前回はSOLIDWORKS WORLD2018(以下SWW2018)の紹介をさせていただきました。読んでいただいた皆さんの中にも、興味を感じていただいたかたもいることと思います。ぜひ、ご一緒したいものですね。来年は、2019年2月10日~13日テキサス州ダラスで開催です。
出展:ダッソー・システムズ(筆者撮影) ダラスで有名な場所(2016年撮影)
私はミスミさんが設計アプリケーションを手掛けた頃、今から3年以上前から、3DCADのことについてディスカッションさせてもらっていました。このブログもmeviyスタッフ珠美礼さんからの、「3DCAD導入以前の設計方法、3DCAD導入期、現在、これからについて話しをしてほしい!!」で始まっています。
今回は2DCADから3DCADへのシフトが、サプライチェーンにどのような変化をもたらすのか最新事例を混ぜながらご紹介します。
【1】2DCAD時代の設計
こちらinCAD Libraryとmeviyという仕組みですが、皆さんどう思いますか3DCAD推進者としては、「来たな!! だから3DCADだよね。」と思いました。私が2DCADを使い始めたのは今から28年前、ちょうど手書き図面から2DCADに変わるタイミングでメカ設計部門に配属となりました。
上司の目を盗んでは2DCADを使い、見つかっては「まだ早い」と言われ、ドラフタ―に向かい手書き図面を書いていたものです。
(「ドラフタ―って何?」という人もいますよね?)
2DCADを使い始めた頃は、今のように様々な製品のCADデータで入手できることは多くはありませんでした。カタログを見ては2DCADにトレースしていました。やがて2DCADデータをメディアやホームページから製品の2D図面と図面に書かれた製品の文字情報を入手できるようになって、自分でカタログを見ながら描くことを考えればはるかに楽になったことを思い出します。
設計環境の移り変わりのお話しはあらためてしますが、ここでお話ししたかったのは、「2DCADの情報は、CAD上の図形と文字」ということです。もちろん今でも図面や図面に書かれた文字情報も重要ですが、この情報を営業・開発・設計・加工・組立・メンテナンスで利用しようとしても、その利用範囲やできることも限られたものになります。例えば文字による部品情報なら部品表(BOM)作成くらいですよね。
【2】サプライチェーンの中で判明した2DCADの限界
皆さん、サプライチェーンっていう言葉をご存知かと思いますが、私はこんな感じで、製造業でのサプライチェーンを定義してみました。
- ものを作る上での社内のつながり
- ものを作る上での社外とのつながり
私のこれまでの経験では、設計者が製品設計を行い、設計の成果物になる図面を発注部門に出図という形で渡します。出図された図面は発注部門から社外の加工会社に渡ります。外部加工会社に渡した後、見積書を取り、確認の上で発注することが一般的だと思いますが、発注元が短納期対応を迫られている場合では、このようなやり方は、発注元、発注先のいずれも厳しい時間管理を強いられることになります。
これまでの2D図面では、サプライチェーンの中で伝えることができる情報が少なかったので、納期短縮やコスト低減をしようとしてもその工夫も限られていたと私は考えます。
これから先、このブログでお話ししていく内容になりますが、3DCADデータの持つ豊富な情報量を利用することで、inCAD Libraryでは標準的な部品を使用した設計時間短縮、meviyでは特注部品を使用するトータルコスト削減の可能性を感じています。だから私は、「来たな!! だから3DCADだよね。」と思っているわけです。
【3】SWW18で語られた新たなサプライチェーンモデル
実は、SWW2018でも、その可能性を実感しました。もちろんこれまでも、エコシステムといわれる3Dデータを連携しながら使用していくシステムについてたびたび話を聞いてきました。例えば、3DCAD-シミュレーション(CAE)-製品データ管理システムPDM-CAMといった連携や、IoT ,仮想現実AR・拡張現実AR、3Dプリンタの話もこれにあたります。
今回のSWW2018では、サプライチェーンに関わる製品の話が出ました。「3DEXPERIENCE Marketplace Make」というシステムです。このシステムは、「3DEXPERIENCE Marketplace」という製造サービスをオンデマンドで提供します。この「3DEXPERIENCE Marketplace」には「3DEXPERIENCE Marketplace PartSupply」という部品調達を行うための機能を持っていいます。簡単に言えば、SOLIDWORKSで設計したデータを使用して、買い手(部品発注元、例:装置メーカー)と売り手(部品受注先、例:部品加工会社)を結びつけるものです。
SWW2018 3DEXPERIENCE Marketplaceで紹介されたもの(出典:ダッソー・システムズ/筆者撮影)
SOLIDWORKSユーザーはその部品を作りたい時に、このサービス上に登録されている製造サービスプロバイダー(現在50社)とサプライヤーから提供された部品を利用することができます(現在600社 3000万点)。その部品は見積提示~発注を経て、ユーザーの元に届けられます。
基調講演の中で、「エンジニアリングの世界におけるAmazon.comのような存在」と紹介されました。まさにその通りですね。私の持っている情報では、北米のSOLIDWORKSユーザーは必ずしも大企業ばかりではなく、小さな企業も多く存在しています。広い国であり、物流も発達した国ですので、北米全土から最適な部品調達を行うことも十分考えられます。
一世風靡している3Dプリンタの活用方法でも、個人が設計したデータから3Dプリンタで製品製作する時に、Web上で最適な製造サービスプロバイダーを探して製品が個人まで届けられるという仕組みの北米での事例を見たこともあります。そんな背景と3DCAD・3Dデータの優位性を上手く活かしたこのサービスが出てきたのかなとSWW2018会場でも考えていました。
【4】今後は3DCADがサプライチェーンの主役に
でも、ちょっと待ってください。ミスミさんの仕組みでは、支払・請求・取引管理のサービスまではないと思いますが、「3Dデータをそのまま調達できる」という部分は同じだと思いませんか。
meviyでは3Dデータのまま見積もりができるので、2D図面作製は不要ですね。見積もりと納期を確認して発注が出来ます。2D図面の作成がいらないっていうことは、せっかく設計意図を盛り込んだ3Dデータなのに、外部に伝えるための翻訳作業的な2D図面作成の手間が省けてリードタイム短縮につながるし、もしかしたらトータルコストダウンにつながるかも、という期待が持てます。
inCAD Libraryではメカ設計者用の設計事例がまとまっていて、3DCADデータを無料ダウンロードすることができます。そうすると設計者は1から設計する必要がなくなり、より付加価値の高い部品設計に集中できますよね。図面をかかずに型番で部品手配ができるので、こちらもリードタイム短縮、トータルコストダウンに貢献してくれるのではないかと思います。
FA設計者として筆者がミスミ様の取組みを見て考えたこと(2014年11月27日資料より)
こういった仕組みが揃ってきた今、3DCADを活用したサプライチェーンが新たに生まれています。「だから3DCADで実現できるサプライチェーン」なんです。サプライチェーンの仕組みを運用するには、既存の設計プロセス・社内の仕組みへの変更、既存システムへの影響があるかもしれません。
私の経験では、仕組みの問題よりも、これまでのやり方を変えたくないような人の問題の方が大きいですね。詳細は3DCAD運用の話を進めて行く中で、問題・課題について触れたいと思います。
こういった仕組みが便利なのは一目瞭然です。使わない手はないでしょう。今後このような考え方や仕組みそのものを取り入れていく製造サービスプロバイダーやサプライヤーが出てくるかもしれませんし、他の3DCADメーカーもこの影響があるのなら黙って見てはいないことでしょうね。
次回もお楽しみに。
(土橋 美博/3DCAD推進者)