炭素鋼とは一体どのような素材なのでしょうか。この記事では、炭素鋼の特徴や代表的な炭素鋼であるSS400とS45CおよびS50Cについて解説します。
目次
加工が容易で手に入りやすい。一般的に使われる炭素鋼とは?
金属材料について語っていく上で、まずは鋼について知る必要があります。ここでは炭素鋼の定義や、種類、炭素鋼の特徴について解説していきます。
炭素鋼の特徴
炭素鋼とは、鋼(鋼鉄)の一種で合金鋼(特殊鋼)ではないものを指します。
炭素鋼の特徴を解説する前に、まずは鋼の定義について整理していきましょう。
鋼とは鉄をベースにした合金の一種です。鉄は純鉄のままでは脆くて錆びやすく、工業製品としては使用できません。そこで鉄には炭素「C」のほか、マンガンやリンなどを配合し、合金の状態で使用しています。「鋼」とは、このうち、炭素の量がおよそ0.02%~2.14%のものを指します。
炭素量が2.1%よりも多いものは「鋳鉄」とよばれ、炭素の含有量がおよそ2.1%~6.67%程度のものが鋳鉄として取り扱われます。これ以上炭素量が増えると、ふたたび脆くなってしまうため、工業用途で使われることはありません。
JISでは炭素量0.02%未満の鉄を「純鉄」、炭素量が0.02%~2.14%のものを「鋼鉄」、それ以上の鋳鉄を「鉄」と表記しています。「鉄」と「鋳鉄」の定義に注意が必要です。
鉄に含有される炭素量と、一般的な名称、JISの呼称は下表のようになります。
名称 | 鉄 | 鋼鉄 | 鋳鉄 |
---|---|---|---|
炭素含有量 | 0.02%未満 | 0.02%~2.14% | 2.1%~6.67% |
JIS呼称 | 純鉄 | 鋼鉄 | 鉄 |
鉄は含まれる炭素の量が多くなると硬くなっていきますが、一方でより脆くなっていきます。力を受けても変形しにくくなる一方で、衝撃的な力が加わったり、許容範囲を超える力がかかったりしたときに、砕けるような破損をしてしまいやすくなります。そのため機械や構造物の材料には、硬さと強さの両方を兼ね備えていることが求められるのです。
鋼は、鉄が硬さと強さの両方を両立するのにちょうどいい量の炭素が含まれているのです。
さらに鋼にマンガンやクロム、チタンなどを加え、さまざまな特徴を持たせたものを合金鋼や特殊鋼といいます。
錆びにくい性質の鋼や、熱に強い性質の鋼など、目的に合わせてさまざまな特徴を持った特殊鋼が開発されています。
鋼鉄のうち、合金鋼や特殊鋼に該当しないものを炭素鋼といいます。つまり炭素鋼とは、特殊な添加物や加工を施していないそのままの鋼鉄ということになります。炭素鋼は、鉄「Fe」と炭素「C」以外の元素の量が、既定値以下に定められており、たとえばクロムなら0.3%以下、チタンなら0.05%以下となっています。
炭素鋼にもさまざまな種類があり、含まれる炭素の量や、使用目的、強度などによって次のように分類されています。
炭素含有量 | ~0.1% | 0.1%~0.25% | 0.25%~0.3% | 0.3%~0.6% | 0.6%~2.14% |
---|---|---|---|---|---|
分類 | 低炭素鋼 | 中炭素鋼 | 高炭素鋼 | ||
JIS呼称 | SPC材 冷間圧延鋼板 |
SS材 一般構造用圧延鋼材 |
− | SK材 炭素工具鋼鋼材 |
|
SC材 機械構造用炭素鋼鋼材 |
炭素鋼は含有する炭素の量によって分類され、低炭素鋼、中炭素鋼、高炭素鋼に分かれます。
炭素含有量が0.02%~0.25%のものを低炭素鋼、0.25%~0.6%のものを中炭素鋼、0.6%~2.14%のものを高炭素鋼とよびます。
鋼は炭素を多く含むほうが硬い素材になるため、低炭素鋼は低い温度で変形させる冷間圧延で作られる鋼板、高炭素鋼は硬さが求められる工具などに使われます。
最も広く使用される鋼。SS400とは?
SS400はどのような性質をもった材料なのでしょうか? ここではSS400の特徴や用途について解説していきます。
特徴
SS400は一般構造用圧延鋼材と呼ばれるSS材(Structural Steel)の一種です。
SS材とは名前のとおり、一般的な構造物の材料として圧延で作られた鋼で、SS材の名前は「SS」の記号と、後に続く3ケタの数字で表されます。古くはSS41と表記されていました。3ケタの数字は材料の引っ張り強さを表しており、SS400であれば、引張強さが400N/mm2以上の構造用鋼という意味になります。 SS材にはSS400以外にもSS300やSS490のほかSS540などの種類がありますが、その中でも最も広く使われているのがSS400です。
SS400はほかの金属材料に比べると安価で入手しやすいのが特徴です。
溶接や切削などの加工がしやすいという特徴もあります。また板材の状態での流通も多く、板金加工やレーザーカットなども行えます。しかし、焼き入れはできません。また錆びやすい素材なのでめっきや黒染めなどの防錆処理が必要です。
用途
SS400は橋や船などの構造材に使われるほか、大型の機械や車両など、機械分野から建築分野まで幅広く使われています。鉄や鋼で何かを作ろうと思った際に、設計者が一番最初に思い浮かべる材料といっても過言ではありません。SS400は、それくらい広く、一般的に使用されている素材です。
SS400のメリット・デメリット
最も広く使われる鋼材SS400ですが、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか?
メリット
- 安価で入手しやすい
- 溶接しやすい
- 板金や切削などの加工にも向いている
- 汎用性が非常に高い
広く流通している汎用素材ですので、ほかの金属素材に比べて値段が安く入手しやすい素材です。ステンレスなどに比べると軟らかいため、切削や板金などの加工もしやすく、さまざまな用途で利用できます。炭素量が低く、熱による影響を受けにくいので溶接にも向いています。しかし板厚が25mm以上になるなど、厚い素材を溶接したい場合にはSS400ではなくSM材などの溶接用の材料を使用したほうがいいでしょう。
デメリット
- 焼き入れができない
- 鉄鋼材料の中では軟らかい
- 錆びやすいため、めっきや塗装などの腐食対策が必要
SS400は非常に一般的な材料であるため、鉄鋼材料としては特別に強い材料ではありません。より強い材料が必要な場合などはほかの材料も検討する必要があります。また炭素量が低く焼き入れもできないため、表面のみの硬さを得るような加工もできません。また錆びやすい素材のため、めっきや塗装、黒皮(酸化被膜)での保護が必要です。
SS400でよく使われる表面処理
SS400は錆びやすいため、ニッケルめっきやクロムめっきなどの表面処理を施すケースが多いです。橋梁など、私たちの生活で目にするSS材は、めっき処理したものをさらに塗装しているケースがほとんどです。また水のかからない場所など、それほど高い耐腐食性を要求されない場合には、黒皮(酸化被膜)処理されたものを使うケースもあります。建設工事現場の出入り口や地面の上に敷かれている黒っぽい鋼材が、黒皮処理されたSS400です。
SS400でよく使用される表面処理の一覧
- 四三酸化鉄皮膜(黒染め):薬品を用いて鉄の表面を酸化させ、四酸化三鉄(Fe3O4)の被膜で覆います。腐食を防止します。
- 無電解ニッケルめっき:化学的還元作用によりニッケルリンめっきを施します。熱処理とあわせて行うことで、表面の硬度を上げ、耐摩耗性を向上させます。
- 硬質クロムめっき:装飾クロムめっきよりも厚いクロムめっきです。耐摩耗性や摺動性が向上します。
- 三価クロメート:めっきの品質向上のため、めっきの後処理として行われる処理です。主に電気亜鉛めっきに使用されます。
S45CはSS400と並んでよく使われる材料
S45Cもまた、機械材料として非常に多く使われる素材です。ここではS45Cの性質について解説します。
特徴
S45Cは機械構造用炭素鋼鋼材と呼ばれるSC材(Steel Carbon)の一種です。
SC材は「SC」の記号とその後に続く2桁の数字で種類が表記されます。数字の部分は材料の炭素含有量を意味し、S45Cであれば、0.45%の炭素が含まれていることになります。以前はS450Cと表記されていたため、古い図面などではS450Cという記載を見つけられるかもしれません。
S45CはSS400と並んで、非常によく使用される材料です。またSC材の中では最もポピュラーな素材として知られています。そのため比較的安価で入手しやすく、さまざまな場所に使用されています。
焼き入れなどの熱処理によって耐摩耗性や硬さなどをコントロールできるため、歯車のような耐久性を求める機械部品に特に多く使われます。一方で錆びやすいため、油の塗布や塗装などの防錆処理が必要になります。
用途
S45Cは機械の部品、とくに機械の内側にある部品に多く使用されています。
例えば自動車のエンジン周辺部品やギアのほか、プーリーやブラケットのような標準的な機械部品にも使われます。鉄系材料で何かを作ろうと考えた場合、強度をあまり必要としない場合にはSS400、強度や耐久性が必要な場合にはS45Cがまず最初の材料の候補に挙がるといっても過言ではありません。それほどまでに一般的な機械部品材料として使用されている材料です。
S45Cのメリット・デメリット
S45Cには、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか?順番に解説していきます。
メリット
- 熱処理により強度を与えられる
- 切削加工は熱処理前であればやりやすい
- 汎用性が高い
広く流通している汎用素材ですので、ほかの金属素材に比べて値段が安く入手しやすい素材です。焼き入れ前であれば、切削加工もしやすいので、歯車などを作る際には切削加工後に熱処理を行うのが一般的です。一方で研削加工については、切削加工の後に熱処理を行い、その後に寸法調整などのために研削を行うのが一般的です。
デメリット
- 溶接には向かない
- 板金にはあまり使われない
- 錆びやすいため表面処理などが必要
S45Cは熱処理に向いている素材です。つまり熱により性質を変えやすいため、逆に熱を使う溶接にはあまり向きません。
S45Cでよく使われる表面処理
表面処理の選び方はSS400と同じです。
S45Cは炭素鋼であるため、焼き入れや焼き戻しのほか、焼きならしや焼きなましなど、一般的な熱処理が多く行われます。一方で合金鋼ほどには焼き入れ性が高くないため、あまり深くまで焼き入れを行うことはできません。歯車などのように、表面の耐久性が強く求められる場合には、高周波焼き入れを行うことも多くあります。
S50CはS45Cよりも硬い材料
S45Cと並んで比較されやすい材料にS50Cがあります。S50Cとはどのような素材なのでしょうか?
特徴
S50CはS45Cと同じ機械構造用炭素鋼鋼材、SC材の一種です。
S50Cには0.50%の炭素が含まれています。前述の通り、鉄は含まれる炭素の量が多くなればなるほど硬くなる性質をもっています。そのためS50CはS45Cよりも硬くなりますが、その分、やや脆くなってしまいます。また材料のコストもSS400やS45Cに比べると高くなります。
S50CもS45Cと同様に、機械部品などに多く使用される材料です。しかしS50CはSC材の中でも炭素量が多い素材に分類されます。硬さや引っ張り強さだけでなく、耐摩耗性などもS45Cよりも高くなりますので、より高い強度が求められる部品などに使用されます。
S50Cも熱処理が可能です。また耐腐食性は低いので、防錆処理が必要です。
S50Cよりも炭素量の多いSC材としてS55Cが挙げられます。S55CはS50Cよりもさらに硬く、耐摩耗性などに優れる素材です。S50Cとの使い分けは、素材の強度のほか、流通している材料形状などによって行われます。
S50Cのメリットとデメリット、よく使われる表面処理は、S45CやC55Cと同じです。
用途
S50Cは機械の部品の中でも比較的強度を要する部品に多く使用されます。
例えばシャフトやボルトナットのような、強い力のかかりやすい部品や、金型のように耐久性が求められる装置に使用されています。
SS400とS45CおよびS50Cの機械的、物理的性質
ここからは、これまでに解説してきたSS400とS45CおよびS50Cのスペックについてまとめていきます。設計などの際には、このような数値に着目して計算をすすめていきます。
機械的性質
SS400とS45CおよびS50Cの機械的性質はJISにより下表のように定められています。
※記載の数値は代表値であり、保証値ではありません。
種類 | 材質記号 | 熱処理(℃) | 機械的性質の代表値 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
引張り強さ (N/mm2) |
耐力 (N/mm2) |
伸び | 硬度 | ||||
構造用鋼 | SS400 | − | 400~510 | 215以上 | 21%以上 | − | |
炭素鋼 | S45C | 焼きならし | 810~860 空冷 |
570以上 | 345以上 | 20以上 | 167~229HBW |
焼鈍 | 約800 炉冷 |
− | − | − | 137~170HBW | ||
焼き入れ | 810~860 水冷 |
690以上 | 490以上 | 17以上 | 201~269HBW | ||
焼き戻し | 550~650 急冷 |
||||||
S50C | 焼きならし | 810~860 空冷 |
610以上 | 365以上 | 18%以上 | 179~235HBW | |
焼鈍 | 約800 炉冷 |
− | − | − | 143~187HBW | ||
焼き入れ | 810~860 水冷 |
740以上 | 540以上 | 15%以上 | 212~277HBW | ||
焼き戻し | 550~650 急冷 |
物理的性質
SS400とS45CおよびS50Cの物理的性質はJISにより下表のように定められています。S45CとS50Cの物理的性質には大きな違いはありません。
※記載の数値は代表値であり、保証値ではありません。
SS400の物理的性質
物理的性質 | 縦弾性係数(ヤング率)[GPa] | 横弾性係数[GPa] | ポアソン比(常温) | 密度[g/cm3] | 比重 | 融点[℃] | 熱伝導率[W/(m・K)] | 熱膨張係数[10-6/K] | 固有抵抗[10-8Ω・m] | 比熱[J/(kg・K)] |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
物性値 | 205~206 | 79~82 | 0.27~0.29 | 7.84~7.86 | 7.84~7.86 | 1660~1770 | 44~60 | 10.7~11.6 | 13.3~19.7 | 0.474~0.494 |
S50Cの物理的性質
融点 | 密度 (g/cm³) |
ヤング率 (縦弾性係数) |
剛性率 (横弾性係数) |
ポアソン比 | 線膨張率 (ppm/K) |
定圧比熱 (J/kg・K) |
熱伝導率 (W/m・K) |
---|---|---|---|---|---|---|---|
GPa | GPa | ||||||
約1,660〜1,680℃ | 7.84 | 205 | 82 | 0.25 | 11.7 | 489〜494 | 44 |
SS400とS45CおよびS50Cの標準寸法
炭素鋼で多く流通している素材の選び方はこちらをご覧ください。
今回の記事で紹介してきた材料の標準寸法は下記の通りとなります。
種類 | 材料記号 | 形状 | 単位 | 標準寸法 |
---|---|---|---|---|
一般構造用 圧延鋼材 |
SS400 | 平鋼 | t | 6,9,12,13,14,16,19,22,25,28,30,32,35,38,40, 45,50,55,60,65,70,75,80,85,90,95,100,105 |
角鋼 | □ | 9,13,16,19,22,25,32,38,44,50,65,75,90,100 | ||
ミガキ棒鋼 (冷間引抜) |
SS400D | 平鋼 | t | 2, 3, 4, 4.5, 5, 5.5, 6,7,8,9,10,11,12,13,14, 15,16,17,18,19,20,21,22,24,25,28,30,32,34, 35,36,38,40,42,44,45,50,55,60,65,70,75,80, 85,90,100,110,120,130 |
六角鋼 | 対辺H | 3,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,17,19,21,22,23, 24,26,27,29,30,32,35,36,38,41,46,50,54, 55,58,60,63,65,67,70,71,75,77,80,85,90,95, 100,115 |
||
丸棒 | D | 2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18, 19,20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30,31,32, 33,34,35,36,37,38,40,42,43,44,45,46,48,50, 55,60,65,70,75,80,85,90,95,100,105,110, 115,120,130,140,150,160,170,180,190,200 |
||
機械構造用 炭素鋼鋼材 |
S45C-D (ミガキ) |
丸棒 | D | 2, 2.5, 3, 3.5, 4, 4.5, 6,7,8,9, 9.5, 10,11, 12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24, 25,26,27,28,29,30,32,33,34,35,36,38,40, 42,44,45,46,48,50,55,60,65,70,75,80,85, 90,95,100,105,110,115,120,125,130 |
S45C | 平鋼 | t | 3, 4.5, 5,6,8,9,10,12,16,19,22,25,30,32,38,50 | |
S50C | 平鋼 | t | 6, 9.5, 12.7, 13,16,19,22,25,27,32,38, 45,50,55,65,75,85,95,105,115,125,135, 145,155,(165),(175),(185),(205) |
|
角鋼 | □ | 12.7, 13,16,19,25,28,32,38,44,50,55, 65,75,90,100,110,120,130,155 |
しかしこの標準寸法はJISによって定められているものであり、実際の流通状況を表すものではありません。また流通状況は時事情勢によっても変動します。そのため、材料の形状と寸法については、材料メーカーのパンフレットなどで確認してください。
まとめ
SS400やS45Cは機械や構造用の材料として最も多く使用されている材料で、S50Cもまたそれらに続いて多く使われる材料です。「金属で部品や機械を作ろうと思ったときに、最初に候補に挙がるのはSS400とS45C」といわれるほどです。材料の基本的な性質を学び、設計に活用しましょう。
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