に“丸マーク”が付いていないことに気付いたと思いますが、これも新JIS図面では正しい表記になります。

幾何公差で部品の形状を規定する

図面では大きさは寸法で表現され、部品形状は線画で表現します。寸法は寸法公差で精度を指示できますが、部品形状の精度は寸法だけでは指示できません。線画で円を描いても真円であると明示されていないで、歪んだ円の部品が納品されても図面と違うと突き返すことができません。
明示されていなくても、日本の部品メーカーは図面の線画を忖度して円が描かれていれば真円と解釈し、垂直線が描かれていれば角度は垂直と解釈したので問題が起きませんでした。しかし海外では事情が異なり図面を忖度してくれないので、幾何公差で部品形状を厳密に規定することが必要になります。

日本の図面がガラパゴス化しないように

幾何公差は部品形状の精度を指示する大切な物ですが、使い方を間違えると図面の幾何公差が複雑化してしまうことがあります。よくあるのが一つの形状に2つ以上の幾何公差がダブって定義され製造不可能な高精度が意図せず要求される場合です。その場合は通称Ⓜ︎マークと呼ばれる最大実体公差方式を適用する事で回避できるのですが、考え方が難解で慣れないと上手く使えません。

日本の図面がガラパゴス化しない様に、設計者は幾何公差を使いこなす必要があります。ISO規格に準じてJIS規格も幾何公差での表現をルール化しており、従来の図面はJIS規格に準拠できなくなっています。たとえば穴の位置は寸法での指示ではなく”位置度”の幾何公差を使わないといけません。設計者としてJISの改訂を調べて実践することをお勧めします。

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