これまでの統合化部品表の話も関係はありますが、最近、業務系システムと3DCADについて、どんな仕組みがいいのかといった会話があったので、掘り下げてみようと思います。
「働き方」の変化を求める二つの課題
「会社に行って仕事をする」ということが普通だったのに、「会社に行かずに仕事をする」というリモートワークが推奨されるようになりました。コロナ禍によって、これまでの普通だった状況や考え方が急激に変化しています。
製造業の「モノを作る」という現場(工場・作業場所)を変えることは、簡単ではありません。しかし、大手企業が既に取り組んでいるように、BCPの考え方から、中小企業でさえ、「モノを作る場所」を複数拠点持つという必要性が生じてくるのかもしれません。事業を停止しなければならないという事態は、企業に大きな損害を与えてしまいます。
BCP
Business Continuity Planの略で日本語では業継続計画
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企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のことです。
(出典:中小企業庁 中小企業BCP策定運用指針より)
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ウィズコロナ・アフターコロナ・ポストコロナという言葉を聞かない日はないようになりましたが、私たちの「働き方」はどうなっていくのでしょう。
「働き方」では、別の視点で、「働き方改革関連法」の対応が議論されてきました。世間的な状況ではコロナの影響で、この言葉を聞く機会は減ったような気がしますが、中小企業では、2020年4月から(大企業は2019年4月)から施行開始されています。
「働き方改革」の目指すもの
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我が国は、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」などの状況に直面しています。
こうした中、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが重要な課題になっています。 (出典:厚生労働省「働き方改革」の実現に向けて より)
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製造業にとっては、人員不足とそれによる長時間残業は問題となっています。
この働き方改革関連法の「長時間労働の是正」を求められているので、「長時間残業を抑制するためにどう管理するのか(嫌な言い方をすると、どう監視してコントロールするのか)」が課題のように思われがちですが、これは本質ではなくて、「作業効率を上げるためにはどうするべきか」が重要です。
「働き方」の変化が、これら二つの課題から求められています。
クラウド3DCAD?
以前はテレビ会議システムといわれるような高額なものばかりでしたが、今ではビジネスユースの費用も低額なWEB会議システムによるWebミーティングが日常的なものになりました。在宅勤務時の社内ミーティング、これまでは出張を伴っていた他社と打ち合わせ、セミナーもこの方法を採用するようになりました。(本来は)仕事ができない時間=移動時間を必要としないので、1日の仕事量を考えればその効率化が図れます。
勤怠管理や経費管理といった業務系システムでもクラウドサービスの普及が進んでいます。ユーザーや管理者は、どこに居ても入力作業や管理を行うことが可能です。このシステムではPCでもタブレットでもスマホでも利用可能なことが多くあり、これもまた業務系クラウドシステムの特徴のひとつです。
業務系システムでは、定型的な作業のわりに、紙による処理や集計作業に手間がかかることが多いので、ここを合理化できることは「業務の効率化」を図る上でも効果があります。
私が深く関わるCADの分野でもクラウドを利用しているものがあります。またプラットフォームを利用したものもあります。クラウドとプラットフォームとは何?また何が違うのでしょうか?
■クラウド(Cloud)
これまでは、ユーザーが自前のハードウェアにソフトウェアをインストールしてそのサービスの利用とデータを保存していたことに対して、自前ではなく、ネットワーク経由でソフトウェア(アプリケーション)によるサービスを利用して、ネットワーク上にデータを保存することをいいます。 ■プラットフォーム(Platform)
情報の提供と共有を行う場所や仕組みといえばわかりやすいでしょうか。 その上で、特定のソフトウェア(アプリケーション)によるサービスを使うことができます。 ネットワーク上にその場所・仕組みが構築されます。 クラウドとプラットフォーム(筆者解釈)
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その違いはわかりにくいのですが、クラウドサービスの代表的なものにSaaS(サース:Software as a Service)があります。これはインターネット経由でソフトウェアを利用するサービスです。Microsoft 365などはそのサービスの一例になります。
一方でプラットフォームサービスは、PaaS(パース:Platform as a Service)と言われ、インターネット経由での、仮想化されたアプリケーションサーバやデータベースなどアプリケーション実行用のプラットフォーム機能を利用します。Google App Engine やMicrosoft Azure(アジュール)がその例にありますが、IT関係以外の人にはあまり馴染みがありませんね。
違いを言うのであれば、前者はアプリケーションの利用ができることに対して、後者はサービスを利用する環境、仕事をする場所も整えられていると私は解釈しています。
ミスミのmeviyはネットワーク上のサービスで、Webアプリケーションです。
私の身の回りでも、働き方改革を行う施策として勤怠管理がクラウドサービスで行われるようになりました。物理的なタイムカードとは異なり、場所を選ばずにユーザーが入力可能になったことで、出張中の入力も容易になり、その集計作業も効率化でき、「働き方改革」のひとつとなりました。
コロナ対策での在宅勤務は、この勤怠管理システムの導入当時には予測していない出来事でしたが、結果的にこれに対応できるものになったわけです。
クラウド3DCADとプラットフォームとは
3DCADにもクラウドを利用したものがあります。
その代表的なもののひとつが、Fusion 360(Autodesk社)です。Fusion 360は、クラウド上にデータが保存されますが、ソフトウェアはローカル(自身のPC)にあります。
もうひとつは、Onshape(オンシェイプ)です。Onshapeは2019年11月にPTC社に買収されましたが、この製品はソフトウェアもデータもクラウドにあります。
ランニングコスト/バージョンアップ
クラウド3DCADは、無償版を除き、サブスクリプションといわれる定額料金を支払って利用します。その費用は、デスクトップソリューションと言われるミッドレンジ3DCADの購入費に比べて安価で、さらに保守費用がいらないので、ランニングコストにメリットがあります。
ざっくり言うと、ミッドレンジの3DCADの年間保守費用とFusion 360の3年間のサブスクリプションは同じくらい、Onshapeではミッドレンジの3DCADの年間保守費用と1年間のサブスクリプションはほぼ同じという感じです。
ただし、ミッドレンジの3DCADは買い取り方式なので、年間保守費用を払わないと、バージョンアップはできなくなりますが、3DCAD自体はずっと使用できます(ハイエンド3DCADのように使用料を支払うものを除く)。
サブスクリプションのものは、料金を払わなければ(継続しなければ)使用できなくなってしまいますが、Onshapeのような完全クラウド製品は、ソフトウェアのバージョンアップが不要になります。
またFusion 360は、契約期間中のバージョンアップ費用は必要ありません。
ハードウェア
ミッドレンジ3DCADでは、推奨されるCPUやグラフィックには高機能が求められます。私の経験では、3年もすれば、グラフィックなどは推奨されないものになってしまいます。デスクトップワークステーションであれば、グラフィックボードを入れ替えて使用することも可能ですが、モバイルワークステーションではこれは現実的ではありません。
Fusion 360は、CAEやレンダリングの計算処理を行う場合、ローカルのワークステーションによる計算の他に、サブスクリプション購入時に付属しているクラウド クレジットを使い、高機能なワークステーションがなくても、複数のシミュレーションを行うこともできます。このクラウドクレジットは計算処理の難易度によって消費量は異なるようです。クラウドクレジットがなくなれば、追加購入することになります。
CAD機能
2年ほど前のFusion 360のトライアル経験では、数点の部品点数でのパーツとアセンブリ作成を行いましたが、数点ほどの3Dモデルを作っている限りでは不都合は感じませんでした。今はもっと良くなっているかもしれません。
データ保存
クラウド上に設計データを保存します。ひとつの設計室内でデータを共有する場合、クラウド上の保存には個人的に興味を感じなかったのですが、在宅勤務のような状況で、データを共有するような場合、良さそうな気がします。
ただ、自宅から会社のサーバーにつなげて設計データのやり取りをするのは重そうだし、リスクを感じます。個々がローカルにデータを持ち出してデータ共有する場合は、どれが最新のデータなのかといった問題が生じそうです。
クラウド3DCADについての詳細は各メーカーにお問い合わせください。
今回は、業務系と3DCADのクラウド化について話しました。次回はプラットフォームと統合化部品表の話を進めたいと思います。お楽しみに。
(次回に続く)