現場取材・対談

「日経XTECH」掲載|製造業DXの道は「3D化」から始まる。データを起点とした、ものづくり革新の方法論

ものづくりの世界で不可欠になるデジタルトランスフォーメーション(DX)。だが、必要性は感じていても具体策が見えていない日本企業は多く、グローバルに後れをとっているのが現状だ。その要因は何なのか? デジタル化の後れを取り戻し、日本製造業がふたたび競争力を獲得するための方法とは? 製造業DXの推進に向けた多様なソリューション/サービスを展開するオートデスクとミスミ、両社のキーパーソンが、現状の課題や描くべき戦略について語り合った。

(左)
米国オートデスク社
製造業グローバルマーケット開発&戦略
シニアディレクター
デトレフ ライヒネーダー
(Detlev Reicheneder)氏

(右)
株式会社ミスミグループ本社
常務執行役員
ID企業体社長
吉田 光伸氏

日本製造業におけるDXの現状と、問題点

労働力や1人当たり就業時間が減少する中、どうやって生産性を高めるか

吉田 日本の製造業は現在も国際競争は高い一方で、人手不足、時間不足という課題があります。人口減少と働き方改革で総労働時間が減少している中で、量から質へ、労働生産性の改革へと転換することが生き残りの要件ですところが、多くの日本企業は旧態依然のプロセスを変えられずにいる。そのため、生産性が高められず、グローバル競争力を失いつつあります。

「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の時代は今や昔です。これからは、デジタル技術を積極的に活用して働き方やビジネスモデルを刷新しなければ、生き残ることが難しくなるでしょう。現在の私たちは、製造業の歴史上でも重要な分かれ道にいると感じています。

ライヒネーダー 世界の市場の多くで人口の高齢化が問題となっており、それは日本だけでなくドイツでも同様です。対策として、多くの企業が業務の自動化に取り組んでいます。ここでポイントになるのが、デジタル化なしに自動化は行えないということです。そのため、ドイツでは中堅・中小企業を含めた多くの企業が、3Dモデルの活用をはじめとしたデジタルなものづくりに移行しています。例えば産業用X線検査システムのメーカーである独VisiConsult 社は、新製品情報をPDM/PLMで管理し、品質管理などのビジネスプロセスへつなぎ、ワークフロー化したことで、プロセスを明確にし、透明性を高め、ビジネスの加速を実現しました。私の感覚ですが、ドイツでは9割の企業は既に3Dに移行済みなのではないでしょうか。

これからの時代、「そのうちよくなる」という根拠のない希望は捨て去るべきです。かつてIndustry 4.0という考え方がドイツで生まれました。もちろん考え方自体は今も有効ですが、これは10年前のアイデアであり、私たちを取り巻く状況は大きく変化しています。2020年に起こったコロナ禍はその1つといえるでしょう。

むしろ、「うちはIndustry 4.0が実践できている」と自認する企業ほど危険です。なぜなら、成功体験が足かせになって変化できないからです。実際、2000年にForbes 500に選出された企業のうち、現在も存続している企業は約半数しかありません。

図1 戦い方の転換が不可欠になる時代
1980年代に比べると、労働力人口も1人当たり就業時間も大きく減っている。少ない総労働時間で多くの成果と付加価値を生み出すには、DXによって戦い方そのものを変えることが不可欠だ

危機を乗り越えるために必要な考え方

“Why”から出発してデータ+自動化+インサイトで変革する

ライヒネーダー オートデスクでは「データ」「自動化」「インサイト」の3つをDX推進の重要な要素と位置付け、ビジネスに取り込むことを提唱しています(図2)。

例えば、データを中心に据え、ものづくりプロセスのワークフロー化を進めることが重要です。これにより、調達からサービス、サプライチェーン、顧客まで、部門や組織をまたぐコラボレーションや業務の自動化が可能になり、生産効率を高めることができます。また、自動化によって生まれた人的リソースや時間を、競争力向上のための施策の立案・実行に振り向けることも可能になるでしょう。さらにAI活用も不可欠です。人間には容易に見いだせないインサイトが得られれば、これまでにない価値をビジネスに付加できるようになるからです。

吉田 ミスミでは、DXは手段であり、それ以前に根幹の部分である「Why」が極めて重要だと考えています。これについて、当社の例を基にご説明します。

当社は、インダストリアル・オートメーションに求められる精密機械部品から工具などの消耗品まで、グローバル最大級の商品数3000万点超の生産材をワンストップで提供しています。これまで多くのお客様の調達課題の解決に貢献してきましたが、ライヒネーダーさんがおっしゃる通り、近年は製造業を取り巻く環境が大きく変わっています。

少量・多品種生産をはじめ、市場のニーズが多様化し、プロダクトライフサイクルはどんどん短期化しています。時間の価値がかつてないほど高まる時代といってもいいでしょう。「個別の顧客ニーズに合わせて、我々のサービスも進化させる必要がある」――。新しい時間価値を社内で徹底的に議論して、デジタルを活用した新しいソリューションである 「meviy(メヴィー)」 に行き着きました。

meviyでは、部品の3D設計データをクラウドにアップロードするだけで、その部品の見積もり・納期をAIが3秒程度で回答します。そして注文が入ればすぐに加工データが工作機械に転送され、部品を製造し、最短1日でお客様へ出荷します。紙の図面を作ったり、見積の回答、長い製造納期を待ったりする必要性はありません。見積りから製造までの一連のプロセスを自動化することで、調達にかかる時間の大幅短縮を実現しています。

このように、お客様の声を聞くことから「なぜ(Why)変革しなければならないか」を考え、その実現手段としてDXを進めることが変革の成功に向けて不可欠だと我々は考えています。

図2 オートデスクが考える、製造業DXの目標となる3要素
データを中心に据えた仕組みにより、業務プロセスをワークフロー化することでコラボレーションと自動化を推進。さらにAIによって得たインサイトで製品の付加価値を高める

DXを推進するために、着目すべきポイント

2Dから3Dに移行し、ムダな時間を削って効率を高める

吉田 「設計、調達、製造、販売」というものづくりのバリューチェーンを見ると、設計ではCAD/CAEなどによりデジタル化がかなり進んでいますし、製造、販売もデジタル化が進んでいます。一方、調達のプロセスでの紙やFAXの処理には、非常に多くの時間を費やしていることが分かりました。

例えば、約1500点の部品で構成される機器を作る場合、紙の図面を書き、FAXで送信してから部品が納品されるまでに合計1000時間ほどかかります。日本国内に製造業は約38万社あるので、各社がこの規模の設備を1つ作る過程では、調達部分だけで3.8億時間もの時間が費やされている。当社は、このアナログなプロセスをデジタル化することで、生産性向上につなげ、社会に大きなインパクトを与えられるのではないかと考えました。このように「時間を創出する」という視点は、DXの1つの出発点になると思います。

 

ライヒネーダー オートデスクは製品設計と製造プロセスに関わるエンジニアの仕事に向けたツールを提供しておりますが、顧客のフォーカスが変化していると感じています。エンジニアの仕事は 2Dから3Dに変わり、現在はAIや機械学習を活用した、効率を向上させる自動化へと変わっています。ロボティクスやアディティブ マニュファクチャリング、ハイブリッド製造、アジャイル製造など新しい製造方法も使われるようになり、生産性が向上して、大規模と小規模の製造を同時に行えるようになりました。

製品のあり方も変わっています。製品の接続性が大幅に向上し、スマートでインテリジェントなものとなりました。顧客は製品が学習し、継続的に向上することを期待しています。これは古いコンセプト、時代遅れの方法やワークフローでは実現できません。

 

 

そこでオートデスクは、ものづくりワークフローのためのプラットフォームを新たに作りました。このプラットフォーム上で、設計、エンジニアリング、製造、品質管理といった工程をつなぎ、ものづくりに関わるすべての人が同一の設計を共有することで、紙の図面やデータファイルのやり取りなど、煩雑な業務に使用する時間を省きます。

このプラットフォームの中心になるのがデータです。これからの時代に求められる、業務の自動化やデジタルツイン※といった先進的なものづくりには、データを中心に据える考え方、および3Dの設計モデルが不可欠です。日本では「変化にはリスクが伴う」との考え方がまだ支配的なようですが、「変化しないほうが将来的なリスクが高まる」ということに、ぜひ気付いていただきたいと思います。

吉田 その通りですね。ものづくりのデジタル化の必要性は、2020年の製造基盤白書(ものづくり白書)でもうたわれています。もちろん、コストや人材教育といったハードルはありますが、乗り越えなければ世界に置いていかれます。例えばmeviyを使うことで、従来は1000時間かかっていた調達業務を80時間程度に短縮できます。これが、3D化、デジタル化に向けたハードルを越えるための大きな動機になると我々は考えています。

※リアル空間と同じものを、デジタル空間上の3Dモデルで「双子」のように再現すること

戦略を描いたら、仮説を立てて「小さく・早く」試す

ライヒネーダー その上で、実際のデジタル化のプロセスは、大きく3つのフェーズで推進することが重要です。最初のフェーズでは、3Dのものづくりに移行して、データを中心に据える体制を整えます。具体的には、ファイルサーバーや電子メールを経由したファイル受け渡しを脱却し、3Dモデルを関係者全員で即時共有できるようなワークフローを整備します。データは常にアップデートされ、変更があれば全員に通知されます。

次のフェーズでは、自動化によってマニュアルワークフローを排除し、エンジニアリングや製造、調達などに使われていた時間を減らします。これによって、創出した時間をイノベーションに活用します。

そして最後のフェーズでは、既存の製品に付加価値を与えるためのインサイトを得ます。製品から得られるリアルな情報を基に最適化を行い、何かを作る前にシミュレーションを行うことで、顧客へ新しいサービス、追加のサービスを提供するのです。これにより、お客様はビジネスを成長させることができます。それぞれの段階で投資利益率(ROI)を評価しながら、無理せず自社のペースで“DXジャーニー”を歩んでいくことが大切だと思います。

吉田 DXの具体的なアプローチですが、やはり当社は“Why”こそが最も重要な出発点だと考えます。プロダクトアウトの発想ではなく、顧客の声に耳を傾け、戦略を描いたら、仮説を立てて「小さく・早く」試す。現在は、オートデスクの「AutoCAD」Fusion 360を筆頭に、手軽に使えるクラウドサービスがたくさん登場しています。「デジタル変革だ」と大げさに構えず、様々なアイデアをリーンに低リスクで試すことから、企業が競争力を取り戻すためのヒントが見えてくると思います。それが、日本の製造業全体が元気になっていくためのポイントになるのではないでしょうか。

お問い合わせ

株式会社ミスミ
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オートデスク株式会社
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