早いもので、渡米から2ヶ月が経ち、入社シーズンを迎えました。
私の勤務先でも、数名の新入社員を迎え、新入社員研修が始まりました。
現在、2019年卒の大卒求人倍率は7年連続で上昇し1.88倍、中小企業では過去最高の9.91倍(出典:リクルートワークス研究所)となり、企業の採用は難しく、とりわけ地方企業にとっては、より困難な時代となっています。
このような状況下、新入社員は貴重な「人財(財産)」です。
私は、縁あって、昨年より長野県伊那市の長野県南信工科短期大学校(公立)で、非常勤講師として1年生向けに3DCADを教えさせていただいています。
その講義は、単に3DCADというツールの使い方の指導だけではなく、3DCADを使った設計手法を意識したものとなっています。
初めて3DCADを触った学生の皆さんが約半年の講義と実習の中でそのスキルを上げていくことに関われるのは、「講師冥利(みょうり)に尽きる」というものです。
私以上に、教職員の皆さんの熱心な教育によって、学生の皆さんはものづくりに関する専門知識と実践技術を身につけた「ものづくりのスペシャリスト」へと成長を遂げていきます。企業にとってはすぐに欲しい人財でしょう。
私が担当した学生の皆さんが社会に出るのは来年の春になりますが、この学生の皆さんは、社会に出た後に「どのようなエンジニアになっていくのだろうか?」と考えた時に、学生の皆さんを受け入れる企業の一人として、また反対に、送り出す一人の講師として、その将来に不安を感じることがあります。
熱意を持った、それでも無垢の人たちであり、貴重なエンジニアになる人たちの将来に、期待と不安を持たざるをえません。
優れた企業では教育プランが充実していて、「3年後、5年後、10年後に自分がどのように成長していくべきか」という個人の成長プランが示されると聞きます。
それは、人事労務制度/人事評価制度の上に成り立つものでしょう。
さらに、経営計画(長期・中期・短期)があり、個人の成長プランはこの企業の計画や仕組みと連携することで相乗効果を得ます。
「企業のモチベーションと個人のモチベーションが同期することで、最大の成果を得ることができる」はずです。そうであれば、仕事は厳しくても「明るく楽しい仕事」ができると思うのですが・・・
製造業を支える技術は、常に進化しています。
私が尊敬する元エンジニアであり経営者の人に言われ、今でもエンジニアとしての私を支える言葉があります。
「昔、真実であったことにも、
時代によって新しい真実が生まれることはあるが、真実はひとつだ。
エンジニアはその真実(原理原則)を技術の根拠にしなければならない」
設計者は、ただ単に線を引く仕事ではありません。
原理原則(工学的知識)に向き合って設計を行わなければなりません。
機械設計でいえば、四力学(よんりきがく)といわれる熱力学・機械力学・流体力学・材料力は「基本中の基本」です。
もし、熱心に工学を学んできた学生が、「なんの根拠もない勘と経験と度胸(KKDと言われます)」の設計を指導されたとしたらどうでしょうか?
確かに、経験で得られたものは試行錯誤による成果物であり、企業にとって貴重な技術です。私もこれを否定はしないものの、技術伝承においては難色を禁じえません。
きっとその経験には、正しい工学的事実があるはずです。
設計者を取り巻く環境も変化しています。
設計の標準となるJISも変化している(改訂されている)ことはご存知でしょうか?
その具体的な一例として、以前は「寸法公差」と呼ばれていたものが「サイズ公差」という“呼び方”に変わっています。これは単なる言葉の変更ではなくて、ISOが標準化を進めるGPS(以下)やGD&T(幾何公差設計法)という設計の考え方によるものです。
■参考
JIS B0021:製品の幾何特性仕様 (GPS) −幾何公差表示方式−形状,姿勢,位置及び振れの公差表示方式
JIS B0420-1:製品の幾何特性仕様(GPS)−寸法の公差表示方式 −第 1 部:長さに関わるサイズ
もしかしたら学生の皆さんはJIS製図を学校で学ぶ際にこのことを学んでいるかもしれません。では、企業ではどうでしょうか?
また、開発設計手法についてはどうでしょう?
設計ツールでは3DCADの普及は進み社内のインフラになりつつあります。
3DCADは多種多様なものがあり、多くのベンダーより販売されています。
さらに3DCADと連携する形で、これまで専任者のみが使っていたCAEが設計者も使えるものとして普及しており、新しいものも登場しています。
■CAE
- GPUコンピューティングによるリアルタイムに高速計算できるメッシュレスCAE
- Ansys社 Discovery Live
- CPUによって高速計算ができるCAE
- アルテア社 Altair SimSolid
- ハイエンドCAEとミッドレンジ3DCADとの連携
- ソリッドワークス社 SIMULIA Structural Simulation Engineer
- 最適形状を解析するCAE
- ソリッドワークス社 ソリッドワークストポロジースタディ
- PTC社 Creo Topology Optimization
- 構造計画研究所 HiramekiWorks
構造計画研究所HiramekiWorksによるトポロジー最適化と形状最適化
しかし、このCAE技術を支えるものは「四力」であり、「有限要素法とは、線形解析とは、非線形解析とは、Topology最適化とは」という工学的知識になります。
私の関心が高い「公差計算・公差解析」も、その手法は手書き図面の時代からあるものですが、既に3DCADと連携することができるようになり、その運用も確実に増えてきています。
■公差解析アプリケーション
- ソリッドワークス社 TolAnalyst(トールアナリスト)
- バラテック社 Sigmund(シグマンド)
- シグメトリックス社 CETOL 6σ(シックスシグマ)
- 公差計算研究所 JTOL(ジェートール)
これらの公差解析アプリケーションもまた、ツールが使えれば良いというのではありません。「統計学」を理解・実践できる力も必要となり、そのうえで公差解析理論を理解していることが必要です。またJISのお話をしましたが、GD&Tの展開を行っていく上では、この公差計算・公差解析の重要性も高まっていくことでしょう。
開発・設計の考え方、問題を見つける手法にも様々な手法があります。
- TRIZトゥリーズ:発明的問題解決理論
- QFD:品質機能展開
- TM:品質工学・タグチメソッド
- FMEA:故障モードと影響解析
- DFMEA:デザイン故障モード影響解析
- FTA:故障の木解析
問題解決となると「あ、魚の骨(フィッシュボーン図)でしょ?」と言われることはありませんか?
それだけじゃないのですがね・・・
他に「なぜ・なぜ分析」などもあります。これらの手法もネット検索やビジネス書を読んだだけでできると思っている人もいるかもしれませんが、そんなものではありません。
ダウンロードコンテンツで解説している「プロジェクトの進め方」についても、学んでおく必要があるでしょうし、「マネジメント」についても正しい管理ができる技術を学ぶ必要があります。
今回お話したのは、設計者として学ぶべきスキルの一部になりますが、「ものづくりのスペシャリスト」になっていくには、新入社員から管理職に至るまで、その段階(レベル)によって、その人が選び、その人が進むコース(個人と企業がうまくマッチングすることが重要ですが)によって、体系的な教育が、入社後必要になります。
以前のBlogでもこんな体系図を提案しました。
皆さんも「ものづくりのスペシャリスト」育成について考えてみませんか。