プリハードン鋼は、調質鋼ともよばれ、あらかじめ熱処理が施された金属材料です。切削加工に適した調質鋼で金型などに良く利用されています。
目次
プリハードン鋼の製造方法、用途、種類、特徴
プリハードン鋼に施されている熱処理について
プリハードン鋼は、炭素鋼などの鋼材に調質という熱処理を行ったものです。そのため調質鋼ともよばれます。一般的な炭素鋼では、焼き入れの温度は800℃~850℃、焼き戻しの温度は420℃程度で行われるのに対し、調質では焼き戻しがおよそ500℃前後で行われます。焼き入れによって生じた大きくて硬い結晶を、比較的高温での焼き戻しによって微細化させるためです。これにより、熱処理が施された材料でありながら、切削などの機械加工が行いやすくなります。プリハードン鋼は、ほとんどの素材においてHRC(ロックウェル硬さ)は40~45程度になっています。
プリハードン鋼の規格
プリハードン鋼の規格はJISでは定義されておらず、各鋼材メーカーが販売する商品名によってそれぞれ定義されています。そのため、同じような素材であっても各社で取り扱い名称が異なるため、注意が必要です。
プリハードン鋼と非常によく似た材料に「プレハードン材」があります。プレハードン材もあらかじめ熱処理が行われている素材です。そのため、切削加工後の熱処理が必要なく、精密な切削加工などにも適している鋼材です。しかしプレハードン材はプリハードン鋼と異なりハイス材に分類され、工具やエジェクタピン用の棒材として取り扱われています。
プリハードン鋼の材料になる鋼材
プリハードン鋼には、主に3種類の鋼が使われます。炭素鋼(SC系)と合金鋼(SCM系)の他に、ステンレス(SUS系)があります。熱処理が施されてはいますが、基本的な性質は、素材となった鋼の性質を参考にするといいでしょう。そのため、おおよその傾向として、SC系のプリハードン鋼よりはSUS系のプリハードン鋼のほうが硬くなります。鋼材の種類については、後の項で詳しく説明します。
プリハードン鋼の用途
プリハードン鋼は、硬さをもちつつも切削加工しやすいという性質から、主に金型の材料として使用されます。樹脂の射出成形用の金型やゴム金型の他、金属のダイキャストやプレス、鍛造の金型にも使用されます。
また、既に熱処理が済んでいる素材なため、機械加工後に熱処理を行うと歪みが出てしまう場合などは、プリハードン鋼を利用すれば加工後の熱処理が省けます。そのため、精密機械の材料にも使用されます。
プリハードン鋼のメリットとデメリット
メリット
- 硬いけれど機械加工しやすい
- 焼き入れ、焼き戻しが不要
一般に硬い素材は機械加工が困難になりますが、プリハードン鋼は調質により細かい結晶をもっているため、切削などの加工がしやすいのがメリットです。またあらかじめ熱処理が施されている素材のため、加工後の熱処理も必要ありません。
デメリット
- 硬さに限界がある
- 熱処理に適さない
プリハードン鋼には、あまり硬い素材は販売されていません。また既に熱処理が済んでいるため、追加で熱処理を行っても、硬さの上昇には限界があります。さらに熱処理に適していない製品もあります。加工済みのプリハードン鋼の硬度を向上させたい場合には、窒化処理を行う場合があります。
プリハードン鋼でよく使われる加工、表面処理
プリハードン鋼に行われる加工のうち、代表的なものを紹介します。
切削加工
プリハードン鋼は切削加工に向いている素材です。そのため、切削加工を施されて、金型やピン、精密機械部品などに使用されます。
窒化
プリハードン鋼は熱処理済みの素材であることに加え、一部のプリハードン鋼は焼き入れ焼き戻しといった熱処理を行っても効果がありません。そのため加工後に硬度を向上させたい場合には窒化を行うケースがあります。
プリハードン鋼の種類
プリハードン鋼は元々の材料によって、SC系、SCM系、SUS系の3種類に分けられますが、JISによる規格はなく、複数の鋼材メーカーがそれぞれの商品名をつけて取り扱っています。ここではプリハードン鋼の中でも、特によく知られている商品名を紹介します。
※メーカー都合により商品名が変更されたり、取り扱い商品が変わったりする場合があるため、正確な最新情報については各メーカーのカタログなどを参照してください。
NAK55
NAK55は、大同特殊鋼が販売しているSCM系のプリハードン鋼です。硬度は37~43HRCで、切削性に富み、SCM440よりも削りやすく、S53Cと同じように加工できます。そのため樹脂の射出成形用の金型に多く使用されます。溶接性にも優れている他、シボ加工や鏡面加工といった金型としての加工にも向いています。一方で時効硬化特性(析出硬化)をもつため、焼き入れや焼き戻しはできません。
NAK80
NAK80は、NAK55同様、大同特殊鋼が販売しているSCM系のプリハードン鋼です。硬度は37~43HRCでNAK80の特性は基本的にはNAK55と同じですが、鏡面加工性がより向上しています。
DH2F
DH2Fも大同特殊鋼が販売しているプリハードン鋼です。硬度は37~41HRCで樹脂成形だけでなく、ダイカスト用の金型にも使用されます。
STAVAX
STAVAXは、Uddeholm(ウッデホルム)が販売しているSUS系のプリハードン鋼です。硬度は27-35HRCで、耐食性、耐摩耗性が高く、光学部品や医療機器部品などを製造する超精密金型に使用されます。鏡面加工やシボ加工にも向いています。一方でプリハードン鋼の中では機械加工が難しい素材でもあります。
プリハードン鋼の機械的、物理的性質
プリハードン鋼はJISによる規格がなく、機械的性質や物理的性質として定められている数値はありません。熱処理前の材料の数値が参考にはなりますが、詳細は各材料メーカーのカタログなどから確認してください。
機械的性質、物理的性質、化学的性質
機械的性質や物理的、化学的性質に対する規定はありません。メーカーのカタログやミルシートで確認してください。
プリハードン鋼の標準寸法
JISによる規定はないため、各メーカーの取り扱いサイズを確認してください。
まとめ
プリハードン鋼は、SC材やSCM材の他SUS材などの鋼材にあらかじめ熱処理を施した素材です。樹脂やゴムの成形、プレスやダイキャストの金型に使用されることが多いだけでなく、加工後の熱処理が必要ないため、精密機械部品の材料や工数削減のためにも使用されます。機械的性質や寸法は、取り扱いメーカーのカタログなどから確認しましょう。
ミスミmeviyでは、NAK55(相当)の切削加工が可能です。プリハードン鋼は、それなりの硬さの材料を、追加的な熱処理なく切削加工により好きな形状に加工できることが大きな特徴です。スライド機構など摺動面で利用される部品等で、是非その利便性を感じて下さい!
※NAK55(相当)とは、37~43HRCのプリハードン鋼の相当品を使用する可能性があることをさします。
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