3D CAD推進プロジェクトを行っていると、「3D CADそのもの」の知識も当然必要となります。
ただ、“そのもの”といっても、「3D CADがどのような構造で作られているのか」とは、3Dデータフォーマット(ファイル形式)※1から始まり、3D CAD製品ごとの特長や、3D CAD関連ソリューションに至るまで広範囲で、どれも重要であり、簡単に理解できるものではないと、私は経験からそう感じています。
※1 3Dデータフォーマット(ファイル形式)
3D CADに依存するフォーマットや、依存しない中間フォーマットがある。
3D CADの知識って
「データフォーマットなんてどうでもいいじゃん」という人もいるかもしれません。
確かに、設計者はカーネルの構造を見ながら設計するわけではなく、3D CAD製品の開発者でもありませんので、フォーマットの理論まで理解しなくても運用はできます。設計者にとってフォーマットとは、「なぜ3Dデータが軽いのか」、「自由曲面の設計がしやすい・しにくいのか」といった知識の裏付けに過ぎません。
しかし、社内外のデータ連携が必要なのであれば、そのデータフォーマットの連携性の知識は必要です。
検討している3D CAD製品がどのようなデータ形式の出力(エクスポート)ができるのか、外部からどのようなデータフォーマットを入力(インポート)できるのかを理解していることが必要です。これを怠れば、社外との連携はできなくなります。
顧客に3Dデータとして提出しなければならないこともあるかもしれません。社外との取引関係によっては、3D CADデータを提出する場合もあれば、3DViewer(ビュワー)データ※2 として提出することもあります。
※2 3D Viewerデータ
3次元データを閲覧するために3D CADデータを圧縮・軽量化したデータフォーマット。設計編集を行うことができるわけではなく、「見るだけ」のデータフォーマット。
計測や注記のマークアップを行う機能や、Viewer製品によっては、その軽量化技術を利用して動作シミュレーションや取扱い説明書などのドキュメント作成といった拡張性を持つものもある。
最近ではPDF(Portable Document Format(ポータブル・ドキュメント・フォーマット))形式で作成された3DPDFというものもある。
もし、必要な社外との連携が出来ない時、相手先に対して、「同じ3D CADを購入してください」などとは、言えないですね。それでも対応しなければならないとなれば、自社で3Dデータ変換システムを購入することとなり、投資金額もランニングコスト※3も膨らんでいくことになります。
※3 ランニングコスト(経費)として、保守契約費用が別途必要になります。
保守契約費用によって、変換元データ・変換先データのバージョンアップに対応していく必要があるでしょう。
3D CADは、設計部門だけのデータ資産としてで使うのだとしても、それはそれで効果はありますが、「もったいない」と私は思います。そのデータ資産の運用は、開発設計に近い場面だけでも、
- 設計検証段階でのCAE(Computer Aided Engineering)
- デザインレビューでの3DViewerデータ活用
- 試作段階での3Dプリンタへの活用
- 設計データ管理をPDM(Product Data Management System)
- 加工でのCAM(computer aided manufacturing)
- 3D CAD属性データによるBOM出力
があります。
最近では、「現物ができる前に何ができるのか」という考えのもとに、設計や製造現場、また営業場面での
- VR(virtual reality 仮想現実)
- AR(Augmented Reality 拡張現実)
への活用が、製造業に対して紹介される場面が増えています。
私自身、以前より3DプリンタやVR・ARには注目していましたが、「3Dプリンタは手のひらに乗るようなデザイン性の高いものを出力するもの」という認識でしたが、最近では工作機械メーカも参入し、金属部品加工にも利用できるようになりつつあり、これまでの切削加工に変わる可能性も見えてきました。
AR・VRは、高額で手が届かなかったものから低価格で導入できそうなものも登場してきました。このように開発設計場面に近い場面でも3D CADの活用は広がり、その必要な知識も広がっています。
そして最新の動向(情報)にも注目する必要があります。古い知識に固執していても、取り残されるだけではないでしょうか。「それだけ、ここ数年の3Dデータ周りの進化は著しく加速度的な成長を遂げている。」ということです。
調達や製造(組立)、保守(サポート)という社内の業務プロセスを考えれば更にその活用範囲と必要となる知識は広がります。これまで挙げてきた事柄は、IT(Information Technology 情報技術)に関わります。
3D CADとITは離して考えられない
ITは現在の企業運営では切っても切れないものです。
最近では、AI(artificial intelligence 人工知能)を使用したIT技術の話題に接することが日常的になりました。しかし、AIは高度な技術であり、どの企業でも、誰でも取り組めるものではありませんが、RPA(Robotic Process Automation ロボティック・プロセス・オートメーション)のように、定型化され、同じ作業を繰り返し行うようなものをソフトウェアで自動化する技術が普及しています。
3D CADも、単なる設計ツールではなく、「企業が利益を上げるため」のIT技術のひとつであり、「企業にとって戦略的な仕組み」でなければなりません。このためには3D CAD推進者と、情報リテラシー(information literacy)※4が必要になるのだと私は考えます。
※4 情報リテラシー
私の解釈として、自社の企業形態、仕事の流れに適した情報を使用できる能力
3D CADデータが持つ情報(プロパティ)は製造業が必要とする最も細分化された情報を持っています。最も細分化されたものとは、1個の部品です。
3D CADでは、この部品に「部品名」「型式」という情報を持ちます。アセンブリになれば、モデルの構成情報として、その「構造」と部品の「個数」の情報を持ちます。これをまとめるものが部品表です。部品表では部品の「工程(例えば原材料・加工・表面処理)」を持つことも可能です。
2D図面のテキスト情報から同じ部品表を作ることも可能でしたが、3D CADデータのようにそのモデル自体が持つことのできる情報ではありませんでした。部品表には部品単価や納期、加工先、購入先といった情報を調達部門で書き込むことが可能です。
一例ですが部品表との対比を行いながら、
- 部品加工を3Dデータ(または3Dから作成された2Dデータ)により行う
- 製造部門では3Dアセンブリデータの併用により組立作業を行う。
- 生産管理部門や製造部門では、組立手順を検討可能
- 保守部門では3Dデータ併用により保守のための資料作成ができる
といったように設計部門での出図以降について、3D CADデータから始まる運用が、生産管理システムで行われることでしょう。
(このような仕組みの詳細は、ダウンロードコンテンツで詳細の解説を行います)
3D CAD推進者の範囲は広いのでは?
3D CAD推進者の多くは、設計者や設計経験者が行うことでしょう。その多くは機械設計者であり、機械工学を得意とする人たちで、情報やシステムとなるとそのハードルは上がるように思えますが、必要なスキルは、3Dデータフォーマットのそれと同じように理論ではなく、運用です。
3D CADを戦略としてとらえて、設計者自身が興味を持ち、その運用について広範囲に推進していくことが、ベストです。
プロジェクトの進め方について、ダウンロードコンテンツで解説をしていますが、「企業と組織」・「マネジメント理論」も、その企業に適したシステムを構築するため、正しい管理のもとにプロジェクト推進を行うために、身に着けておくべき知識ではないでしょうか。